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ひとしずくの涙

えーちゃんに電話してみようー

私は受話器を手に取った。

何回かのコールのあと、電話が繋がった。


「もしもし」


えーちゃんは一人暮しだから、他の人が出ることはない。


「もしもし…えーちゃん?」


「…葵ちゃん?」


「良く分かったね。違う女の人だったらどうするの?笑」


「なんとなく葵ちゃんかなって。どうしたの?」


あっ…用事を考えてなかった…


「あっ、なんとなくえーちゃん元気かなって…」


「…ノブに何か言われた?」


…鋭い…


「あっ、あぁ。なんかさっき電話きてさ、アヤとのこと協力してとか…」


「…そう…」


「いや、でもそれは全然構わないんだけどさ!」


焦っている自分が恥ずかしかった。

私はえーちゃんに何を期待しているのだろう。


「なんかさ!夏休みあれだけ遊んでたし、2人で話す時間だっていっぱいあったのにね!ノブもサニーも何してたんだろって思わない?」


「…」

えーちゃんは何も言わない。

私は自分を取り繕うと話し続けた。


「だってさ、なっちゃんだって電話番号さえ聞かれなかったってしょんぼりしてて、だから会えるかも分からないのに大学まで行って…」


「葵ちゃん」


私の言葉はえーちゃんに遮られた。


「ノブもサニーも、電話番号くらい自分で聞くよ。聞きたいと思えば」


「でも、実際聞いてないよね?」


「…葵ちゃん。葵ちゃんは、夏休み楽しくなかった?」


「…それは、楽しかったよ、すごく」


「ずっとこんな風に過ごせたら…って、思わなかった?」


「…!…それは…」


「俺は思ったよ。ノブもサニーも、そう思ってたと思ってる」


「そんなの!そう思ったって無理じゃん!みんなそれぞれ気持ちがあるんだから、そんなの無理じゃん!時間は止まらないし、進むしかないじゃん!夏は必ず終わるじゃん!」


「葵ちゃん。葵ちゃんの言ってることは正しいよ。だけど、あともう少しだけこのままで…って思うのだって、自然なことだよ」


「…」

そんなの、そんなの…


「でも、なっちゃんが動いた以上、もう前に進むしかないよね。背中を押したのは、葵ちゃんなんでしょ?」


「…なんか、私悪いことしたみたいね」


「そうじゃなくて。誰かがやらなければいけなかったんだよ。このままじゃいられないことだって、みんな分かってたんだ」


「…」


「で、葵ちゃんはノブに協力するの?」


「…手は打ったけど、私が何もしなくてもあの2人は上手くいくよ。だって、両思いなんだから」


「…そう…」

えーちゃんはそれ以上何も言わなかった。


「近いうちにまた遊べると思うし、楽しみにしてるね」

私はそう言って受話器を置いた。



ーそして数日後ー


「そろそろ3人来ると思うし、行こ」


みんなで遊ぶ日がやってきた。

彼らが学校まで迎えに来てくれることになっていた。

もちろん、車2台でー


私たちが3人で学校を出ると、ノブたちはもう来ていた。


「あれっ?えーちゃん??」


えーちゃんのサラサラストレートミディアムヘアがチリチリパーマになっている。


「えーちゃん、家が燃えたの?」

アヤが笑いながら言った。


「ノブには家が爆発したのかって言われたよ」


みんなが爆笑した。


「でも、えーちゃん、似合ってるよ」


とりあえずそう言ってみたが、


「笑いながら言われても…」


えーちゃんも苦笑している。


「今日は、えーじが車出せないから、俺とサニーの車なんだ」


予定通りだ。


「そっか。なら私サニーの車乗りたいな。えーちゃん、行こ」


もう強行策しかない。


「えっ?葵、ちょっと待ってよ」


「ノブの相手はアヤに任せた」


「ちょっと…葵!」


戸惑っているアヤを無視して4人でサニーの車に乗った。


アヤも諦めてノブの車に乗ったようだった。


「んじゃ、行くか」


サニーが車を走らせた。


「サニー、法定速度は守ってね」


私が言うと、


「そうだな。確か…40キロくらいか?」


助手席でなっちゃんがくすくす笑っている。


「なっちゃん、ごめんね~。こっち乗せてもらって」


「葵が謝ることじゃねーだろ」


サニーが珍しくイラついた声で言った。


「そうだよ、葵。葵は、気にしなくていいから」


なっちゃんは私の方を振り向いて、少し寂しそうに笑った。


ー後ろは見ない。絶対振り向かないー

あとは2人の問題だ。振り返ってしまえば崩れてしまう。


私はほとんど話さなかった。

他の3人も、口数が少なく、車内は静かだった。


いつもならすぐに着く公園に倍近くの時間をかけて到着した。


「ちょっと、サニー!何をトロトロ運転してんの」


降りて来るなりアヤがサニーに突っ掛かる。


「法定速度ですから」


私が言った。


「何が法定速度よ。葵、行くよ」


アヤだって気づいていただろう。

しかし、アヤは私の傍を離れなかった。


私はブランコに座って煙草に火をつけた。

「葵は煙草吸いすぎだよ!」

アヤがイライラしている。

「そうだよ。葵煙草辞めろ」

ノブまで加勢してくる。


あとの3人は、別の場所でこちらの様子を伺っている。

「別にいいじゃん、煙草くらい…」

もう、2人でやってよ…

巻き込まないでよ…


そのときだった。


「葵ちゃん」


えーちゃんが私たちの方に歩いてきた。


「煙草切れちゃってさ、コンビニまで付き合ってくれない?」


助け船!


「うん。ついでに何か買ってこよう」


私は立ち上がった。


「だったら私も…」


「アヤちゃん、ごめん。葵ちゃんに話したいこともあるから」


「…」

さすがにアヤもこれ以上言えなかった。


「サニー、車借りる」


サニーから車のキーを受け取って、


「葵ちゃん、行こ」


駐車場に向かって歩き出した。


「えーちゃんごめん。ありがとう」


「甘え過ぎだよ」


「えっ?」


「ノブも、アヤちゃんも」


そう言って車のエンジンをかける。


「…」


「葵ちゃんも…かな」


「…」


何も言えなかった。


「さて、と。あるかな…」


「煙草なら私持ってるよ」


「花火」


「花火?もう季節終わったし…。難しいんじゃない?」


「売れ残りとかあるかもしれないし。とにかく今の雰囲気良くないから何とかしないと」


「…そだね。あるといいけど…」


5軒回って売れ残りの花火を見つけた。


「えーちゃん、あった!あったよ~」


「良かった。これ買って急いで戻ろう」


「うん!これできっとみんな思い出せるね」


ーそれぞれの想いをー



公園に戻ると、4人で何か話をしていた。

アヤが素早く私を見つけ、


「葵~!どこまで煙草買いに行ってたの~?って、何?それ?」


「じゃーん!花火で~す!」


「花火?まだ売ってたんだ?」


「うん。探しちゃった。もう陽も落ちたし、みんなでやろ~。サニー、手伝って~」


「はいよ」


皆次々に花火に火をつけていく。


賑やかにはしゃいでいる様子は、夏休みそのままだった。


「んじゃ、打ち上げいくか」


サニーが打ち上げ花火に火をつけていく。


私たちは静かにそれを見守った。


ーずっとこのままでー


もう戻れないことはみんな分かっているだろう。


進むしかない。


私は…終わりにするしかない。

チラリとノブを見た。

ノブはアヤと何か話している。


ノブ…私ね、ずっと好きだったの。

そして今もー

こんなにすぐ傍にいるのに、絶対に届かないところに行っちゃったね。


…夜で良かった。この涙は、誰にも見せられないからー



片付けを終えて、みんなで駐車場に向かった。


「ノブ、悪いけど、家まで送ってくれる?」


アヤだった。


アヤももう逃げないことを決めたのだ。


これで良かったんだ。

そう思いながらも、アヤの言葉はナイフのように私を突き刺した。


「じゃ、アヤ、ノブ、またね」


「うん、またね」


「じゃ、またな」


二手に別れて帰路についた。


明日、アヤとノブから話が出るだろう。

私は耐えられるだろうか…正直自信がなかった。



「葵、私ノブと付き合うことにした」

翌朝学校に行った瞬間アヤに言われた。


「そっか。うん。良かったよ」

私は笑顔で応えた。


「初めて一緒に飲んだときから、ノブが好きだった。大切にしたいと思ってる」


「そっか。もうっ、彼氏いないの私だけじゃん。寂しいなあ~」


帰りたい、帰りたい、そんな話は聞きたくないー


「葵だって、その気になればすぐ出来るよ」


「そうかなあ…」


そんな無責任なこと言わないでよー


「ノブだって言ってたよ。葵なら誰にでも紹介できるって」


「私の失恋回数増えるだけだよ~」


これから毎日こんな会話が続くのかー

自分で決めたこととはいえ、やっぱり辛かった。


夜になると、今度はノブから電話があった。


「アヤから聞いてると思うけど…。葵、マジさんきゅな」


「私は何もしてないよ。けど、良かったね」


「いや、葵がいなかったら告白もできなかったし、そもそもアヤに出会えてないし」


!!


そうか、ノブとアヤが出会ったのは私がいたからだ…

私がノブを好きだったから…


「葵?もしもし、葵?」


「あっ、ごめん。ちょっとぼーっとしちゃって」


「葵にも誰か紹介したいよ。知ってるだろ?俺友だち多いし」


「ありがとう。そのうちにね」


もう嫌だ、もうやめてー


「たまにはまたみんなで遊ぼうぜ」


「うん。ノブ、またね」


電話を切って、すぐにまた電話をかけた。


「もしもし」


「えーちゃん…」


「葵ちゃん?」


「ごめん、また用事ないのに電話しちゃって…ひとりでいたくなくて…」


「…迎えに行くよ」


「えっ?夜遅いし…」


「30分で着くから。エンジン音聞こえたら出てきて」


「いや、でも…」


電話が切られた。


私はしばらく受話器を見つめていた。

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