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その身キノコであるならば…

作者: 栗桐 文輝

「ふむ、なるほど私はキノコであるな。否定はしない。」


マツタケの重厚な声が響く。


「だがしかし、貴様も所詮は菌類であるのではないか?」


地を震わすような重低音。しかしその言葉に込められた圧力をものともせず、シイタケは答える。


「おれは自分がシイタケであることに、キノコであることに誇りを持っている!


たとえ…、たとえ菌類がしいたげられた生物だとしてもだ!」


その瞳には確固たる意思が宿っていた。


マツタケもそれを感じ取ったのか、さらに威圧を込めて返答をする。


「…それは洒落ではないようだな。もっとも、もし今のが洒落だったとしても、


到底笑いを取りうるモノではないがな。


いいだろう、話を聞こう。何を望みここへ出向いたのだ。」


「…あんたを、キノコの王座から引き摺り下ろしに来た。


大人しく身を引け。さもないと、実力で排除させてもらうぞ!」


シイタケの気合をマツタケは憂いた目で見つめる。


「若造。今は我々が争う時ではないということを知らんわけではあるまい?


いまや我々はマッシュルームやエリンギなどという西洋のキノコに脅かされている身だ。


くだらない体内合戦で時間を浪費することは無駄だとは思わんのか?」


「分かっている! 大和のキノコが危機的状況にあることなど、知らんほうがおかしい!


だがな、今のあんたが頂点にいる限り、大和キノコは西洋の連中に勝てない!」


シイタケは今にも飛び掛りそうな状態だが、それでもマツタケは表情を崩さすに一言呟いた。


「トリュフ…か。」


「そうだ! 中国生まれのあんたなんかより、あいつらのほうがずっと重宝がられてる!


あまつさえすればあんた、数百円のカップ茶碗蒸しの具にまでなってるんだぞ!?」


「……否定はしない。だが、貴様が私の後を継いだとして、トリュフの猛攻に勝てるとでも?」


「…勝ってやるさ。少なくともあんたより善戦してみせる!」


言ってシイタケは刀を鞘から抜いた。


それに答えるようにマツタケも笑みを浮かべ、その腰の刀を抜く。


「若いな。貴様なぞ、このマツタケにかなう道理もないというのに…。」


「黙れ!!」


シイタケはマツタケに切りかかる。が、マツタケはそれを苦もなくかわす。


「くっ!」


さらにシイタケは数回の攻撃を加えるが、その尽くがかわされてしまう。


「ふん。その程度か? 貴様ごとき、刀を振るうまでもないわ。」


そう言ってマツタケはなんと自分の腹に、刀で傷をつけた。


「な、血迷ったか!?」


「ふ、ふふ、この私が、キノコの王と呼ばれる所以、それを知るがいい。」


そしてシイタケは衝撃を受ける。彼の鼻に吸い込まれていったその香り。


マツタケの腹からあふれ出るその芳香はシイタケの戦闘意欲を急速に削いでいった。


そう、それはマツタケの最大の特徴である、独特の香り。


「理解したか!? これこそが、私なのだ!!」


「あ、ああ…、あ…」


シイタケは膝を着いた。


圧倒的な力の差を見せ付けられた彼に、もう戦う意思は残っていない。


「……完敗だ。殺せ。」


シイタケは刀を捨て、マツタケにその首をさらした。


だが、マツタケは刀を鞘に納めた。


「な…、なぜ斬らない!? おれに同情しようというのか!?」


「そうではない。私は、ただうれしいのだ。」


マツタケはシイタケに背を向け、歩いてゆく。


「この大和のキノコも、まったく捨てたものという訳ではない様だ。


貴様は生きろ。生きて、いつか私に勝ちうる実力をその身につけろ。」


「―――」


「なに、トリュフのヤツに好きにはさせん。このマツタケが大和を守ってみせる。」


「…出来るのか?」


「…シイタケよ。貴様と一緒に西洋のものどもと戦う日を、楽しみにしているぞ。」


そうしてマツタケは去っていった。


シイタケは呟く。


「――ああ、あんたとなら、勝てる気がするよ。」





いやもう、自分でもよく分かりません。

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