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十六 火と鉄の街トリッド

 聖ルミナス王国北部。


 フォールン大空洞が存在する、かつて“地精のお膝元”と呼ばれた廃都から東西に伸びる、今や使われていない荒れ果てた街道。


 そこを、草木も眠る丑三つ時だというのに、けたたましい騒音を撒き散らしながら疾走する無数の影があった。



 先頭を行くのは四つの車輪を猛回転させる鉄塊だ。流線型のスマートな、それでいてエッジの効いたボディを持つシルバーのそれは、ヴオオォォン! と鋼の咆哮を上げながら風と化して街道を駆け抜けていた。ボディの先端には龍のように鋭い双眸が輝いている。


 そのすぐ後ろに追随するのは、機械の虎。サーベルタイガーの如く伸びた剣牙と前足の剛爪、踵に伸びる硬質ブレードは、それが明らかに尋常ならざる存在であることを物語っている。


 そして最後に、それらを追いかける魔物の群れ。ピューマのような魔物や馬のような魔物等、その種類は様々だ。どうやら、先を行く見たこともない鋼の魔物と、その魔物が絶えず鳴らす咆哮に誘われてやってきたらしい。


 モンスタートレイン。


 そう呼ぶのが妥当だろう。



「えっと、“フォールン大空洞”がここだろ? “聖ルミナス王国”の王都がここで、“トリッド活火山”が……このへん? うん、方角を間違えてはいないな」


 トレインの先頭をゆったりと巡航する、いわゆる“スーパーカー”と呼ばれるその鉄塊――――中級軽車両型ゴーレム“VoS.01 Lancer(ランサー)”の中には、二人の少年と少女が乗っていた。


 言わずもがな、半人半魔の少年宗介と、銀髪吸血鬼のエリスである。クロノスは宗介が地上に出た後、『私は大空洞の迷宮化で乱れた龍脈を整えないといけないからぁ、存分に二人っきりの旅を楽しんでねぇ!』とか言い残してフォールン大空洞へと戻って行った為、二人旅の真っ最中だ。


 ともかく。


 車内左側の運転席に座ってハンドルを握りながら、右手で傍に広げられた地図を指でなぞる宗介。


 まず地図の上端を指差し、そこからススッと中心に向かい、そしてズズーッと左上へ。そのまま指は地図外へと飛び出す。


 そう、“聖ルミナス王国領”の地図だ。


「ん……途中に、“トリッド”の街がある。目指すなら、そこ……?」


 助手席にちょこんと座るエリスが、地図の一点、フォールン大空洞と宗介が示すトリッド活火山の間を指差した。


「だな。……しかし、聖王国の領内だし、半魔の俺と魔族のエリスが正攻法で街に入るのは難しいんだろうなぁ」

「……非正規の、方法で」

「そうなるわなぁ。無闇に勇者のステータスプレート見せたら、俺が生きてることが北池達に伝わっちまうし。いや、俺は死んだことになってるだろうから、死んだ勇者のステータスプレートを提示したら絶対に厄介なことになる……?」


 どうしたもんか、と頭を捻りつつハンドルを操作する宗介。


 ともかく、目的地は決まった。街に入る方法は未定だが。


 小さな手で地図を畳んで指輪の異空間収納に片付けるエリスを横目に、宗介はハンドルをがっしりと握り直し右手をシフトレバーに持っていく。


「ここで考えても仕方ねえ。エリス、魔力供給頼んだ」

「ん、頼まれた……」


 レバーを握る宗介の義手を、エリスの華奢な手が覆った。


 瞬間、彼女の魔力が二人の乗るゴーレムに供給される。モノに流せば光を放つ程に膨大で凝縮されたそれは、瞬く間にランサーの内装や外装に黄金のラインを刻んで行く。


 どこかSFチックなそのギミックは、完全に宗介の趣味である。目立つだけで実用性は皆無だ。



 中級軽車両型ゴーレム“VoS.01 Lancer(ランサー)”。


 内蔵された魔石による魔力とV型12気筒エンジン――もどき――のブーストによって動く、4WD(四輪駆動)、セミATスーパーカー。乗員定数は二人で、ギアは七速可変式。ミスリル装甲のおかげで装甲車並みの防御力を有し、ガイアドラゴンの強靭で柔軟な竜皮を使ったなんちゃってゴムタイヤ、そして最上級のレザーシートによって乗り心地も最高。


 何故スーパーカーなのかと言うと、一つは吸血鬼の弱点である日光を屋根によって遮る為だ。この対策が立てれない以上、バイクやオープンカーにすると宗介の命に関わる。そしてもう一つの理由は、金のラインと同じく宗介の趣味だ。オフロード車の走破性を取るかスーパーカーの見た目を取るかで悩んだ結果、見た目に軍配が上がったらしい。



「さて、後ろの鬱陶しい雑魚共を片付けるとしますか」


 ミラー越しに魔物を視認した宗介が、ニヤリと犬歯を晒して嗤う。


 六速の位置にあったシフトレバーをガコンッと七速の位置へと移動させ、同時に右足でアクセルを踏み込んだ。


 ヴヴゥォォオオオオンッッ!!!


 瞬間、鋼の魔物(ランサー)がファンタジー世界には些かミスマッチなけたたましい咆哮を上げる!!


「舌噛むなよ!」

「ん……っ!」


 ギュッと口を噤んで目を瞑り、義手に捕まってくるエリスを横目に、宗介は更にアクセルを踏み込んだ。


 ――――圧倒的な加速。


 刹那の間に時速何百キロという域に達したランサーが、背後の“虎徹参式”や魔物達を遥か彼方へと置き去りにする!


 月夜の中を、金の魔力光を棚引かせて駆ける姿はさながら流星。この世界に追いつける者など存在するのかすら怪しいレベルだ。


 その流星からバリィンッ! と星の欠片が……窓ガラスの破片が飛び散り、同時に二つの球体が後方の魔物に向かって転がった。


 そう、運転席側の窓ガラスを叩き割って投擲された手榴弾である。ちなみに、割れた窓ガラスは“自己修復機能”によって直ぐに元の形に戻るので、損害とはならない。


 吠える魔物達は投擲されたそれが爆弾であることなど知る由もなく、意にも留めずに鋼の魔物二体を追いかける。


 それをミラー越しに確認した宗介は、「雑魚乙」と一言呟き、【遠隔操作】を以って手榴弾を起爆させた。


 ズガガアァァアッッ!!


 群れの中心で爆炎が、砂塵が、破片が、血が、肉が舞う。


 混乱の渦に呑まれる魔物達。


 爆発を間近で受け止めた魔物は原型を留めない程に肉体を破壊される。それよりも離れていた者は、衝撃波や飛び散った破片で多大なダメージを受けて動けなくなったところを、後ろの魔物達に踏み潰され絶命した。それらの被害を受けなかった者は爆音と炎と閃光に驚きドミノ倒しになる形で列を崩す。


「三分の一は逝ったか? 壮観だなぁ」


 自らが巻き起こした惨劇を、ヒュウと口笛を吹きながら眺める宗介。


 ……手榴弾としては過剰な威力だった。


 理由は単純、魔石の質に“ムラ”があるのだ。と言うか、銃弾に使うには過剰で、しかしエンジンに使うには物足りない火属性の魔石は、その殆どが手榴弾に加工される。その結果、あからさまに威力が高かったり、ヤケに弱い手榴弾が出来上がるという訳だ。


 地属性の魔石ならエリスが創れるのだが、やはり火属性は未だ自由とはいかないので、どうにかしたいなと思いながら、宗介は背後の魔物を殲滅する為に次なる手を打つ。


 即ち……


「さあ、“虎徹参式”――――殺れ」


 と。


 瞬間、またも血が舞い、同時に魔物達の頭が飛んだ。


 エンジン音を鳴らしながら群れの中を疾走する鋼の虎が、その脚に装備した硬質ブレードや長い剣牙で、混乱の最中にある魔物達の命を刈り取っていく。



 搭載された自動戦闘機能と、更に宗介直々の【遠隔操作】によるアシストで動く、鋼の魔物。

 ミスリルのボディと自己修復機能による圧倒的な耐久も兼ね備えたそれは、ことゴリ押し式近接戦闘、及び制圧殲滅能力に長けており、フォールン大空洞第九十層から上の魔物達を全滅させてきた実績は凄まじいの一言である。


 ちなみに宗介に言わせれば、「まだ未完成」の代物らしい。と言うわけで今後様々な武装が搭載される予定だ。機関砲とか。



 硬質ブレードが魔物の身体を断ち斬り、鋭い剣牙が首を喰らい切って、俊敏に的確に、無数の命を散らして行く。


 勿論、殺されてたまるかと抵抗する魔物も居り、その爪や牙が虎徹参式のボディを傷つけるのだが、それ止まりだ。フォールン大空洞の最下層を戦い抜いてきた鋼の魔物からすれば、地上の魔物は些か力不足らしい。


 このまま待っていれば、魔物共は一匹残らず殲滅できるだろう――――宗介は、そうは考えない。


「虎徹参式のエンジンも無限に動く訳じゃないし、俺らも向かってさくっと終わらせるぞ」

「……ん」


 節約は大事なのだ。


 宗介はガコン、ガコンッとブレーキを操り、ランサーをドリフトさせながら百八十度スピンさせる。そしてまた、アクセルを全力で踏み抜いた。


 再度闇夜を駆ける金と銀の流星。


 向かう先は、未だ断末魔と血飛沫を上げる魔物の群れ。


 虎徹参式に【遠隔操作】で直線上から退くよう命令を出しながら、宗介はランサーの内蔵武装を展開する。


 カシュンカシュンと音を立てて車体後部の装甲が開いて飛び出して来たのは――――鈍く輝く三本の刃だ。


 一本は、車体上部へ背ビレのように。もう二本は、車体側面へ翼のように。そのどれもが、絶えず爆発を繰り返すエンジンによって超振動している。


 ……それを宗介以外のクラスメイトが見たら、きっとこう言うだろう。


 「なんて殺戮兵器(モノ)を作ったんだ!!」と。


 それを知ってか知らずか、それとも血を見たせいで吸血鬼の本能が彼を昂らせたのか、宗介は獰猛な犬歯を晒してニヤリと嗤う。


「時速数百キロで疾走するギロチン、避けれるもんなら避けてみな」


 明らかにヤバい鋼の化け物が駆けてくるのを見て戦慄を覚える魔物達。



 極めて単純にして強力無比な、無慈悲に過ぎる一撃が、その魔物達を強襲する!




 ◆




「エンジンの魔力が尽きた……はしゃぎ過ぎたか……」


 エンジン音を立てず、静かに徐行するワインレッド(・・・・・・)のスーパーカーの中、深く倒された最上級ドラゴンレザーシートにぐだーっと身体を預ける宗介。


 もはやハンドルなど握っておらず、アクセルペダルは脚を置いてすらいない。


 そもそもランサーはゴーレムである為、それらが無くても宗介になら動かせるし、現代日本に持ち込んだらトップシェア間違いなしの“自動運転システム”も搭載しているので問題は無いのだが。


「……疲れた?」

「まあ、な……。ランサーと虎徹を同時に動かすのは、やっぱり」


 【遠隔操作】は多少なりと魔力を使う。そして今の宗介の魔力量は、多くもなく少なくもなく。いや、一般人だった頃とは比べ物にならないのだが、他の勇者達やエリスと比べるとやはり残念に過ぎるので。


 結果、遊び過ぎると魔力不足による倦怠感に襲われるのだ。


 よって今は“虎徹参式”をエリスの指輪に片付け、ランサーに搭載された“自動運転システム”に任せて休憩中である。


「……街、見えてきた。もうちょっと頑張って……?」

「やっとか……。へいへい、頑張りますよっと」


 レザーシートを引き起こし、ハンドルを握り直す宗介。


 ゆったりと巡航するランサーの先には成る程、堅牢な外壁を備えた要塞都市が見えた。今は月も沈んだ深夜である為、各所に点在するかがり火のお陰で輪郭が見える程度だが。



 聖ルミナス王国領北西部に位置する、“トリッド”。


 そのさらに西に位置する“トリッド活火山”から産出する、高純度の“火属性の魔石”や火山性の鉱石によって栄えていた(・・)街である。


 ……そう、過去形だ。


 今や活火山全体が、魔王軍幹部の一人“炎帝ヘリオス”によって支配される大迷宮となっており、鉱石産業は落ち目なのだとか。


 小高い丘に造られ、更に堅牢な外壁を持つのは、ひとえに噴火による溶岩流や溢れてくる魔物から街を護る為。加えて腕っ節の良い職人達が多く居るのだから、防衛力は凄まじい。



「時間も時間だし門は当然閉まってる、朝まで待っても身分証の無い魔族が入れる訳が無い……か」

「……どう、する?」


 助手席にちょこんと座ったまま、横目で尋ねてくるエリスに、ポリポリと頭を掻きながら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる宗介。


「ガチ犯罪だが……夜の内に外壁を乗り越えて侵入するしか無いわなぁ。くっそ、憂鬱過ぎる」

「ん、それしかない」


 半分吸血鬼になったとはいえ、一般的な日本人の常識くらいは残っているのだ。その常識から言わせれば、今から宗介が行おうとしている方法は完全にヤバいやつであった。


 だからといって、準備無しでトリッド火山に向かうのも気が引ける。


 というのも、吸血鬼は火が弱点である為、せめて火除けの魔導具か何かくらい確保しないと危険極まりないからだ。


 半吸血鬼である宗介も吸血鬼の王であるエリスも、火に包まれた途端灰になるということはないだろうが、身体が焼かれれば二度と元には戻らない可能性が高い。


 仕方ないんだ。そう自らに言い聞かせながら、ランサーを走らせる宗介。


「犯罪は見つからなければ犯罪にはなり得ない、なり得ない……。大丈夫、大丈夫だ」

「……大丈夫そうには、見えないけど」


 シフトレバーに置かれた義手が、エリスの小さな手によって包まれる。


「……義手に感覚が無いのが、残念でならないな」

「……いつか、感覚を得られる?」

「新しい技能でも発現すれば、可能性はあるかもな。感覚共有……みたいな? 偵察型ゴーレムとか創りたいし、そんな感じのが発現してくれりゃいいんだが」


 右手で少女の手を感じられないということに――――どこまでいっても“義手”であるということに、感覚など無い筈の右腕に痛みを感じながら、宗介はどこか物悲しく目を伏せた。


 そして暫く進んだ後、外壁のふもとにランサーを停め、銀色だった筈なのにワインレッドに染まった車体に掃除への憂鬱を感じつつエリスの指輪に収納する。


「さて、登るとしますか」

「……んっ」


 見上げる先は、数十メートルはあろうかという巨大な外壁。


 義手のボウガン機構を展開し、その天辺に狙いを定め……放つ。


 パシュッと、小さな排気音と共にワイヤー付きのアンカーが射出され、空中で鉤爪型に展開した。そして外壁にその爪を引っ掛け固定する。


 何度か軽く引っ張り、大丈夫そうだなと満足気に頷く宗介。


 そしてそれを横目に、スッと闇夜に溶けていくエリス。途端に外壁の上に姿を現し、腰掛けた。


「先に、上で待ってる」

「うわ、【影化】は卑怯だろ。羨ましいなちくしょう」


 中途半端な吸血鬼化のせいで得られなかったその技能。しかし、無いものをねだっても仕方ないとワイヤーを巻き取りながら、スパイクを出した左脚を壁にかけ登っていく。


 こんな深夜にエンジンをかけて爆音を鳴らす訳にもいかないので、堅実にゆっくりと。


 数分後、宗介はなんとかエリスの待つ外壁の頂上へ足をかけた。そして眼下の街並みを睥睨し、苦笑う。


「これで俺達、完全に犯罪者だな」

「……ソウスケとなら、どこまでも。たとえ奈落の底でも、着いてく……」

「重いな、おい。せっかく奈落の底から抜け出してきたのに、また逆戻りしてたまるかよ」


 他愛無い会話を交わしながら見下ろす円形の街に、人の姿は無い。深夜である為仕方ないのだが。


 近くに活火山が存在するだけあって、建物は軒並み丈夫そうな造りだ。火山性の地震と、噴火による火山弾や灰の重さに耐える為である。


 幾つか灯が着いている建物も見える。大きめの通りに面したそれは、酒場か何かだろう。ここは火の鉄の街、遅くまで働いた鍛治職人達が一杯やっている頃だ。


「さて。この時間じゃ宿も取れないだろうし、夜のトリッドを散策でもしますか」

「ん、賛成」


 血濡れの黒マントを深く羽織り直し、夜の街を見下ろす宗介。隣に並ぶ白銀純白の少女がヤケに目立っているが……チラリと目をやると、天使の翼のようなドレスが瞬く間にその自己主張を抑え、あまり目立たず、されどエリスの美を引き立たせる愛らしい洋服へと変わった。


 何事かと目を剥く宗介。聞くところによると、【影化】の応用らしい。エリス程になると影に溶け込むだけでなく、その姿をコウモリ等に変えたりすることも可能らしく、それを服に応用したのだと。


 閑話休題(それはともかく)


「……まあ良い、行くぞ」

「んっ」


 タンッ、と壁の上から身を躍らせる二人の魔族。


 その姿を見た者は、居なかった。

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