サンタはホントは気まぐれで
2015年12月25日 クリスマス
そう表示されたスマホの画面を見つめながら、若い男は街中を当ても無く1人で歩く。
大通りやデパートは、すっかりイルミネーションの塊と化している。
道にはカップルや家族連れたちが溢れかえり、その付近だけ季節が違うかのように賑やかだ。
「・・・帰るか」
そう呟くと男は、人の波に逆らって歩き始める。時折肩がぶつかり嫌な顔をされるが、どうでもいい。
そうして大通りを歩いていると、突然周囲の人々がざわつき始め車道にカメラを向ける。
あまりの人の多さに、男は車道スレスレまで押し流されてしまった。
そこで、この喧騒の理由が分かった。
「ホウ!ホウ!ホウ!良い子にプレゼントは届いたかのぅ?」
どうやらクリスマスパレードなるものが開催されているようだ。
サンタクロースの格好をした女性達が踊りながら進み、その後ろにパレードカーがついて行く。
パレードカーの上には、サンタクロースに扮した男が座って手を振っていた。
「・・・チッ。あんなのがいるからクリスマスが五月蝿くなるんだ」
男は、そう一蹴すると再び家に向かって歩き出す。
歩き出す直前、サンタクロースの男と目が合った気がした。
「今年のクリスマスは例年以上の盛り上がりとなりました!」
その夜、男はテレビ画面の中で笑顔を振りまくリポーターを見ていた。
写っていたのは、昼間の大通り。例のパレードがあった場所である。
「大規模なサプライズパレードが行われたこともあり、街は大盛況です!」
そう言うリポーターの後ろでは、若者たちがポーズをとって笑い合っている。
「・・・」
男は無言でテレビを消すと、特に祝うこともせずベッドに向かう。
ピンポ~ン
そんなとき、インターホンの間の抜けた音が響いた。
「・・・勧誘か?こんな日まで大変だな」
皮肉ったように呟くと、男は玄関へ急ぐ。
ドアの穴を覗くとそこには昼のサンタ男が立っていた。
「・・・は?」
「やぁ。キミにプレゼントを届けに来たよ」
いや、正確にはサンタの服でかろうじて分かるのであって、そこには美男子が立っていた。
モデルのようなスタイルのサンタ男は、こう続ける。
「早く開けてくれないかい?いるのは分かっているんだ。強行手段に出ちゃうよ?」
「・・・ヤクザかよ」
そういって、男はリビングに戻ろうと・・・
「なんで開けてくれないのさ」
「!?」
目の前に外に居たはずのサンタ男が立っていた。
「やっぱり緩めてくれない?」
「ダメだ」
リビングには、男と麻縄で亀甲縛りにされ床に放り出されたサンタ男がいる。
あのあと、パニックになった男は近くに置いてあった縄を駆使し、とっさに思いついた縛り方でサンタ男を拘束したのだった。
「ケチ~・・・でもこれはこれで」
「そのまま外に放り出すぞ!」
「何かに目覚めそうだね!」
さっきからそんな会話ばかりしている。サンタクロースのSMなんて子供見せられそうにない。
「あぁ・・・もういい。なら質問に答えてくれ」
「ハァハァ・・・いいよ!なんでも聞いて!」
サンタ男の変態度が増加しているのに頭を痛めながら、男は問う。
「お前は何者なんだ?あと、どうやって家入った?」
「まぁ焦るな、青年よ。全部話すから、な?」
あまり年が変わらないように見えるが、ツッコミを入れるのは野暮だろう。
「じゃあ早く吐けよ」
「まったく、これだから最近のモンは・・・まぁいい。よく聞け青年!」
サンタ男は魚の様に跳ね、こう言う。
「私がサンタクロースだ!」
カチャ!(男がスマホを取り出す音)
バンッ!(サンタがスマホを蹴り飛ばす音)
ガチャン!バラバラバラ・・・(スマホが砕け散る音)
「あぁ!オレのスマホ!」
「話を聞けと言ってるだろう!?あとで弁償するから今はこっち!」
男は泣きながら残骸を集めると、サンタの前に座る。
「グスッ・・・」
「そう泣くなよ。弁償するんだから。え~と、どうやって家に入ったかだったっけ?」
そういいながら、サンタは尻のポケットから何か取り出す。
次の瞬間、サンタは縄から抜け出していた。
「ほい。このワープ端末を使っていたのでした~!どう?驚いた?」
「は・・・?ワープ・・・?」
「そう、ワープ」
ワープなんてSFの中だけだと思っていた男は驚きを隠せない。
「いや~、最近はマンションが多いし、セキュリティも優れてるからね。
部屋に入るにはこれしかないんだよ」
「もしかして、プレゼントとかも全部それで・・・」
「盗んでなんかないよ!あれは魔法で作り出したものだから。この端末もそうだよ」
端末をお手玉しながらサンタは言う。
サンタが実在していたことも相当凄いが、魔法のチート性能もやばいなと男は思う。
「ただ、サンタは物を作り出す魔法しか使えないんだ。架空のも作れるけどね」
「じゃあ・・・あんたの姿が昼間と違うのも?」
「ご明察。全身整形機を使ってどんな姿にもなれる」
そういうと、サンタの手元に別の端末が出てきた。
「だから、例えばこんな姿にも・・・」
「・・・?」
煙のようなものが出てきたと思ったら、目の前には見覚えのある女性が立っていた。
「母さん・・・!」
「ふふ・・・どうだい?」
口に出す声まで男の母親と同じものになっていた。
「で、この分裂機も起動すると・・・」
また端末を出したサンタの横に、3人の人影が出てくる。それは、またしても見覚えのある人物であった。
「父さん・・・克樹・・・美夜・・・」
それは、男の父と弟、妹だった。
「もしかして、お前の言っていたプレゼントって・・・」
「あぁ!いや、これじゃないよ。これはまだ余興に過ぎない。
これから送るプレゼントをもっと喜んでもらうための・・・ね?」
しかし、男にはすでに十分過ぎるクリスマスプレゼントだった。
なぜなら、男の家族は全員去年のクリスマスに亡くなっているのだから。
男の脳裏に去年の記憶が蘇る。
仕事がやっと一段落つき、久しぶりに実家に帰れることを伝えたときの電話越しの母の声。
『嘘!じゃあ急いでお祝いの準備しなきゃね!』
長い間連絡してこなかった男に、労いの言葉をかける父の声。
『仕事のし過ぎで体壊すんじゃないぞ?たまには電話をかけてこい、な?』
そして、懐かしい弟と妹の声。歳が離れているため、2人はまだ幼かった。
『兄ちゃん!オレ、ゲームソフトが欲しい!RPGとか!』
『あ、あの、お兄、ちゃん。美夜ね?・・・えっと・・・ぬ、ぬいぐるみが、欲しい、の』
電話を切ったあと、男は実家に住む家族のために貯めていたボーナスと給料を使って、たくさんのプレゼントを用意した。
母には綺麗な紺色のセーターと好物のカニを。
父には新しいゴルフ道具一式を。
弟には大人気のRPGシリーズ全部とそれぞれのゲーム機を。
そして妹には可愛いワンピースとたくさんのぬいぐるみを。
男はそれら全てを綺麗にラッピングして、意気揚々と実家へと帰った。
しかし、男が着いたとき、実家のあった場所には大きな火柱が立っていた。
男は持っていたもの全てを放り出して炎の中に突っ込もうとした。
隣人や野次馬たちに引き止められ、力無く地面に膝をついた。
そのとき、男は炎の中に微かに見えた。見えてしまった。
クリスマスツリーにしがみついて泣き叫ぶ弟達と、床で倒れ燃えている両親を。
消火が完了したあと、瓦礫の中からは4人の焼死体が見つかった。
両親は弟達を逃がそうとして火に飲まれたらしい。結果的に誰も助からなかったが。
次の日交番に、男の家に自分が放火したと自首してきた女がいた。
昔、男の父と付き合っていたらしい。別れたあとに幸せな家庭を築いたのが憎かったと。
よく小説などにある逆恨みというやつだ。
それからというもの、男は放心状態が続いたので半年間精神病院に通っていた。
仕事場では優秀だったため、クビにはされなかったが周囲からは浮き始めていた。
そして、事件から1年が経ち現在に至る。
「じゃあ!余興も終わったことだし、キミへのプレゼントを渡そうじゃないか!」
サンタは母親の声でそう言う。
そして、男の手の上に壊されたはずのスマホが出現する。
男が確認すると、データは全て残っているようだった。
「キミへのプレゼントは、このアプリさ」
それを見ていたサンタが手を振る。
すると、ホーム画面に新しいアプリがダウンロードされ始めた。
[霊体連絡]
そんなタイトルのアプリは、みるみるうちにインストールまで完了する。
吸い込まれるようにそのアプリを起動すると、ごく普通のメールアプリの画面が開かれた。
ただ違うところは、既に1件のメールが受信箱に入っていることだった。
操作していないのにメールは開かれる。
タイトルには、あなたの家族より。内容にはただ一言。
あなたが居てくれて幸せでした。
と。
男の瞳からは涙が溢れて止まらなかった。
そして子供のように泣き続けたあと、スマホを大事に握り締めそのまま眠り始めた。
「さて・・・ご家族の皆様。満足して頂けましたか?」
玄関へと続く廊下から声がかけられる。
「はい。サンタさん、私達のワガママを聞いて下さりありがとうございました」
男の母は男に布団を掛けながら言う。
「ほら、あんたたちもお礼を言いなさい」
「ウチの息子のために、時間を作ってもらって・・・すまない」
「「サンタさん!ありがとうございました!」」
「いやいや、たいしたことはしてないですよ。
だって人を笑顔にするのが私、サンタクロースの仕事ですから」
サンタは笑いながら話す。
「それより、お母様は私の真似が上手かったですね」
「練習するの大変でしたよ」
まるで、古い友人のように会話する2人。
「また、メールを送れるといいですね」
「きっと出来ますよ。想いが強いほど届きやすくなるのでしょう?」
サンタは端末を取り出し、起動させる。
すると、男の家族達は光を放ちながら薄くなっていく。
「ははっ。あなた達ならやりそうだ」
「でしょう?では、お仕事頑張ってくださいね」
「分かってます」
そうして、男の家族達は完全に消えた。
サンタはワープ端末を取り出しながら、言う。
「では、メリークリスマス。皆さん」
そうして、男の家には幸せそうな顔で眠りに着く家主だけが残った。
2016年12月25日 クリスマス
そう表示されたスマホの画面を見つめながら、若い男女は街中を大通りに向かって歩く。
大通りやデパートは、すっかりイルミネーションの塊と化している。
道にはカップルや家族連れたちが溢れかえり、その付近だけ季節が違うかのように賑やかだ。
「ねぇ?見たいものがあるってどこに行くの?」
「お楽しみだ」
そう話すと男女は、人の波に逆らって歩き始める。肩がぶつからないように車道スレスレを歩く。
そうして大通りを歩いていると、突然周囲の人々がざわつき始め車道にカメラを向ける。
「ホウ!ホウ!ホウ!良い子にプレゼントは届いたかのぅ?」
聞き覚えのある声、見覚えのある姿。そして、彼はこちらに気付くとこういった。
「やあ!プレゼントは届いたかい?」
ポケットの中のスマホがメールを受信したことを振動で伝えた。
冬の童話祭の存在を知り書いていたのですが、書き始めた時点で参加表明期間を過ぎていたっていう・・・
消すのは作品が可哀相だったので、読んでくれたら喜びます。(主に作者が)