一章プロローグ 機械の奏でる狂奏曲《コンチェルト》
取り敢えず第1章の終わりまで書き溜めがありますので、取り敢えず三日位は3話、その後少しは二話投稿でその後は少なくとも第1章が終わるまでは毎日投稿させて頂きます。
それでは読んで頂いている皆様に感謝を込めて。これからも付き合って頂けたら幸いです。
ーーたとえ間違ってもいい、見失ってもいい、折れてもいい、泣いてもいい、転んだっていい、挫折したっていい、無くしたっていい、後ろを振り返ったっていい。だけどな鋼夜。最後に大切なものを取り違えるな。自分が自分に立てた誓いを果たせ。本当の願いを果たせ。絶対にそれだけは見失うなーー
ーー決して願いを見失うな、本当の願いを見極めろーー
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目の前に映るのは、死体、死体、死体。
端正な顔にかかった血を少年は涙と共に拭い取ると、少年は凄まじい程の業火に包まれた町を歩き出す。
少年の周りには今まで過ごしてきた両親と妹の変わり果てた体が横たわる。
少年は一人復讐を誓い、ふらついた足取りで当ても無く、歩く。
日本人に相応しい漆黒の髪は両親と妹の血で赤く染まっている。
少年の名前は朧火鋼夜。
町から抜け出した所で鋼夜の意識は途絶えた。
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時は西暦2237年。
20年前、地球は自身を【アウター】と名乗る異世界人と交流を果たす。
アウターは最初は友好的だったが、突如地球へと進行、略奪を開始。
人間を殺しながら地球へと侵略を始めた。
アウターの勢いは凄まじく、地球は殆どなす術なく侵略を許すのみだった。
これに対し人類はイージス【対異界侵略者独立戦闘機構】を設立。
本部をイギリスのバーミンガムに置き、アウターからの侵略に備えていた。
アウターは人間の外見をしながらも、実際は地球で言うヴァンパイアに近い、日光を嫌う為アウター自身が攻めてくる事は少ない。
代わりにアウターは【グリモア】と呼ばれる兵器で侵略をしてくる。
グリモアは体内に【コア】と呼ばれる人間の心臓のような物があり、それを破壊しない限り動きを止めることはない。
コアは通常兵器では傷をつける事は不可能であり、人間は進行を食い止められなかった。
それに対抗し、イージスの科学者達は現代の科学力を総動員し、唯一グリモアに対抗できる兵器【フリーダムナイツ】を開発。
フリーダムナイツは人類の反撃の起点となった。
フリーダムナイツは元々NASAが災害での人命救助や、人が自分達の力だけで天災へと立ち向かう為に作られたいわゆるパワードスーツをグリモアとの戦闘用に作り直された人型戦闘兵器である。
そしてイージスはフリーダムナイツの操縦士の育成を目的とした学校。ミーディア学園を設立し、今に至る。
そして俺の、朧火鋼夜の物語が幕を開ける。
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「へー、そうなんだ君は何処から来たの?」
「そうそう!だからさ〜!」
「知ってるイリーガル・ブルーだろ!?」
「私はフランスの……」
世界で唯一フリーダムナイツの操縦士を育成する為に、否。フリーダムナイツの操縦士を育成する為だけに創立された学校。横浜の埋め立て地に建てられた学校の入学式の前にはこれから入学という初々しい顔の生徒たちがこれから苦楽を共にする同級生達と親睦を深めるかの様に談笑をしている。
「あー、それではみなさん静粛に。これより入学式を始めます。進行は私羽金が行います」
壇上へ続く階段の脇に立った二十代前半と見られる男性教師がそう口にすると、それに伴い講堂内のざわめきが小さくなっていく。
「ただ今より、ミーディア学園高等部入学式を始めます」
俺は眠気と戦う脳を無理やり覚醒させ、しっかりと意識がある事を確認してから壇上へと向かう少女へと目を向ける。
ん?少女?
「どうもミーディア学園へようこそ。私が副校長のミリア=ハイベリオ・ミュアールです」
副校長という役職から受ける印象とは裏腹に、その少女はどう見ても俺たちよりも歳は下であろう。間違いなく小学生という見た目である。
それに気付いた生徒たちが周りの生徒達と何事かと話を始める。それにつられるようにざわめきは大きくなり、それは疑問へと変わる。それらが全く聞こえぬと言うようにその少女は淡々と式辞を始める。
それは堂に入っており、その外見とは裏腹に全く言い淀む事もなく、それはあらかじめ決められたスピーチを自動再生で読み上げているのでは無いかというほど完璧であった。
三十分程過ぎたあたりから意識を保つのが難しくなってくる。
長い式辞は当然頭に入ってくるはずもなく。
意識が朦朧とし始める。
その度に隣の女子が起こしてくれるのだが、どうしても眠気に勝てない。
「ほら、君!!起きてないと怒られるよ!?」
「ううん、だって昨日の襲撃……」
「何馬鹿な事言ってるの!?昨日日本はグリモアの襲撃受けてないよ!?」
「後五分……」
「そんな事言ってたら入学式終わっちゃうよ!?」
そんなこんなであまりにもありがたい式辞を聞き逃しながら入学式の進行は進む。
そして最後に俺が意識を失う前に聞いた言葉は、
「貴方方の美しい狂奏曲を聞ける日を楽しみにしております」
そうして俺のミーディア学園の入学式の記憶は記録される事はほとんど無く、粛々と進んでいく。
最後に聞いた狂奏曲といった時の少女の顔がこちらを向いてじっとしていた事に目を瞑っていた俺が気づくよしも無かった。
それは怒りという表情では無く、何かしらの希望を見たかのような、そんな顔で……
思考がまとまる前に俺の意識は睡魔に負け、深い眠りへと誘われた。