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二三 半人半魔と半人半獣と活火山

「うぅっ、屈辱だ……」

「鬱陶しいから、いつまでもメソメソしないで……お漏らし騎士」

「~~~~っっ!! 私をその名で呼ぶなぁ……っ! ギリギリで漏らしてないっ!」


緑の少ない黒土の地を疾走する鋼の魔物。目的地は、眼前に広がる山脈地帯。


 そのLancer(ランサー)の助手席で頭を抱えて蹲るフォルテと、自らの膝の上に座ってフォルテと会話するエリスに、宗介はハンドルを握りながら呆れたように溜息を吐く。


「お前ら、ちょっとは仲良くしろよ」

「……この女とだけは、無理」

「死んでもありえんっ!」


 即答であった。


 というのも、これには色々と事情がある。単に馬が合わないとか、吸血鬼と聖騎士はお互いに相容れない敵同士だとか、そういう話を遥かに超越した事情が。


 その、およそ今世紀最大の厄介事を思い返し、宗介は酷い頭痛にこめかみを押さえるのであった。



 ――――時は、早朝へと遡る。



 ストーカーを炙り出した後、適当な安宿で真昼間から惰眠を貪り――吸血鬼である以上、むしろ昼夜逆転の生活こそ効率的なのだ――、磔にしたストーカーの事など綺麗さっぱり忘れ去り、清々しい気分で翌日を迎えた宗介達。


 いざ、トリッド活火山へ! という時彼女の存在を思い出し、「やべえ忘れてた」と急いで磔現場へと向かったのだが……


「こ、こいつ、ガチ泣きしてやがる」

「……無様」

「誰の、せいだと……っ!」


 そこには、目元を赤く腫らし、路地に射し込む光によって涙の跡をテラリと輝かせたフォルテが、股をモジモジさせながら石の十字架に縛り付けられていた。


 見方によっては中々にそそる光景である。まあ、宗介達としてはドン引きモノであったが。


「で、どうしたんだ?」

「『どうしたんだ?』ではないっ! ちょっと、これは色々とマズい……ぁっ!! く、ふぅ……っ」


 蚊の鳴くような悲鳴を押し殺し、全力で股をモジモジさせて何かを訴えるフォルテ。顔が羞恥で見る見るうちに赤く染まっていく。


 一瞬、何事かと訝しげな表情を浮かべる宗介だったが、不意に「ああそうか」と、合点がいったようにポンと手を打った。


 そして、悪魔的な笑みを浮かべる。


漏れそう(・・・・)なんだな?」

「~~~~っっ!! 皆まで言うなぁ……っ!」


 それも当然。彼女は昨日の昼過ぎから、ずっとここで磔にされていたのだ。それはもう、色々と溜まっているだろう。今すぐにでも決壊を起こしそうな程に。


 いや、むしろ半日以上放置されて未だ耐えているのだから、流石は騎士の端くれか。忍耐力が段違いである。


 ともかく。途端、エリスの目がゴミをみるような絶対零度のものに変わる。


「…………穢らわしい」

「も、元はと言えば貴様が――――っ、く、ふっ」


 猛烈な尿意のせいでロクに言い返すことができない。無様であった。


 まるで陣痛にでも耐えるかのようにヒーヒーと、苦痛に満ちた声をあげて身悶える女騎士。四肢を拘束する枷が音を立てる。


「……社会的に死ね、お邪魔虫」

「あぁ、あぁっ! 止めろっ、拘束を強めるな……っ」


 そして、彼女の額にドッと汗が浮かんだと思いきや、苦痛に歪んでいた表情が瞬く間に騎士らしく変化した。


 ボタボタと脂汗を垂らしていることを除けば、それはもう恐ろしい程に迫真の表情である。


「後生だ、どうか枷を外してくれ。私の一張羅とプライドと人としての尊厳がかなり洒落にならないレベルで失われる寸前だ」

「お、おう、そうか。つっても、これから大迷宮に向かう訳だしな。エリス、外してやってくれ」


 緊迫した雰囲気とまくし立てるような言葉に気圧されたのか、宗介は若干引きながらエリスにそう促す。


 非常に不本意そうな表情を浮かべながらエリスが指を振るい、フォルテの四肢を十字架に縛り付けていた枷が音を立てて外れた。


 スタッ着地したフォルテ。その脚がガクリと揺れる。


「おぉ……創世の精霊王オーベロン様、至高の御方よ……! くっ、ふっ……わ、わ、我が身に御身の力の一端を分け与えたまえっ、《白金の戦乙女(ディ・ヴァルキューレ)》!!」


 身体をふるふると痙攣させながら途轍もない勢いで魔力を練り上げ、その身に淡く輝く無属性の魔力と翼を纏う。見る限り、最高位の身体強化魔法のようだ。美しくも勇ましいその姿は、成る程正しく戦乙女。ただの平騎士とは思えない魔法である。


 ……そう思ったのも束の間。フォルテは一息に「どうか間に合ってくれ!!」と叫ぶや否や、砲弾の如く疾駆し、瞬く間に路地の奥へと姿を消して行った。


 荒れ狂う魔力と風圧で、道に放置されていたゴミや木箱が散乱する。


 ――――唖然であった。


「何だ今の」

「……お花、摘みに行った……? あんな、身体強化して……」

「なんて贅沢な魔法の使い方を……」


 身体強化の魔法によって膀胱決壊までのタイムリミットを伸ばし、さらにそれによって得られる人外の俊足を以って誰にも見られない場所に一瞬で移動するという、想像し得る限り最も無駄な魔法の使い方に、魔法を使えない宗介は少し羨ましいものを感じつつ。


 暫くその場で時間を潰していると、顔を赤らめて俯いたフォルテが戻って来た。


 一応、服は無事なようだ。


「…………こんな辱めを受けたのは始めてだ」

「お、おぉ、そうか。大丈夫だったか?」

「ギリギリでな……」


 その言葉に、さりげなくエリスが「……惜しかった」と呟いたのだが、フォルテはそれに気付かない。どうやら、何か別の事で頭が一杯なようだ。


「…………こんな辱めを受けたのは始めてだ」

「もう聞いたぞ、それ」

「こんなっ! こんな辱めを受けたのはっ!! 生まれて始めてだぁっ!!!」


 うがー! っと頭を掻き毟って叫ぶ情緒不安定な彼女に、本日何度目かのドン引き顔を見せる宗介。


 ひとしきり思いの丈を放出したのか、フォルテは荒い息を整え……そしてズビシッと彼を指差す。


「せ、責任だっ! 責任を取ってもらうぞ!」

「いや、まあ、悪かったとは思ってるけど……何をしろと?」


 銃を突き付けられたかのように両手を挙げ、抵抗の意思は無いことを示す宗介は、厄介事を感知する第六感がビンビンと反応している事に薄ら寒いものを感じながらも恐る恐る尋ねてみた。


 すると途端に、フォルテは何かを言い淀む。


 ボフッ、という擬音が聞こえそうな程に顔を真っ赤に染めて。


「~~っ!! ふ、ふふ不本意だ! 不本意なのだ! け、決して私の意思ではないが、仕方ないんだ! だから、だから、わ、わ、わわわ私と……」


 口を開いてはまた噤み、視線が右往左往し。完全に平静を欠いている。


 彼女自身もそれに気付いたのか、一度大きく深呼吸し、更に二度三度それを繰り返し、そして決心したかのように言ってのける。


「――――私と、結婚しろっ!」


 ……と。


 この脈絡のない唐突な、そして宗介達の思考は愚か世界さえ凍りつかせた言葉こそ、今現在、彼の頭を悩ましている事態の全てであった。



 ランサーのハンドルを握ったまま、宗介はチラリと非難の目を助手席に送る。


「はぁ……お前さぁ。何? 金狼族の掟だかなんだか知らないけどさ? わざわざ俺に言わなきゃ、あんな恥ずかしい告白もせずに済んだんじゃないのか?」


 “金狼族”。


 この世界に存在する三つの知性ある種族の内、“亜人族”に分類される獣人の一種である。その姿は、半人半犬に近い。頭から尻尾の先まで、全身を覆う毛並みは美しい黄金色で、その価値は鉱石の黄金にも匹敵する。


 また、そのせいで古来より人間から狙われており、特に亜人が暮らす“大森林”を領土に含む“帝国”とは特に仲が悪い。同じく亜人である“エルフ”と同じくらい排他的な種族だ。


 フォルテは、その金狼族と人間のハーフなのだ。彼女の持つ【直感】は、金狼族の血によるものらしい。こちらに獣人の血が色濃く現れたせいで、見た目は人間となんら変わらない。


「くっ、それはそうなのだが、しかしだな」


 彼女はギリッと歯噛みし、そして絞り出すように呟く。


「……母を裏切る訳には、いかないんだ」

「……そうかい」


 物悲し気に伏せられた瞼の裏側で、彼女は一体何を見ているのだろうか。


 聞くところによると、フォルテの母である金狼族は彼女が幼い頃に亡くなり、父方の帝国人も失踪してしまった、と。その後も――詳しい事は聞かなかったし教えてくれなかったが――、それなりに壮絶な経験をしてきたらしい。


 その母との誓い、及び幼少から母に教え込まれた金狼族の“掟”。それこそが、彼女の生きる希望であり支えだったそうだ。例えば、『“人”は斬らぬ』等……亡き母の言葉こそ、騎士フォルテの行動理念なのだ。


 そんな彼女に母から贈られた言葉の一つに、こんなものがある。


 “女は男に痴態を晒してはならない”。またそれに続く、“夜伽以外で晒してしまったなら、口を封じるか絶対に逃がすな”という言葉だ。


 ……平たく言えば、“辱めを受けたら殺すか結婚”という意味である。


 フォルテとしても結婚などしたくはないが、しかし殺して口封じができるかどうかと問われれば……答えるのは難しい。それ故の『結婚しろ』という言葉だった。


 勿論、宗介はそんな話など微塵も知らなかった訳で。


「お前の事情がどうであれ、結婚なんてありえねえからな。今はそんなことより活火山攻略が先決だ」

「そ、そんなこと!? 言うに事欠いてそんなことだと!? 私にとっては一大事だというのにっ!! 元はと言えばお前達が原因だというのにっ!! やはり貴様達は邪悪だ、討たせてもらう! そうすれば結婚の話も消えて全てが丸く収まるんだ!!」

「……やれるものならやってみるといい、お漏らし。……ソウスケは渡さない。命も、お前にはやらない」

「またその名で私を呼んだな! そこまで死にたいなら、お望み通りぶっ殺してやるっ!! 覚悟しろ吸血鬼!!」

「車内で暴れんなよ、鬱陶しい……」


 狭いランサーの中で掴み合いの喧嘩を始める二人に溜息を吐きつつ、宗介は、なんかもう色々と面倒になったので全てを意識の彼方へと追いやり眼前の山を見やる。


 いつの間にやら活火山周囲の山脈地帯へと侵入していたランサーは、山脈地帯のど真ん中に天を衝いて聳える“トリッド活火山”へと向かっていた。あと数十分もすれば、今なお噴煙を上げるその火山の麓に辿り着くだろう。


「入口は……あそこか」


 キョロキョロと辺りを見回した宗介は、トンネルのように設けられたその大迷宮の入口に目を留める。気休め程度に整備された山道の先に見えるのは、廃坑の入口のような空洞であった。



 “トリッド活火山”。麓から見上げたそのサイズは、富士山もかくやというレベルだ。内部はやはり、何十層かに分かれているようだが、エリスやクロノスによって人工的に造られたフォールン大空洞と違って、規則的という訳ではない。


 しかし昔から冒険者達が稼ぎ場にしていただけあって、ある程度の深さまでは大分整備されている。入口として使われている大きな坑道も、それによるものだ。


 勿論、今となってはその坑道部分も魔物の巣窟であるが。



 とりあえず宗介は、未だお互いに手を握り合ってギリギリと無言でどちらが上かを示そうとしている二人を引き剥がし、エリスをぽふりと膝の上に座らせる。フォルテは義手のパワーに任せて助手席に押し付けた。


 そして義手でハンドルを鷲掴みにして、左腕をエリスの身体に回す。


「な、何をするっ! まだ私達は……」

「黙ってろ、舌噛むぞ」


 その言葉で宗介が何をしようとしているのか察したエリスは、シートベルト代わりの左腕をギュッと抱き寄せる。


 フォルテは分かっていないようだが……まあ良いだろう。


「それじゃあ、いざトリッド活火山へ」

「ん……突撃」


 エリスが空いた手でシフトレバーを動かし、宗介が全力でアクセルを踏み込む。


「一体何を、――――ッ!?!?」


 刹那、轟ッと自らが乗る異形の馬車が加速したことに、声無き悲鳴を上げるフォルテ。


 案の定舌を噛んで涙目の女騎士と、ニヤリと悪い笑みを浮かべる少年と、その少年の腕に抱かれて無表情ながら満更でもなさそうな少女――――三人を乗せた鋼鉄の魔物が、咆哮を轟かせながら坑道へと飛び込んだ!




 ◆




 赤熱と焦熱が飽和した、紅蓮の地獄。


 坑道に蔓延る魔物共をランサーで轢殺し斬殺して突破した宗介達を襲ったのは、そんな世界であった。


 整備もされない天然の広い洞窟は、傍を溶岩が流れていて光源には困らない。困らないが……


「……熱い」

「いや、全く。これは凄まじいな……」

「ふっ、この程度。わ、私はまだまだ余裕だぞ?」


 傍を溶岩が流れているのだから、その熱さは推して量るべし。サウナとかそういうレベルの話ではい。ランサーに乗っていたら、熱が籠って本当に命の危機である。


 強がりつつもボタボタと汗を垂らすフォルテ。宗介とエリスは炎熱耐性の装備――指輪と、黒地に赤ラインのマントだ――があるため幾分かマシであるが、素な上にゴツい軍服を着た彼女にはかなりキツい筈だ。


 溶岩の熱が体力と集中力を奪い去り、道の傍には致死の川が流れる……中々にえげつない大迷宮だ、と宗介は小さく舌打ちした。


「しかし、難易度が高いダンジョンは良いアイテムが取れるってもんだ」


 そう呟いておもむろにしゃがみ、石ころを拾い上げる宗介。


 ……いや、石ころではない。赤い、火の魔石だ。


 見れば、壁にも天井にも床にも、至る所に小さいながら魔石の煌めきが見える。溶岩の明かりのせいで分かりにくいが、眼帯を外して“龍脈眼”で見れば一目瞭然である。


「鉱石はどうだ? “アダマンタイト”とか、火山性の良い鉱石は取れそうか?」

「……まだ、浅い」

「そりゃ残念」


 ボコリと小さな岩を地面から引き摺り出したエリスは小さく首を振る。


 トリッド活火山攻略と同時に収集したい素材である、“アダマンタイト”。


 世界最大の活火山の地下という超高温高圧の環境下でのみ生成される、漆黒の輝きを放つその鉱石は、非常に重く、極めて硬く、熱に強いのが特徴だ。その為馬鹿みたいに扱い辛い。比較的軽量で硬く、高い魔力への親和性が特徴の扱いやすい“ミスリル”とは、対を成すような稀少鉱石である。


 ゴーレム創造で役立つことは間違いないのだが、流石にこのような表層でそれを求めるのは高望みし過ぎたかと、宗介は苦笑いを浮かべた。


 そしてその苦笑いが、獰猛な笑みへと変貌する。


「――――早速、敵さんのお出ましだ」


 洞窟の先から、ゾロゾロと魔物達が現れたのだ。


 赤い鱗を持ち、炎を纏った大トカゲ……“サラマンダー”の群れである。数は五十程か。


「“虎徹参式”を頼む」

「……ん」


 宗介の合図と共に、指輪から鋼の虎を召喚するエリス。その虎が宗介によって操られ、けたたましい咆哮を上げる。宗介は宗介で、義足の格納部からクーゲルを抜き、右手は無手のまま静かに構えた。フォルテも、着いてきた以上はやるしかない、と予備の剣を引き抜く。


「それじゃあ、幾つか確認だけさせてもらうかっ」

「……んっ」


 瞬間、鋼の虎が疾走する。一瞬でサラマンダー達へ肉薄した虎徹参式は、先頭の頭を踏み潰して跳躍、群れの背後に着地した。


 その虎徹参式に向けてサラマンダー達が一斉に火を吹くが、流石に温い。意にも介さずといった様子で、数頭のサラマンダーの首が飛ばされた。


 そして虎徹参式に意識を向けた魔物達に迫るのは、音速を超える弾丸だ。六度の炸裂音と共に放たれた六条の火線は、寸分違わず六頭の頭部を撃ち抜く。魔石は傷付けず、されど脳髄は吹き飛ばして確実に絶命させた。


 そしてシリンダーの空薬莢と新しい弾丸を入れ替えつつ、宗介もサラマンダー達へと肉薄する。遅ればせながら、フォルテもだ。


「こいつらは雑魚だが、お前は大丈夫か?」

「当然だろう。私を舐めるなよ? これでも実力だけなら王国騎士団随一だ!」

「ま、半獣人だもんな。地力が違うか」


 軽口を飛ばし合いつつ、宗介は、魔石にムラがあるせいで比較的威力の弱い弾丸で確実に仕留める為、ゼロ距離射撃でサラマンダーを屠る。フォルテは流れるように直剣を振るい、首を斬り胴に刃を突き立てて仕留める。


 勿論、サラマンダー達も黙ってはいない。本能的に連携を取り、数に任せて宗介達を包囲していく。


 機敏な動きで二人を取り囲んだ火蜥蜴達は、一斉に口を開いてその奥に炎を燻らせた。


 サラマンダー特有の、火炎の吐息だ。


「さて、性能を試させてもらおうか」


 勿論想定内。むしろそう誘導したまである。耐炎のマントの効果を確かめる為に。


 宗介が、ニヤリと犬歯を晒して嗤うと同時、四方のサラマンダー達が一斉にその炎を解放した。


 膨大な熱と紅蓮の輝きが、溶岩河に照らされた洞窟内を蹂躙する!


 総熱量は、もしかしたらガイアドラゴンのブレスにも匹敵するかもしれない。そう思わせる程の炎であった。


 ……しかし。


「ほぉ、凄え、焦げ目一つ無しか。フォルテの方も、無事でなにより」

「ふ、当然だろう」


 炎が晴れたそこには、ファー付きの黒マントで身を包んだ宗介と、無属性の障壁を身体の周りに薄く纏わせたフォルテが、無傷で佇んでいた。


 どうやらマントの耐火効果は、宗介をして満足いく代物だったらしい。


 これで万の一つにも勝ち目が無くなったサラマンダー達に憐れみを含んだ嗤いを向けながら、宗介はマントの下からスッと両手を伸ばして構える。左手にクーゲル、右手にシュトラーフェを持って。勿論クーゲルは、マントの下でリロード済みだ。


 それらの銃口は、ブレスが効かなかったことに目に見えて怯え始めるサラマンダー達に向けられている。


「エリス、確かめたいことは確かめ終わったからサクっと頼む」

「……ん」


 宗介の合図と共に、今まで静かに傍観していたエリスが指を振るう。


「……死ね」


 そんなおよそ愛らしさの欠片もない言葉と共に放たれた魔法に、本能で危険を察知したのかその場を飛び退く火蜥蜴達。何頭かはそのまま宗介やフォルテに飛びかかる。


 甘い。


 ズダダン、ズダダァンッ!!


 六連続の炸裂音が、美しい二重奏を響かせ、連射された十二の弾丸が、死の杭から逃れた蜥蜴達の頭を吹き飛ばす。


 それでも足りない分は、後ろから虎徹参式が首を飛ばす。


 それでも足りない分は、フォルテによって一太刀の下に斬り伏せられる。


「ふぅ……いい買い物だったな、このマント」

「私が買ったドレスは、無残な姿にされたのだが」

「あれは投げて来たお前が悪いだろ……」


 白煙を上げる二挺の拳銃をクルリとガンスピンさせて、マガジンと空薬莢を排出する宗介。剣を一振りし、血を飛ばすフォルテ。指を一振りし、何事もなかったかのように杭を消すエリス。


 ――――刹那の内に、五十のサラマンダーが絶命した。


 この程度では、もはや相手にならない。


 クーゲルとシュトラーフェに弾丸を装填した宗介は、それらをホルスターと義足の格納部に収納し……


「さて――――後一匹」


 不意にその場で、義足の踵を鳴らした。


 ズガアァァンッッ!!


 鳴り響くのは、およそ踵を鳴らした音とは思えない爆音。隣に居たフォルテがビクリと肩を震わせる。


 そう、義足内蔵の小型パイルバンカーを撃ったのだ。


 カシュンとラジエーターを展開して白煙を噴くと同時、持ち上げられた左脚の踵から伸びる尖杭には、赤黒い血がべっとりとこびり付いていた。


「な、何をしたんだ?」

「いや、地中に潜んでたサラマンダーが居たからな。ブチ抜いた」


 怪訝そうに尋ねるフォルテに、宗介は軽い調子で答えた。


 そう、サラマンダーは地に潜る。炎で融解させて地面を掘るのだ。図書館で情報を得ていた宗介はそれを知っていた為、油断することなく“龍脈眼”で潜んでいないか調べていた。


 すると、案の定だった訳である。


「……ソウスケ。魔石、回収する?」

「ああ、全部な。それが終わったら早いとこ深層に降りるぞ。アダマンタイト使って創りたいモノが幾つもあるんだ

「……ん」


 サラマンダー五十体という、何気に常人ではまず生きて帰れない大群をいとも容易く殲滅した彼らは、手分けして死体の、及び周囲の魔石を回収していく。


 目指すは、最深部に住まう“炎帝”――――ではなく、道中の鉱石だ。

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