異変の始まり
ちなみに、この時代の弾幕は殺傷性ありだから。
スペカは簡単に必殺技を出す術として使われているだけ。
弾幕ごっこはまだまだ先。
~~村~~
万屋「狐月堂」は、基本的に年中無休だ。
春花が居なくとも、それは変わらない。
客層は基本的に村の人間が多いが、時には妖怪からの依頼も多々ある。
今回、澪が引き受けたのも、妖怪から依頼されたものだった。
「森の様子がおかしい、ねぇ」
依頼人(?)は緑の妖精。
彼女が住処としている森が騒がしいという。
もともと妖精は自然そのもの、もしくは化身なので、普通に騒がしいだけではわざわざ依頼はしない。
「……とすると、これは人為的な異変かねぇ」
そう独り言を呟きながら森を散策する澪。
森は静かで、一見特に異常は無いように見えるのだが……
「……ん?」
ふと、森には似つかわしくない匂いがした。
「こいつは………油?」
もとより、鬼は特に嗅覚が強い種族では無い。
基本的に、五感は人間と同じくらいである。
しかし、その鬼でさえはっきりと匂うほど強い匂いに、澪は首を傾げる。
「なんでまた森の中で油の匂いなんかが……」
何故油の匂いがするのか、それを調べるために匂いを辿ろうとすると……。
「っ!?」
ボワッ!!
いきなり目の前が炎に包まれる。
「な、これは!?」
慌てて道を引き返そうとするが、後ろを振り向くと、背後も炎に囲まれていた。
「……最初からあたしが狙いか……」
しかし、妖精がこんなことをするとは思えない。
「とすると……森の違和感の正体ってやつかね」
「正解だ」
「っ!!誰だ!」
独り言のつもりだったので、返事が返ってくるとは思ってなかった澪は、その言葉に完全に意表をつかれる。
「俺は……そうだな。素戔嗚と言えば思い出すか?」
突然、目の前の炎だけが割け、その間から一人の男がでてくる。
「……お前が?」
しかし、以前の素戔嗚とは体格も声も違う。
「……あぁ、この姿じゃわからねぇか。まあ、これ借り物だからな」
「借り物?」
「俺が手に入れた新しい力、「狂気を司る程度の能力」で、こいつの狂気を通じて操ってんだよ」
「なっ!?」
澪が驚いた様子に満足したのか、素戔嗚は両手を広げ、芝居がかった口調で言葉を続ける。
「しかしなぁ、なかなかにして居心地がいいな。こいつの狂気は量こそ小さかったが、質は最高だ」
「……御託はいい。あんたの狙いはなんだい」
「俺の狙いはただ一つ。鈴風春花への復讐。それがおれとこいつの悲願であり、宿命だ」
「その言い方だと、その体の持ち主が春花に恨みを持っているかのようだね」
「そうだ。こいつの狂気は全てがあいつに向けられている」
「……どういうことだい?」
「説明する気は無いな。……さて、そろそろお前には死んでもらおうか」
「あたしはそう簡単にやられはしないよ?」
澪の言葉を聞き、素戔嗚は眉をひそめる。
「貴様程度では何人いても同じだ」
「な!?」
「……なら、私も混ぜてもらおうかしら?」
両者が火花を散らす中、そこに新たな人物が現れる。
炎を妖力弾でかき消しながら二人の間に入ってきたのは、日傘をさしたひとりの女性。
フラワーマスター「風見幽香」
「あなたが放った炎の所為で、私の花達が脅えてるの。その代償、あなたの命で払ってもらうわ」
たたんだ日傘を素戔嗚に向けながら、幽香は周りに弾幕を発生させる。
「貴様ごときが俺に刃向かえるとでも?」
「その言葉の間違いを、その身に文字通り叩き込んであげましょうか?」
その言葉と共に幽香は殺気のレベルをあげる。
「はっ、蟻が何匹いても河の流れには逆らえないように、雑魚がいくら集まっても無駄だ。お前等というちっぽけな力は、俺という大きな力にのまれ、流されるだけだ」
「………なあ、風見幽香。此処はあたしに任せてくれないか?ここまで言われて何もしないんじゃ、鬼の名が廃るっていうもんだからね」
澪は、己の名のために戦いたいと言うが、
「あなた……たしか、鬼山澪、だったかしら?悪いけど、それはできない相談ね。私はこいつを殺す。ただそれだけよ」
しかし、幽香は澪の提案を拒む。
「……だったら、早い者勝ち、でどうだ?」
「……まあいいわ。その提案にのってあげる」
その言葉と共に、二人は素戔嗚の元へと駆け出し、攻撃を加える。
「邪魔だ」
素戔嗚は手を振った。
しかし、それだけで腹を狙った澪の拳と、首を狙った幽香の傘の一撃、その両方が当たる寸前に吹き飛ばされる。
「ぐっ!?」
「う!?」
大きく距離を離された二人。
それでも二人の闘志は衰えず、またもや駆け出す。
その瞬間、二人は急な殺気を感じ、慌てて後ろに跳ぶ。
すると、さっきまで二人が居た場所が大きく抉れる。
それを避けたことに澪が安堵した瞬間、目の前に素戔嗚が現れる。
急に現れた素戔嗚に、澪は驚きながらも対応しようとするが、
「遅い」
腕の一振りでまたもや吹き飛ばされる。
今度は近くの燃え残った木にぶつかり、何本かへし折りながら吹き飛ばされた後、一際大きな木にぶつかり、動きを止める。
そして、そのまま動かなかった。
「次はお前だ」
素戔嗚から放たれる殺気に、幽香は思わず傘を向け、己が出せる最強の技をだす。
「元祖「マスタースパーク」!!」
その傘から放たれるレーザーは圧倒的質量を纏って素戔嗚を襲った。
……はずだった。
しかし、実際には素戔嗚が手にした白い刀によってマスタースパークは切り裂かれた。
己の全力を無傷でしのがれた事に、幽香の思考が一瞬止まる。
それでもなんとか素戔嗚の懐に入ってインファイトに持ちこもうとするが、
「消えろ」
近付いた途端、素戔嗚の蹴りに吹き飛ばされ、幽香もそのまま意識を失った。
「……こんなものか、弱い、弱すぎる」
素戔嗚はそう呟くと、すっかり暗くなった森の中を歩いていった。
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