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三四 悪魔襲来 前

 トリッドの街東門。普段は来るもの行くもの拒まずに開け放たれているそこは、現在ガッチリと閉め切られており、その大扉が据えられた壁の上では苛烈な攻防戦が繰り広げられていた。


「撃て、撃てぇ! 一匹たりともここを通すなっ!!」


 街を覆う強固な石壁の上に立った騎士の言葉と共に、同じく壁の上に陣取る魔法使いや弓兵の攻撃が飛び、弩砲(バリスタ)が弾幕を張る。


 それらの標的は、突如として街の近くに出現し目と鼻の先にまで迫ってきている異形の化け物達。数こそ大地を埋め尽くすという程ではないが、ケルベロス染みた多頭の狼や、バランスというものを無視する程に上半身が発達したオーク、枯れ木のような細い体躯に悪魔の翼を持ったテナガザルなどその種類は様々だ。


 しかし、それら全てに共通していることがある。


 一つは、皆一様に漆黒ないし紫に近い体色をしており、紫色の魔石を額で怪しく輝かせているということ。その姿は何処と無く異様で禍々しい。


 そしてもう一つは……先程から延々と街から放たれる攻撃の嵐を歯牙にも掛けない程に個々が強靭であるということだ。


 魔法が直撃しても、矢が突き刺さっても、バリスタが四肢を吹き飛ばしても、血の代わりに黒い“もや”を噴き出すだけで進軍を止めない異形達に、人間側は防戦一方であった。


「グゥルララァッ!」

「く、くそっ、なんなんだよこいつらっ」


 麓で石壁や門を殴りつけているオークの巨体を足場にして跳び上がり、乗り越えようと壁の縁に鋭い爪を引っ掛けてもがくケルベロス。その頭を若手の冒険者が斬りつけ、鼻頭をブーツで蹴り飛ばして叩き落とす。


 他の場所でも、防衛に参加した鍛治職人が自慢の剛腕で戦鎚を振るったり石材を頭に落とすなどして、壁をよじ登る魔物を落としていく。そうして地に身体を打ち付けた異形達は、しかし何かに突き動かされるように再び壁をよじ登る。勿論、冒険者や鍛治職人、兵士達は登らせまいと必死だ。


 そうして壁の下に意識が向いた彼らを空から襲うのが、翼を持つ痩せ細ったテナガザルを筆頭とする、飛行型の異形達である。


 弾幕の中を抜けてきた猿達は、ギラリと煌めく鉤爪が先端に生えた細く長い腕を鞭のようにしならせ、登って来る魔物を迎撃していた者や魔法使い、弓兵に砲兵、及びそれらを護る冒険者達を強襲する。


 高所からの一撃は、ヒョロヒョロの細腕から生み出されたものとは思えない程の破壊力。躱せば地面が砕かれ、まともに受けては武器ごと骨が逝ってしまうだろう。そうでなくとも、異常な腕力を以って鎚を奪われた鍛治職人など様々な被害が生まれていた。


 そんな飛行型の異形を数人がかりで倒すなり追い返すなりしている内に、壁の下からはまた地上の異形達が登って来て、もしくは未だ壁から距離があった奴らが迫って来て……。


 如何ともし難い状況に、フォルテは、テナガザルを斬り伏せながら「くそっ」と悪態をついた。


「折角のオフなのに! そもそもっ、どうしてっ! 誰もこれ程までに接近されて気付かなかったんだ!」


 細い体を両断され、甲高い悲鳴と鮮血代わりの“もや”を迸らせる異形など目もくれず、また別の異形の元へと疾走し剣を振るう。


 衛兵の話によると、この異形達は文字通り瞬く間に出現し、進行してきたらしい。それも、あろうことか街から一キロも離れていないような超至近距離からだ。むしろこれ程までに対応できているだけでも奇跡に近い。冒険者達が皆トリッド活火山に向かう為に準備を整えて集結していたのは、非常に幸運だったと言える。


 しかし、このままではジリ貧だ。


「くそっ、あの二人が戦えたらどれだけマシか……!」


 あの二人、とは勿論宗介とエリスのことだ。異界の連弩に大規模な魔法と、彼らの殲滅力は群を抜いている。


 しかし二人は魔人族であり、この場には無数の人の目がある。ともすれば、力を十全に発揮しようとすると人ならざる存在であることが露見してしまう為、戦えないのだ。人目が無ければこの異形共も、瞬く間に殲滅されるのだろうが……全くもって惜しい。


 ともあれ、このままではいずれ陥落してしまう。魔法使いの魔法も弓兵の矢も、戦える者達も無限ではないのだ。ならば戦い方を変えねばならないだろう。


 と、その時、指揮官の元へと駆け寄った一人の伝令兵が声を上げる。


「全住民の避難、及びバリケードの構築、完了しました!」

「よぉし! 東門は放棄、バリケードで妨害しながら街の中におびき寄せて分断し、各個撃破に移る! 各員急げ!」


 伝えられた言葉に、待ってましたと言わんばかりに支持を飛ばす指揮官。潔く豪快な判断だ。確かに、街を覆う外壁の上という狭く戦い辛い所で無数の魔物を相手にするより、地の利を活かして街の中で分断し撃破する方が余程マシだろう。


 指揮官の声を聞いた冒険者達や兵士達は、最後に一発! と言わんばかりにテナガザルやケルベロスを攻撃して追い返し、魔法使いや弓兵が下がりながら張る弾幕の中、我先にと壁の下に降りていく。


 降りた先の東門広場には、強固なバリケードが、門をこじ開けて突破してくるであろう異形達を待ち構えるよう半円形に組み上げられていた。隙間からは巨大な金属の筒……異世界の勇者が使った武器を参考に作られた兵器の試作品なんかも並んでいる。その数、三門。勇者達は“魔導カノン砲”と呼んでいたか。


 バリケードを乗り越え、その裏に陣取る冒険者や鍛治職人、兵士達。門を突破されないように押さえていた者達も避難してくる。


「迎撃準備。魔法使い達は最大火力の炎を。魔導砲もいつでも撃てるようにしておけ!」


 同じく避難してきた指揮官が更なる号令を飛ばせば、肩で息をしている魔法使い達が詠唱を始め、魔導カノン砲の砲手達が射撃準備を始める。門が突破された瞬間、一網打尽にする腹だ。上空から外壁を越えてくる飛行型の異形達は、弓兵達による弾幕が寄せ付けない。


 それと同時、門の向こうから、ドゴォンッ、ドゴォォン!! と激しい轟音、衝撃が鳴り響いてきた。巨大なオーク達が門を破壊するべく殴りつけているのだ。破城槌でも用意していたのだろう。


 トリッドの街を守護する外壁、及び四方の門は、非常に強固だ。例え火山が噴火して溶岩流が流れてこようと突破されることはない。しかし、それが今、破られようとしている。一体、あの異形達はどれほどの力を秘めているのか。


 連続して迸る地鳴らしのような衝撃に、人々は手に汗を握りゴクリと息を飲む。


 しかし、それもほんの束の間。次の瞬間には、馬鹿のような爆砕音と共に閉め切られた門が吹き飛ぶようにこじ開けられる。


「ッ! 放てぇ!!」


 即座に号令を飛ばす指揮官。


 門を吹き飛ばして勝鬨の咆哮を上げる漆黒のオーク達に、魔法使い達による全力の爆炎と、三門の魔導カノン砲が放つ極限まで凝縮された炎の砲弾が、一斉に襲いかかる。


 ――――ッドォドガアアァァンッ!!


 東門広場全体を埋め尽くすような紅蓮の炎と、耳をつんざく爆音が轟き、開け放たれた門に飛び込んだ異形達の尽くが蹂躙され、肉と“もや”を散らした。


 勿論、これで倒せる筈もない。巨大なオーク達が肉壁となったお陰で後続の被害は少ないらしく、爆炎の中から続々と飛び出してくる。


「散開、散開! 押し寄せて来るぞ! 分断して路地におびき寄せ、相手の頭数の倍で叩き潰せ! 奴らは強いぞ! 各個撃破だ、気を引き締めろ!!」


 その号令を聞くや否や、蜘蛛の子を散らすように街の中へと駆けていく冒険者や鍛治職人、兵士達。異形達が唸りを上げてバリケードを突破し、彼らを追う。肉壁のお陰で被害は少ないが、逆に肉壁のせいで街に流れ込む勢いは弱いのが救いだ。


 かくして、トリッドの総力を尽くした戦いが幕を開けた。




 ◆




「成る程、市街地戦に持ち込んだか」

「……妥当な判断」


 東門での戦闘を、街の中央に聳える時計塔の天辺に腰掛け、新しく創った狙撃銃のスコープ越しに眺めていた宗介は、ビュウビュウと吹きすさぶ風の中、ふむ……と考え込み眉を顰める。


「額に紫の魔石、血の代わりに黒い“もや”……。少なくともこの辺りの魔物じゃねえな。いや、むしろ魔物なのか?」


 少なくとも宗介の知識の中に、弱点を露骨に晒すような魔物は存在しなかった。スケルトンなどの肉が無い魔物なら体内の魔石を露見させることもあるだろうが、それにしたって肋骨の裏側なんかに隠されている筈だ。


 どう見てもあの黒い異形達、普通ではない。


 そんな宗介の疑問に思い当たるものがあったのか、隣に腰掛けるエリスが、足をユラユラさせながらポツリと答えた。


「……“悪魔”?」

「悪魔だと? なんだそりゃ」

「……過去、“光の時代”に土足で踏み込み、後に人魔対戦で暗躍した、“闇”の化身。あいつらは……“下級悪魔”、だと思う」

「聞いたこと無えな」

「……噂だけの存在、だと思ってたけど……実在するなんて」


 成る程、と息を吐く宗介。しかし割とどうでもいい情報であった為、再び狙撃銃のスコープに目をやり戦場の観察に戻る。


「地の利を上手く活かしてるな。このままじゃ、俺の出る幕は無さそうだ」


 見た所、皆なんとか悪魔達を撃破出来ているようだ。一体数人での袋叩きという方法か、もしくはフォルテなどの実力者になると、一対一で殺り合えている。


 このままならば悪魔の全滅も時間の問題だろう。そう、このままならば。


「……でも、相手がもう一手打ってきたら、陥落する」

「だな。俺なら、ここにもう一段階強い奴らを投入するか、別方向から進行させて挟撃する」


 当然の策だ。事実、宗介の“龍脈眼”は、確実に今の悪魔達よりも強大な魔力を持った悪魔が門を潜ってきた所を視認した。


 今、街の中で戦っているのが“下級悪魔”なら、あの一回り大きな魔石を額に煌めかせた異形達はさしずめ“中級悪魔”と言った所だろうか。自己強化無しのフォルテでは相手にもならなさそうである。


 宗介は一言、「やるか」と呟き、その巨大な狙撃銃を構え直す。


「……ヒトの為に、戦うの?」

「俺だって一応、人間の端くれだしなぁ。それに冒険者になった訳だし、こんな事態で動かなかったらギルドマスターからお怒りの言葉を頂くことになるだろ」

「……それは、そうだけど」


 ただ不思議そうに首を傾げて訪ねてくるエリスに、苦笑いを浮かべながら言葉を返す宗介。


 確かに、彼がこの街を救う義理など無い。


 義理は無いが、まだ(・・)、彼の半分は人間なのだ。半分は勇者なのだ。なら最低限のことくらいはする……それくらいの矜恃は持っていた。


 それに、真に勇者である悠斗達は、果たしてこの街を見捨てるだろうか? いや否だ。である以上、その勇者達の隣に立とうとする宗介がこの街を見捨てる訳にはいかない。


「それに、エリスだってあいつらを見逃すつもりは無いだろ?」

「……ん。折角のデート、潰した罪は重い」

「そういう訳だ。あぁ、でも、まだ動かないでくれよ? エリスが本気で魔法を使ったら悪魔もろともこの街が消えちまう」

「……それじゃあ、任せる」


 その言葉に不敵な笑みを浮かべた宗介は、そのやたらとゴツい黒銀の狙撃銃、“シュナイデン”のスコープを覗き、じっくりと狙いを定め始めた。


 そして、おもむろに引き金を引と……


 ――――ズドォォンッッッ!!


 天に轟く爆音、巨大な十文字のマズルファイア、そして音速を優に超える致命の弾丸が、一挙にその銃口より迸った。



 可変式大口径対物銃アンチマテリアルライフル“シュナイデン”。


 全長二メートル、口径三十ミリのボルトアクションライフルだ。使用弾丸は“シュヴァルツェアレーゲン”のそれを遥かに凌駕する程に凝縮された火の魔石製炸薬と、圧縮アダマンタイト製弾頭を使用しており、単発威力はもはや“馬鹿”の領域へと到達している。恐らく、元の世界に存在するどの対物ライフルよりも強力だろう。


 勿論、その馬鹿な威力には相応の爆発と反動が伴う為、ゴツい装甲で銃身全体をガチガチに覆い強度を確保している。しかも薬室周りの強度不足に陥った為、本来ならフルオートにする所だったのが、泣く泣くボルトアクション式にされた。


 そんな具合で、見た目は二メートルに渡る長方形の黒い鉄塊だ。銃というより黒鉄の柱か、それに類似する鈍器に近い。その柱に、スコープやグリップなどを取り付けたようなものである。戦車砲でもここまで凶悪なフォルムをしたものは存在しない。


 ちなみに、刈り取る者(シュナイデン)の名に相応しいギミックも搭載しているが、それは置いておこう。



 時計塔の天辺から一直線に一体の空飛ぶ中級悪魔へと駆け抜けた弾丸は、発射音よりも数秒早く標的の顔面に到達し、そしてその身体を消し飛ばす。


 半身が吹き飛ぶなど生ぬるい。挽肉にならずに残ったのは足の先程度だ。額の魔石など塵である。吹き飛んだ肉片と残った足は、瞬く間に黒い“もや”と化して消えていった。


「っし、次!」


 長方形の鉄塊から飛び出したレバーを掴み、ガシャコンッ! とボルトを引いて廃莢と次弾の装填を同時に済ませた宗介は、金属音を立てて落ちていく馬鹿デカい空薬莢など目もくれずに次なる標的を探す。


 そして一拍の呼吸の後、躊躇うことなく引き金を引く。ケルベロスを相手にしていた六人の冒険者グループの後ろ、数メートルはあろうかという巨大な漆黒の狼が、弾丸に気付く間も無く一瞬で爆散した。


 反動をゴーレムの腕で無理矢理押さえつけ、再びボルトを引いて撃つ。撃つ、撃つ、撃つ。弾が尽きれば、装甲の下から少しだけ姿を覗かせる大きなマガジンを取り替えて引き金を引く。


 ワンショットワンキル。恐らくは強力なのだろう中級悪魔は、意識の外で十字の閃光が輝いた途端、その命を一瞬で刈り取られ絶命していく。そうして“もや”と化した後に残るのは、貫通した弾丸によって激しく抉られた地面と、遅れてやってきた炸裂音のみ。


 悪魔側からすれば、これ程までに異様な光景はそう体験できないだろう。人間側からしても同じだ。悪魔が吹き飛ぶ瞬間を目にした者は何事かと目を剥いて辺りを見回し、そして鳴り響く炸裂音にビクリと身を震わせた。


「ふぅ、中級悪魔はこいつで……」


 終わりだ。


 そう呟くと同時、引き金を引き、フォルテと戦っていた巨大なゴリラを爆散させる。


 自己強化の魔法によって淡い光を纏ったフォルテと良い勝負を繰り広げていたその悪魔も、戦いの最中にフルアダマンタイト・三十ミリ・マグナム徹甲弾の不意打ちを喰らえば、ああ哀れかな、身体の殆どをミンチに変えた後に“もや”となって霧散した。


 目を丸くして辺りを見回し身構えるフォルテは、遅れてやってきた射撃音に事態を察したのか、時計塔の上にいる宗介達を見つける。獣人の血を引いているせいか、視力がとても良いらしい。宗介がサムズアップを返してやれば、安心したようにため息を吐いた後に小さく頷いて駆けて行く。次の悪魔を倒しに向かうようだ。


「こんなもん、か」


 良い仕事をしたぜ、と額の汗を拭い――実際は汗など微塵もかいていないので真似事だが――、シュナイデンを肩に担ぐ宗介。


「ん……お疲れさま」

「おう。後は、悪魔共が撤退して街の外に出た所を、エリスが魔法で一網打尽にするだけだ」

「……任せて。一匹たりとも、逃さないっ」


 エリスは珍しく無表情を崩し、可愛らしい犬歯を晒して「くふふ……」と笑う。どうやら折角のデートを潰された怒りは相当なものらしい。偽装を解いた紅い瞳には、逃がさない! という強い意志が宿っている。


 とりあえず機嫌を取る為、宗介は、彼女の頭を優しく撫でてやる。嬉しそうに目を細めるエリスに、宗介も何となく微笑ましいものを感じた。大分、彼女への好意が現れてきたようだ。


 ――――刹那!


 ゾワリと、嫌な気配を感じた宗介は、咄嗟にエリスを抱きかかえ跳躍する。


 果たしてその咄嗟の行動は、正しかったのかどうか。答えは分からないが……


「おいおい、マジかよ」

「……うそ」


 シャキキキィィンッ!! と鳴り響いた四度の鋭い剣撃に、跳び上がったまま下界を見下ろした宗介達は、思わずそんな言葉を漏らした。


 何故なら、今まで腰掛けていた時計塔が斜めに五分割され、ダルマ落としが崩れるように崩壊していったからだ。


 刻まれた斬れ込み通りにズズズ……と滑り、広場に落ちるや否や地響きと共に瓦礫と化していく時計塔。何と言うか、圧巻であった。


「ったく、いきなり派手な挨拶をしてくれやがる」


 背中の翼手を展開し、そこに搭載されたスラスターから六条の青白い炎を噴いて、エリスを抱いたままフワリと瓦礫の山の天辺に降り立つ宗介。


 その視線の先には、やはり、額に紫色の魔石を煌めかせた異形の姿があった。


 パッと見は漆黒の肌を持ったヒトガタだ。その身体はスマートながら、洗練された筋肉に包まれている。さながらアスリート体型と言ったところか。


 しかし、大きなバスターソードを構えた腕が四本、阿修羅像のように伸びているし、額に輝く魔石の傍からは二本の角が生えていた。更に背中には小さいながらカラスのような翼を備えており、見るからに異常である。


 黒いオーラを纏っているのは、気のせいではないだろう。“龍脈眼”が無くても視認できる程に膨大な魔力を有しているらしい。龍脈眼越しでは、もはやその悪魔が居る所だけ真っ黒に染められていた。


「何者だ?」


 エリスを傍に降ろした宗介はシュナイデンを右肩に担ぎつつ、ロボットアームが腰の横に保持する拳銃に手をやり、隙なく構えてその異形に尋ねる。


 返ってきたのは、中々のイケメンボイスであった。


「我は“魔剣”のグラム。至高の主、フェイス様に仕える忠実なる剣の一なり」

「お、おう?」


 まさか返答が返ってくるとは思わなかった為、素っ頓狂な声を上げる宗介。どうやらあの悪魔は人の言葉を解し、会話まで出来るらしい。それだけで尋常ではない存在だと分かる。


 会話が出来る悪魔。どうやら、本の虫であったエリスの知識には間違いなく存在するらしく……


「“上級悪魔”……」


 と、驚きを孕んだ声で呟いた。


 つまりは、そういうことである。どうやらこの四本腕の悪魔が、今回の悪魔襲撃における指揮官的存在なのだろう。“上級”と名の付く明らかに強力な存在が雑兵であったら、もはや絶望しか無い。


 しかし、宗介が一番気になるのは“フェイス様”だ。少なくとも魔王軍幹部の名前ではないが……そう言えば“魔王”の名前を知らない。


「誰だよフェイス様って」


 とりあえずその“至高の主”とやらについて尋ねてみるが、グラムと名乗った悪魔は完全に無視である。宗介はピクリと眉間にシワを寄せた。


 そんなことなど知ったことでは無いと、グラムは勝手に話を続ける。


「我が主は、盤上を好き勝手に荒らす貴様に酷くお怒りだ。故に私は、貴様を始末するよう仰せつかった」

「盤上を荒らす、だって? 何のことだかサッパリだし、そんなつもりは毛頭無いんだが」

「覚悟してもらおう、異界人。我が主の命により、貴様を処分する」


 訝し気に首を傾げる宗介に向けて、グラムはおもむろに四本の無骨な大剣を構えた。全くもって聞く耳持たずである。


「おいおい、話を聞けよ、ったく! やるぞエリス! 何か知らんが処分なんてされてたまるか!」

「んっ!」


 左手で“シュトラーフェⅡ”を引き抜き、四本の大剣を構えて突貫してくるグラムに応戦する宗介。エリスも地面から装飾時計の針のような刺突剣(エストック)を引き抜き、いつでも魔法を放てるように魔力を練り上げる。



 何が何やらサッパリなまま、上級悪魔と宗介達が激突した。

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