表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サンタはホントは気まぐれで

作者: 蜜柑

2015年12月25日 クリスマス

そう表示されたスマホの画面を見つめながら、若い男は街中を当ても無く1人で歩く。

大通りやデパートは、すっかりイルミネーションの塊と化している。

道にはカップルや家族連れたちが溢れかえり、その付近だけ季節が違うかのように賑やかだ。


「・・・帰るか」


そう呟くと男は、人の波に逆らって歩き始める。時折肩がぶつかり嫌な顔をされるが、どうでもいい。

そうして大通りを歩いていると、突然周囲の人々がざわつき始め車道にカメラを向ける。

あまりの人の多さに、男は車道スレスレまで押し流されてしまった。

そこで、この喧騒の理由が分かった。


「ホウ!ホウ!ホウ!良い子にプレゼントは届いたかのぅ?」


どうやらクリスマスパレードなるものが開催されているようだ。

サンタクロースの格好をした女性達が踊りながら進み、その後ろにパレードカーがついて行く。

パレードカーの上には、サンタクロースに扮した男が座って手を振っていた。


「・・・チッ。あんなのがいるからクリスマスが五月蝿くなるんだ」


男は、そう一蹴すると再び家に向かって歩き出す。

歩き出す直前、サンタクロースの男と目が合った気がした。




「今年のクリスマスは例年以上の盛り上がりとなりました!」

その夜、男はテレビ画面の中で笑顔を振りまくリポーターを見ていた。

写っていたのは、昼間の大通り。例のパレードがあった場所である。

「大規模なサプライズパレードが行われたこともあり、街は大盛況です!」

そう言うリポーターの後ろでは、若者たちがポーズをとって笑い合っている。

「・・・」

男は無言でテレビを消すと、特に祝うこともせずベッドに向かう。


ピンポ~ン


そんなとき、インターホンの間の抜けた音が響いた。

「・・・勧誘か?こんな日まで大変だな」

皮肉ったように呟くと、男は玄関へ急ぐ。

ドアの穴を覗くとそこには昼のサンタ男が立っていた。

「・・・は?」

「やぁ。キミにプレゼントを届けに来たよ」

いや、正確にはサンタの服でかろうじて分かるのであって、そこには美男子が立っていた。

モデルのようなスタイルのサンタ男は、こう続ける。

「早く開けてくれないかい?いるのは分かっているんだ。強行手段に出ちゃうよ?」

「・・・ヤクザかよ」

そういって、男はリビングに戻ろうと・・・

「なんで開けてくれないのさ」

「!?」

目の前に外に居たはずのサンタ男が立っていた。



「やっぱり緩めてくれない?」

「ダメだ」

リビングには、男と麻縄で亀甲縛りにされ床に放り出されたサンタ男がいる。

あのあと、パニックになった男は近くに置いてあった縄を駆使し、とっさに思いついた縛り方でサンタ男を拘束したのだった。

「ケチ~・・・でもこれはこれで」

「そのまま外に放り出すぞ!」

「何かに目覚めそうだね!」

さっきからそんな会話ばかりしている。サンタクロースのSMなんて子供見せられそうにない。

「あぁ・・・もういい。なら質問に答えてくれ」

「ハァハァ・・・いいよ!なんでも聞いて!」

サンタ男の変態度が増加しているのに頭を痛めながら、男は問う。

「お前は何者なんだ?あと、どうやって家入った?」

「まぁ焦るな、青年よ。全部話すから、な?」

あまり年が変わらないように見えるが、ツッコミを入れるのは野暮だろう。

「じゃあ早く吐けよ」

「まったく、これだから最近のモンは・・・まぁいい。よく聞け青年!」

サンタ男は魚の様に跳ね、こう言う。


「私がサンタクロースだ!」


カチャ!(男がスマホを取り出す音)

バンッ!(サンタがスマホを蹴り飛ばす音)

ガチャン!バラバラバラ・・・(スマホが砕け散る音)

「あぁ!オレのスマホ!」

「話を聞けと言ってるだろう!?あとで弁償するから今はこっち!」

男は泣きながら残骸を集めると、サンタの前に座る。

「グスッ・・・」

「そう泣くなよ。弁償するんだから。え~と、どうやって家に入ったかだったっけ?」

そういいながら、サンタは尻のポケットから何か取り出す。

次の瞬間、サンタは縄から抜け出していた。

「ほい。このワープ端末を使っていたのでした~!どう?驚いた?」

「は・・・?ワープ・・・?」

「そう、ワープ」

ワープなんてSFの中だけだと思っていた男は驚きを隠せない。

「いや~、最近はマンションが多いし、セキュリティも優れてるからね。

 部屋に入るにはこれしかないんだよ」

「もしかして、プレゼントとかも全部それで・・・」

「盗んでなんかないよ!あれは魔法で作り出したものだから。この端末もそうだよ」

端末をお手玉しながらサンタは言う。

サンタが実在していたことも相当凄いが、魔法のチート性能もやばいなと男は思う。

「ただ、サンタは物を作り出す魔法しか使えないんだ。架空のも作れるけどね」

「じゃあ・・・あんたの姿が昼間と違うのも?」

「ご明察。全身整形機を使ってどんな姿にもなれる」

そういうと、サンタの手元に別の端末が出てきた。

「だから、例えばこんな姿にも・・・」

「・・・?」

煙のようなものが出てきたと思ったら、目の前には見覚えのある女性が立っていた。

「母さん・・・!」

「ふふ・・・どうだい?」

口に出す声まで男の母親と同じものになっていた。

「で、この分裂機も起動すると・・・」

また端末を出したサンタの横に、3人の人影が出てくる。それは、またしても見覚えのある人物であった。

「父さん・・・克樹・・・美夜・・・」

それは、男の父と弟、妹だった。

「もしかして、お前の言っていたプレゼントって・・・」

「あぁ!いや、これじゃないよ。これはまだ余興に過ぎない。

 これから送るプレゼントをもっと喜んでもらうための・・・ね?」

しかし、男にはすでに十分過ぎるクリスマスプレゼントだった。


なぜなら、男の家族は全員去年のクリスマスに亡くなっているのだから。




男の脳裏に去年の記憶が蘇る。

仕事がやっと一段落つき、久しぶりに実家に帰れることを伝えたときの電話越しの母の声。

『嘘!じゃあ急いでお祝いの準備しなきゃね!』

長い間連絡してこなかった男に、労いの言葉をかける父の声。

『仕事のし過ぎで体壊すんじゃないぞ?たまには電話をかけてこい、な?』

そして、懐かしい弟と妹の声。歳が離れているため、2人はまだ幼かった。

『兄ちゃん!オレ、ゲームソフトが欲しい!RPGとか!』

『あ、あの、お兄、ちゃん。美夜ね?・・・えっと・・・ぬ、ぬいぐるみが、欲しい、の』

電話を切ったあと、男は実家に住む家族のために貯めていたボーナスと給料を使って、たくさんのプレゼントを用意した。

母には綺麗な紺色のセーターと好物のカニを。

父には新しいゴルフ道具一式を。

弟には大人気のRPGシリーズ全部とそれぞれのゲーム機を。

そして妹には可愛いワンピースとたくさんのぬいぐるみを。

男はそれら全てを綺麗にラッピングして、意気揚々と実家へと帰った。


しかし、男が着いたとき、実家のあった場所には大きな火柱が立っていた。


男は持っていたもの全てを放り出して炎の中に突っ込もうとした。

隣人や野次馬たちに引き止められ、力無く地面に膝をついた。

そのとき、男は炎の中に微かに見えた。見えてしまった。


クリスマスツリーにしがみついて泣き叫ぶ弟達と、床で倒れ燃えている両親を。


消火が完了したあと、瓦礫の中からは4人の焼死体が見つかった。

両親は弟達を逃がそうとして火に飲まれたらしい。結果的に誰も助からなかったが。

次の日交番に、男の家に自分が放火したと自首してきた女がいた。

昔、男の父と付き合っていたらしい。別れたあとに幸せな家庭を築いたのが憎かったと。

よく小説などにある逆恨みというやつだ。

それからというもの、男は放心状態が続いたので半年間精神病院に通っていた。

仕事場では優秀だったため、クビにはされなかったが周囲からは浮き始めていた。

そして、事件から1年が経ち現在に至る。




「じゃあ!余興も終わったことだし、キミへのプレゼントを渡そうじゃないか!」

サンタは母親の声でそう言う。

そして、男の手の上に壊されたはずのスマホが出現する。

男が確認すると、データは全て残っているようだった。

「キミへのプレゼントは、このアプリさ」

それを見ていたサンタが手を振る。

すると、ホーム画面に新しいアプリがダウンロードされ始めた。


[霊体連絡]


そんなタイトルのアプリは、みるみるうちにインストールまで完了する。

吸い込まれるようにそのアプリを起動すると、ごく普通のメールアプリの画面が開かれた。

ただ違うところは、既に1件のメールが受信箱に入っていることだった。

操作していないのにメールは開かれる。

タイトルには、あなたの家族より。内容にはただ一言。


あなたが居てくれて幸せでした。


と。

男の瞳からは涙が溢れて止まらなかった。

そして子供のように泣き続けたあと、スマホを大事に握り締めそのまま眠り始めた。




「さて・・・ご家族の皆様。満足して頂けましたか?」

玄関へと続く廊下から声がかけられる。

「はい。サンタさん、私達のワガママを聞いて下さりありがとうございました」

男の母は男に布団を掛けながら言う。

「ほら、あんたたちもお礼を言いなさい」

「ウチの息子のために、時間を作ってもらって・・・すまない」

「「サンタさん!ありがとうございました!」」

「いやいや、たいしたことはしてないですよ。

 だって人を笑顔にするのが私、サンタクロースの仕事ですから」

サンタは笑いながら話す。

「それより、お母様は私の真似が上手かったですね」

「練習するの大変でしたよ」

まるで、古い友人のように会話する2人。

「また、メールを送れるといいですね」

「きっと出来ますよ。想いが強いほど届きやすくなるのでしょう?」

サンタは端末を取り出し、起動させる。

すると、男の家族達は光を放ちながら薄くなっていく。

「ははっ。あなた達ならやりそうだ」

「でしょう?では、お仕事頑張ってくださいね」

「分かってます」

そうして、男の家族達は完全に消えた。

サンタはワープ端末を取り出しながら、言う。


「では、メリークリスマス。皆さん」


そうして、男の家には幸せそうな顔で眠りに着く家主だけが残った。





2016年12月25日 クリスマス

そう表示されたスマホの画面を見つめながら、若い男女は街中を大通りに向かって歩く。

大通りやデパートは、すっかりイルミネーションの塊と化している。

道にはカップルや家族連れたちが溢れかえり、その付近だけ季節が違うかのように賑やかだ。


「ねぇ?見たいものがあるってどこに行くの?」

「お楽しみだ」


そう話すと男女は、人の波に逆らって歩き始める。肩がぶつからないように車道スレスレを歩く。

そうして大通りを歩いていると、突然周囲の人々がざわつき始め車道にカメラを向ける。


「ホウ!ホウ!ホウ!良い子にプレゼントは届いたかのぅ?」


聞き覚えのある声、見覚えのある姿。そして、彼はこちらに気付くとこういった。


「やあ!プレゼントは届いたかい?」


ポケットの中のスマホがメールを受信したことを振動で伝えた。


冬の童話祭の存在を知り書いていたのですが、書き始めた時点で参加表明期間を過ぎていたっていう・・・

消すのは作品が可哀相だったので、読んでくれたら喜びます。(主に作者が)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ