表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/58

四十 密談

 宗介の火傷顔(フライフェイス)や眼帯を見るや否や、その痛々しい姿に顔を顰める黒髪の少年。


 内心で大きく舌打ちした宗介は、されど飄々と肩を竦めてその少年を一瞥する。


「また随分なご挨拶だな」

「あ、あぁ、悪い」


 彼は直ぐに取り繕い、その後、すぐに自己紹介を始めた。


「俺は遠野(とおの)一人(かずひと)。一応、“勇者”だ」


 その自己紹介に、「へぇ、勇者か」と値踏みするような目を向ける宗介。その隣では、まるで興味無さそうなエリスが静かな目を向け、後ろではフォルテが、最敬礼で対応するべき相手の登場に狼狽しているが……それはさておき。


 知っている。そんなこと、言われずとも。


 その見覚えのある顔は、言うまでもないが、宗介と同じくこの世界に召喚されたクラスメイトである。それほど深い交流があった訳ではないが、確か……そう、“ゲーマー”の類であった筈だ。異世界に来てからは“弓兵”の職業を得ていたと記憶している。まぁ、フォールン大空洞ではあまり活躍出来ていなかったようだが。


 勇者との再会。警戒していなかった訳ではないが、よもやこんなに早く起こり得るとは思わなかったので、宗介は内心で必死に頭を捻る。


 この時間、勇者達は夕食の筈。少なくとも宗介が離脱する前は、そんなスケジュールで生活していた筈だ。だと言うのに、ここに彼がいるということは……警備の手伝いか、もしくはアルバイトでもしていたのだろう。流石に予想外であった。


 自己紹介を済ませ、宗介の向かいに腰掛けた遠野は、早速という具合に話を切り出す。


「呼び出したのは、他でもない……この世界にある筈のないエンジン音について教えてほしいんだ。それと……腰の銃やメカメカしい装備一式についても」


 ジッと、上から下まで目線を動かしながらそう言う遠野。一応、宗介の正体については気付かれていないらしい。冒険者証に記されていた名前を聞いていないのか、派手に見た目が変わったからか。


 ともあれ、一先ずはそつなく対応するべきだろう。そう判断した宗介は、脳内でどうするべきか思考を巡らせつつ、その見知ったクラスメイトに言葉を返す。


「教えてくれって言われてもな……。俺にとっての最重要機密を、そう簡単に教える訳にはいかねえよ」

「そう言わずに、頼むよ! あんたの持ってるモノは、なんでか知らないが俺の故郷にあるモノに酷似してるんだ。その技術をこの世界に持って来れたら、きっと魔王討伐にだって役立つ筈なんだよ!」

「魔王討伐なぁ……」


 パチンと手を合わせ、必死に懇願してくる遠野に、どうしたものかと内心で頭を抱える宗介。表面上ではおもむろにシュトラーフェⅡを抜き、訝しそうに弄んでみる。


 鈍く輝く銀の装甲を持った、長さ四十センチ弱、口径十五ミリの破壊兵器。それを見た遠野は、途端に目の色を変えた。


「それを含めた四つの武器……俺の故郷では銃って呼ばれる武器も、さっき乗って来てたゴツい車も、一体どこで手に入れたんだよぉ! くっそ、凄え気になるっ! ……って言うか、あんたの、鎧? 翼? それどうなってんだ? ここって剣と魔法の世界だよな、なんでそんなSFチックなモノが?」

「支離滅裂じゃねえか、とりあえず落ち着けよ……」


 宗介は「こいつってこんな奴だったか?」と、遠野の豹変ぶりに頬をヒクつかせる。どうやら、この世界にある筈がない武器や機械の身体に興奮しているらしい。


 学校での彼と言えば、もっとこう、教室の隅の席で別のクラスメイトとFPS談義に花を咲かせているような奴だった筈だ。しかしこの食い付きぶりと来たら……実は宗介と趣味が合う存在だったのかもしれない。まぁ、今となっては済んだことだが。


「っと、悪い、つい血が騒いじまった」

「お、おう」


 宗介に引き気味ながら宥められ、気恥ずかしそうに咳き込む遠野。きっと彼は日本に居ながら、拳銃片手に数多の戦場を駆け巡って来たのだろう。その歴戦の傭兵たる魂が、呼び起こされてしまったのだ。


 そんな遠野を横目に、フォルテが、耳打ちするように声をかけて来る。


(どうするのだ? 遠野殿は、婿殿と同じ勇者なのだろう?)

(いや、どうするもこうするもな……。相手が“勇者”な以上、最悪の場合は無理矢理奪われるってのもあるし、調べられたら名前くらい一発でバレちまう。なら、口止めするしか無えよ)


 宗介は、あくまでも冒険者ギルドに所属する冒険者の一人だ。人類の救世主たる勇者と比べると、どうしても優先順位は低くなる。ならば勇者の権限でゴーレム達を没収することも不可能ではないだろうし、冒険者ギルドで調べれば“ソウスケ・ニシダ”の名にだって辿り着ける。そうすれば、そこから勇者全員に宗介の生存が知れ渡ってしまう訳だ。何としてもそれだけは避けねばなるまい。


 では、どうするか?


 ……“ここ”で情報の拡散を食い止める他無いだろう。


 そんな宗介の内心など知る由もない遠野は、取り繕って話の軌道を元に戻す。


「あー、とりあえず、名前を教えてもらえないか? こっちは自己紹介したのに返してもらってないし、いつまでも“あんた”呼びは失礼だしな」

「ああ、悪い。いきなり勇者だなんて言われて、驚いてたんだ」


 分かるだろ? と肩を竦め、小さく笑う宗介。そのまま名刺代わりに、取り出した冒険者証を手渡した。裏側に個人情報が刻まれた、黒級の冒険者証を。


「あ、これはどうもご丁寧、に……」


 それを、名刺を差し出されたサラリーマンのように受け取った遠野は、まず噂に聞いていた“黒級”の証に目を剥き、そして恐る恐る裏返した途端……凍りついた。


 おおかた予想通りの反応に、宗介は悪戯っぽく笑う。


「いや、どうも。俺はそういう者でして」

「…………え? いや、だって、橋ごと落ちて……」


 目を丸くして、宗介の顔と冒険者証を交互に見やる遠野の姿は、なんとも滑稽だ。しかし無理もない。死んだ筈の存在が、ひょこっと姿を現したのだ。あまつさえ姿が大きく変わっているのに、信じられる筈が無い。きっと冗談か何かだと思っている事だろう。


 故に宗介は、更に補足を加えていく。隣でフォルテやエリスが「良かったのか?」と無言で尋ねて来ているが、気にしない。これが恐らく、現状における最善の策なのだから。


「フォールン大空洞、第五十層目の大橋から落ちて死んだ“機巧師”こと、西田宗介。それが俺の名前だ。遠野とはクラスメイトで、同じ日本からこの異世界に勇者召喚された仲間だな」

「本当、なのか……? お前、西田なのか?」

「ああ。色々あって、こんな見た目になってるけどな」

「そう、か……。生きてたのか……」


 もう一度、上から下までマジマジと観察してくる遠野。記憶にある姿とは余りにも異なった風貌に半信半疑なようだが、それでも顔の造りや声、そして口にした情報から、ようやく信じるに至ったようだ。心から安堵したようにホッと息を吐いた。


「マジで生きててくれてよかった……。ホント、冒険者なんかしてる暇あるなら、連絡くらいしてこいってんだっ」


 存外に心配されていたらしく、宗介は困ったような苦笑いを浮かべた。


 それもその筈。クラスのマドンナである葵がやたらと気にかける宗介に対して多少の嫉妬こそあったし、北池達の所業に対して見て見ぬ振りを貫いていたものの、クラスメイトの死を「あっ、そう」と受け流せる程、遠野は冷めた奴ではない。それ故に、死んだ筈のクラスメイトが生きていたことを、純粋に喜んでくれているのだ。


 やがて遠野はハッと気が付いたように、随分と変わってしまった宗介に対し、何があったのかと詰め寄る。


「そ、それで、どうしたんだよそれ? 言っちゃなんだけど……色んな意味で痛々しいぞ」

「……自覚はしてるから、言わないでくれ。気にしないことにしてるんだ」

「お、おぉ、そうか……。それはそうと! 隣の女の子と騎士さんは誰なんだよ? それに、あのやたらゴツい車やハンドガンも! 加えてその機械の鎧! 色々と聞かせてもらうぞ! あぁ、皆にも西田の生存を伝えないと……!」


 またも興奮したのか、あたふたと右往左往し始める遠野。突然の事態に話すべき事が多すぎるのだから、無理もないだろう。とりあえず、最後に関してだけは見過ごせないので宥めにかかる。


「どうどう、落ち着け。一先ず、ここじゃなんだし、静かな場所で飯でも食いながら話さないか?」

「あ、あぁ。そういや西田、この街に着いてから休憩もしてないんだっけか。それに、機密の話なんかもするかもしれないし……」

「だろ? 俺もう腹ペコなんだよ。早く盗賊団の話だけ済ませて、食べに行こうぜ。二人もそれでいいよな?」


 その問いに、エリスとフォルテは、若干状況が読めてなさそうな顔をしながらも頷いた。どうするつもりかは分からないが、宗介に任せるという事だろう。遠野も、その美少女と美人二人に「誰なんだ?」と言った風に怪訝な目を向けるが、とりあえず気にしない方向でいくらしい。なんとも申し訳なさそうにしながら立ち上がった。


「悪い、興奮するとつい癖で……。まぁ、そうだな。先ずは黒級冒険者としてのお勤めを果たしてくれ。その後、晩飯ついでに色々と聞かせてもらうからなっ」


 そう言うが早いか、足早に部屋を後にする遠野。その後ろ姿にヒラヒラと手を振りながら、ホッと胸を撫で下ろす宗介に、蚊帳の外だった二人が不安そうに声をかけた。


「……教えても、良かったの?」

「また、随分アッサリと正体を明かしてしまったが、隠し通すのではなかったのか?」


 当然ながら二人は、宗介の目的を知っている。何があって今の姿となり、どうして勇者という身分を隠しているのかも。実を言えば、悠斗達との再開とは別の目的――――北池へのやり返しに関しては、エリスしか知らないのだが……さておき。


 それらを鑑みて考えれば、確かに疑問を浮かべることだろう。


 勿論宗介もそれは理解している。しているが、正体を明かした事にはキッチリと理由があるのだ。


「そりゃあ、こんな事態にならなかったら隠し通すつもりだったがな……。なっちまったもんは仕方ない。それに、勇者のツテはあって損もしないさ」


 例えば、王城の蔵書庫。宗介がフォールン大空洞に経つ前、よくお世話になっていたそこの情報量と来たら、凄まじい。可能ならば宗介も、そこで情報収集がしたいと考えている。しかし残念ながら、一般人はそこに入れないのだ。無論、“黒級”の証があるので使用させてもらうことも不可能ではないだろうが……その場合、裏に記された宗介の名前が、死んでいった筈の勇者の名前を知る者に見られてしまう。


 また、クラスメイトの近況――――平たく言えば、国秘蔵の秘密兵器的な側面を持つ勇者の情報も、可能ならば知りたい所ではあった。北池の動向など、宗介にとって必要な情報は多いのだ。が、そう簡単にいかないだろうと言うことは容易に想像できる。


 そこで役立つのが、勇者である遠野との“ツテ”なのだ。


 クラスメイトを利用するようで申し訳ないとは思いつつも、宗介はほんの少しだけ口の端を吊り上げた。


「不慮の事態には焦ったが……ま、悪い方に考えるか良い方に考えるかの問題だな」

「それで君は、丁度良い機会だと考えた訳か」

「……納得」


 勿論、遠野の口から情報が漏れないように交渉する必要はあるだろうが、恐らく話せば分かってくれる。宗介と北池の関係は、クラスメイト全員に知れ渡っているのだから。


 そんな訳で、遠野と共に部屋に入って来た傭兵に盗賊団討滅の経緯を説明した宗介は、証拠として回収しておいたリーダーの頭部で遠野をドン引きさせ、ついでに報酬を受け取りつつ――――遠野行きつけのレストランへと足を運んだ。




 ◆




「はぁ~。あの車もこの銃も、挙げ句の果てにその身体もゴーレムって……。やっぱ本職は違うってことか」


 勇者権限によって案内されたVIPルームで、運ばれて来た料理に舌鼓を打ちながら手元の“シュトラーフェⅡ”をマジマジと見つめる遠野。レンガ造りの渋い内装にはいささか不釣り合いなフォルムの鉄塊が、淡いランタンの火に照らされてギラギラと輝いていた。見せてくれと必死に頼み込んでくるので、仕方なく貸してやったのだ。


 ――――久方ぶりの食事を楽しみつつ、宗介は、奈落の底に落ちてからのあれこれを軽く説明した。


 フォールン大空洞の最深部まで落ち、そこから片腕片脚を喪失しながらも脱出したこと。その後トリッド活火山に向かい、そこで得た物資を使って様々なゴーレムを創造したこと。同時に強さを得る為、身体をゴーレムにしたこと……。話して良いと思われる範囲は大体話し切ったと言えるだろう。


 隣で睨み合いながら料理を頬張っている二人は旅の仲間であり、特にエリスに関してはかけがえのないパートナーであると説明した。勿論、エリスが“鮮血姫エリスティア”その人であることなどは秘密だ。あくまでも、“魔法使いの少女エリス”と“聖王国の騎士フォルテ”として話してある。


 ちなみに、片腕片脚を喪った話や左腕が炭化した話などを生々しく語ってやったら痛そうに眉を顰めたり、エリス達の話になった途端、どうやって仲良くなったのかと詰め寄って来たりして一悶着あったが……それは一旦、傍に置いておこう。


 宗介は、口に含んでいた物をゴクリと呑み込むと、気になっていたことを遠野に尋ねた。


「で? 俺が死んでから、皆はどうだったんだ?」


 そう、この街で得たかった情報の一つ……勇者の近況だ。最悪、葵と北池の分だけでも良いが、知っておいて損も無い。


 遠野は、なんとも反応に困る自虐ネタを言い放つ宗介の態度に困惑しつつ、隣で睨み合いながら飯を食べているエリスとフォルテにチラリと目を向ける。一応、二人は部外者である為、この状況で話して良いのか悩んでいるようだ。


 しかし、宗介の仲間であるということは即ち、重大機密である“死んだ勇者”について知っているのとイコールである事に気付いたのか、ポツリポツリと話し始めた。


「あの後は……まぁ、西田が残してったゴーレムとかのお陰で、何とかあれ以上の被害を出すこと無く帰還できたんだ。ただ、そのあと七割の奴は戦意喪失しちまった。一応、俺もその一人だったよ。この世界は遊び(ゲーム)か何かじゃないって、そう思い知らされてな」


 歯がゆそうに呟く遠野。


 勇者達は皆、強い。この世界の人々を基準に考えれば、文字通り一騎当千となり得る程に。それでも彼らの本質は、ただの高校生なのだ。クラスメイトが目の前で死んで、戻ってこなくて、果たして何人が耐えられるだろうか? という話である。至極単純な事だ。


 この世界はゲームではない。死ねばそこで終わりである。余程の事が無い限り、リスポーンすることは出来ない。それが、モニターを前に数多の敵兵の眉間を穿って来た歴戦の戦士たる遠野には、酷く衝撃だったのだ。


「けど、“だった”ってことは、今は大丈夫らしいな?」

「へへ、御名答。王女サマのカウンセリングや天谷グループの活躍のお陰で、今は皆、やる気を取り戻してるぜ」

「そいつは重畳」


 軽口染みた言葉を交わした宗介と遠野は、お互い、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。趣味が若干似かよっているせいか、それとも男同士だからか、はたまた両方か……何やら通じるものがあるらしい。隣でエリス達が呆れたようなジト目を向けているが、今は気にしないでおく。


「戦える奴らは、必死に訓練してる。それでもやっぱり戦えないって奴は知識チート披露したり、色々やってるな。まぁ、生産職が居ないから微妙な所だけど……。その中でも非前線組が特に力を入れてるのは、ゴーレム技術なんだよな」

「ゴーレムだって?」


 訝し気に聞き返す宗介に、遠野はコクリと頷く。


「岩井光田って居ただろ? あいつ主導で、フォールン大空洞から鹵獲してきたゴーレムとかお前が使ってたリボルバーを参考に、何か色々と頑張ってるらしいんだよ。フォールン大空洞での戦いと、西田の活躍のお陰で、もう一度ゴーレム技術の可能性が見直されたんだ」


 聞く所によると、城門の所で宗介達を止めたゴーレムは、ゴーレム技術再興計画の第一弾であったらしい。遠野が城門に居たのは、鹵獲し改造した一機が上手く働けるかどうかの調査が主な理由だったようだ。ちなみに第二弾は拳銃型ゴーレム等の開発、第三弾が機械じかけのゴーレム開発である。


 そんな所に現れたのが、今まさに作ろうとしているモノに乗った宗介だった。ならば当然、何としても捕まえて情報を聞き出そうと思うことだろう。


「ここで西田が戻ってきてくれたらゴーレム技術は大きく進展するし、最弱から一転、黒級冒険者になれる程の実力者になって帰ってきたんだ。皆のモチベーションも絶対に上がる! あぁ、ホント生きてて良かったよ……」


 グスッと涙ぐむ遠野に、何ともむず痒そうに頬を緩める宗介。自分のしたことは無駄ではなかったという事実が、単純に嬉しかったのだ。勇者の力によって地球の技術が異世界に侵食していく件については、思う所も無くはないが、それだって宗介が力を振るわなければ許容範囲内に収まるだろう。


 だが生憎と、勇者達の元に戻るつもりは無いのだ。


「喜んでくれてる手前申し訳ないんだが、俺にもやりたいことがあるからな。今のところ戻るつもりは無いぞ」

「は……なんだって?」


 宗介の言葉に、思わず「聞き間違えたのかしら?」と目を丸くする遠野。無理もないが……こればかりは仕方がない。


「俺がこの街に来たのは、悠斗達の所に向かう途中、情報収集の為に寄っただけでな。少なくともあいつらと再会できるまで、生存を明かすつもりは無い」

「んな、どうしてっ」

「俺と北池の関係は知ってるだろ?」


 肩を竦めて苦笑いを浮かべる宗介に、遠野も成る程、納得がいったらしい。宗介のクラスメイトにそれを知らない者は居ないのだ。


「俺を奈落の底に突き落としたのは北池の奴だ、恐らくな。そんな奴に俺の生存が知られたら……分かるだろ?」

「あー……今度こそ殺される、ってか」

「そう言うこと。だから悠斗達と再会して味方を作るまで、俺が生きてるのは秘密にしておきたいんだ」

「なるほど、そりゃ確かに死んだままの方が都合良いな」


 何気に、クラスメイトの一人が人を殺したという重大な事を暴露したのだが、遠野は案外アッサリと受け入れた。もしかしたら可能性の一つとして挙がっていたのかもしれない。話が早くてありがたい限りである。


 勿論宗介とて、そう簡単に殺されてやるつもりは無い。むしろ手を出してくるならば正面から叩き潰すし、いずれは自ら出向いて行き、奈落の底に叩き落としてくれた事に対してお礼(・・)する予定だ。しかし、北池の実力を過小評価もしていない。やるならばやるで相応の準備が必要だと考えている。


 つまり、今ではないのだ。復讐の時は。


「まぁ、戻りたくない理由は分かった。俺だってあいつらの行動は見てて気分の良いモノじゃなかったし、西田がそう言うなら無理は言わねえ」

「お前なら理解してくれると信じてたよ」


 小さく笑いながら、そう軽く言ってのける宗介。


 なお、こんなことを話したのは、遠野が北池側の人間ではないという確信があったからだ。


 北池の所業に関して、遠野は――ほぼ全てのクラスメイトと同じく――見て見ぬ振りをしていた。それは紛れもない事実である。が、理由は嫌がらせの矛先が自分に向けられるのが怖いから。宗介はヘタレ生活の中でその事を見抜いていた。勿論、それが当然の心理である為、責めるつもりは無い。宗介だって立場が違えばそうした筈なので。


 そんなことを知る由もない遠野は、無条件の信頼に「本当かよ」と懐疑の目を向けてくるが、やがて嘘を言っている訳ではないと理解したのか、呆れたように溜息を吐く。


「それで? 何だって俺にだけ、アッサリと正体を明かしたんだよ? 正直言って、言われなきゃ気付かなかったぞ」


 まぁ、当然の疑問だろう。宗介は目の奥をキラリと光らせると、待ってましたと言わんばかりに答えを返した。いや、事実それを待っていたのだ。ここからは冒険者宗介と勇者遠野による交渉である。


「まぁ、仕方なかったっていうのもあるが……一番は、頼みたい事があるからだな」

「頼みたい事?」


 小さく頷き、先程からチマチマと手を付けていたステーキを一息に呑み込んだ宗介は、遠野に向けてビシッとフォークを突きつける。


「さっきも言った通り、俺は情報収集の為にこの街に寄った。で、この街で一番多くの情報が得られるのは王城の蔵書庫だ。だから――――そこを使うにあたって、俺が俺だと悟られないよう協力してほしい。もしくは指定した本だけかっぱらって来てくれるだけでも良い。とにかく、情報収集を手伝ってくれ」

「まーた地味に難しいことを……」


 宗介の頼みに、うげっと顔を顰める遠野。前者はともかく、後者に至っては若干犯罪の匂いまでする要求だ。蔵書庫の本は、確か持ち出し厳禁であった筈。そう簡単には飲んでくれないだろう。


 勿論、想定内だ。


「あぁ、ちゃんと礼はする。エリス、“シュナイデン”の前に創ったやつあっただろ、あれ出してくれ」


 宗介は、隣で黙々と料理を口に運んでいたエリスに声をかける。対価を提示する為だ。


 表面だけ焼かれた高級ステーキを頬張っていたエリスが、無言で指輪から取り出し、宗介に手渡したモノは……


「お、おいおいおい! “ドラグノフ狙撃銃”って、マジかよっ!?」

「おうよ。オリジナルとは若干違うが、イカすだろ?」


 一挺の、セミオートマチックライフルであった。


 可変式大口径対物銃シュナイデンを創る際、狙撃銃の試作品として創造し、対魔物用及び宗介が使用する事を想定してチューンアップされたそれは、シュナイデンにこそ劣るもののケタ違いの威力と精度を誇る。むしろ扱いやすさではこちらの方が勝るだろう。ストックの部分にはキラリと金色の魔石が輝いており、かろうじてゴーレムである事が伺える。


 バランスを崩す件については、まぁ、この試作品一挺では量産などしようもないし、必要経費と割り切る他無いだろう。それに、オートマチック拳銃の試作品は勇者達も完成させたらしいので、この程度の物ならいずれ独力で辿り着く筈。どうせ遅いか早いかの違いだ。宗介自身がこれより上の技術を保有している以上、まだどうにかなる。


「お前“弓師”だったろ? で、確か弓師には【狙撃】なんていう技能があったと記憶してる。それを鑑みると、FPS厨のお前にとっては弓より断然扱いやすい筈だ。当然、弾丸もつけてやる」


 歴戦の傭兵たる遠野には、きっと効く。そう判断して提示したこの対価は……どうやら予想通り、効果覿面であったらしい。


「い、良いのか? こんなの、本当に貰っても?」


 およそ剣と魔法の世界には似合わない、今にも硝煙の匂いが漂ってきそうな武器に、お預けを食らった犬のように目を輝かせる遠野。予想以上の食い付きに思わず噴き出しそうになるが、宗介はそれをグッと堪えて話しを続ける。


「頼みを聞いてくれるなら、無闇にひけらかさず、俺の名前を出さない範囲で使ってくれて構わない。芋砂(芋虫スナイパー)やるもよし、凸砂(突撃スナイパー)やるもよしだ」

「ほ、本当だな!? 二言は無いな!? よし来た任せろ手足同然に使ってくれ! どんな本でも取って来てやらぁ!」

「っし、交渉成立だな」


 ニヤリと悪い笑みを浮かべ、硬く握手を交わす二人。そこに加わるのが、宗介から遠野へと横流しされるスナイパーライフルだ。絵面だけ見れば完全に、紛争地域で行われてそうな密売の場面である。モノがモノだけに犯罪臭が凄まじい。しかも受け取った側の人物がスナイパーライフルに頬擦りし、恍惚とした表情を浮かべているのだから、そのヤバさは留まる所を知らない。隣でエリスとフォルテがドン引きしているが気にしない。


「念押ししておくが、ここでのやりとりは他言無用だぞ? もし誰かに話したりしたら……その場で自爆させるからな」

「これ自爆すんのかよ!?」

「並のダイナマイトは軽く凌駕するから覚悟しとけよ。あと分解しても自爆する。一応、内部構造がイカれても勝手に直るから安心してくれ」

「なんつー機能を付けてんだっ!」


 えげつないモノを受け取ってしまった、と顔を青くする遠野。対する宗介は至って真顔であった。


 ともあれ。


 勇者達の密談は、つつがなく進行していく――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ