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三五 悪魔襲来 後

 ガギィィッ!! と、金属同士がぶつかり合うけたたましい音が鳴り響く。


 瓦礫を踏み割り蹴り飛ばして肉薄してきたグラムによる、計四本のバスターソードの振り下ろしを、宗介は、極長の対物ライフル“シュナイデン”を横に構えることで受け止めたのだ。


 時計塔を分断した斬撃。されどアダマンタイトの装甲によってガッシリと硬められた漆黒の狙撃銃は、装甲の表面に薄いひっかき傷を付けらながらも四つの刃を寄せ付けない。本来の目的からは逸脱した使い方だが、十分に耐え得るようだ。


 そんな、眼前でバスターソードとシュナイデンがギャリギャリと音を立てる中、宗介は「むっ」と眉を顰めた。予想以上に相手の筋力が高かったらしく、若干ながら押された為である。流石は“上級悪魔”と言ったところか、ただの魔物や下級、中級悪魔共とはレベルが違う。


「ったく、舐めんなっ!」


 勿論、知ったことではない。


 即座に四肢のエンジンに火を付け、更に背中から伸びる翼のスラスターを背後に向けた宗介は、ドウッ!! と六条の炎を瞬間的に噴いて一歩踏み出し、四本の大剣を一挙に弾き飛ばした。


 よもや正面から押し返されるとは思わなかったのか、四本の腕で万歳したまま感心したように目を丸くするグラム。


「ほう……我が主の盤を荒らすだけの力はあるか」

「さっきから、何を言ってやがるんだ、っと!」


 宗介は、そのまま更なる一歩を踏み込むや否や、右手でシュナイデンを棒術の如く回転させ、その勢いを乗せて横薙ぎに振るい強襲する。


 狙撃銃とは言えその実態は重金属の塊、直撃すればそれだけでも大怪我は必至だ。その上、ガシュンッ! とギミックの一部を解放し、ゴツい装甲の先端から銃剣のように鋭い刃を伸ばすのだから、凶悪さは留まる所を知らない。


「チッ」


 故に舌打ち一発、大きく背を逸らしてグラムはそれを避ける。


 だがしかし。その時にはもう宗介は、剛速で振り抜いた勢いのまま身体を捻り、薙刀と化したシュナイデンを後ろ手に力を溜め……背後への射撃によって起こった膨大な反動を乗せて一気に振り下ろしていた。


 グラムの顔が焦りに染まり、宗介の顔に不敵な笑みが浮かぶ。


「吹き飛べ」


 ズガァンッッッッ!!


 フルパワーの一撃が、咄嗟に大剣の腹を交差させて受け止めたグラムごと、石畳を叩きつけた。


「ぐ、っ……!」


 自ら跳んで衝撃を緩和したというのに、それでもなお身体を蹂躙する破壊の一撃を受け止めたグラムは、口から鮮血の代わりの“もや”を零しつつ勢い良く吹き飛ばされる。


 宗介が全力で打ち付けたシュナイデンはと言えば、その先端を放射状に砕けた石畳の中心に埋めているものの、まるで歪んだ様子が無い。そもそも、バラバラに爆散でもしなければ龍脈から魔力を吸収することによって元通りになるのだが……。


「お、のれ!」


 大剣を地面に突き立ててスパイク代わりにし、ガガガガッと砂埃や破片を散らしながら姿勢を取り戻すグラム。憤怒を宿した赤と黒の眼で宗介を睨みつける。


「踊れ……《華焔(グラナーダ)》」


 そんな彼を息つく暇無く襲うのが、山なりの軌道を描いて降って来た六つの炎弾だ。そう、ヘリオスの力を掌握したエリスの火属性魔法である。


 放たれたハンドボール大の炎弾は、されど膨大な魔力を有しており、着弾すれば宗介謹製の手榴弾にも匹敵する爆発を起こす。その威力は石畳に小さなクレーターを作る程。まともに喰らえば身体の一部が無くなるのは免れないだろう。


「くっ」


 グラムは何やら毒づきながらその場を飛び退き、雨あられの如く降り注ぐ炎弾の間を縫うように避ける、避ける。言うなれば、爆炎という華の間を飛ぶ蜂のようだ。


「フェイス様の駒だというのに、その誉れを忘れたか、鮮血姫!」

「だから誰だよフェイス様」


 またも飛び出して来た謎の輩の名前について尋ねながら、宗介は右へ左へ揺れながら迫ってくるミツバチを墜とすべく、左手に持った巨大なハンドガン……“シュトラーフェⅡ”の引き金を引く。


 ドパンッ!! という腹に響く強烈な爆音と共に、十五ミリ・マグナム徹甲弾が解き放たれた。


「このような豆鉄砲で止められると思うなよ!」

「ほぉ……」


 しかし流石は上級悪魔。あろうことか残像を残しがら横滑りし、音速で飛来する弾丸を見てから回避するという荒技に打って出た。そしてそのまま、地面に大剣の一本を突き立て急制動をかけつつ突貫してくる。


 グラムの異様な反射神経にさしもの宗介も驚きを隠せなかったようで、一瞬、目を見開いた。


 そう、一瞬。そんな敵が出てくることくらい予想はしていたのだ、ならば問題はない。


「じゃあ、本当に止まらないか試してやるよ」


 銃口を地面にめり込ませたままのシュナイデンの代わりに、もう一挺ののシュトラーフェⅡを武装ホルダーから引き抜いた宗介。両の手に黒銀の鉄塊を構え、犬歯を晒して口の端を釣り上げると共にトリガーを引く。


 ドオパァァンッッ!!


 黒銀の鉄塊から鳴り響いた咆哮は、殆ど同時に放たれたせいで間延びした一発分。されど絶妙なタイムラグと共に放たれた弾丸は十。群を成した裁きの塊が、我が意を突き通さんと疾走する。


「――――シッ!!」


 グラムは残像を引いて初弾を躱す。しかしその先には、コンマ単位で発射のタイミングをずらされた弾丸が。


 ご丁寧にも額の魔石を狙った射撃、当たれば即死だ。故にグラムは、全力を以ってそれらを避ける。身体を捻り、首を逸らし、時に低空飛行のままバレルロールを決めて射線上から巧みに身を逃がし、宗介へと肉薄する!


 彼我の距離は既に十メートル程度。コンマで詰められる距離だ。しかし宗介は冷静に、右のハンドガンに残った弾丸を放つ。


 炸裂音と共に一瞬でグラムの鼻先まで迫ったマグナム弾は、しかし大剣の腹で思い切り弾かれた。


「ぬ……」


剣の腹と弾丸が接触した瞬間に迸った膨大な衝撃に、グラムはたたらを踏みそうになったが……慣性のままにそれを抑えつけ、四本の大剣を巨大なバツ字を描くように広げる。


 それはさながら悪魔の顎門か大鎌だ。あれに喰ら付かれては、ズタズタに引き裂かれる以外に逃れる道は無い。


「分断してやろう!」


 それでもなお、迫る凶刃の悪魔に臆することなくニヤリと笑った宗介は……


「出来るもんなら、やってみな」


 一本退くと同時に、【遠隔操作】を以って、銃口を瓦礫にめり込ませたままのシュナイデンを発砲した。


 瓦礫の中で爆轟の華が咲き、鋼龍の咆哮が轟く!


「ッ!?」


 それだけに止まらず、触れもせずに武器を操ったことに目を丸くするグラムに、ゼロ距離どころか内側から対物ライフルで吹き飛ばされた瓦礫が、粉塵や散弾と化して襲いかかった。


 音速の弾丸を見てから弾いた悪魔とて、数メートルの距離から不意打ちで放たれた面攻撃を避けることは、流石に不可能だろう。


「小癪なっ」


 それでも咄嗟に四本の大剣を交差させ、大きなラウンドシールドに見たてて散弾を凌ぐのだから、流石の反射神経だ。


 ――――だが、咄嗟の判断の結果、ただの瓦礫程度に視界を失う愚を犯してしまった。そして宗介は、その致命的な隙を見逃すほど甘くはない。


 右のシュトラーフェⅡをロボットアームのホルダーに仕舞い、射撃の反動で回転しながら跳ね上がったシュナイデンを掴み取った宗介は、同時にリロードした左のハンドガンから六発のマグナム弾を一挙に叩き込む。


 ドガガガガガァン!!


「ぐぅ……!」


 全く同じ軌道を描いた弾丸達は、突貫の慣性を真正面からねじ伏せるだけの凄まじい衝撃と騒音を生み出し、グラムの動きを止めるどころかたたらを踏ませ、押し返した。


 そう、つまり……


止まった(・・・・)な?」


 豆鉄砲と舐めてかかった武器が、まんまとその慢心を打ち砕いた訳だ。


 シュトラーフェⅡの連射により、それらを受け止めた大剣を通じてビリビリと腕を痺れさせるグラム。バスターソードによって作られた、四層構造のラウンドシールドの一層目が、放射状にヒビ割れつつ見事に貫通している辺り、シュトラーフェⅡの威力が窺える。


 そして、何度も言うが、動きを止めた相手の隙を突かない程、宗介は甘くない訳で。


 左のシュトラーフェⅡを天高く放り投げ、宗介は、ジャキンッ! と良い音を立ててシュナイデンのボルトを引く。


 押し出された馬鹿デカい薬莢が飛んで行くのを横目に、巨大な狙撃銃を構え直し……三十ミリ・フルアダマンタイト・マグナム徹甲弾をぶっ放した。


 マズルファイアによる四枚の花弁を咲かせた漆黒の弾頭は、瓦礫の破片が飛び散るような衝撃と轟音を撒き散らしながら、顔を青ざめて即座に張り直されたラウンドシールドのど真ん中に突き刺さる。


 そして……


 バキバキバキィッ!!


「ぐ、はっ!!」


 その弾丸を受け止めたグラムは思い切り後ろに吹き飛び、ラウンドシールドとしていた四本の大剣は、全て半ばから砕け散った。


 弾丸自体は、犠牲になった大剣達のお陰でその奥のグラムには届かなかったようだが、それでも馬鹿げた威力だ。突き抜けてきた衝撃波だけで上級悪魔がもや()を吐き飛ばされるのだから。


 ドシャッと石畳に叩きつけられ、無残に地を転がって衝撃を殺したグラムは、未だ痺れる四本の腕を突いてフラフラと立ち上がる。


「成る、程。我が主が脅威に思うのも、頷ける……。これは分が悪いか……」

「だから誰だよ、お前の主様って」

「貴様が知る必要は無い」

「はっ、そうかよ。それよりも……」


 シュナイデンを肩に担ぎ、苦笑いして憐れみの表情をグラムに向ける宗介。


 親指を立てた左手でチョイチョイっと背後を見るように促し、あっけらかんと言ってのける。


「そのままだと死ぬが、ジッとしてて良いのか?」

「ん? 何を言って――――」


 ドガガガガガァッ!!


 グラムが振り返るよりも早く、半球を象る形で宙に浮かんで待機して(・・・・・・・・・・)いた(・・)無数の剣達が、一斉に降り注いだ。


 岩が岩を砕く破砕音が鳴り響き、粉塵と破片が飛び散る。


 その魔法を後ろで操っていたエリスが、トコトコと宗介の隣に歩み寄って来て満足気に頷いた。


「……注意散漫は、事故のもと」

「事故の原因を生み出した張本人が何を言うか」

「……私たちの時間を邪魔したあっちが悪い」

「まあ、そうだが」


 先程の魔法は、当然ながらエリスの魔法。瓦礫や石畳から作り出した剣を重力魔法で宙に浮かせて待ち伏せしていただけの、至極単純なものである。静かにしていた理由は単純に、未だ重力魔法を十全に操るのには多大な集中と溜めが必要だからだ。


 いや、たった一人で地属性と火属性を両方操る辺り、もう十分にエリスは規格外なのだが。


 それはともかく。


「しかし、あれだ。その魔法は威力不足だな」

「……ん。まだまだ、試行錯誤が必要。……と言うより、宗介の武器が、異常なだけ」

「そう言われりゃ何も言い返せないな」


 エリスの言葉に、苦笑いして頬を掻く宗介。


 その彼の左目……“龍脈眼”は、粉塵の中に鎮座する黒い魔力の球体を捉えていた。防御魔法か何かだろうか、剣を突き刺す程度では突破できない代物なのは間違いないだろう。


 砂埃が晴れて姿を現したのは、黒い繭だった。それも、ドライアイスのように禍々しい瘴気を撒き散らす繭だ。


「嫌な予感しかしねえ、なっ!」


 それが羽化するのかは分からないが、とりあえず宗介は、ジャキンッとボルトを引き三十ミリ徹甲弾をぶちかます。


 放たれた弾丸は動かぬ的のど真ん中を貫き、拍子抜けにも一瞬で全体にヒビを奔らせて砕き割った。


 爆散した黒い繭は大気に溶けて“もや”となり霧散する……などと言う事は無く、宙を漂い辺り一体を黒く染め上げる。


 予想外の事態に顔をしかめ、龍脈眼でジッと黒い霧を見つめるや否や、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる宗介。エリスも面倒臭そうに眉を顰め、宗介と背中合わせになって刺突剣(エストック)を構える。


「これは、判断をミスったか……?」

「ん……囲まれた」

「だよなぁ。ったく、分裂かよ」


 チッ! と、宗介が一際大きな舌打ちを飛ばすと同時。


 黒い霧がギュルリと渦巻き、無数のヒトガタを作り出した。そして、その霞のようなヒトガタは、瞬く間に実体を持ち始め、トリッドの街を襲って来ていたような悪魔達の姿を形作る。


 結果……前後左右、上空まで含めて、翼を持ったヒトガタの大群に囲まれてしまった。


『一体一体が中級相当だ、突破してみるがいい!』


 その群れ全体が、声を合わせてそう言う。どうやら、全員がグラムの分体らしい。横を見ても上を見ても、同じ姿の悪魔、悪魔、悪魔……。


 ハッキリ言って、これは絶望的な状況だ。悪魔と言えば、下級が一体でも倍以上の優秀な冒険者が居なくては勝ち目が無いような存在。それよりも一段階上の、中級悪魔による完全包囲。常人ならまず突破できないどころか、逃げ延びることも不可能だろう。


 そう、常人なら。


 お生憎様、常人と呼ぶには……宗介達の力は些か強力に過ぎた。


「はっ、面白え」


 犬歯を晒してニヤリと嗤った宗介は、右手に担いだシュナイデンのギミックを稼働させる。


 グルングルンと空を切って回転させてその狙撃銃を握り直せば、ゴツい漆黒の装甲に黄金のラインが刻まれて行き、そのラインに沿って装甲が展開。更にガシャンガシャン、ガシャンッ! と音を立てて狙撃銃全体が変形すれば……


「用は、全滅させれば良い訳だろ?」


 一つの、巨大な大鎌(デスサイズ)となった。



 可変式(・・・)大口径対物銃“シュナイデン”の真髄、大鎌形態。


 無駄にゴツい装甲、まさか銃身の補強の為だけに装備している筈が無かった。


 グリップやストック周りを真っ直ぐ伸ばし、装甲の中に秘められた生身の銃身を“柄”と見立て、漆黒の装甲全体を半月状に広げ、最後に内蔵したブレードを展開すれば――――あら不思議、ものの数秒で狙撃銃が大鎌にトランスフォーム! という訳である。


 勿論、ボルトアクションによる射撃機構はそのまま残っており、刃の先端を地面に突き立ててモノポッドスタンドにすれば安定した狙撃も可能だ。言うなれば“狙撃鎌”か。



 シュナイデンの形態を華麗に変化させた宗介は、辺りを取り囲む悪魔達をジロリと見回した。数は……ざっと百は軽いか。


「エリス、あの雑魚共を一網打尽にする魔法は使えるか? 半分は減らしてみるが、流石に多い」

「……少し、時間がかかる」

「了解。虎徹改を二機とも出してくれ、護衛に付かせる」

「ん……分かった」


 ジャキンッ! と漆黒の大鎌を構え直す宗介の後ろで、エリスは、指輪の収納から鋼の魔物を二機召喚した。各部がアダマンタイト装甲で強化され、背中に二門の機銃を搭載した虎徹参式……“虎徹改”だ。更に専用にチューンされた“フライハイト”も搭載しているので、壁や天井を走ったりできるようになった。


 ともかく。


「さあ、やろうか!」

「んっ……」


 目を伏せて瞑想を始めるエリスを尻目に、宗介は鎌の砲口を後ろに向けて撃ち放ち、エリスに向かっていた悪魔が爆散すると同時に、地面を踏み砕いて砲弾の如く突撃する。


 その勢いのまま一体の悪魔に肉薄し、ボルトを引くと同時に射撃することで反動を利用して鎌を振るい、遠方の標的を肉片に変え、眼前の悪魔三体を上下真っ二つに分断した。


 勿論それに止まらない。大車輪を作るように大鎌を振り回しながら、時に首を刈り取り“もや”へと変え、時に四肢を飛ばして達磨にした所を蹴飛ばし、時に連射してトリガーを引くことで四方八方に弾丸と空薬莢と肉片を撒き散らし、縦横無尽に悪魔共を霧散させていく!


「ッ、死ぬが良いっ!」

「おっと」


 剛速で駆ける宗介を狙って傍から振るわれる、悪魔の鉤爪。しかし宗介は冷静にスライディングして潜り抜け、クルリと逆上がりするように跳び上がった。悪魔の首に三日月型の鎌を引っ掛け、そこを支点にして地を蹴ったのだ。


「何をっ」

「五月蝿い口だ」


 脚の装甲を展開して“フライハイト”のリミッターを解除した宗介は、そのまま大きく一回転して悪魔の背中に脚をかけると……


 ――――ズバンッッ!!


 射撃と同時にその背を全力で蹴り、悪魔の首をバッサリと斬り落として跳び上がった。


 ゴーレムの力を余すこと無く伝えた蹴りと、射撃の反動を宿した鎌の斬撃が合わさったそれは、さながらギロチンの如し。微塵の抵抗も許さず命を奪う姿は成る程、刈り取る者(シュナイデン)の名に相応しい。


「はっ、一生黙ってな」


 自身にかかる重力を十分の一まで緩和し、フワリとムーンサルトを決めた宗介は、丁度迫って来ていた一体の悪魔を足場に三角跳びをして天高く舞い上がる。脚内蔵の小型パイルバンカーで脳髄を撃ち抜き破砕するオマケ付きで。


「ッシィ!!」


 そんな彼を挟撃するように、左右から二体の悪魔が肉薄する。振りかざした鉤爪は、宗介のシュナイデンにも匹敵する程に怪しく凶悪な煌きを纏って襲いかかる!


「っと」


 宗介は、冷静にシュナイデンを隣に向け、爆轟と共に悪魔の片割れを吹き飛ばした。更にその反動を使って独楽のように縦回転し、大鎌による剛速の振り下ろしを以ってもう一体を分断、絶命させた。


 しかし、今の二体は先遣隊に過ぎなかったらしい。


「その姿勢では反撃に移れまい!」


 二体の対処によって姿勢が崩れたことで出来た隙を突き、全方位から数えるのも億劫になる数の悪魔が迫って来る。


 確かに、今の空中独楽乱舞の姿勢から包囲網を突破することは、非常に困難だろう。だが宗介は、回転しながら悪魔全てを視認してニヤリと口の端を吊り上げ、一瞬、身体を縮こまらせる。


 そして……


 ドォパパパパパパァンッ!!


 宗介という名の回転する球体から、花火のように無数の火線が炸裂した。


 包囲していた悪魔達は、その尽くが蜂の巣になり霧散する。残ったのは、たった一体だ。


「な、な、な……!」


 なんだ、今のは。そう言おうとして、しかし驚きのあまり言葉が出ない悪魔を前に、宗介はボバッ! と身体を広げて静止する。


「発想は良いが、相手が悪かったな」


 悪戯っぽく笑い、ジャキンッ! と、四挺(・・)の拳銃とシュナイデンの銃口をその悪魔に向ける宗介。



 翼手によって頭の両隣で構えられた、銃身の下に“外付け(アドオン)式小型ショットガン”を装備した大口径拳銃“シュトラーフェⅡ”。


 ロボットアームによって腰の両脇に構えられた、上下二連式バレル搭載の化け物リボルバー“クーゲルⅡ”。


 殺意の光をギラリと煌めかせる銃口の数は、シュナイデンのモノも含めて全部で九。


 ――――そう、これぞ驚異の四挺拳銃(・・・・)スタイルだ!



「じゃあ死ね」


 宗介はそう言うや否や迷うこと無く、先ほど擬似花火を咲かせた銃達の引き金を引く。


 ドォパアァァンッッ!!


 各々の銃口から、十五ミリマグナム弾とショットシェル、上下に並んだ二つのフルメタルジャケット、そして三十ミリ徹甲弾が同時に放たれた。


 勿論、たった一体残った悪魔は、四肢と胴体を同時に音速の弾丸で吹き飛ばされ、一瞬で“もや”と化し霧散する。


 まさに、圧倒的であった。


「さて、エリスの方も大丈夫そうだし……まだまだ居るな? かかってこいよ」


 シュナイデンのボルトを引き、四挺の拳銃達をクルリとガンスピンさせてリロードした宗介は、離れたところで盛大に引き攣った顔をしている悪魔達に目を向ける。


「お、おのれぇっ!!」


 悪魔達は、恐怖を打ち払うように叫び、負け戦へと挑みかかった。


 そして宗介は、その尽くを轟音と共に刈り取りつつ……地上に目をやる。


 エリスは、また別の大群によって完全に取り囲まれていた。それはもはや、空中からでないとその姿を認識できない程だった。



「あの男が駄目ならばっ」


 鉤爪を振りかざした悪魔が、今なお静かに瞑想を続けるエリスへと襲いかかる。


 当の本人は、目を開けようとすらしない。完全な無視だ。その事実に悪魔はギリッと歯噛みし、怒りのままにその鉤爪を振り下ろす!


 しかし、その凶爪は……


 ガギィッ!!


 彼女の周りに控えて守護する、鋼の黒虎に身を以って防がれた。宗介が砲弾のように飛び出してからずっと続いている光景だ。


 エリスが、ほんの少しも動かずに魔力を練り上げ魔法を構築出来ているのは、この“虎徹改”による護衛のお陰である。宗介のゴーレムである二機の虎徹改を完全に信頼しているからこそ、ただ黙って瞑想していた。


 虎徹改は襲いかかって来た悪魔を一瞥すると、グルルル……というエンジン音とも取れるような唸り声と共に、背に搭載した二門の機銃を敵に向け、おもむろに唸らせる。


 ドダダダダダダダンッ!!


 連射力こそガトリング砲などには劣るものの、出来る限り反動を抑えながらも十分な威力を発揮できるように調整された機銃は、標的を一瞬で穴だらけにする。更に掃射するように薙ぎ払えば、周りの悪魔達は“もや”を噴き出しながら断末魔を上げた。


 そして弾幕を掻い潜って接近する者は、前脚のブレードか鋭い牙で屠るのみ。迎撃が済めば、また衛星のようにエリスの周りをゆっくりと歩き睨みを利かせる。


 こんな鋼の魔物が二体、騎士のように(エリス)を護るのだから、護られる側は極めて安全だ。


 ……しかし、それも時間の問題だ。対処法はいくらでもあるのだから。例えば、囮。数に任せて二機ともエリスから引き剥がせば、当の本人は無防備となってしまう。


 勿論宗介も、虎徹改の数を増やしても良いかなとは考えてはみたが、恐らく持て余すだろうという事で二機に落ち着いたらしい。


 それはともかく。


 悪魔達はその半分程が叫び声を上げ、犠牲を覚悟で突撃する。狙いは虎徹改の注意を引くことだ。


「おおぉぉおおおお!!」


 鉤爪を唸らせ、四方から虎徹改を袋叩きにする悪魔達。勿論、アダマンタイトの身体にそのような攻撃、通じる訳も無く、即座に機銃や牙による猛烈な反撃が始まった。


 計四門の機銃が敵を尽く蜂の巣にして行き、搭載した重力操作機構によって空をも駆けるように暴れ狂う虎が黒い肉塊を撒き散らす!


 しかし、一機に対して五十余りの悪魔が取り付けば……エリスの護衛は疎かになってしまうのも無理はない。


 そうして出来上がった守護陣の穴を突くべく、上空から一体の悪魔が強襲する!


「至高の御方に叛逆した愚か者に、破滅の裁きを!」


 身体の性質を変化させ、両腕の全体を片刃の剣に変えた悪魔が、静かに瞑黙するエリスへと高速で落ちてくる。


 さしものエリスも虎徹改が動けないことに気付いたのか、ずっと伏せていた目を開けた。そして、自らに刃を向ける悪魔を一瞥すると……


「……ふっ」


 小さく鼻で笑った。


「――――ッッッ!!! 殺してやるっ!」


 小馬鹿にするような態度に一瞬で怒りが頂点まで達したその悪魔は、ボッ! と魔力によるブーストをかけてエリスに……微塵も臆する様子も無く真っ直ぐ見つめ返してくるエリスに突撃し、溢れる憤怒の炎に任せて二本の凶刃を振るう。


 バツ印を描くように振るわれた刃は、哀れかな、逃げることすらしない少女の身体を無残に斬り裂く――――と思われたが。


 ギャギィィンッッ!!!


 剣とエリスの間に割り込んで来た黒い影によって、その寸前で遮られた。


「なっ!?」


 鋼の虎は今なお捨て駒達の迎撃で忙しいというのに、灰髪の男は未だ上空で戦っているのに、刃を止める者が居たことに目を向くその悪魔。


 遮ったのは、小さな漆黒の柩だった。


 十字架のレリーフが刻まれた人形サイズの細長い柩。四隅から小さな炎を噴き銀色のスパークを纏った不可解な物体が、その身を呈してエリスの盾となったのである。


 エリスはそれを見て、少しだけ頬を綻ばせる。


「……ソウスケは、私を、護ってくれる……信じてた」


 と、言うのも。


 この柩は、宗介のロボットアームが装備していた盾の片割れだ。その実は、四基の小型スラスターと小型フライハイトを搭載した自立飛行型ゴーレム。言うなれば“シールドビット”である。


 虎徹改の弱点を熟知していた宗介は、いつの間にやらこれをパージし、即座にエリスを守れるように配備していたのだ。


 ちなみに言うとこのシールドビットだが、両方のロボットアームが装備していた為、二つ存在する。


「おのれ、小癪な真似を――――」


 ズドンッ!!


 何やら叫んで柩を切り崩そうとしていた悪魔の頭部が、不意に爆散した。


 そう。もう一機のシールドビットが半分に割れて展開することで姿を現した内蔵ショットガンが、横合いから弾丸の雨をぶっ放したのだ。


「よう、大丈夫か?」


 崩れ落ちて霧散していく悪魔を尻目に、上から宗介が六条の火を噴きつつエリスの元へ舞い降りて来る。どうやら、宣言通り悪魔の軍勢の半分は刈り尽くしたらしい。上空で戦っていた奴らは見事に一掃されていた。


「ん……ソウスケのおかげ。ありがと」

「どういたしまして。で、魔法はどうだ?」

「ん、もう完成してる」


 宗介の言葉に得意気な表情で答えたエリスは、不意にその目をスッと細め、小さな手を掲げた。


 そしてそれを振り下ろすと同時に、――――たった一言、世界に命令を下す。


「《ひれ伏せ》」


 ……と。


 瞬間、溢れる魔力がスパークとなって辺り一帯に迸り、ズンッ!! という擬音で表せそうな暴圧が、大瀑布の如く悪魔の軍勢に襲いかかった。


「ッ!?!?」


 言葉にならない驚愕の声を上げ、ガクリと膝を突くヒトガタ達。まるで何かが上から押さえつけるような圧力に、両の手を地に突き、そして頭を垂れる。


 立っているのは、術者であるエリスと宗介、そして虎徹改達だけだった。


「ぐ……! な、なにを……!」

「……私の上に立ち、見下していいのは、ソウスケだけ……図に乗るな」


 そう言って、絶対零度の視線を平伏した悪魔共に送るエリス。


 ――――辺り一帯にかかる重力を、何倍にも増幅した。事のタネは至極単純なことだ。それでもこの場では、重力を操っている張本人であるエリスと重力操作装置を持つ宗介達以外は、立ち上がることすらままならない。


 そうして、星のエネルギーという強力無比な枷によって大地に縛られた者は……大地の支配者であるエリスに喰らわれるのみ。


「私達の邪魔をする虫ケラには、地に這いつくばって無様に死ぬのがお似合い……その身を以って罪を償え、《鮮血の極刑(カズィクル・ベイ)》」

「ま、待て――――」


 ズバババッ! と立ち伸びた無数の杭が、ひれ伏した悪魔達の尽くを微塵の抵抗も許さず貫いていく。そして内側からその杭が枝を伸ばし、グチャグチャの肉片と黒い“もや”を撒き散らした。


「また随分と凶悪度が増したな……人のこと言える立場じゃないけど」


 苦笑いを浮かべる宗介に、ふんすっ、と得意気な無表情を返すエリス。


 そんな二人の前に、絶命した悪魔達の“もや”が渦巻き、一個のヒトガタを作った。角が生えた頭と四本の腕に、小さな翼を持った黒い悪魔……グラムだ。どうやら分裂した身体を全て破壊され、元の姿に戻らざるを得なくなってしまったらしい。


 今なお張り巡らされた膨大な圧力に膝を突きながら、悔しそうに歯噛みするグラム。


「今のままでは、貴様を殺すことは出来ないか……」

「そう簡単には死んでやらねえよ」


 宗介は四挺の拳銃を構え、シュナイデンの刃を地面に突き刺し銃口を向け、更に虎徹改と二機のシールドビットでグラムを包囲した。


 これで、もはや逃げ場は無い。


「さて……フェイス様とやらについては、聞いても教えてくれなさそうだし、もう聞かない。だがこの街をを襲って俺達に喧嘩を売った落とし前は付けてもらう」

「ふん……生憎と、私もそう簡単には死んでやらんさ。決着は次回に持ち越しだ。次は、確実に殺せるだけの準備を整えて向かうことにしよう」

「ほざけ」


 宗介は、それらのゴーレムに向けて一斉に射撃命令を下す。


 ズドドドォンッッ!!


 一斉に爆轟が迸り、グラムの姿が粉塵の中に消えた。


 巻き起こった砂埃の中、宗介の“龍脈眼”は黒い魔力の反応が一瞬で(・・・)消失したのを確認する。


 そして、舌打ち一発。


「野郎、空間転移で逃げやがった」

「……“魔王”がいる以上、仕方ない。お疲れ様……」

「ま、良いがな。次来たら、また同じように叩き潰すだけだ」


 各種武装や虎徹改などを仕舞いながら、次に来た時の為にもっと武器を揃えておいた方が良いかと思案する宗介。


 街の東からは、指揮官が逃げたことで悪魔達が撤退していったのか、勝鬨の声が上がっている。被害は……多少の死傷者と、グラムによって瓦礫の山と化した時計塔、そして市街地戦によって破壊された幾つかの建物くらいか。上級悪魔とやらが出張ってきた大進行の被害としては、奇跡的なまでに少ないと言えるだろう。


 何はともあれ。


 悪魔襲来騒動は、人間側の勝利で幕を閉じたのだった。

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