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ヴァージニティ

えーちゃんが迎えに来てくれるというので、私は支度をして待っていた。


エンジン音が聞こえたらって言ってたけど…

えーちゃんの車って、そんなに音大きかったっけ…?


そんなことを考えていたら、いきなり外から爆音がした。


えーちゃん?


外に出ると、街灯に照らされたえーちゃんの姿があった。

車に寄りかかって煙草を吸っている。

しかし車は…ワインレッドのZ!?


私は階段を降りて声をかけた。


「えーちゃん」


えーちゃんが私のほうを向いた。


「葵ちゃん、お待たせ」


「お待たせって…えーちゃん、この車は?」


「Z」


「いや、それはわかるけど…」


「乗って」

えーちゃんが助手席のドアを開けた。


「えーちゃんの車?」


「そうだよ」


「2台持ってたんだ?」


「この車じゃ、人数乗せられないから」

そう言って車を出した。


ヤン車?すごい音がする。


「改造車?」


「少しね。ってか、そんなに車が気になる?」


あっ…私お礼言うのも忘れてた!


「ごめんね、こんなに遅くに」


「構わないよ。どっか行きたいところある?」


「ううん…何も考えてなかった」


「夜も遅いし、俺の家でいいかな?」


「うん、ありがとう」


30分程で、えーちゃんの家に着いた。


えーちゃんは鍵を開けて私を部屋に入れてくれた。


「適当に座って」


そう言って自分は台所に向かった。


男の人の家に入るのは初めてだ。

すごくきちんと片付いていた。

そもそもモノがない。


「お酒もあるけど、飲む?」


「ううん、今日はいいや。ってか、お酒あるんだ?」


「ノブたちが持ってくるから」


「あっ、そっか。溜まり場だね」


「うん」


えーちゃんがマグカップを2つ持って戻ってきた。


「はい」


私はひとつを受け取った。


「…ホワイトココア?」


「うん。俺、好きなんだよね」


「えーちゃんて、かわいいね笑」

思わずくすっと笑ってしまった。


「葵ちゃんは、そうやって笑ってるほうがいいよ」


「!…」

さっきまでの現実が甦り、表情が曇る。


「うん。わかってるんだけどね。大丈夫なんだけどね」


「…」

えーちゃんは何も言わない。


泣きたくはなかった。ここで泣くわけにはいかない。


「ただ、なっちゃんもアヤもいいな~って思って」


「…」


「アヤに、彼氏なら簡単にできるって言われたけど、そうかな~とかさ」


「…」


ダメだ…なんか逆に泣きたくなる…


「あっ、私ばかり話しちゃってごめんね。これ飲んだら帰るね」


「葵ちゃん」


えーちゃんがマグカップを置いて、私を優しく抱き締めた。


「葵ちゃん、大丈夫だよ。大丈夫。無理しなくていいから」


「私は別に無理なんて…」


「ひとりで泣くな。全部ひとりで背負わなくていいから」


「私は、別…」

それは言葉にならなかった。

頬を涙がつたい、同時にえーちゃんに優しく口づけされた。


えーちゃんは唇を離すと私をじっと見つめ、今度は更に深く口づけてきた。

私は黙って目を閉じた。


行き場のない私の思いー

少しだけ、ここに、この部屋に置かせてもらえるかなー


えーちゃんはそのまま私をベッドに押し倒したー


初めての経験は、痛くもなく、えーちゃんの肌は温かかった。

温もりは感じたが、それは愛情ではないこともわかっていた。


「初めて、だったんだね」

えーちゃんに言われた。


「違うと思った?」


「いや、そうかなって思ってた。だって葵ちゃんは…」


「えーちゃん、煙草くれる?」

えーちゃんの言葉を遮った。

今その話は聞きたくない。


えーちゃんは煙草に火をつけて、私にくれた。


「初めてとか、最後とか、私はあんまり考えないし、えーちゃんも気にしないで」


「今日、泊まっていく?」


「あっ、明日休みだもんね。えーちゃんが良ければ、泊めてもらおうかな」


「海でも行こうか。おいしいもの食べたりとか」


「なんか、デートみたいだね笑」


だけどわかっていた。私たちは付き合えない。

彼はただ私を支えてくれているだけだ。それは愛情ではない。


次の日、私たちは、海に行ったり、ご飯を食べたり、セックスしたりして時間を過ごした。


夜になって家まで送ってもらい、


「えーちゃん、楽しかった。ありがとう。私、がんばれるよ」

そう言った。


「いつでも連絡くれたら、迎えに来るよ」


「ありがとう」


私はえーちゃんを見送って、家に入った。

もう大丈夫。きっと私は大丈夫。

明日からまた、普通の大学生活ができる。


えーちゃん、ありがとうー

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