2014年3月30日 そして永遠に続けと願うのだ
お待たせしました!
(始まりには終わりがあることを、あたしは多分、知っていた――)
いつもと同じバックを手に、神月は小さな洋館の扉を開く。心持ち、ゆっくりと。
「何こそこそしてんだ?」
「っ!!」
そっと部屋の中をのぞいた途端にかかった声に、彼女の肩と髪が跳ねた。
「エインズっ!」
「おう」
いそいそと部屋に入り、勢いのまま紡いだ名に、確かな応えがあった。
しばしの空白の間に、黒と青の瞳が交わる。ずいぶん久しく見なかったその瞳に、小さなため息をこぼしたのはどちらであったか。
先に笑顔を浮かべたのは、神月の方であった。
「忙しくてぜんぜん来れなかったから、もう帰ったんじゃないかって、思ってたわ」
どこかたどたどしく、そして小さな寂しさを宿すその声に、エインズは思わずといった風に苦笑した。
「どのみちちょくちょく帰ってるっつーの」
そう紡がれた言葉の意味するところは、“向こうの世界”に帰っている、というものだけではなかった。
「――そう!」
神月の瞳が輝く。嬉しそうに浮かんだ笑顔は、今度は本物だ。
エインズは、先の言葉にもう一つの意味をつけた。
つまり、同時に、“こちらの世界”にも帰ってくる、と言う意味をのせたのだ。
(ここは“俺の世界”では無いから。いつかはここに来れなくなる……それに、あいつは気付いてた)
だからこそ、来れるうちに来ておく。それがエインズの考えであった。
いつものテーブルにて一息をつく二人は、久しく見なかった互いを見やり、ふと思考にふける。
この平穏は、いつまで続くのだろうか? と。
この奇跡は、いつまで続けられるのだろうか? と。
(エインズは、本物の魔法使い。――この世界とは異なる、異世界の人……)
(俺がここにいることは、偶然であり奇跡。永劫に続くか、あるいは明日で終わるか――それすらも、予測できない事態)
だからこそ、二人は思う。
もう少しだけ、この奇跡が続けばいいと。
(……好きになったなんて、言えないや)
(見守りたくなったなんて、誰以来だったか……)
交差しない思いの中、それでも一瞬は続いていく――
『幸福を』
誰かがそう言って、そっと、微笑む気配がした。
ご愛読、ありがとうございました!
一応、休業期間も残り少なくなりましたため、ここまでで完結とさせていただきます。
最も、この物語は基本テーマが『永遠に続く物語』的な、いわゆる“未完”前提の物語なので、もしかしたら続きを書く日が来るかもしれません。
ですので、本当のエンドを書く日まで、「ending」は残しておきます。
ここまで呼んでくださった読者様方、本当にありがとうございました!