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2-1 マイ・レボリューション

 世界は一変してしまった。

 ハードな状況ではあるんだけど、アタシはと言えば「なんだかなー」みたいな。

 全然締まらないんだよね。

 で、隣には元人間ってのが信じられないくらいに変貌した、4年前に死んだはずの友人、栄田利里。蜂プラス人間で蜂人間の「リリィ」だ。


 「浮かないカオしてるねー。ツいてるのよ?こういうの。やっぱ青春時代は異能力バトルすんのが最高の使い道よ」

 「あのさぁ、リリィ……ツいてるか?これ」

 「ツいてるツいてる。そうねぇ……ネトゲやってたらログアウトできなくなって現実世界に帰れなくなる、くらいには」

 「全然ツいてないでしょ!」

 「いやいや花ちゃん、このまま生きていたってぬるくて絶妙に微妙な幸せなだけの人生が待っているだけよ。だったらもうスパッとやめちゃえ。ベリーハードモードやるくらいならアルティメットモードまで行っちゃえ」

 「ノーマルモードでお願いします」

 「おいおい照れんなよーコノコノ。マゾゲー好きでしょ?でもクソゲーはもっと好きです!見下せる感あるし。みたいな」


 ……会話が成立しねえ。生前にはなかったヤケクソ気味なテンションが今の彼女にはある。

 普通だ普通だと言われ過ぎた反動か。あの普通具合は最早異常の領域だったからそんな気にせんでも良かったのに。

 キャラ立ってるよ!大丈夫だよ!ってもっと言ってあげたら良かった。友達はもっと大切にしなさいって事か。反省。いや、猛省。するから日常モノをもう一度。ワンモー。



 「花ちゃん。ヤりましょうよ青春」



 コンチクショウ。


 「ああ……これから大変だわ……」


 つぶやいた言葉は、こんな事になってもまだ締まらないアタシにピッタリのベタで退屈で枯れ果てたものだった。




 ……そんな、ビミョーな会話。

 クソどうでもいいその内容と、その時広がっていた綺麗な夕焼けとアタシ達の声以外はほどんど何も聞こえないうら寂しくも落ち着く静寂は全くもってミスマッチ。

 “真価の闘技場”なる地下闘技場かつ古代ローマのコロッセウムもどきからの帰り道。

 

 「ある日突然魔法少女になっちゃった気分はドウヨ?」

 

 ニタニタと笑いかけながらそんな言葉をふっかけてくるモノホンのハチニンゲンのリリィ。なーんか、妙にご機嫌だなぁ。

 

 「魔法少女だったのコレ。流石に33歳で魔法少女なんて設定はな……あれ?もしかしたら今時はあるのかな?」

 「あーありそうねー『アラサーで魔法少女!?』なんてアオリ文書かれる感じ。容易に想像できるわー最近ホントになんでもありよね、漫画とかの設定って」

 「うむ。織田信長が美少女になってる、みたいな作品、アタシでも2個くらいは知ってる」

 「じゃああともう10個くらいありそう」

 「あと各国の名物政治家を美少女化したギャルゲーとかあったなー」

 「もうヤダこの国。この国だけでもマアリに滅ぼしてもらうっていうのはどう?」

 

 滅ぼしてもらうかはともかく。

 死んだはずの友人が蜂人間として復活して家に潜入してきて。

 この国で一番デカい建物がUFOに潰される場面を目撃して。

 死ぬ思いをしながらバトル漫画的能力を手に入れて。

 地球の代表の1人として、地球丸ごとに宣戦布告した奴らの中の1人と戦い、ソイツをブッ殺した。

 やりました!花子、殺りました!

 まぁ、戦ってたときの記憶なんてほぼほぼ無いワケだけど。

 今回戦った奴も使ってた“蜜”の力を手に入れた結果、アタシは一時期彼らの言う「暴走」状態に陥り、かなりイっちゃってるテンションだった、そうな。

 気付いた時にはリリィに抱きかかえられながら空にいた。

 テンションが振り切れちまったリリィはアタシを抱きかかえながら飛び回っていたらしい。


 「アンタが勝った、アンタが殺った!」


 あんなリリィは死ぬ前からを合わせても初めて見た。まるで自分が勝ったみたいにはしゃいでいたなぁ。

 アタシは戦った時の事さっぱり覚えてないから、ポカーンとしてしまったよ。

 せめてその時の事覚えてさえいれば!もうちょっと実感が湧くのだけど……

 

 「うーん……リリィ、アンタの言うことがマジなら、もうちょっとさぁ……なんかこう……戦う前と後でこう……アタシの気持ちに変化とかが欲しいんだけど。ってアンタに言っても仕方無いけどさ」

 「まぁ状況的にはそれもやむなしってね。花ちゃんにとっちゃ超展開の連続過ぎて何が何だかわからなかったのかもね。でもまあ、次の戦いの予定にはまだ時間がある。ゆっくり考えればいい事よ」

 「それに、この件について何が何だかって思っているのは花ちゃんだけ、って訳でもなし。あの映像見た奴は皆まだポッカーンよ。多分。これからよ、騒がしくなってくるのは」

 

 ―――確かに。

 事のスケールがデカ過ぎるから、まだまだ騒ぎは小さいけれど、段々皆それを実感するようになるんだろう。

 直接見た訳じゃなくて、テレビの中継だったけど、アタシは最早“スターハント”がUFOに潰された、その光景に対して「CGだよね」とかもう言えない。

 実際の被害はきっと想像もつかない程甚大だ。

 受け入れられなくとも、仕事としてそれに対処しなければいけない人達がいるんだろう。

 いや、仕事、なんてなくてもこのスケールのデカさなんだし、遅かれ早かれ向き合うことになるんじゃないか。

 自分達の生活が、とんでもない奴らに脅かされている、そのことに。

 

 「えーと……なんちゃら惑星なんちゃら隊マアリ班とか言ってったっけ、あいつら」

 「ほぼほぼ覚えてないわね。『キブカ惑星調査隊マアリ班』よ。まぁどうだっていいけど。まぁあの観客達は大体が地球に来てからマアリに創られた人達だし、それ以外の班員なんてたった数人って噂よ。つまり班長のマアリさえ覚えときゃいいと思うわよ?」

 「テキトーな……」

 「花ちゃん以外にも地球人代表をやっている人はいるし、私以外にも地球人の中から推薦して代表者を送り出し、その手伝いをしている人もいる。まぁでもそいつらも創られたマアリ班の「戦士」も花ちゃんの青春物語の前にはどうせ脇役よ」

 「おいおい。ていうかなんでそんなご機嫌なのさ。さっきからニヤニヤしっぱなし」

 「これがニヤニヤせずにいられるモンですかっ!」


 さらに笑みを深くしながら声を張り上げるリリィ。


 「さっきはヤヴァかったのよ花ちゃんは!私から“蜜”の力をあげた後はなかなか覚醒してくれなくてさぁ、マジ死んだかと思ったわよ!春野花子をマアリにけしかけるワクワクドキドキな私の計画が速攻お釈迦かよーってさぁ!」

 「何その計画……」

 「もう駄目だーこれ花ちゃん死んだわーってその時!中学2年生あたりの男の子が好きそーなダーティな格好で復活してゴキブリ駆除、プラス、マアリに喧嘩売るとか!想像を超えてきたわね!まさかここまでのヤケクソ具合とは思わなかったなー流石花子様ですわー略してさすはな」

 「……さっきも聞いたけどマジなのそれ……」

 「あのいかにもな感じの大鎌のデザイン良かったわよーもう笑えるレベル」

 「なんかハズい」

 「まあ中二病デザインでもキニシナイ。世の中には高2病も大2病も社会人2年生病だってあるって話よ。ここまで来たら『専業主婦10年生病』とか『社長15年生病』とか『定年退職20年生病』とかもっともっとあるんでしょうよ。そう考えたらさぁ、もうみんなどこかにアイタタタなトコあるっていうか、アイタタタじゃない思想なんてどうせどこにもありはしないわ」

 「そんな事で一々馬鹿にし合っていたらキリがない。『目クソ鼻クソを笑う』ってヤツ。誰かを笑い、下に見るようになったからって、その誰かより素晴らしい訳じゃないし、むしろクソよ。皆ビョーキ持ちなのだし仲良く手でも繋いでいればいいのにねぇ」

 「だから……花ちゃんの武器やら恰好やら見てちょい笑いそうになった私が言うのもなんだけど、堂々としてりゃあいいのよ」

 「その貧しい胸張って世の中2病のアイドルをやり切り、青春を味わい尽くしましょう!」

 

 うーん。熱弁だ。色々テキトーな気もするが。

 

 「……リリィって、前はそういう熱弁かましてくるヤツじゃ無かったよねぇ。間違った事や極端な事を言うのを避けてた」

 「確かにね。でも、蜂人間として生き返った、なんて馬鹿丸出しな体験をすれば、色々考えて慎重になること、なんてどうでもよくなるわ」

 

 あーなるほど。今アタシもそんな感じだし、よくわかる。

 リリィ……アンタも大変だったねぇ。トんでるテンションも仕方ないのかも。



 そう、リリィは確かに死ぬ前とは違う。中学、高校、大学、そして仕事場すら一緒という腐りきった腐れ縁たけど、アタシはリリィのことを全然知らなかったのかも、なんて気にもさせられる。

 だけど、何故だかこの帰り道での会話は以前と全然変わってないように思える。

 あの頃はアタシの方が考え無しにテキトーなことくっちゃべって、リリィを困らせてたり呆れさせたりしてたんだけど、今はどっちかっていうと、逆だ。

 

 逆なのにほぼ同じテンションなんだよね。何だろなーコレ。

 気付けばアタシの家の前だった。


 「着いた着いた。よしよし、今回は色々特別だったからね、次の試合の日時は花ちゃんと能力が上手く適合してるか確認してから決める事にしてもらうわ」

 「特別って?」


 アタシ何か変なことしたか……いやアタシにとっては変なことしかしてないからよくわからんけど。


 「暴走よ暴走。花ちゃん能力をもらってからボケーッとしてたって言ったよね。それにいきなりマアリに襲いかかったり。正気じゃあなかったのよ。そういう暴走は今までも無くは無かったけど、その状態で初戦のZランクで勝てたヤツっていなかったから。花ちゃんの体内で“蜜”が何か変な作用起こしてないか一応調べたいの」

 「あの意識の無い状態で勝てたヤツが今までいなかった?……アタシ、運が良かったのかな?」

そう言うとリリィがニマニマしてきた。ホントご機嫌だなぁ。

 「運、ねぇ。そんなんだったらあいつら「戦士」側としても良かったでしょうね。花ちゃん、アナタが攻撃したのはたった2回よ。1回目の攻撃はギリギリで避けられた。2回目の攻撃はあのゴキブリ戦士を一撃で葬る威力だった。覚醒するまでは長かったけど、戦いが始まってからは一瞬で勝利してしまった」

 「そんなのはね、今まで無かったわよ。初めての“蜜”の力に戸惑いながらの戦いっていうのもあって、毎回接戦、長期戦になるのが普通なのに」

 「暴走というハンデがあってなお、一瞬で勝負を決められる……それは花ちゃんと“蜜”の相性が滅茶苦茶良い、ってコト。「運」だなんてフワフワしたもんじゃないから安心しなさい。素晴らしい才能ね」

得体の知れない力との相性が良いとか言われましても。才能あるとか言われましても。才能だったら他にもっとこう……日常に役立つものをだね。

 「……そんなんでも、今はありがたいのかなぁ……」

 「なぜテンションが下がる!花ちゃん俺TUEEE系よ?いいじゃん流行りじゃん。ニーズ大量獲得ね!」


 それってまだ流行ってるのかなぁ…… 


 「このまま無双しまくってハーレム築くわよ!」

 「いやハーレムいらんし」

 「まぁまぁそんな枯れたフリしないの。ともかくこれで花ちゃんの異能力バトル&青春モノの準備は整ったわ。けれど今は休みなさい。取りあえず明日1日はごゆっくり。明後日にはまた来るわ。その時花ちゃんの能力の検証をしましょう」

 「へいへい」

 「んじゃあまたね花ちゃん!」


 その蜂の翅を使って真っ赤な夕暮れの空をバックに飛び去って行くリリィを、しばらくぼんやり眺めていた。


 「またね、かぁ」


 本当に帰ってきたんだな、リリィ。



 我が家に戻ってきた。日も跨いでいないのに、もう何にも帰ってきてなかったみたいに感じる。……随分濃かったからなぁ、今日は。


 「花ちゃん!おかえりなさい!新しい職場はどうだった!?」

 ……ああ、そういう設定だった。リリィの洗脳の効果だ。実際は無職のまんまだからねえ。その上インチキなバトル展開やってるわけで。良心ズキズキ。


 「タダイマカエリマシタ。トリアエズハイイカンジデス」

 「……ホントに大丈夫?」

 「まぁ、うん……」


 生きて帰ってこれました。


 「……まぁまぁ、最初は慣れないものよ。無理しないでゆっくり馴染めば良いのよ」

 「うい。……えーっと、次はいつになるかまだわかんないけどまた連絡くれるってさ」

 「うんうん、初めから煮詰めない方がいいわ。ゆっくり休みなさいね、花ちゃん」


 ……こんなもんか。うう、胃がイテェー。



 母が作ってくれた料理を食べて、風呂に入ってからアタシは部屋のベットにボスっと音を立てながら寝ころんだ。

 帰ってこれたんだな。ホント、今日は死ぬかも知れなかったのだ。こうしてると一気に気が抜ける。すぐに眠ってしまいそうだ。

 絶体絶命な目に遭ったというのに、いやだからこそか?久しぶりにいい気分で眠れそうだ。

 いくら見た目微妙極まりない事態とは言っても、アタシは命を賭けた。そして戦った。覚えてないけどさ。

 そうして、乗り越えた。そんな経験、今まで無かった。

 そんな経験をしてから見る家族の顔……母と父の顔を見ると、正直ちょっと涙ぐみそうになってしまった。


 もしかして、今の状況って、リリィが死んでからの4年間よりずっとマシだったりする?

 「ネトゲやってたらログアウトできなくなって現実世界に帰れなくなる」だったか。

 それは「ツいてる」とリリィは言った。


 「………………」


 何か認めるの癪だわ。

 ああ、もう寝る。寝ちまおう。電気を消した。

 すると、あっという間に瞼が落ちる。意識もまた、眠りの世界に落ちていった。


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