喰うもの喰われるもの
深い深い森の中、その森のさらに奥に、一つの洞窟ができてから三日が経過した。
正確には、もとから洞窟自体はあったようで、その入口となる大穴を開けた春花は、その洞窟を根城として活動を始めた。
その間、ただひたすら能力を使う練習をしていた春花は、結果的に、妖力だけでなく、もうひとつの力(こちらは魔力と命名)も何とか制御することに成功したのであった。
さらに、その合間に自身の解析を続けた結果、彼女にはまだ能力があることが判明した。
その能力は、「あらゆるものを転移させる程度の能力」と、「あらゆるものを切り離す程度の能力」。
軽く使ってみた感覚では、それなりに汎用性が高そうだという感じを得たところで、現在に至る。
―――ギュルルル…
「……………お腹すいたなぁ…」
春花は、根城としている洞窟の中で一人座って腹部に手を当てて呟いた。
この体が特殊なのか、意識が覚醒してから三日間、食欲がわくことはなく、眠ることはあっても食事を一切とらずにいたが、どうやらそろそろ限界のようだ。
―ギュル〜ギュルル〜〜
「―――探しに行こっかな…」
絶え間なくなり続けることで空腹をアピールする腹の音に、春花もようやく外に出ることを決意した。
「―うぉ〜、日が眩しい〜」
三日ぶりの太陽の光(結局入って以来一度も外に出ていなかった)を全身に浴び、春花は心地よさを感じながらも目を細めた。
「…………よし、探そう」
日差しを浴びながらの伸びを終えた春花は、その小さな足で歩き始めた。
〜~~〜
「――――おっ」
てくてくと気の向くままに歩き続けていた彼女の目の前一面に広がったのは、それなりの広さを誇る湖。
「きれい(っぽく見える)水発見〜」
これ幸いとばかりに湖に駆け寄ると、両手で少しすくい、軽く匂いを嗅ぐ。
―すんすん
一応狐の端くれであるためか、彼女の知識にある以上の精度で匂いを嗅ぎわけられるが、それでも特に以上は見当たらなかった。
そんなわけで、すくった水をさっそく飲んでみる。
「ん〜〜、おいしい、のかな?」
知識にはカルキがどうとか、塩なんちゃらがどうたらこうたら云々…などがあるため、あまり基準が良くわからず、故に春花は評価を下せなかった。
とりあえず、妖怪なのだからそこらの水を飲んだ程度で壊れるような体ではないと判断。
そのまましばらくの休憩を過ごすと、不意に湖の反対側の茂みが揺れる。
ついに妖怪が出たかと身構えれば、出てきたのは一人の男性だった。
どうやらその男性も喉が渇いていたようで、一切の躊躇いもなく湖の水を飲んでいた。
日頃の引きこもり生活により若干コミュニケーションに飢えていた春花は、これ幸いとばかりに男性に話しかける。
「ねえねえ、おじさん」
「わたしはまだおじさんではないお兄さグホォ!?」
トテトテと後ろに回り込み、話しかけると、男性が振り向いた。
そして驚愕した。
あたりまえだろう、いきなり妖怪、しかもその中でも高位に位置する九尾が己の背後に現れたのだから。
「く!妖怪め!これでも喰らえ!悪・霊・退・散!!」