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過去

正式なEndingが書けましたので、更新させていただきます。

この話の次話、明日に投稿する話で、正式な完結となります。


少しでもお楽しみいただければ幸いです。

 



 いつ零れ落ちるかも分からない日常。

 二人にとって等しく偶然であり、されど確かに大切となる日々は、ある日、唐突に始まった。


 ――二人が出逢ったのは、神月(みつき)が十四歳の夏。

 夏休みを満喫し、まだ夕陽が照り返す道を帰宅すべく、自転車を走らせていた時だった。

 緩やかな上り坂をよいしょっとのぼりきり、一息をついている彼女の耳に、聞きなれぬ音が響いた。

「え?」

 驚きに目をやった先は、自身の右側。当時からすでに幻想(ファンタジー)好きな彼女にとって、前々から気になっていた、古い洋館。

 音は、その中から聞こえた。

 迷うような沈黙が、しばし流れる。唐突に吹いたそよ風が彼女の髪を揺らした時、決断は決まった。

 洋館とは反対側の道の側に自転車を止めた神月は、緊張した面持ちで洋館の敷地へと入り、そっと、その重厚なつくりの扉の前に立った。

 呼鈴が無いかと彷徨った黒瞳は、しかしその存在がないと分かれば、まっすぐに扉へと向き直る。

 女の子らしい小さな手で、精一杯のノック。瞬間、その音に反応したのかは定かではないが、またもや中から音が聞こえた。

「っ――!」

 息をのみ、されど気丈にも拳をにぎった神月は、そっと、扉に手をかけた。


 かくして、それは驚くほどあっさりと開かれ、お邪魔します、と言う言葉と共に、神月は音の原因を探し始める。


 最も、まもなくして原因が見つかり、探す、と言うほどのこともせずに散策の時は終わったが。


「――あ! えっと、勝手にお邪魔してすみません! 物音が聞こえたから、何かと思って……」

「――、―――――?」

「……え?」

 一息で腰をおる謝罪と共に言い切った神月だが、眼前の人物がどこか困惑した風に発する言葉に、その顔を上げた。

 そして、ようやく自身の黒瞳が確かに捉えたその姿に、彼女はしばし魅入った。


 扉を開いた先の広い空間の部屋。そこにあった階段を上り、眼前にあった扉を開いた瞬間に、見つけた人物。

 それは、美しい男性だった。神月の主観からして、その色白の端正な顔を見るに、年齢は十代後半から二十代前半。青年と言って、差し支えの無い、若い人物だった。

 羨ましくなるほどのサラサラとした金の髪は肩口で揺れ、その澄んだ青眼はまっすぐに神月へと向けられている。

 顔の整い方から考えて、十中八九外国人であることは予想できたが、身にまとっているものが鮮やかな青いマント……否、ローブであることに、彼女は驚きを隠せなかった。

 重ねて、彼が発したその言葉。英語が苦手な神月でも、流石にそれが英語の発音でないことは、理解できた。なにせ、そもそもまともな音として、認識できなかったのだから。

 彼女の感覚に照らし合わせるならば、カタカナ表記出来なかった、と言うべきか。さして早口だったわけでもなく、むしろ確認するかのような、ゆっくりとしたものであったのに、である。


 男性――コスプレじみた格好をした美貌の青年は、ただしくぽかん、と固まる神月を見やり、一つ、深いため息をついた。それが自分に向けられたものではないと神月が分かったのは、その後に青年が自らの髪をぐちゃっと片手で乱暴に掴んだからだ。

 一層神月よりも困惑した風な、はたまた迷惑そうな表情で背後をちらりと振り返った後、青年は再度、深いため息をついた後――魔法を、使った。

「!?」

 声にならない悲鳴、あるいは歓声を上げた神月の眼前に広がったのは、実に、幻想的な光景だった。

「〈――――〉」

 そう、青年が良く通る声で何事かを呟くのと同時に、青年の頭上に巨大な紫色の魔法陣が出現したのである。

 淡く輝くそれは、ゆったりと回転し、神月に現状がまさしくこの瞬間に起こっている現実であることを、はっきりと示した。

「……ま、魔法陣……」

 思わずそう呟いたのが、実に彼女らしかった。

 そうして、数分間回転し続けた魔法陣は、青年が閉じていたその瞳を開くのと同時に、突然縮小して消え去った。

「あっ」

 思わず名残惜しそうな声を出すところも、神月らしかった。

 そして、この後の対応もまた、実に彼女らしいものであった。


 コホン。

 そうわざとらしく発せられた咳払いの後、その青瞳をまっすぐ彼女の黒瞳とあわせ、青年はそっと口を開いた。

 ――果たして、その口から発せられた、言葉は。


「――俺の言葉が分かるか?」

「……はい、分かり……ます」


 誰が聞いてもそうとしか思わないであろう、綺麗な日本語であった。


「よし。とりあえずは問題ないみたいだな……」

 神月の返答を聞いた青年は、やれやれ、と言った風にそう呟き、次いでもう一度彼女の方をみやり、難しそうに眉根を寄せた。

「えっと……?」

「あぁ、悪い。いや、な……」

 あまりにも見つめられるもので、たまらず声をこぼした神月に、青年は苦笑を浮かべて謝罪し、その流れでいかんともしがたい、と見て取れる引きつった笑みを浮かべつつ、その青い視線をそっと流した。


 当然、まさしく現状こそが〝いかんともしがたい〟ものであるのは、言うまでもない。


 青年は、わずかに何事かを思案するように瞳を閉じ、そうして開いたその視線でもう一度神月を見つめ、至極真剣な顔で、こう告げた。


「さっきのは、マジックだ」

「なわけないでしょ」


 間髪入れずに発せられた神月のツッコミが、見事に決まった瞬間であった。




 これが、ただしく異世界の住人である魔法使いの青年、エインズと、以来この洋館に通い、彼に仄かな恋心を抱く少女、神月の出逢い。


 実に奇怪かつ困惑すべき状態で出会った二人は、先の神月の発言によって、神月が秘密を守る、と言う形でその関係を成立させることとなる。


 魔法なき世界における、魔法使いの存在の、秘匿。

 そうして紡がれる日々は、確かに、二人にとっての非日常として、回り始めたのだった――。


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