二一 聖騎士はストーカー
――――“炎帝”。
その実態は、この世界に存在する南北二つの大陸……“人間界”と“魔界”の内、南に位置する人間界の西端に佇むトリッド活火山を古来より守護してきた、“火の大精霊ヘリオス”そのものである。
永きに渡って人間界と魔界を地続きで繋ぐ唯一の細道を隔ててきた、人魔両界の“界境”を護る天然の要塞である、“トリッド活火山”、及び周囲の山脈。人々に火と鉄を与える恵みの山も、“炎帝ヘリオス”の支配下に落ちてからは、世界屈指の危険地帯となってしまった。
炎を司る精霊である彼には、核となる魔石以外には明確な実体が存在せず、操る紅蓮の炎は龍の息吹をも凌駕し一切合財を灰燼に帰す……いや、灰すら残さず蒸発させる程だと言う。
彼の者と対峙し、生きて帰って来た者は――――
「……居ない、と。炎帝って大精霊そのものなんだな」
パタリと、宗介は読んでいた本を畳み、傍に置いた。そこにはまだ幾つか、今居る図書館の本棚から拝借した本が積まれている。ちなみに図書館に入るには入館料が必要だった。聞く限り、この世界は活版印刷技術すら開発段階である為、妥当なのだが。
ともかく。
「……ん。クロの同胞」
「四大精霊……火のヘリオス、水のネレウス、風のウラノス、そして地のクロノスだったか? で、当然ながら“炎帝”のヘリオス様は魔王によって隷属させられてる、と。そんなんで良いのか大精霊……」
魔王に支配されるという大精霊にあるまじき不甲斐なさに、図書館内なので小声で愚痴りつつ次の本に手を付ける宗介。トリッド近郊の地理書のようだ。同時に魔物名鑑も開き、見比べながら読み進めていく。知力の高さをふんだんに活かした高速流し読みである。
「やっぱり、炎の対策は必須だな。炎帝戦でも気休め程度にはなるだろうし。それよりも“隷属の呪印”をどうするかだ」
ここは火と鉄の街。炎熱に関する耐性を備えた装備には事欠かない筈だ。昔からこの街の冒険者達は、トリッド活火山に潜っていたのだから。
お金も、仮登録が決まった後に大量の魔石やフォールン大空洞の魔物を買い取ってもらった為――地の魔石に関してはクロノスと契約したエリスなら魔力が続く限り生み出せるので問題は無い――潤沢だ。当然ながら買取の時にやたらと驚かれたりしたのは、また別の話。
目下の問題はただ一つだ。
「エリスの時は、偶然にも呪印ごと心臓を破壊した後に再生するっていう荒技を決めたから解呪できたんだよなぁ……」
隣でまた別のを捲っていたエリスが、こくりと小さく頷く。
“炎帝”はあくまでも、魔王によって強制的に人間と敵対させられているだけだ。流石の宗介も、それを知っていながら命を奪うつもりはない。というか、古くより世界を見守ってきた四大精霊を殺してしまったらどうなるか……想像もつかないのだ。
となると、ヘリオスを殺すことなく――――恐らく“隷属の呪印”が刻まれているであろう魔石を破壊することなく、魔王の支配から解放しなければいけない。
ただの精霊とは違い、制御するのに魔石という核すら必要な程に膨大な力を有する“大精霊”……その根幹を成す、人間で言うところの脳髄に刻まれた呪いの刻印。下手には扱えば火山ごとドカン、だ。
「ま、それはおいおい考えるとして……」
高い知力による記憶力を活かし、ものの数分で障害となりそうな魔物や、【ゴーレム創造】で役立ちそうな鉱石の情報等をあらかた頭に叩き込んだ宗介は、開いていた本を畳み、深く息を吐きながら椅子にもたれかかる。
そのままチラリと、左隣に座るエリスに目をやった。
「随分と熱心に読んでるけど……その本、何?」
彼女が静かに読んでいるのは、どうも絵本らしい。エリスの見た目のせいかどこか微笑ましく見える。
スッと差し出された表紙には『創世記』と、簡潔でシンプルな字体のタイトルが刻まれていた。
「お、面白いのか? タイトルからはキャッチーな感じを微塵も感じないが」
「面白い……とは言い難いけど、昔、よく読んだから。懐かしい……」
「あー、やっぱそういう、子供に読ませるタイプの本か」
エリスはこくりと小さく頷き、ページを捲っていく。
――――昔々、“精霊王”と呼ばれる者が生まれた。
彼はまず、数々の子供達……大精霊や微精霊達を産み落とす。力を持った精霊達のおかげで世界に光が満ち、大地と海が生まれ、風が吹き火が猛り、世界は廻り始める。
大地に命が芽吹き、水の恵みによって成長し、風に乗って広がり、灰となって大地に還り……
そのサイクルの中で動物が生まれ、そして三つの知性が生まれた。“人間”、“亜人”、“魔人”だ。
最初に言葉を話したのが人間、次に調和を求めたのが亜人、最後に強い力で活躍したのが魔人である。
彼らは言葉を交わし、手を取り合ってお互いに繁栄していく。この人間族、亜人族、魔人族が共に最盛期を迎えた時代が、俗に言う“光の時代”だ。
しかしある時、その時代に異分子が紛れ込んだ。それが即ち、“闇”である。結果、光の時代に争いが起こり始めた。
対立する三つの種族。激化する争い。
自らの子供達が殺し合い、命を散らしていく姿に嘆いた精霊王は――――
「“守護者”を、産んだ」
「ふむ……初めて聞く単語だな」
「……世界を守護する者。調停者とも呼ばれる」
「それはまた、随分とかっこいい肩書きだことで」
守護者は三種族の争いを収める為に奔走する。
結果として、“闇”こそ世界に残ったものの、戦乱の時代は幕を下ろした。そして精霊王や守護者は姿を隠し、今も世界を見守っている……
童話風に、もっと分かりやすく描かれてこそいるものの、これが『創世記』のあらましである。
「こんなもん、俺の故郷じゃ作り話だー、って言われそうなもんだが……この世界じゃマジなんだよな? 大精霊が実在してるし」
「……ん。このお話は、大体事実」
疑う様子もなく言い切るあたり、本当のことなのだろう。宗介からすれば、古事記や神話の神様は実在している! という具合であり眉唾ものだが、流石は異世界である。神様は実在するのだ。
もっとも、この話を聞いたことで浮かぶ疑問もある。
どうして“今”、人魔の大戦が勃発しているというのに、精霊王や守護者は動かないのか……等だ。
しかし、残念ながら考えたところで意味は無い。ここにクロノスが居れば別だったが。
疑問はさておき、どこか愛おしげに、そして思い出に浸るようにその本を撫でる彼女に、宗介はポツリと尋ねる。
「エリスって、本、好きなんだっけ?」
「それなりに」
「曖昧だな」
ジッと手元の本に視線を落としたまま、普段通りで短く簡潔に返された言葉に、宗介は若干の苦笑いを浮かべる。
そしてエリスは視線を落としたまま、逆に尋ね返してきた。
「……ソウスケは、本、好き?」
宗介は一瞬、呆気にとられた。
口下手で受け身がちなエリスが、珍しく会話を続ける形でボールを投げ返して来たのだ。
『それなりに』と言いこそしたが、彼女は恐らくかなり読書が好きなのだろう。それ故にキャッチボールが成立した、と。ならば宗介はその問いに答えるのみ。
「好き嫌いで言えば、好きだな」
「ソウスケも、曖昧……」
「いや全く。ほら、俺がその……ヘタレ生活をしてたのは話したことあるだろ? その時の逃げ道が、読書とかゲームとかだったんだよな。幸いにも俺の故郷って、そういうモノには事欠かなかったし」
「……それで、好きになった?」
「そういう訳だ。キッカケがなんとも言えないがな……」
懐かしき故郷のサブカルチャーに思いを馳せながら、遠い目をして語る宗介。
こっちに来てしまったせいで読み切れていない小説や、最終話間近だったアニメが恋しい。早く日本に帰って話の続きを知りたい……そんな話の筋から脱線した思いが頭の中を巡り、少し悲しくなった。
しかしそんな宗介とは対照的に、エリスはどこか嬉しそうに少しだけ頬を緩め、ポツリと呟く。
「……一緒」
その小さな呟きを上手く聞き取れず、首を傾げて彼女の方を向いた宗介は……
「――――ッ、すまんエリス」
弾かれたように、彼女を左手で抱き寄せた。羽織っていた黒マントで覆い隠し護るように片腕で抱きしめる。
「っ!?!? ソウ、スケ……? い、いきなり……」
「静かに」
エリスは突然の出来事に目を白黒させるが、しかし有無を言わさずに引き寄せられ、限界まで自身を思いやった優しい抱擁に顔から湯気を上げて黙り込んだ。
やがて落ち着いたのか、腕の中でギュッと彼の服を握りしめて身を寄せる。
「……暖かい」
「おいこら、ドサクサに紛れて何やってんだ」
「ん……」
それはまるで、親に縋る子のようで。
一分程続いただろうか。宗介は気恥ずかしそうにエリスを引き剥がした。
エリスの方は「まだ足りない!」と言った具合に目で訴えているが、宗介はそれをとりあえず放置して辺りを見回す。
そして大きく溜息をついた。
「あっぶねぇ……。なんとか見つからずに済んだか」
頭に「?」を浮かべて首を傾げる姿に、エリスが事情を把握できていないと悟った彼は、手早く事情を説明していく。
「いやな、朝に絡んできた女騎士様が見えたんだよ。俺はマントのお陰でマジマジと見つめられなきゃバレないが、お前は目立つからな。いきなり、その……抱きしめたりして悪かった」
カリカリと頬を掻きながら目を逸らす宗介。咄嗟だったとはいえ、やはり恥ずかしかったのだろう。
エリスは合点がいったように小さく微笑んだ。
「……別に、良い。びっくりしたけど……悪くなかった」
そして、再度彼の左腕に身を寄せる。若干慎ましげに、頬を赤らめて。
「何がだよ……。ったく、長居してあの直感騎士様に見つかったら面倒だ。情報収集は終わったし、さっさと必要物資の調達に行くぞ」
「ん、お買い物……」
「……遊ぶ訳じゃないからな」
スッと席を立ち、本を元の場所に仕舞い、女騎士から逃げるように図書館を後にする二人。
必然的にエリスが宗介に半分抱きつく形で歩くことになり、司書や数少ない利用客から「お幸せに」とか「爆発しろ」といった具合の視線を貰いながら、次の目的地へと向かうのだった。
◆
暫く歩いて辿り着いたのは、幾つかの商店や露店が立ち並ぶ通りだ。
時間は丁度昼頃。仕事時だというのにやたらと人が多いのは、今の仕事が無い鍛治職人や冒険者達の現状をよく表している。後は、昼食を露店で済ませようとする輩も原因か。
姿を隠しつつ店を物色するには都合が良かった。
そんな具合の通りを、宗介はマントで気配を隠し、エリスは宗介の左腕に抱きつくことでマントの恩恵を授かりながら歩く。
何故か?
後をつけられているからだ。
「やあ、フォルテ様じゃないか! お一つどうだい?」
「あ、ああ、そうだな。頂こう。ところで一つ聞きたいのだが――――」
背後から聞こえる、聞き覚えのある声同士の会話。片方は朝に、もう片方はほんの少し前……宗介達が昼食を買った時に聞いた声である。
「……なんなんだ、あいつの直感。見つかってない筈だよな? なのにどうしてこうも俺達が覗いた店に目を付ける?」
「……高度なストーカー」
「なんて嫌な直感の使い方をしやがるんだ……」
気配を消し人混みに紛れている為、まさかあの女騎士様が目視で自分達を見つけたとは考え難い。というか、見つけているなら店に聞き込みに入る必要は無い。
つまり二人は完璧に隠密行動を取れている筈なのだ。だというのに女騎士様は的確に後を追ってくる。
なんという執念。
「全く、酷い輩に目を付けられたな……っと、装飾品の露店か」
ふと宗介は足を止める。求めていた店の一つを見つけたのだ。商品棚には指輪や腕輪、ネックレス等が並べられている。どうやら店主の男が作ったものらしい。
「いらっしゃい。プレゼントかい?」
「まあ、そんなところだな。危ない所に向かうから、火避けの加護でも宿したアクセサリーを贈りたいんだが」
宗介は傍のエリスの頭をポフポフと撫で、店主に「こいつへの贈り物だ」と伝える。エリスは少し恥ずかしそうだ。
「ほぉ、あんたら冒険者か? こんな小さな子がねぇ。や、魔法使いならおかしくないか……」
天使のような美少女であるエリスが“小さい”程度にしか見られない辺り、やはり気配遮断マントの効果は絶大だ。だというのにあの女騎士は……。
ともかく。よく居るただの客と化した二人を尻目に、店主は一つの指輪を取り出した。ルビーのような魔石がキラリと輝く一品である。
「これなんかどうだ? ちと値は張るが、そんじょそこらの火は物ともしない加護を宿してるし、見た目も贈り物としては悪くないレベルだ」
エリスに目をやると、こくりと頷き返してくる。放つ魔力を見て、実用に足るかどうか判断したのだ。宗介も眼帯を外せば判別可能だが、流石にこんな所で外す訳にはいかないので、今はエリスに任せている。
「よし買った。ついでに耐火の外套なんかを売ってる店を知ってたら教えてほしいんだが」
時間をかけてはいられない、と手早く金を払う宗介に、店主はホクホク顔だ。本来は値切り交渉を行うところだが、金は潤沢であり女騎士につけられているのだから、それはしない。
「イチオシは向こうのデカい服屋だな。あそこは金持ち向けの店だし防具なんかは無いが、魔法のマントやらローブやらは一線を画してるぜ」
良い情報を得て、宗介もホクホク顔になる。店主に礼を言って指輪を受け取り、足早に件の服飾店へと向かった。一秒の遅れが女騎士との邂逅に繋がるのだ。
「おや、いらっしゃい。騎士様も装飾をお着けに? 意外だなぁ」
「ま、まあな。ところで一つ聞きたいのだが、ここに銀髪の二人組は来なかったか?」
「あー、その二人ならあっちの方に……あれ、もう居ない」
後ろから聞こえてくる言葉に、思わず背筋を震わせる宗介。
なんという追跡能力。あの女騎士の直感は異常だ。
「あいつマジで洒落にならないだろ」
「……消す?」
「正直言って消したいレベルだ。全く、こんなスピード感溢れる買い物は初めてだぞ……」
しかし、宗介も“人間”である以上、無闇な殺しは遠慮したい。彼女を撒けるならそれに越したことはないのだ。
ならばと出来る限り気配を消すべく、宗介はギュッとエリスを抱き寄せる。エリスは無表情――――を装いながら少し頬を朱に染め、満更でもないといった具合に目を細めた。
「お前、ちょっと楽しんでるだろ」
「…………別に」
「間でバレバレだが」
「楽しんでなんて…………ない」
「なんか、いつの間にか少しだけ積極的になったな。別に良いけど」
腕を絡めて歩く姿は、まんま恋人同士といった具合だ。端から見れば相当なラブラブカップルに見えるだろう。
しかし、誰も気付かない。例え本人達でさえも……。いや、少女のほうは気付いているが。
ともあれ。
二人は人混みに紛れながら、件の服飾店へと辿り着く。
流石、富裕層向け。並ぶのは貴族が着るような豪華な服ばかりで、一つ一つが上質な素材によって仕立て上げられて煌びやかに輝いて見えた。
そこで、冒険者向けの装備は扱っていないと言う店側と、マントを買いたいだけの宗介とで一悶着あったりしたものの……魔石を売って得た金を見せつけることで黙らせ、なんとか耐火のマントを入手することが出来た。黒地に赤いラインが入った、ファー付きの逸品である。
これでも“炎帝”の炎に耐え得るかは分からないが、あるのと無いのとでは雲泥の差となるだろう。
そして今、二人は店の入り口からは死角となっている商品棚の影に、商品を物色するように見せながら身を潜めていた。
そうしている内、案の定入ってきたその客に、宗介は小さくため息を吐く。
――――女騎士だ。
どうも彼女、こういう店にはあまり慣れていないのか、おっかなびっくりという具合である。まんま宗介と同じ反応をしている辺り、大分庶民派だ。
まるで上京して来た田舎者のような彼女に、手の空いている店員が駆け寄る。
「これはこれは、フォルテ様ではありませんか! 騎士様もやはり、身嗜みにはお気を?」
「ま、まあなっ。私とて、オフの日は可愛い服を着て街に繰りだして…………い、いや、何でもない。言葉の綾だ。私はこの街を守護する聖騎士、ならば鎧を纏い剣を持つのが道理と言うもの。今回訪ねたのは、買い物が目的ではなくてだな……」
駆け寄って来た店員にビクリと震え、思わず何かを口走ってから一度咳き込み、体裁を整える女騎士。
そんな彼女を、店員はマジマジと見つめる。
「な、なんだ?」
「いえ……勿体無いな、と思いまして。よくよく考えれば、貴方様が騎士の正装以外を纏っている所を見た覚えがありません。貴方様程の逸材が、自らの外見に無頓着であるなど、勿体無い以外の何物でもない! 華を映えさせるにはやはり、軍服や騎士鎧ではなくドレスではないでしょうか!?」
店員がシュバッ! と女騎士に詰め寄った。その目は完全に職人のそれだ。
鍛治職人とはまた別種の、熱いパトスを迸らせている。
「な、な、なにを言って……っ! わた、私は、華ではなく剣だっ! 王国を守護する一振りの剣なのだ! ど、ど、どれ、す、など……」
「興味が無い、と!?」
「い、いや、そういう、訳では……」
ジリジリと距離を詰められ、狼狽し、尻窄みになっていく女騎士の声。
店員の熱によって完全に気圧されていた。
「でしたら! どうでしょう、試着だけでも? その純金よりも美しい髪、いかな宝玉を以ってしても届かない碧の瞳……より美しく、魅せて差し上げましょう!」
「ちょっ、待っ、私は仕事で――――」
何かに火が付いた店員に引き摺られていく、新たな生贄。
あの光景には見覚えがある。エリスも先程、同じように連れて行かれかけたのだ。あの時は宗介の義手の力でなんとか引き剥がしたのだが。
きっと彼女はこれから、あの店員の着せ替え人形となることだろう。
「……合掌」
同じ恐怖、味わう直前でなんとか免れたエリスは、同じ女のよしみか手を合わせて女騎士の冥福を祈る。
いや、店員の気持ちも分かるのだ。なにせ彼女は宗介から見てもかなりの美人である。騎士らしく、手入れの行き届いた剣のような美しさを持っていて、“女騎士”と言われれば真っ先に彼女のような存在を思い浮かべるだろう。
エリスとはまた違うベクトルで、美しかった。
「……あの美人が、オフの日には可愛い服を着て街に繰り出すらしいぞ?」
「……絶対、似合わない」
「俺もそう思う。何か意図せず弱みを握っちまったな……」
あの剣のような彼女がフリフリのワンピースを着ている姿を想像した宗介は、なんとも形容し難い表情を浮かべた。きっとエリスも煮たような光景を思い浮かべたであろうが、それはもうギャップ萌えとかいうレベルを超越している。キャラ崩壊だ。
ともかく、これで彼女とは入れ違いだ。今の内にこの店からオサラバするのが良いだろう。
しかしあの女騎士は、強力な【直感】持ち。どうにかしなければ今後の平穏は危うい。
如何に宗介達がギルドマスターから仮登録を受けたとはいえ、魔族であるという事実は変わらない。見る人が見れば大事である。
はてさてどう対応したものか……と、あからさまに眼前まで迫っている面倒事に、宗介は心の底から嫌そうに大きなため息を吐いた。




