横断歩道
今日は、私にとって、特別な日。
還暦になって初めてオーダンホドウを渡るのだ。
説明しよう。私はそんな年になるまで何をしていたのか。それは、幼い頃に突然やってきた。ハクセン病といわれる、白線を見ると突然下痢になり、そのままショックで死んでしまうという難病にかかってしまったのだ。2歳のある日のことだった、母親に連れられて初めてのオーダンホドウを渡ろうとすると、下腹部に違和感を感じた。そして2秒とかからない内に、脱糞してショックでその場に倒れてしまった。母親がすぐさま救急車を呼び、総合病院に担ぎこまれて一命はとりとめたが、無情にも医者からその病名を告げられたのだった。下痢止めも効かず、決定的な治療法が確立されないまま、つい、数年前まで隔離病棟での入院を余儀なくされていたのだ。しかし、ついに最近になってうまい棒をある化学的に特殊な液につけて食べれば治るという新事実が発見され、幸運なことに、臨床試験者に選ばれた私は、その新療法を試してみたところ、なんと白線を見てもなんともなく、蓄年の悩みがすべてドッキリだったかのようにいとも簡単に完治してしまったわけである。
そして、今、私は約半世紀のときを経てオーダンホドウを渡ろうとしている。もちろん、下腹部に違和感はない。しかし、いささか緊張したため深呼吸をして心を鎮めた。そうしている内に信号は、青に変わった。私は、予てから決めていた、右足から歩くことにした。一歩一歩、味わうように歩いてみた。アスファルトの硬さ、匂い、街のざわめき、すべてが新鮮だった。思わず、目を閉じていた。だが、そんな悠長なことをしている内に信号が赤に変わってしまった!でも、目を閉じているので、そんなことにはまったく気づかない!そこへ、巨大な4トントラックが突進! ドォーーーン!轢かれたぁーーー!一瞬の出来事だった。即死だった。そして、夢も半ばで、私の人生の本がバタンと閉じる音がした。私を轢いた4トントラックは皮肉にも、うまい棒を運ぶ途中であった。