聖夜の奇跡
辛いこともあれば……
今日は師走の25日。
時間帯は夜。
比較的就寝が早いこの村では、既に大抵の人間は寝ている。
そんな中、春花は神社の自室に座り、窓から月を見上げていた。
「…………はぁ」
霊果が死んでから1ヶ月近くが経った。
あの日以来春花は元気が無く、以前とは別人のようになってしまった。
「……春花さん、空です。……入りますよ」
そう言いながら戸を開けたのは空。
「……あなたが悲しむのもわかりますが、いつまでも悲しんでいても前には進めませんよ?」
「……それはわかってるんだけどね」
空の言葉を受け、小さく答える春花。
その様子は、普段の活発な姿が想像できないほど弱々しかった。
「……そうだ!春花さん、知っていますか?」
「何を?」
「今の時期を、外国ではクリスマス、と呼ぶそうです」
「くりすます?」
「その日は特殊な衣装に身を包んだ大人が子供達にプレゼントを配るそうですよ?」
「ふ~ん」
「だから、たまには神様らしく、子供達を喜ばせることをしましょう?最近村人に顔を見せていないじゃないですか」
「うーん………そうだね。いつまでも後悔していてもしょうがないか(それに、こんな風に後悔してる姿を霊果ちゃんには見せれないからね)」
そう呟きながら春花は立ち上がる。
その心中に今は亡き一人の少女のことを思い浮かべながら。
「そうです!その調子ですよ。何時までも悩んでいるなんて春花さんらしくありません!」
「私ってそんなに悩むことがないように見えるかな?」
「ええと、あ、ありました!それでは、この衣装を着てください!」
春花の言葉をスルーしながら空が袋の中から取りだしたのは、赤白のみで構成された衣装だった。
帽子は赤く、被るところのみ白い。
上着も赤く、あったかそうな素材だ。
下は……
「そ、空!?これはさすがに裾が短すぎない!?」
そう、下はミニスカだった。
「そうですか?これがプレゼントをするときの正装だと聞きました。さ、早速来てください」
「う…わ、わかったよ」
ガサゴソ…
「着れました?」
「着れたけど………」
「?わあ、すごく似合っていますよ!」
「でも……やっぱり裾が短くて恥ずかしい」
衣擦れの音が止んだので、空が春花に聞くと、どこか煮え切らない返事だった。
疑問に思った空が部屋に入ると、そこには着替え終わった春花がいた。
空が服装を褒めると、春花は顔を赤くしながらスカートの裾を抑える。
「はう(何なんですか、このかわいい生き物は)」
「……やっぱり、私にはこういうのは無理……」
「そんなことはありません!とてもかわいいですよ!」
「そう…かな?」
「それはもう!見る人が見たら鼻血ものです!」
「?」
「それでは、早速プレゼントを配りに行きましょう!」
「わかったよ」
「私は少し神社に残りますね。やりたいことがあるので。あ、子供達にあげるプレゼントはそこにおいてあります」
「うん。行ってくる」
そう言って春花は転移を使いながらプレゼントを配っていった。
「たっだいまー。……あれ?みんな?」
春花が帰宅すると、既に神社の明かりは消えていた。
「いつもならまだ起きている時間なのに……」
そう思いながら自室に入ると、
「「「メリークリスマス!」」」
「!?」
部屋に入った瞬間に、三人の声が聞こえ、驚く春花。
「いきなりみんなでどうしたの?」
「いえ、この日は宴会をするときにさっきの言葉を言うそうです」
「へえ、面白いね」
「それじゃあ、春花も帰ってきたことだし、宴会を始めようじゃないか」
「お腹空いた~」
「はいはい、それじゃあ、春花さんも席についてください」
「うん」
「それでは、もう一度」
「「「「メリークリスマス!」」」」
「いやー。やっぱりあそこの酒屋の酒は良いねぇ」
「澪、少しペース速くないですか?」
「別にこの程度じゃあたしはつぶれないよ」
「そうじゃなくて、他の人の分が無くなります」
「わかったよ」
「澪!?だからって私の分の料理に手を出さないでよ!」
「水花は食い意地がはりすぎです。少しは遠慮しなさい」
「それでも、私の食欲はとどまるところを知らない!」
「まったく、春花もこの二人に何か言ってあげてください」
「………」
「春花?」
「え?あ、うん。どうしたの?」
「具合でも悪いんですか?それともやっぱりまだ……」
「いや、もう大丈夫だよ。ただ、やっぱりみんなでこうやってはしゃぐのは久しぶりだなって思って」
「霊果ちゃんが来てからは、みんな霊果ちゃんにべったりでしたからね」
「そうだね。……少し夜風に当たってくるよ。」
「もう冬なんですから、早めに戻ってきてくださいよ?正直この二人を私一人で押さえ切れません」
フードファイトを繰り広げる二人を見ながら空が呟く。
「わかった」
移動…
「今宵は月がきれいだね」
「そうですね。春花様」
「っ!?その声は!?」
「お久しぶりです。春花様」
「………なんで?」
「閻魔様に相談して、今宵だけここにこさせていただきました」
「そっか」
「安心しました。もう大丈夫なようですね」
「うん。もう大丈夫。私は前に進む」
「それでこそ春花様です」
「霊果ちゃんは、幸せだった?」
「久しぶりにその質問を聞きますね」
「そういえば、初めてあったときも聞いたことだったね」
「私は幸せでしたよ?皆さんで楽しく騒ぐ生活が、私はとても好きでした」
「そっか」
「はい。だから、私はあれでよかったのです。確かに死ぬのは少し早かったのかもしれませんが、それでも私は満足です」
「そう思っていてくれたんだね」
「……どうやらそろそろ時間のようです」
「霊果ちゃん、今日あなたに会えてよかった」
「私もですよ」
「じゃあね。霊果ちゃん」
「さようなら」
その言葉を最後に、霊果ちゃんは光となって消えた。
「……いいプレゼントだったね」
「春花ー?早く戻ってきなよー」
「今行くよ」
「(今の私には、支えてくれる仲間がいる。だから、安心して眠ってね。霊果ちゃん)」
―――小話―――
「えっと、次は鈴木さんの息子さんに、あれ?プレゼントの袋が無い!?どこ行ったのー!?」
こうして村中を駆け回った春花。
その姿を見ていたのは、一人の霊と、月だけである。
嬉しいことがあるはずさ。




