第三話:追記。
つい今しがた先輩と飲みにいって帰ってきた。明日も仕事があるからと、思ったよりも早く終わった。
その飲みの場で総務の先輩社員にエーコとの関係を聞かれた。
「お前、エーコのこと好きだろ?」
殺せ。いっそ殺せ。答えられない。好きに決まっている愛している。嘘でも嫌いや、興味ないなんて言えない。気まずい状態になってしまう。
「じゃあ、うちの女性社員で一番好みは誰だ?」
「……そりゃ、ノータイムでエーコですけど……」
「じゃあいっそ告っちまえよ」
「えー。でも、エーコは付き合ってる人いますよ多分」
先輩社員の酔が冷めるのがはっきりと分かってしまった。
地雷を踏んだという顔をしている。大丈夫。大丈夫。僕はまだ笑えている。
それにこの人はきっとかなり良い人だと思う。
そもそも嘘はつかないたちなので、口が動くままに聞かれてもいないことも何でも喋りまくった。この小説に関しては聞かれなかったので言わなかった。
ジムでの出来事も話した。
先輩は茶化すように笑いながら「諦めろよ。ダメダメ」と手をひらひら振る。
分かっている。ダメなのは分かっている。
そうですよねー。と、にこやかに答える俺。
我ながらポーカーフェイスは上手だと思う。
途中でトイレに入って、懐に忍ばせた胃薬その他のドーピングで体調を整える。
いや、まあ、どう考えたって、そりゃ無理だろ。
俺にはモテる要素なんてないし。
ぶっちゃけ、どうでも良くなってきた。
付き合うとかいいや。何でもいいからエーコの頭を撫でたい。
恋人のいる女性は、いきなり男の頭を撫でられたらどう思うものなのだろう。
目の前にふわふわの可愛い頭があったらついつい撫でてみたくなる。
男とはそういう生き物だ。
実を言うと、以前、エーコがぼーっとしている時に、後ろから頭を撫でたことはある。
いや。撫でるという形にはならなかった。
エーコは急に水をかけられた猫のごとく飛び上がって驚いて身構えた。
「え! なになに? どうしたの?」
「い、いや。ぼーっとしてたから……」
本当は「エーコが可愛かったから」なんて浮いた言葉を言いたかった。
チキンな俺には出来なかった。
多分、このこともエーコが警戒を強めた一因となっているのだろう。
もう色々と考えるのが、面倒くさくなってきた。
俺は虚無が好きだ。フラれたとしても、胸に穴があくだけ。
今までの人生で俺の中に生まれた穴は今も全てが癒えることなく存在している。
今更、心の傷が広がった所で……。
明日の夕食を誘うと心に誓う。
前回はヒーローショーがダメだったのだろう。
きっとそうだ。その後、ヤケクソで誘った食事も、俺の部屋で、というのがダメだったのだろう。ごめんね、エーコ。空気の読めない男で。
なら、普通に外食に誘ったらついてきてくれるんじゃないか?
うんうん。そうに違いない。
連日連夜、お誘いのシミュレートをした結果、その全てが玉砕している。
脳内エーコは常にベリーハード。
好きって言ったら「うわぁ」と蔑みの視線を送られるのがデフォ。
いやしかし、それは脳内のエーコだから。
大丈夫。実物はもっと柔らかくて暖かくて優しい。
就業後にエーコを待って、さり気なく誘えばなんら問題はない。
というか、いかに読者が相手にしてくれないからといって、このまま投げ出すのは矜持に反する。小説としての形を保ったまま話を続けるには何かしらのテコ入れが必要だ。
大丈夫。ここで断られたとしても、あと三回くらいなら誘える。
その程度のメンタルなら持ち合わせている。
まあ、どうせキョドって断られるんですけどね。
それにしても迷惑な男だ。傍から見る分には面白いが、近くにはいてほしくない類の人種だと思う。ん? 旗から見ても面白くないだって?
ごめんなさい。思い上がりでした。
思い上がりでもいい。勘違いの愛だ。ずいぶん舞い上がってる。地面から八センチ。
うおおお。
ごめんな、エーコ。こんな面倒くさい男に絡まれて。
運がなかったと諦めてくれ。
明日。俺は勝負に出る。
現在、少なくとも一日一話はアップ予定、文章量は慣れるまで未定。
描写不十分なところなどは、連絡なく加筆修正する場合があります。
ご容赦下さい。
また、何かしらのコメントをいただけると泣いて喜びます。