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榎戸 美兎ver.

榎戸version

「お嬢さん、どこかで見たことがあるような、ないような…」

私は正直焦っていた。なぜなら、私も蔭田さん、榎戸さんと同じポスプロに所属していたからだ。ただ、私は新卒で入ったのでまだまだペーペーである。

顔を覚えられていないものだと思っていたので、バーに入って行ったとき、一瞬焦りはしたが、向こうからなんとも言われなかったので気にせずにいた。

「そりゃ、見たことあるにきまってるじゃない…だって同じ会社の人だもんね。」

そう言って口火を切ったのは、蔭田さんだった。

そう既に蔭田さんは気付いていたらしく、でもあえて隠していたみたいだった。

「あぁ…って、蔭田さん、この子狙ってるんですか?この子は僕のもんですよ!」

本人を目の前にして獲得宣言…。

蔭田さんは、彼には気をつけて、と言い残して奥の部屋へと戻っていった。

(蔭田さんの言ってた、彼には気をつけて、ってどういうことなんだろう )


「僕はわざと自己紹介しただけだよぉ?

瞳ちゃんはミキサーになりたいの?編集マン?」

「あ!いい忘れてたけど、同じ部署だよ、榎戸!」

蔭田さんが扉から少しだけ顔を覗かせていた。

「わざと聞いただけだよ?」

明らかに私がいたという認識がなさそうだ。

確かに・・・影薄いから仕方ないけどさ(泣)

「じゃあ、お詫びに今から一緒にデートしよう。それでどう?」

いきなり、デートに誘われた…どうしよう…。

「嫌?俺じゃだめ?」

急に俺口調になった…。

「俺、初対面だけど…瞳ちゃんのこと好きになったみたい…」

やっぱり初対面なのか…。

でも、先輩と仲良くして損はないし…引き受けよう。

榎戸に首を縦に振った。

「よかった、そうと決まったら外に出てデートしよう?」

(でも、外雨降ってますよ?)

「マスター、傘もらいますよ?大きめの黒い傘」

マスターは無言だったが、オッケーしてくれたようだった。


ちょっと大きめなショッピングモールに榎戸は足早に入って行った。

彼は迷わず、女性服売り場に行き、近くにいた女性店員に言った。

「ここにいる彼女に似合いの服をチョイスしてやってくれ。

出来れば、下着類も着替えさせてあげてくれ。

雨に濡れているから、温かい素材の服にしてあげてくれ。

洋服が決まったら、私を呼んでくれ。」

そう言って、足早にどこかに消えて行った。

店員さんはただ呆然としていたが、榎戸さんが言ったリクエストに答えてくれた。

七分袖の白のカットソーに薄手の黒のカーディガンにグレーのショートパンツにベージュの少し厚めのストッキングにコーデしてもらった。

店員さんと話していると、

「着替え終わった?-ん、かわいいな。これでいくらだ。」

と、そそくさに私を置いてレジに向かって行ってしまった。

結局金額を見ることもできずじまいだった。

お店の前のベンチに座っていると、

「そんなしょぼくれた顔しないで?洋服気に入らなかった?」

(そういうわけじゃないんですけど…)

「じゃあ、何?」

グー…。

「おなか減ってるんだね…ご飯何食べる?」

タイミング良すぎる…自分のお腹ナイス!

(榎戸さん…)

「ん、何?」

(洋服のお金、いくらだったんですか?)

「あー、結構高かったよ?それが、どうかしたの?」

(いや、お金いくらだったか聞いて、お返ししようと思って…)

「いいよ、返さなくて…」

(でも…)

「じゃあ金額だけ言うから…返さなくていいからね。」

(どうして、そんなこと言うんですか!)

「だって、全部で10万越えだったから?

初任給が出たとしてもさすがに払えきれないでしょ?

今回は初回サービス、俺の奢り。だから返さなくていいよ、ね。」

さすがに10万はとてもじゃないが、返しきれないのも事実。

こればかりは甘えよう…。

(分かりました、ありがとうございます。)

「じゃ、ご飯食べようか…瞳ちゃん。」

しかし、その後、母親から電話が来てしまい、急遽怪しまれないために、

食事を取りやめて家路へと向かった。

家までは彼がタクシー代を奢ってもらい、家の近くまで送ってもらった。

「今日は楽しかった?瞳ちゃん。」

(洋服代、本当にありがとうございました。

今度会社の帰りにでも、ご飯誘ってください。)

「そうだね、これ俺の連絡先だから。登録しておいて。

何か困ったことがあったら、いつでも連絡頂戴。」

(ありがとうございます。)

「後、俺たち二人の時はさん付けしなくていいから。

下の名前で呼んでよ…美兎って。瞳ちゃんならそう呼んでもいいよ。

俺が許す。」

(じゃあ、美兎さんって呼んでもいいですか?)

「いいよ。でも会社にいるときは上の名前で呼んでね。怪しまれるから。

蔭田さんが俺たちの仲を明かさなきゃ、バレないと思うけど…。」

(あ、この辺で大丈夫です。今日はありがとうございました。)

私はタクシーの扉を開けてもらい、外に出た。

えの…美兎さんも何故か外に出ていた。

最初は何故外に出ていたのか分からなかったが、後でその理由が分かった。

「運転手さん、30分弱ここで待っていただけますか?」

<別にかまわんよ。>

「運転手さんの許可も下りたから、お母さんを呼んだら?

現に連れまわしたのはまぎれもない俺だし…謝っておこうかと…」

(そんなこと…しなくていいですよ…)

そうこうしているうちに、懐中電灯の光りが目を眩ませた。

『あんた、そこで何してんの?その隣にいる男は誰?

まさか、男遊びしてきたんじゃないでしょうね!』

あちゃー。お母さんが先に来ちゃったよ…美兎さん…ごめん!

「すいません、夜遅くに。私、塔さんの会社の上司の榎戸美兎と申します。」

ご丁寧に名刺まで持ってる???

『すいません、瞳の母です。いつも娘がお世話になっております。』

「たまたま会社近くで彼女と会いまして、色々と悩み事を聞いていたら、こんな時間になってしまいました。こちらこそ、申し訳ございません。」

『いいんです。主人がちょっと遅いんじゃないかって心配しておりまして…まだまだ会社にも慣れていないようで、家でもしょっちゅう愚痴っていましたから。

こういう愚痴を言い合える先輩が出来て、娘も心強いと思います。

よかったら、お茶でも…』

「あ、そうしたいところなんですけど…タクシーを待たしているんで。

今回は遠慮します。ですが、後日、是非伺わせていただきます。」

『そうしてください。

まだまだお話があるんでしょ?この辺で失礼しますね。

どうぞ、ごゆっくり。』

お母さんは、そそくさと自宅のある方へ向かっていった。

「良いお母さんじゃないか。」

(過保護なだけだよ…逆に私にとっては鬱陶しいよ。)

「そんなこと言うと、ばちが当たるぞ!」

(ごめんなさい。)

「とりあえず今日はありがとう。

これはお礼だ、受け取ってくれ。」

美兎さんは私の唇にキスをした。

(あわわ・・・こ・・・これは・・・)

「お礼だって言ったじゃないか。じゃあ、また明日。」

彼はタクシーに乗って行ってしまった。



次の日、彼は何気ない顔で挨拶してきた。

「おはよ?塔さん?」

(おはようございます…榎戸さん。)

平然と挨拶をする榎戸さんに少し驚くが、周りにはそのことを知らない先輩がたくさん歩いていた。

「来週の土曜日空いてない?」

(今のところは・・・どうしてですか?)

「この前のメンバーで飲みに行くことになってるんだけど、瞳もどうかなって。」

ちゃっかり、周りの目のことを忘れて、下の名前で呼んでるw。

(大丈夫だと思います。)

「じゃあ、土曜日。

会社の下のファミマの前で待ってるね。仕事頑張れよ。」

そう言って作業に戻っていった。

「本当にあいつと付き合っているのか?」

後ろに蔭田さんがいたことに気が付かなかった。

(先輩と後輩っていう関係だけです。)

「じゃあ、あんな奴と付き合うのは辞めろ。俺と付き合え!」

(急にどうしたんですか・・・きゃっ!)

蔭田さんの作業していた部屋は既に制作会社の人は引き上げており、薄暗かった。

「なぁ?俺と付き合おう?」

(すいません、無理です。)

「どうしてだ?

俺の方が背も高いし・・・おまえ好みじゃないのか?」

バタンッ。

「じゃあ、意地でもオレのものにしてやる。」

必要以上にキスを迫ってきたが、私はそれをかわした。

(榎戸さん以外はダメです。)

しばらくすると、蔭田さんも事の重大さに気が付いた。

「すまない、つい欲情してしまった。」

つい、欲情しただけでここまでされた私はたまったもんじゃない…。

「あれ?蔭田さんに…塔さん、どうしたんですか?そんなに裸に近い状態で…」

(これは…違うんです、本当に誤解ですから…)

「つい、僕が欲情しちゃって…ごめん。榎戸。お前の彼女…」

「蔭田さんにやられたのか…」

(はい…)

私は思わず、そんな嘘をついてしまった。

本当は何もされていないのに…。

私は身支度を整えて、部屋から出て行った。

研修はとっくに終わっていたので、何事もなかったかのように、ロッカールームに向かった。

荷物を手に取って、コートを着ようとしたとき、

「やっと見つけた、塔さん。」

息も絶え絶えに走ってきたと思われる榎戸さんが目の前にいた。

「どうして、俺から逃げる?怒られると思ったのか?怒るわけないだろ、お前は何もしていないんだから。悪いのは蔭田さんの方であって…」

(でも…ごめんなさい、本当に。)

「じゃあ、これから俺の家に来ないか?今日なら誰もいないから?」

今日なら誰もいない?普段は家に誰かいるような言いぶりだった。

(美兎さんの家は一戸建てなんですか?)

「違うよ、マンションだよ?どうして?」

(いや…今日なら誰もいないって言っていたんで、普段はどなたかいらっしゃるのかと…。)

「あー。一応嫁さんいるからね!」

えっ…えーーーーーーーー!

つまりだ…これって、不倫じゃん!浮気っていうか…。

(それは一応まずいんじゃ…)

「大丈夫!あいつも不倫してるから、平気平気。来るの?来ないの?」

(ごめんなさい、今日は用事が…)

「それって、どんな用事?俺がいたらいけない用事?」

(すいません…本当に)

急いでその場を後にし、玄関口へと移動した。


☆蔭田side☆

あんなことをした後に彼女に食事を誘った私も呆れるが、それに「うん」と頷いてくれた彼女は一体どういう神経をしているのだろうと考えてしまう。

せめて、食事の時だけでもこの欲情を抑えなければ…抑えなきゃいけないんだ!

そう考えていると、玄関口に向かって猛ダッシュで走ってくる彼女が目に入った。

「そんなに走っても、俺は逃げないよ?」

(違うんです…後ろに…榎戸さんが…追っかけてくるんです。)

私は思わず、彼女を抱きしめてしまった。

「じゃあ、こうしていれば、彼は追いかけてこないよ?」

体が徐々に熱くなるのを感じる。

「蔭田さん!彼女から離れてください。」

「そういうわけにはいかないんだよね、僕が先約を取っていたからさ。

夕食を一緒に食べる約束をしてたんだよね、申し訳ないね。じゃあ、そういうことで。」

僕は彼女の手を引いて、駐車場へと向かった。

車の中に入ると、彼女は申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。

「やっぱり榎戸のところに戻りたいか?」

(そういうわけじゃないですけど…ただあんな言い方しなくてもいいじゃないのかなって思って…)

「戻ってもいいぞ。ただ、今日の事は誰にも言わないって言ってくれるなら…いつもどおり接してくれるって約束してくれるかい?」

(そんな…もちろんです。)

「そうか…ありがとう。ほら、会社の前まで乗せていくよ。どうせ、榎戸のことだから、ファミマの前でたばこ吹かして、ブチブチ切れているはずだから。」

(そうなんですか?)

「あいつは人前に見られるのが昔から嫌いみたいでね。

でも、虫の居所が悪いと、ところ構わなく切れるのにね。

ほら、あそこでやっぱりタバコ吸ってる。早く行ってあげてくれ。

榎戸の事を宜しく頼む。」

会社の目の前に車を止めてくれた蔭田さんの車はあっという間に見えなくなってしまった。

私は榎戸さんの横に静かに座った。

(辛い時に一人で抱え込むのはよくないですよ。)

「お前がそうさせたんだろう。蔭田さんはいいのか?」

(私は榎戸さんじゃなきゃ、嫌です。)

「こんなところでお前を抱きたくなってしまった。抱いてもいいか?」

(私に拒否する権限はありません、榎戸さんは先輩ですから。)

「先輩の命令は絶対…か。」

(はい!榎戸さん、大好きです。

今までこの気持ちを言いたくてたまらなかったです。)

「そんなこと、急に言うなよ…俺のほうが照れちゃうだろ?」

なかなか抱かれなかったので、自分のほうから榎戸さんの胸に飛び込んだ。

「ここ、会社だよ…仕方ないな。」

しばらく頭をイイコイイコしてもらった。


結局、会社の人間に付き合っていることを一瞬でバレてしまった。

でも、かえって仕事がやりやすくなった。

榎戸さんの嫁さんは、ペットだったことも判明して、生涯独身貴族じゃなくなると、ちょっとしょげていた。



約束していた土曜日。

会社から榎戸さんと一緒にタクシーに乗り、六本木の居酒屋に向かった。

居酒屋に入ってみると、あの日に会ったメンバーが勢ぞろいしていた。

「遅かったね、瞳ちゃん?久しぶりだね。榎戸と付き合っているんでしょ?

先少しだけ飲んじゃったよー。」と、山川さんが。

「大庭です、先ほどは随分と寒そうにしていましたが大丈夫ですか?

代わりに僕が温めて差し上げましょうか?」

そう言って彼は耳元に息を吹きかけた。

すると私の顔は一瞬でぶあーと熱くなるのを感じた。

それを見ていた榎戸さんは面白くない顔でこっちに迫ってきた。

「おい、大庭。俺の女に手を出してんじゃねえよ。ぶっ殺すぞ。」

「そんなに怒らなくても…彼に飽きたら、いつでもまたバーにいらしてくださいね。いつでもお相手いたします。」

彼はもといた席へと戻って行った。

「そんなに榎戸怒る必要あるのか?瞳ちゃんが怖がっているだろう?

ごめんな、榎戸、自分のものがとられそうになると、いつも先に口走ってしまうんだ。」

(あなたがそれを言いますか…)

「…。」

(ごめんなさい。)

「蔭田さん、自業自得ですね、こればっかりは。」

(怒ってます?)

「怒ってないよ、その通りです。」


そんなこんなで0時近くになってしまった。

「こんな時間だとお母さんに迷惑がかかってしまうね。

ウチに泊まっていくといい。」

榎戸さんはそう言ってくれたけど、ペットがいるのがな…。

(ペットで何ですか?)

「ん?あ。言い忘れてたね。」

(えっ?何がですか?)

「俺、ペット飼ってないよ。」

嘘…。

「言ってなかったっけ?」

言ってませんけど・・・まだまだ彼は謎だらけだ。

「すいません!」

タクシーを突然拾い始めたもんだから、私はビクッとしてしまった。

「すいません、東池袋のタワーマンションの前までお願いします。」

ん?東池袋?タワーマンション?

「ここから結構距離あるから、俺の肩にもたれて寝てていいよ。」

(でも・・・)

「ほらっ。彼女なんだから、甘えなさい。」

無理やり肩にもたれかからせる美兎。

(分かった、美兎!もたれるから。)

ん?やべ、美兎って下の名前で呼んじゃったよ?

「ありがとう、瞳?お礼だよ?」

(キスなら、まだ我慢してて?)

「どうして?」

(美兎の匂いがする部屋でやってほしいから。)

「何をしてほしいの?」

(色々・・・美兎のものにしてほしいw)

「随分大胆な発言だな。酔っ払ってるのか?」

(美兎は?)

「会社で美兎って呼ぶなよ?」

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