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六 フォールン大空洞

「はぁ……。嫌だなぁ、フォールン大空洞」


 揺れる馬車の中、宗介はぼやきながらも用意した武器の最終確認をしていた。


 右手に装着したガントレット――幾つかのゴテゴテした機構が取り付けられている――の動きを確認し、腰のホルスターに仕舞った“回転式拳銃(リボルバー)”に不備が無いか確かめ、傍に立てかけられた“鉄の逸物”に破損が無いか目視で確認する。


「とか言いながら準備万端だよね、宗介くん」

「心配症なもんで」


 隣で苦笑いする葵の言葉はさらりと受け流された。


 と言うのも、宗介はかなり本気でフォールン大空洞の攻略に乗り出している。それは用意した武器から見ても明らかだ。


 何故なら、世界でも他に類を見ない程に“地属性”の魔力が溢れるその大迷宮には、良質な鉱石や地属性の魔石等、ゴーレム創造に欠かせない素材が満ちているから。


 地下深く、上下に伸びる大空洞と、その周りを取り囲む百層の回廊状洞窟、そして十層毎に渡された、いわゆる“中ボス”が佇む大橋……それらから成り立つ迷宮が、フォールン大空洞だ。大地の恵みに溢れたそこは、深層に潜る程宗介にとって宝の山となる。


 しかも、悠斗達という強い勇者達と共に赴くのだ。深層の素材を確保出来るとあらば、彼らに寄生するのも辞さない勢いだった。


「楠木と一緒に迷宮の外で待っていても良いんだぞ? 素材の確保は他の面々に頼めば良いんだからな」


 そう言うのは同乗しているバラスト騎士団長。生産職の葵と低ステータスの宗介を不慮の事態守る為、馬車を共にすることになった。


 なお、葵は今回の迷宮攻略に直接参加はしない。生産職らしく迷宮の外でポーションを量産し、攻略組のサポートに徹するようだ。


「そうも行かないでしょ。俺が現地で運搬用のゴーレムでも創れば、もっと大量に手に入る訳ですし。正直色々と不安ですけど、行かなきゃ損です」


 迷宮攻略にあたって不安なことは多い。


 まず心配なのは何よりも、北池達だろう。


 宗介による『北池一味撃退事件』から五日、そして馬車移動でまた数日経った訳だが、結論から言うと何も無かった(・・・・・・)


 それ故に――――何も無かったが故に不安なのだ。


 言うなれば嵐の前の静けさに近い。確かにあれから五日間、食事や蔵書庫での調べ物等の時以外、殆どを自室に篭って過ごしていたとはいえ、あれだけ激昂していた北池が何もしてこないというのは考え辛い。準備が不十分なまま行動を起こしたこともあり、宗介も自室に乗り込んで来る程度は覚悟していた程である。冷静になれば、あの時点での宗介はハッタリ塗れであることなどすぐに分かる。


 しかし、何もなかった。


 勿論、これが嵐の後の快晴という可能性も否定できない。宗介としては杞憂であることを祈るばかりだ。


 また、迷宮自体の情報が不足しているのも不安要素の一つだ。


 現在、フォールン大空洞は第四十層目まで踏破されているのだが、逆に言えばそれ以降の情報が殆ど無い。精々が迷宮の支配者たる魔族、“鮮血姫”の情報があった程度。


 宗介は面倒事を回避する為の準備は怠らないタチだ。発破をかけられなければ北池達にも手出ししなかった程である。しかし、情報が無ければその準備のしようも無い。未知の世界である第四十層目以降は、彼としても踏み込みたくはなかった。


 それでもやはり、金銭問題を無視してゴーレムを量産出来る環境と、そこに辿り着くまで悠斗達に寄生することが出来るというのは魅力的である。


(なんだかんだ、強くなるには行かなきゃならないんだよなぁ)


 チラリと馬車の窓から外に目を向けると、丁度荒れた大地を通り抜け、大きな石の門を潜ったところだった。


「あっ、宗介くん! 街に入ったよ!」

「うん、そうみたいだね。バラスト団長、ここが目的地ですよね?」

「そうだ。馬車の旅は疲れただろうが本番はこれからだ、気を引き締めろよ?」


 騎士団長の言葉に、宗介は力強く頷いた。



 強固な石壁で囲われた廃都のような“そこ”は、まさしく魔族によって滅ぼされた都である。


 馬車の先に見えるは、苔むして蔦が生い茂った西洋風の王城。遠目からでも分かるその美しかったであろう装飾や、既に荒れ果てているにも関わらず清廉で整った石造りの街並みは、“地精のお膝元”と呼ばれていた時代の名残を感じさせる。


 しかし今となっては大通りには人っ子一人居りはせず、彼方に見える止まった時計塔は、もはやこの街が終わったことを示すオブジェクトに成り果てていた。


 もはや名もなきその廃都――――そして王城の地下を、人はこう呼ぶ。



 “フォールン大空洞”と。




 ◆




「いつ何時、どこから魔物が飛び出してくるか分からんからな! 気を抜くなよ!」


 葵を除いた勇者達とサポートの騎士団員の一団、その先頭を行くバラスト団長の声が、洞窟の中に響き渡った。


 フォールン大空洞の内部、回廊洞窟部分は、“月光石”という大気中の魔力を集めて光を放つ鉱石が点在しており、暗くて何も見えないということは無いようだ。そして表層付近はそれなりに整備されており歩き辛いということもない。道幅も十分である。


 月のような淡い光に照らされながら、勇者一行は迷宮を進んで行く。


「……魔物、出てこないっすね」


 宗介はその後方を、黒いマントで身をくるんで歩いていた。ステータスが低い宗介が魔物に狙われないようにと聖ルミナス王国から支給された、闇属性のエンチャントがかけられた気配遮断の効果を持つマントだ。地味にレア物だったりする。


 そしてその隣をサポートの騎士が歩き、宗介の後ろを小さなゴーレム――――“虎徹くん”が荷物を背負ってゆっくりと追走している。ゴーレムは力持ちなのだ。


「おそらく、何処かで待ち伏せでもしているんでしょうね」


 隣を歩く騎士の言葉に、宗介はうげっと顔をしかめた。


「所詮、第一層の魔物です。例え囲まれたとしても、これだけ居れば問題ないですよ」

「はぁ……」


 宗介は前方の勇者達に目をやる。


 強いて言うなら、圧倒的だった。


 隊列の中頃から後方に居るのは魔法使いの女子。少しだけ男子も居るが、皆一様にファンタジー風のローブに身を包み魔法の杖を持っている。そのどれもが一級品の輝きを放つ代物だ。


 隊列の前方には剣や斧、そして槍等、思い思いの武器を担いだ男子達。こちらもやはり女子が数人混じっている。身につけた装備は国宝級の代物ばかりであり、それを操る本人達のステータスも圧倒的で、正しく一騎当千の将。


 その中でも特に目立つのが悠斗、周防、槍水の三人だろう。


 “勇者”の悠斗はそれに見合った青と金の煌びやかな鎧と黄金の聖剣を装備しており、明らかに一人だけ格が違う。


 “戦士”の周防はと言えば、その頭一つ抜き出た体格と背負った巨大な戦斧のせいで、異様なまでの威圧感を撒き散らしている。


 打って変わって“魔槍士”の槍水は、動きやすいスマートな軽鎧を纏い、蒼玉と流水のレリーフをあしらった美しい短槍を持つというクールな出で立ちだ。濡れ羽色のポニーテールが目を引く。


 ちなみに宗介はと言えば黒マントと銀色の機械籠手にリボルバー。そして背中には、先端から杭が飛び出した無反動砲のような武器――――と、一人だけ微妙に世界観が違っていた。


 閑話休題(それはともかく)


「それに、楠木様の回復薬もありますからね。やられる要素を探す方が難しいですよ」


 何の心配もないと言わんばかりに笑う騎士に、それもそうだと宗介は納得する。異世界の勇者達が居て、更に無限にも等しい量のポーションがあるのだ。


 しかも一人ステータスが低い宗介は、葵から特別なポーションも貰っている。曰く、「持てる力を全てつぎ込んで作ったから、ここから先は危ないと思ったら迷わず飲んでね!」とのこと。味は想像したくもないが効果は絶大な筈だ。


「俺の必要性が皆無だよなぁ……」


 隣の騎士と苦笑いしながら、勇者達はゾロゾロと進行していく。



 やがて一行は大きなドーム状の広間に辿り着いた。その先には幾つかの方向に道が続いている。


 ――――途端、空気が変わった。クラスメイト達が臨戦態勢に入ったのだ。張り詰め、ピリピリとした空気に宗介は気圧される。


「ふむ、見事に囲まれているな。お前達、分かるな?」


 バラスト団長は辺りを見回してそう言った。クラスメイト達は無言で頷く。


 彼らは気配を読んだのだ。分岐道の向こうから集まってくる無数の魔物の気配を。宗介はそれが分からず、何事かと狼狽えているのだが。


 そんな宗介など目もくれず、バラスト団長は矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。


「落ち着け、焦るなよ? 訓練通りにやれば問題は無い。前衛組は後ろを守れ! 後衛組は魔法の準備だ。 閉鎖空間だから炎の魔法は使うな! 破壊力があり過ぎる魔法も厳禁だぞ。前衛に強化をかけてやるか、ピンポイントで狙い撃てる魔法にしておけ! 近接組は、勢い余って魔石を壊さないように注意しろよ? 溢れた魔力が暴走して爆発したりするからな!」


 悠斗が聖剣を抜き、周防が巨大な戦斧を構え、槍水が魔槍に魔力を纏わせる。他の前衛組や魔法使い組、騎士達も各々武器を構え隊列を組む。


 宗介はとりあえずマントで身をくるんで気配を隠し、ひっそりと隊列の中頃に身を潜めた。そのマントの裏側で、“回転式拳銃(リボルバー)型ゴーレム”に手をやる。


(初実戦は様子見、弾に余裕は無いから無駄撃ちは禁物……)


 五日の準備期間は、宗介からすると非常に短かった。三つの精密な武器(ゴーレム)を創り、さらに精密な弾丸を量産するというのはおよそ不可能だったのだ。


 用意出来た弾丸は、銀色のリボルバーに装填された六発と予備の十二発。内一発は最悪の事態に備えた特別仕様で使えない。背負った鉄杭の兵器はと言えば、威力こそ高いが一発のコストが高くおいそれと使用できるものではない、いわば切り札だ。メインで使用するのは、必然的にガントレットに取り付けられた武装になるだろう。


(どこまで戦えるか試して、あとは寄生に徹するか)


 宗介がそう決めたのと同時、分岐路の先から無数の魔物が溢れ出してきた。


 ゴツゴツとした岩のような鱗を持った二足歩行のトカゲ、土色の肌を露出させた大きめのモグラ、薄暗い洞窟に溶け込むような黒いコウモリ。


 ――――それらの大群である。


「なっ……!?」

「ち、ちょっと待ってよ、多くない!?」

「こんなの聞いてないぞ!」


 途端に勇者達がどよめく。目算でも百は超えているだろう大群によりあっという間に取り囲まれ、クラスメイト達の顔にも恐怖の色が見えた。


 いくら勇者と持て囃されようと、彼らは平和な国で過ごしてきた人間だ。初めての命のやり取りで、しかも予想だにしなかった軍勢との衝突。恐れるなというほうが酷である。


 だが、バラスト団長は獰猛な笑みを浮かべていた。


「これはまた大層な歓迎だな。狼狽えるな! こんな雑魚をいくら集めたところで、“勇者”たるお前達が負ける筈が無い!」


 怒声が飛び、刹那の間に二体のトカゲ……リザードマンが斬り伏せられた。断末魔を上げるその二体を尻目に、バラスト団長は流れるように直剣を振るいモグラを土に還しコウモリを墜としていく。


 聖王国最強の騎士、バラスト・シュヴェーアト。ステータスこそ悠斗ら勇者には劣るが――――否、素で勇者に匹敵する力と比較にならない量の経験を持った彼の剣技は、素晴らしいの一言であった。宗介の目では視認すら難しい程だ。


 その騎士が、未だ未熟な勇者達を見て言った。


「我らルミナス王国騎士団が付いているんだ、何も恐れることはない。さあ、迷宮の主にお前達の力を見せつけてやれッッ!!」


 最強の騎士が付いているという、安心感。


 その騎士以上である勇者の力への自信。


 皆を鼓舞し奮い立たせる鬨の声。


 それらは、少年少女の恐怖を払い、勇者たらしめるには十分に過ぎた。


「――――聖天の煌めきよ、廻り集いて我らに加護を与えたまえ。《ホーリークレスト》!」


 悠斗が聖剣を掲げ、魔法を行使する。光り輝く円環が勇者達を包み込んだ。対魔の属性を付与し対象を魔物、魔族に強くするそれは、間接的に勇気をも与える。


「さあ皆、やろう!」


 先頭で魔法を使った悠斗に迫っていたリザードマンが輝く聖剣で両断され、続け様に放たれた光線がコウモリ共を灼き払った。


「へへっ、そうだな! 雑魚に時間をかけてもいられねぇ、三分でカタ付けんぞッ!!」


 周防が砲弾の如く突貫し戦斧を振るう。大地を爆砕する剛撃は瞬く間に数匹のモグラを肉塊に変え、薙ぎ払いの衝撃はそれだけでコウモリを吹き飛ばした。悠斗をも上回る筋力から繰り出される一撃はまさに破壊の権化。


「もう、ちょっとは力を抑えなさいよね! 《蒼龍穿・霧雨》!」


 槍水の魔槍から放たれるのは、水の散弾。中衛にして遊撃手である彼女らしい、迎撃に適した面制圧魔法だ。威力こそ悠斗や周防の一撃には劣るものの、大群相手ならばその効果は引けをとらない。


 たった四人、数十秒でおよそ二十。


 彼らの戦いぶりとその圧倒的さに触発されたクラスメイト達も、動き出す。


「っしゃあ! 俺もやってやんぜ!」

「ボ、ボクだって! 《スタラグマイト》!」

「炎の攻撃魔法が駄目なら……《ヒートエンチャント》!」


 補助魔法によってヒートブレードと化した刃がリザードマンをバターのように斬り裂き、地面からせり出した石の棘が雑魚共を串刺しにした。


 飛び交う魔法は確実に魔物の数を減らし、迸る斬撃は魔物の倍だけ肉塊を創造する。


(皆凄いな)


 多分、いや確実に自分が一番役にたっていないという事実に、宗介は少し悲しくなる。力があれば、幼馴染の隣に立っていただろうに……と。


 なんとも言えない気持ちを感じながら、宗介は影に潜んで戦場を見回す。


「雑魚は引っ込んでろよ、《クロース・ヴォーテクス》」

「誠ぉ、ダブルエンチャントって面白そうじゃね? 《クロース・レイン》!」

「うおぉぉお! 雷属性だぜ!」


 見れば、北池達三人組も活躍しているではないか。北池の持つチェーンソー染みた風を纏う刀がリザードマンを両断し、バチバチと唸る稲妻がこんがりと肉塊を焼いていく。


 成る程、“魔法剣士”に相応しい活躍であった。


(普通にかっこいいし……。くそっ、負けてられないぞ)


 あれだけ激昂していたというのに普段通りの彼らに、若干の薄ら寒さを感じながらも、宗介は俺もやってやる! とリボルバーの撃鉄を起こす。


 一般的なステータスの宗介でも扱えるように反動が抑えられたそれでは、リザードマンの鱗を穿つには足りないだろう。故に彼は一匹のコウモリに狙いを定めた。マントの中から両手を伸ばし、片目を閉じて照準を合わせる。


「せめて一匹くらいっ!」


 引き金が引かれると同時、炸裂音と共に音速の弾丸が迸った。


 ――――が、外れる。


 しかしそれも仕方がないだろう。シングルアクション方式に低反動弾を採用する等、出来る限り命中精度を高めはしているが、彼は別に射撃の天才という訳ではない。動かない的ならば当てられただろうが動く的だとそうもいかないのだ。


「チッ、やっぱりこんなもんか」


 ビリビリと手から腕にかけて響く痺れに小さく舌打ちしながら、彼は素早く撃鉄を起こし引き金を引いた。


 その数二回。続け様に放たれた弾丸は――――残念ながら当たらない。二発目がなんとか掠った程度だ。先の射撃で宗介に気付いたコウモリが、獲物を見つけたと言わんばかりに飛びかかってくる。


「ちょ、マジかっ!」


 予想以上だった射撃技術の残念さと、迫るコウモリの恐ろしさに宗介は青ざめた。


 薄暗い洞窟の中で煌めく、二本の鋭い牙。もしも噛まれたら大怪我待ったなしだ。下手をすれば死ぬ可能性だってある。


 シリンダーにはあと三発の弾丸が残っているが、闇雲に撃っても当たらないだろう。これ以上は無駄撃ちになるだけ。打てる手立てが無く、彼は咄嗟に右腕を盾にした。


「キキィ!!」


 コウモリの甲高い鳴き声が耳を鳴らす。


「――――ッ!」


 瞬間、右腕に衝撃が奔った。完全に食らいつかれたのだ。


 ギシ、ギシ、と右腕から嫌な音が鳴る。


(うおおおっ! 噛む力強えっ!! 高い金でミスリル買って良かった……!!)


 ――――結論から言えば、宗介の右腕は無事だ。装備したガントレットがコウモリの牙を防いだのだ。



 “ミスリル”。


 硬質かつ軽量で、尚且つ魔力をよく通す……魔法の武器やエンチャントの土台、そしてゴーレムのボディに適した稀少鉱石。色は銀色で鉄などと遜色は無いが、その強度と軽さは比較にならない。


 聖ルミナス王国の近場で言えば、ここフォールン大空洞の中層付近から産出するようで、需要もあいまって非常に高価である。


 ちなみに、回転式拳銃(リボルバー)型ゴーレムも鉄の逸物も全てミスリル製だ。支度金の七割はこれに消えた。結構な大金だったのだが……。



 ともかく。


 手の甲に黄色い魔石を宿した、ある種宗介のゴーレムでもあるミスリル製のガントレットは、間違いなくコウモリの牙を防ぎ切った。


「ったく、舐めんなよ!」


 ギィギィと唸るコウモリを、宗介は右腕を振るって地面に叩きつける。そしてそのまま右手で掴み押さえつけ、動けなくする。


「あぁ、三発も無駄に……。落とし前はつけてもらうぞっ」


 宗介は一般人程度しか無い貧弱な魔力をガントレットの魔石に流し、それをトリガーとして取り付けられた機構が作動する。


 カシュン!


 小気味良い音と共に、ガントレットの内側から一本のナイフが飛び出した。当然ながらその刃は、その先に押さえつけられていたコウモリを深く穿つ。


 小さな悲鳴と共に、コウモリの魔物が絶命した。



 ――――いわゆる、“アサシンブレード”。もしくは“ヒドゥンブレード”。彼の右腕に装着したガントレットはそういう類の代物だったのである。“回転式拳銃(リボルバー)型ゴーレム”に次ぐ自信作だ。むしろそれ以上かもしれない。



「は、はは……。どうだ、俺だってやれば出来るんだよ……」


 宗介は荒い息を零しながら、そう独り言つ。


 第一層目でこの体たらく。苦戦どころか命の危機まで感じる始末だ。やはり自分は弱い。武器がちょっと異質なだけで、その本質は変わらない。


 他の勇者達は獅子奮迅の活躍を見せており、今にも魔物達は殲滅されそうだというのに、現実は非情であった。


「…………なんだかなぁ」


 ともかく、今はまだ戦闘中だ。万一にもリザードマン等に狙われないよう、宗介はマントで身をくるんで気配を隠す。


 そのまま魔物が一匹残らず居なくなるまで、ただ一人、ひっそりと息を潜めた。

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