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業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》  作者: ムササ
第一章 機械の奏でる狂奏曲
6/113

#5 7年前の悪夢

 夢を見ていたーー


 これまで幾度となく繰り返し見る最悪の悪夢ーー


 俺の目の前で家が、両親が、妹が燃えているーー


 ああ、止めてくれ、この後の展開は知っているーー


 父は俺を逃す為にそいつ(・・・)と戦ったーー


 母は俺を逃す為に傷だらけの身体で道を作ったーー


 妹は俺を守る為に壁となったーー


 そして俺一人だけ家の外へと逃げ延びるーー


 そしてもう一人ーー


 燃え盛る家の中からそいつ(・・・)が現れるーー


 お前には殺す価値もないーー



 〜〜〜〜〜〜〜


「はあっ、はあっ」


 カーテン越しに朝日が俺を照らす。


(ああ、またこの夢…いや記憶か…)


 既に部屋着は汗でぐっしょり濡れており、朝だというのにかなりの不快感を伴う。

 とにかくシャワーを浴びよう、そう思い立ち俺はベッドから降りる。

 今でも心臓の動悸は収まっておらず、立ち上がった瞬間強烈な立ちくらみを引き起こす。

 数分間そうしていただろうか、ようやく動悸が収まってきた、この夢を見た後は毎回こうなる。

 しかし、なんで最近見ていなかったのに今見たのか。

 そう思いながら俺は部屋備え付けのシャワーに入るべく更衣室のドアを開ける。


「…………」

「…………」


 そこには約7年振りに昨日再会した幼馴染みが着替えていた。

 ああ、そうか美月と会ったからか。

 そんな呑気な考えを巡らせているとその瞬間、俺の体は宙を舞った。



 〜〜〜〜〜〜〜



 ただいまの季節、春。

 入学式の翌日である今日は全寮制であるこのミーディア学園の学生食堂はとても賑わっている。

 だが、俺の体感気温、零度。

 理由は単純だ。俺の目の前で黙々と鮭定食を頬張る幼馴染みである。


「あの……美月…さん?」

「…………」

「さっきはごめんなさい」

「…………」


 さっきからこの調子である。

 まあ、百パーセント俺が悪いので何も言えない。

 鮭定食を食べ終え、箸を置いた美月がようやく口を開く。


「変態……」

「うっ……」


 昨日から同じ部屋で暮らす事となった幼馴染みが非難の目を向ける。


「いや、考え事してて……」

「だからと言って女性の着替えを覗いていい理由にはならない」

「すまん」

「なんの考え事をしていたのだ?」

「え?」

「だからなんの考え事をしていたのだと聞いている!鋼夜が朝にシャワーを浴びようとしていた事はわかる。だが何の考え事をしていれば私がいることに気づかないのだ」

「それは……」


 当然ながらその話は空気を重くしてしまうだろう。

 しかも、美月の思い出したくない過去も思い出させてしまうだろう。


「7年前の事か……鋼夜は嘘をつくのが下手だからな。私にかかれば大抵のことは分かる」

「ああ、そうだすまん」

「何故謝る、貴様は悪くない」

「それは……」

「大方私の事を心配しているのだろう、私は平気だ。乗り越えたとは言わんが、取り乱す程ではない」


 美月は大きなため息をついてからそう言った。

 どうやら本当に隠し事は無理らしい。

 これが以心伝心といったやつだろうか。


「まあ、なんだ……それならば仕方がない。許してやる」

「ありがとう…美月」


 あの夢には面白くない続きがある。

 それを美月に思い出させてしまう事を心配して言えなかったが、予想以上に幼馴染みは強くなっていたらしい。


「まだ、見つからないのか……」

「ああ」

「そうか……」


 予想通り重くなってしまった空気を取り払ったのはチャイムの音であった。


「おい!美月!今の予鈴だぞ!遅刻したらヤバイ!」

「ああ!ほら早くしろ!急げ!」


 見ると食堂の中には他に人影は無く、残っているのは俺たち二人だけだった。

 そして、今日はフェルリア先生のSHRである。

 遅刻などしたら恐ろしい結果になるのは目に見えている。

 結局ギリギリで間に合いなんとか遅刻は免れたものの朝流した汗がまた肌にまとわりつき、またも不快感を味わう事となったのだ。


 〜〜〜〜〜〜〜


 ここ、ミーディア学園はフリーダムナイツの操縦士を育成する事を第一としているので通常の授業というものが極端に少ない。

 例えば月曜の時間割の内、6時間中4時間がフリーダムナイツ関連の授業である。


「今話した通り、二年生へと進級するノルマは貴様らのイグナイトを自身の専用機へと進化させる事だ。フリーダムナイツは模擬戦などでも経験値は蓄積される。まあてっとり早いのはグリモアとの戦いに参戦する事だがまああまり無茶はさせられんのでな」


 今俺たちがいるのは第一訓練場。

 模擬戦の前のフェルリア先生の話である。


「うだうだしていても仕方ないか、では始めろ」


 今日は何のテストも無いようなのでみんなが何の気兼ねも無く模擬戦を始める。


「鋼夜、私とやらないか?」


 俺に声をかけてきたのは美月であった。


「いいけど、流石にこの剣を使う訳にはいかないだろ」

「それならば大丈夫だ、フェルリア先生から二本訓練用の刀を借りてきた。ほらお前の刀だ」


 そう言って美月は俺に刀を放る。

 俺はそれを受け取ると刀を抜いた。


「では始めようか」

「ああ、いつでもいいぜ」


 二人は互いに間合いを取りながらジリジリと距離を詰める。

 そして次の瞬間、二人は一斉に飛び出し刀と刀がぶつかり合う。



 〜〜〜〜〜〜〜


「美月……強くなったな」

「鋼夜もな」


 結局四回ほど美月と模擬戦をやったが、二勝二敗。

 全くの互角であった。

 俺たちは今壁にもたれかかって休憩中である。

 と、遠くから大きな歓声が上がった。

 見るとそこだけ一際大きな人混みが出来ていた。


「なんだろうな?」

「さあ?」


 俺と美月は二人でそこへと向かうのだった。

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