二四 漆黒の雨
焼き付くような熱さの中、ゆっくりと着実に深層へと降りて行く宗介達。
「いや、流石はトリッド活火山。この熱さは中々に酷だな」
「……うるさい、お漏らし……。ちょっとくらい、静かにして……」
「な、何度も言うが! 私は、も、も、漏らしてなどいないっ!!」
「……どうだか」
傍には紅蓮の河。降りれば降りる程増す熱さ。気を抜けば不意を突いて噴き出す灼熱のガスに、溶岩に潜む魔物達。
人間界と魔界を切り分ける砦としては、これ以上ない大迷宮だ。
流石の勇者や鮮血姫と言えども、これには疲労を隠せない。
「何処かで休憩挟まねえと、いつか大変な事態に陥りそうだ、畜生……。アダマンタイトはまだか……」
額から大量の汗を流しながら、フラフラと歩く宗介。天然のサウナ……を遥かに超越した地獄にいるのだ、グロッキー状態になっても無理は無かった。
手をダラリと垂らし、亡者のような表情をして危な気な足取りで歩く姿は、さながら幽鬼か。隣を同じように歩くエリスは、その長い髪もあいまって貞子か何かのようだ。
そんな彼らを喰らわんと、溶岩河から飛び出して来た脚付きの巨大魚に、宗介はシュトラーフェの銃口だけを向けて吹き飛ばす。完全に義手の自動戦闘機能に任せっきりである。
それを後ろから見たフォルテが、呆れたように言う。
「しかし、だらしないな。そんな調子で“炎帝”を倒せるのか?」
「……むしろお前はなんで余裕そうなんだ?」
巨大魚から魔石を抉り出しつつ、心底鬱陶しそうなジト目を向ける宗介に、フォルテはふふんと胸を張った。
「流石に慣れたし……何よりも私は騎士だからな。この程度でへこたれていては、名が廃るというものだ」
ドヤ顔である。
そんな理由で自慢の熱さに対抗されては炎帝側もたまったもんじゃないだろうな……と内心で苦笑いしつつ、宗介達は、半ば階段のような形になった下り洞窟を降りて行く。
恐らく中層から深層付近と思われる階層に降り立った途端、ドッと増した熱さに、フライパンの上に乗せられた卵のような気分を味わいながら、しかし宗介は気を引き締めて“虎徹参式”に命令を下した。
「防げ」
命令を受けた全身鋼鉄のサーベルタイガーが、その身で持って主の盾となるべく隊列の前に飛び出す。
刹那、洞窟の壁から、赤熱色の火線がレーザービームの如く迸った。ィィイイインッ! と音を立て、虎徹参式の装甲が悲鳴を上げる。
一秒遅れていたら三人とも貫かれていただろう。強力にして的確な炎の魔法による狙撃であった。
だが、その程度で貫けるほど柔な装甲ではない。
「降りて来た奴を速攻で狙い撃ちとは、良い度胸だ」
熱線が止むと同時、宗介は素早く虎徹参式を下がらせシュトラーフェを抜き撃った。
お返しとばかりに解き放たれた極超音速の弾頭が、先の一撃を放った砲台である壁にへばり付いた魔物へと襲いかかる。
しかし。
ガキイィンッ!!
「なっ!?」
十五ミリ・フルミスリルジャケット・マグナム徹甲弾は、金属と金属がぶつかり合うけたたましい騒音と共に弾かれた。
予想だにしなかった事態に、思わず宗介は目を剥いてその魔物を見やる。
壁に張り付いていたのは、人頭大の黒いフジツボのような魔物であった。魔物名鑑で調べた限り、あの魔物は……
「――――ついに来たか!!」
最硬鉱石の鎧を持った、固定砲台型の魔物、“アダマントポッド”。
見れば、辺り一帯に巨大なフジツボがビッシリとへばり付いているではないか。
「……気持ち悪い」
「見ていてゾワゾワするな」
「そう言うなって」
肌を粟立たせて嫌悪感を露わにするエリス、フォルテと違い、待ち望んでいた魔物との遭遇に思わず頬を緩める宗介。
そう、この魔物との遭遇は即ち、遂に“アダマンタイト”が産出する深さまで降りたということなのだ。ならば俄然、やる気が湧いてくる。それこそ熱さを忘れる程に。
しかし彼がやる気満々ならば、魔物もまた殺る気満々。その証拠に、壁にへばり付いたフジツボ達の窪み……砲口に、紅蓮の魔力がチャージされていく。
「はは、面白え。伏せろっ!」
ニヤリと嗤った宗介は、号令を飛ばしつつエリスを小脇に抱き、四方から放たれる砲撃を伏せて躱す。フォルテは【直感】に身を任せ、射線上から身体をずらす。
直後、数瞬前まで頭や胴体があった場所を紅蓮の槍が貫いた。
「っぶねえ、髪が少し焦げたかもしれん。エリス、大丈夫か?」
「……ん。第二射、くる」
宗介の腕の中、エリスが指揮者のように指を振るう。同時、アダマントポッドが四方から熱線を放つ。一度避けて姿勢を崩した彼らが、再度それを回避するのは非常に困難極めるだろう。
しかし放たれた熱線は、突如地面が盛り上がり造られた砦の如き防壁に遮られた。そのままグルリと、石壁がドーム状に宗介達を覆う。
「おっと、最悪の場合は“アイギス”を使うつもりだったが」
「……温存は、大事」
さり気なく“月光石”を取り出してドームの中に明かりを灯すエリスに全くだ、と返しつつ、宗介はクーゲルを手に取りながら命令を下す。
「おいフォルテ。お前、外の砲撃が終わるタイミングとか、【直感】で分かるよな? 一瞬であいつら殲滅するから合わせろよ」
「随分と投げやりではないか? まあ、良いが……」
渋々と言った具合に、フォルテが直剣を眼前に構え魔力を練り上げ始める。身体強化の魔法だ。
そんな彼女を横目に、宗介は二挺の拳銃を、腕を交差させて隙無く構え、時を待つ。
アダマントポッドによる砲撃の熱量に耐え切れないのか、刻一刻と赤熱していく石壁。その向こうで吹き荒れているであろう紅蓮の炎を、“龍脈眼”で捉えながら。
勿論、如何にこの石壁が融解点を迎えようと、エリスが操っている限りは破られることはない。その証拠に、彼女の顔に焦りの色は無い。
絶対的な自信。
ならば宗介は、その自信に身を任せるのみ。スッと目を細め、ドームの外で吹き荒れる赤い魔力と、アダマントポッドの魔石を見据える。
そして、周囲の魔力が落ち着きを見せた瞬間……
「――――今ッ!!」
「《白金の戦乙女》!!」
「……《鮮血の極刑》」
フォルテが魔力を纏った剣でドームを内から切り崩し、宗介が間髪入れずにクーゲルとシュトラーフェを薙ぎ払うように連射。
十二発の弾丸全てを、一匹につき一発、“砲口”に叩き込んでアダマントポッドを内側から蹂躙し破壊した。
そしてゴーレムを操る要領で空薬莢とマガジンを排出し、義手に内蔵してある弾丸を装填、再度十二の砲台を破壊する。
それでもなお残った者は……裏側から飛び出した杭によって串刺しの刑。アダマンタイトの装甲が硬くて外から攻撃できないならば、その装甲を武器にしてしまえば良いじゃないという、エリスだからこそ可能な理不尽極まりない攻撃方法だった。
「ふぅ……。やっぱり、手数と威力不足が致命的だなぁ」
「君はあれか? アダマンタイトを破壊する武器を作るつもりなのか?」
「まあ、いずれは」
白煙を上げる二挺の拳銃をクルリと回し、定位置に仕舞う宗介。
拳銃では、どうしても手数と威力というものが確保できないという問題がある。シュトラーフェも威力だけで言えば並のライフルを凌駕しているが、これ以上、弾丸を飛ばす爆発の威力を高めては、本体が爆散してしまう可能性もある。装填数が六発な以上、手数など言わずもがな。
それらの問題を一挙に解決してくれるのが、アダマンタイトなのだ。
宗介はおもむろに壁の巨大フジツボを引き剥がし、その黒い甲殻をマジマジと見つめる。
「大分重いな。それに、本気で握ってもビクともしない」
「……使えそう?」
横からそれを覗く、少々不安気なエリスに、宗介は「当然」と、湧き踊る感情を露わに頬を緩めて頷く。
「辺り一帯のアダマンタイト、全部回収するぞ」
「……ん、分かった」
「何気にえげつないことをするな、君達は……」
フジツボの残骸を手早くインゴットに加工して回収し、更に地面を魔法で掘り起こしてまでアダマンタイトを掘り出し始めた二人の背中に、一際大きな溜息がかけられたのだった。
それから、三層程寄り道全開で降りただろうか。
「そこをどけ、クソ雑魚共が!!」
ズドドドンッ! と灼熱の洞窟に爆発音が木霊し、炎を纏ったコウモリ……“ブレイズバット”達が、その半身を消し飛ばして地に墜ちる。
素早い動きで翻弄し、翼から炎弾を飛ばして外敵を屠るその魔物も、流石に音より速く動くことは出来ず、数匹のコウモリが余すことなく十五ミリマグナム徹甲弾の餌食となった。
「ったく。やっと見つけた大鉱脈、最後の最後で邪魔すんじゃねえぞコウモリ風情が」
ペッと唾を吐き、シュトラーフェをクルクルと弄びながら眼前の光景に目をやる宗介。
壁も床も天井も、至る所が明らかに黒ずんでいる……今までの茶褐色や灰褐色が大元を占めていた迷宮の姿からすると、明らかに異常な光景だった。
そう、岩石の構成成分に、黒色の鉱石であるアダマンタイトが多分に含まれているのだ。一部はもはや、完全にその鉱石の塊が露出している。
「魔石もたっぷり集まってるし、これだけあれば、義手の改良にシュトラーフェの強化、機関銃の開発……やりたい放題だ。あぁ、魂が疼く!」
様々なゴーレムの設計図が頭に浮かび、どれから手をつけようかと、手をワキワキさせる彼……どうやら、興奮と熱さで大分トンでいるらしい。
「一度落ち着いた方が良いんじゃあないか?」
ほとほと呆れたようにフォルテは言うが、それを聞くつもりなど毛頭ないらしい。
「これが果たして落ち着いていられるだろうか、いやない! エリス、根こそぎ回収だ!」
「……任せてっ」
“地の大精霊クロノス”と契約した、世界最高の地属性魔法使いであるエリスが指を振るうや否や、漆黒の鉱石達が一斉に地面の中から姿を現す。
それらは即座に高純度のインゴットに加工され、エリスが触れた側から指輪の収納へと呑み込まれていく。
「義手強化してガトリング砲創ってロケットランチャー創ってパイルバンカー強化して、ああ、装甲車も良いな! いや戦車か? 耐熱性を生かしてジェットエンジンでも創って……ああ、夢が広がるっ!!」
くはははは! と高笑いし、漆黒の塊を吸収しながら進軍するその姿は、完全に悪役のそれである。
そして、周りのそれより一回り大きなアダマンタイトの塊の元に辿り着き、宗介はニヤリと嗤った。
「これだけ使って武装強化すれば……“炎帝”も敵じゃねえな」
「……ん。多分、余裕」
「っし! じゃあさっさとこいつも回収して、炎帝ぶちのめして屈服させてやろうぜ」
その言葉に、やはり後ろから呆れたような声がかけられつつ。
エリスと宗介は、壁に埋め込まれたその漆黒の塊に手を伸ばす。
その時だ。
『ほぉ? このオレをぶちのめして、屈服させると?』
そんな声が、宗介達の頭に響いた。
突然の事態に身構えるも、声の主の姿は見えない。しかしその声は、依然として頭の中に響き渡る。
『クククッ。今宵の挑戦者は、中々にオレを楽しませてくれそうだ。良いだろう。貴様らに、オレと戦うチャンスをやる』
そう響いた瞬間、宗介達の足元に白く輝く魔法陣が浮かび上がった。感じる魔力は極めて膨大であり、【直感】を持つフォルテはもとより、持たない宗介も途端に顔を青ざめる。
「やば……っ! エリス――――」
「っ、ソウスケ――――」
咄嗟に、その手を伸ばす宗介。
無情にも光はその輝きを増して行き……
『このオレからの試練、超えてみるが良い!』
光が、爆発した。
◆
「っ、とと」
一瞬の浮遊感の後、宗介は少々バランスを崩しながらも何とか着地する。
紅い。
どうやら異なる場所に“転移”させられたらしい。天井の各所から溶岩が流れ落ちる、大きな空洞の真ん中に居た。恐らくは空間魔法を操る魔王の力だろう。ここの主は“炎帝”なので、魔道具でも使ったか。
宗介は、ギュッと握った左手の感触に気付き、内心でホッと胸を撫で下ろす。
「良かった、別々に飛ばされることはなかったか」
隣にはエリスが居て、左手をギュッと握り返してきている。少し離れた場所にはフォルテも居た。
「……ん。さっきの声……“ヘリオス”の声だった」
「だろうな、畜生。厄介なことになった」
「全くだ。強引な手に出てきたな」
シャランと剣を抜いたフォルテが、宗介達の後ろに立つ。
丁度、三人が背中合わせになる形だ。
「――――囲まれてやがる。それも、数万匹単位で」
天井に輝く赤い星の数々。“龍脈眼”はそれらの奥に、魔石の輝きを捉えていた。
つまり、魔物の大群が天井に張り付いているのだ。
恐らくはブレイズバットと、アダマントポッド達。今は見えないが、地中にはサラマンダーも潜んでいるらしい。
宗介はジャキッと二挺の拳銃を構える。エリスも、地面から黒い、装飾時計の針のような刺突剣を引き抜いた。
『クククッ。方法は問わん、そこを突破し、オレの元まで辿り着いてみせろ。そうすれば、戦ってやる』
再度、頭に響く炎帝ヘリオスの声に、宗介は小さく舌打ちする。
見渡せば、空洞の一角に道が続いている。それ以外に道が無いということは、その道こそが炎帝に繋がる唯一の道であり万の大群からの逃げ道なのだろう。
手数に乏しい彼には、万の魔物を相手取る力はない。エリスならば本気を出せば不可能ではないだろうが、空飛ぶコウモリは流石に相手が悪い。フォルテは……若干未知数なところがあるが、流石に一騎当千を超えて当万の力を持つとは思えない。
割とヤバイ。
「やってくれたな、悪堕ち大精霊! くそっ、どうにかして突破するぞ!!」
止まっていても仕方が無い。先ずは生きて炎帝の元まで辿り着く為、叫ぶと同時に引き金を引く。
狙いは、明らかに厄介な存在である、固定砲台のアダマントポッドだ。放たれた音速の弾丸が砲口から内部に侵入し、跳弾を繰り返して悉くを破壊する。
しかしそれを皮切りに、コウモリ達が動き出し、残ったアダマントポッドが炎をチャージし、地面の中からサラマンダー達が飛び出してきた。
「雑魚が……」
地上のサラマンダーは、問答無用でエリスの杭の餌食だ。大地に足をつける生物では、その“大地”を支配する彼女には敵わない。エリスが刺突剣を振るう度、一体、また一体とサラマンダーの死骸が乱立していく。
ならば宗介がやるべきは、上の魔物。
「墜ちろハエ共!」
両の拳銃を連射し、上から迫るコウモリの魔石を撃ち抜き絶命させていく。シュトラーフェの弾丸は更に奥へと疾走し、そのまま炎をチャージしていた幾つかのフジツボを破壊した。
即座にシュトラーフェをガンスピンさせてマガジンを排出。右の手首を返し、義手から飛び出した新しいマガジンをシュトラーフェに装填する。
同時にクーゲルを天に放り投げて【遠隔操作】で排莢し、空いた左手でマントの内側から手榴弾を二つ取り出し、コウモリ達の群れの中へ投擲する。
それらを素早くシュトラーフェで撃ち抜き、数十、数百のブレイズバットを肉塊へと変えた。残る四発で、お返しとばかりに放たれた火炎弾やレーザーの魔法核を撃ち抜き霧散させてやる。
そして降ってきたクーゲルをキャッチ、腕を交差させてリロードし構え直す。
そんな彼に知覚外から迫る、紅蓮の砲撃。
「《白金の戦乙女》!」
それをフォルテが、魔力を纏った剣の刀身で逸らす。ズビィッ! と宗介の足元が灼かれた。
「おお、助かった」
「全く、ぼけっとするなっ!」
フォルテに迫る炎弾やコウモリ本体。近付かれつつも、獣人の身体能力に任せた神速の剣で斬り払われる。別方向から迸ったレーザーは、【直感】が示すままに首を振って躱した。
エリスはエリスで、杭によって着実にサラマンダーの数を減らしつつも、ちょこまかと動き回るブレイズバットに纏わり付かれて鬱陶しそうである。
「っ……! 邪魔!」
「大丈夫か、エリス!」
そのコウモリ達を、宗介が撃ち抜き、エリスは出来た隙を突いて地上付近を低空飛行するコウモリを杭によって串刺しにする。
すると宗介に隙が出来、コウモリや熱線が迫り、それらをエリスが迎撃。し切れなかった者はエンジン音を轟かせる回し蹴りで身体を爆散させながら吹き飛ばす。
――――負けこそしないが、ジリ貧だった。
「くそっ、ラチが空かねえ!」
思わず毒づきながら、コウモリと固定砲台を確実に減らして行く宗介。
しかし、いかんせん数が多すぎて焼け石に水だ。数万の軍勢相手に一騎当千は、役に立たない。相手が万ならば、こちらも万でなければ。
「……っ! ソウスケ、どうする……?」
「即興で、“創る”しか無いだろ! エリス、ミスリルとアダマンタイトと火の魔石と地の魔石、あるだけこの辺りにばら撒いてくれ!」
「っ、分かった……!」
杭による攻撃は続けたまま、エリスは指輪から無数の鉱石と魔石を取り出す。その中には巨大なアダマンタイトの塊もあった。
宗介は両手の銃を仕舞い、おもむろに二つの魔石を手に取り、その巨大なアダマンタイトの塊に押し付ける。
「二人とも! 二分……いや、一分だけ稼いでくれ!」
頭の中に現状を打破する破壊兵器を浮かべつつ、二人に時間稼ぎを依頼した。
「くっ……! それだけ稼げば、なんとか出来るのか!?」
「なんとかしてみせる!」
「仕方ない、なんとか稼いでみせようじゃあないかっ! 命を預けるのは癪だがな!」
「……ソウスケ、ファイトっ」
二人がさり気なく位置を変え、宗介を護るように立ち塞がる。
「任せろ――――《刻印》、《創造》、《複製》!!」
故に宗介は、レベルが上がって伸びた魔力を全力で魔石や鉱石達に注ぎ込んだ。
瞬間、過剰な魔力が銀色のスパークとして迸る。いや、まだ足りない。もっと、もっと、もっとだ! と言わんばかりに魔力が迸る!
明らかに不味いその光景に、魔物達は一斉にヘイトを向け、飛びかかった。
しかし……
「《白金の戦乙女――――》」
その前に立ち塞がるは、名高き聖王国騎士団が聖騎士の一人。
こと守護にかけて、右に出る者は居ない。
「《――――戦姫》ッ!!」
正真正銘、最高位の身体強化魔法を行使したフォルテは、背の光翼と金のポニーテールを棚引かせ、半透明の魔力刃によって一回り大きくなった直剣を振るう。
斜め一閃。
淡い光の軌跡を残した剣撃は、その線状に居たブレイズバットの尽くを、奥の壁ごと斬り裂いた。
そしてそれで留まることなく剣を振るい、迫ってくるコウモリや炎弾、熱線を全力で斬り払う。ならばと反対側から宗介を狙う魔物は……
「手出しは……させないっ」
ゴバァッ、と、トラバサミのように盛り上がった地面によってミンチにされ、抜けてきた者は防護柵のように張り巡らされた杭によってその進行を妨げられ、また別の杭に貫かれる。
同時に地中に揺さぶりをかけ、地面から宗介を狙っていたサラマンダーを圧殺し、また柩のような盾を生み出して放たれた炎の魔法共を防いでいく。
その、絶対的な防御の中心、宗介は全身全霊で一つのゴーレムを創造していく。
巨大な漆黒のエンジン、六本の黒い塔、ゴテゴテした機関部装甲、シュトラーフェのそれよりも一回り大きな弾丸。各種機構のコアとなる魔石。
同じ構造を持つパーツや弾丸は【複製】し、極限まで効率化した作業の末、生み出された無数のパーツを組み合わせる。
もはや火の魔石はほぼ全て弾丸に回し、とにかく大量に【複製】する。それらを内部に納める“ベルト”もだ。
真ん中に螺旋が彫られた空洞を持つ、六つの塔は、円状に並ぶように配置されその他のパーツが塔の根元に合体し。
常人の数十倍に到達する知力に身を任せ、即興で設計、開発し【創造】していく!
「ええい、まだか!? そろそろ一分だろうっ!?」
「ソウスケ……!」
二人の必死な声に感謝しつつ、されどその凶悪なフォルムを見せ始めた兵器に、宗介の頬が歪む。
「あと十秒、最後の一仕上げだ――――《複製》ッ!!」
再度、バヂヂッ!! と迸る銀色のスパーク。
そう、一度創ったその兵器を、もう一つ創るのだ。
膨大な魔力に、先の転移魔法陣にも匹敵する光が、カッと爆発する。
――――そして。
「六砲身ガトリング式回転キャノン砲……“シュヴァルツェアレーゲン”とでも名付けようか」
光が晴れたそこには、不敵な笑みを浮かべ、両腕に二門のガトリング砲を担いだ宗介の姿があった。
全長はシュトラーフェ等とは比べ物にならない、驚異の二メートル超。
砲身の口径は三十ミリ。
動力は搭載したエンジンで、全てアダマンタイト製である為熱に強く、砲身もエンジンも理論上、冷却は不要だ。
明らかに人が個人携行するものではない、その凶悪なフォルムを持った漆黒の化け物は、本来なら航空機等に搭載されるような代物だ。常人ではまず持ち上げることすら叶わない。
その二門の化け物が、ヴィイイイイイン!! と咆哮を上げ、六つの砲身を高速で回転させ始める。
同時に宗介は左脚のパイルバンカーを地面に撃ち込み、身体をその場に固定させた。
そう、膨大な反動に耐える為である。
「毎分六千、そいつが二門で毎分一万二千発――――耐えれるもんなら耐えてみな、雑魚共」
鉄筋コンクリートのビルすら数秒で瓦礫に変える破壊兵器の砲門が、今、口の端を釣り上げて嗤う宗介を取り囲む、哀れな魔物達へと向けられた。




