2014年2月28日 魔法
ネットの接続障害さえなければっ! 22時にはっ!!
……遅くなりました。
「お? 今日は来たのか」
トビラを開いて早々の言葉に、神月の瞳が鋭くなった。
「あのね、一応今は休みなのよ? あたしだって遊びたいわ」
不満顔ながらも部屋に入って来たその手には、いつも通りのバックが握られている。
「ああ、そういやぁそうだったな」
一つ、納得、とばかりにうなずくエインズに、睨む黒瞳はそのままで、テーブルへと置かれたパソコンが若干派手な音を立てる。
「おい、壊れるぞ」
「大丈夫よ。この子じょうぶだもの」
顔を引きつらせてのエインズの忠告に、実に根拠のない言葉を返す神月は、どうやらこの洋館へ来る前からご機嫌斜めであったらしい。がさがさとバックの中をあさる今も、いつもはなんだかんだと好奇心に輝く瞳を尖らせたままである。
魔法発動の詠唱をしちまったか、と胸中で後悔するエインズは、今日は素直に喜ばせてやろう、と決心する。
「なぁ、神月」
発された声は、いつもよりほんの少し、柔らかなものだった。
「……なに?」
「その休みってのは、確かまだ等分あるんだったよな?」
「――学校に行かないといけない日満載だけど、春休みも足したらゆうに一ヶ月はあるけど?」
なによ、と言いたげな視線に、青の瞳がかちあった。瞬間、エインズの端正な顔に、不敵な笑みがうかぶ。
「なら、今日の勉強会は無しにしろ」
あっけらかん、と言い放ったその言葉に、しばしの沈黙が降りた後、
「へ?」
と言う、気の抜けた声がこぼれ落ちる。
「ちょっ、なに言ってんのよ。エインズだって、あたしが何をしにここに来てるのかは知って」
「ああ、知ってるとも」
言葉に言葉が重なる。すっと再び合わされた青眼は、普段になく真剣さを帯びていた。
「だからこそだ。そんな不機嫌なまま勉強したって、身につくもんも身につかねぇっつーの!」
言いながら青いローブから取り出した何かが、テーブルの上で弾ける。
突然の出来事に驚いて身を引いた神月が、その輝きにまさしく、瞳を煌めかせた。
「わぁ!」
エインズがテーブルの上に叩きつけたそれは、淡い金色に光る石であった。ただし、単に光っているだけではない。その石から放たれる光は、小さな光球となり石の周りを浮遊し、生まれては消えてゆく儚くも美しい光景を奏でていたのだ。
「魔法……!」
神月の口から、小さな感嘆の声が上がる。
“魔法”――それは、確かにそう呼ばれるべき、特別な力であった。
それも、この世界にはない、遥か遠い異世界の力、である。
であるにもかかわらず、
「エインズ! この魔法はなんの魔法!? 属性は光系だよね? そうでしょ?」
常以上の好奇心をもって尋ねる神月は、その特殊な力がこの世界にあることを、すでに許容しているようであった。
そして、
「光属性の演出魔法。魔力を込められる石に魔法をかけてあるんだよ。綺麗だが照らすには光量が足りねぇから、あいにくと夜道にも敵への目くらましにも使えんがな」
神月の質問に対し、すらすらとその魔法の説明をする、エインズ。その口ぶりや、石を取り出したことから見るに、やはり彼は普通の存在ではないようであった。
「へぇ~! ねぇねぇ、敵への目くらましにも使えるってことは、光属性の魔法って、わざわざこういう風に何かにかけないと使えない魔法ってわけじゃないのよね? 」
無論、そう言って黒瞳を輝かせる神月も、普通、ではないのだろうが。
「まぁな。――見たいか?」
珍しく、実に楽しそうな表情でそう問うエインズの言葉に、神月の答えは決まっていた。
「あったりまえでしょ!」
ニッと描かれた微笑みは、どこか目の前の彼を彷彿とさせるものであった。
一番星が輝く頃。幻想的な時間が過ぎて行った。