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花の香り




血なまぐさい匂いが充満し形を保っていない肉片が所々に散らばっている。


そこは町外れの誰も踏み込むことの無いであろう森にひっそりと隠されていた半地下の空間だった、薬草採取のためたまたま奥まで入ってしまったギルド員がそこを見つけて通報を受けて駆けつけたものの異様な雰囲気に顔を見合わせた。


ギルドマスターは不在により駆り出されたハイレは唸りながら頭を搔くとため息を零した。


「『鮮血』じゃなくて『氷の』を呼んでくれ、流石に血の匂いが強すぎて危険だ」


部屋の真ん中に残っている魔法の痕跡は魔法に強い『氷の貴公子』と呼ばれるあの男が最適だろうとハイレは判断し、呼び寄せるように言った。

今回は過去最高と言ってもいいほど残虐な殺され方をしている、本来は『鮮血』と呼ばれるギルド最強の仕事なのだが如何せんあの男は唯一の混血の為この匂いに触発されてしまう可能性がある。


今まで匂いに触発されて攻撃されたということは無いが見るからにしんどそうにするのであまりにも酷い現場は普通の人間で2番手の『氷の貴公子』に頼んでいる。


「待たせたようだね」


爽やかな笑顔の似合う優男が半地下へ入ってくると部屋の中の惨状に眉を下げた。


「これは……随分と惨い事を…明らかに人間の仕業ではないですね」


「『氷の』随分早かったな」


「えぇ!近くでデートしてたのでね」


にこりと微笑むもののその言葉の裏には邪魔しやがってという複音がついている。

しかし近くに居て気づかなかったという事は匂いで場所を把握されない工夫はされていたと判断してもいいだろう


「デートじゃなくて付きまといだろ?」


「デートですよ」


据わった目で『氷の』を見た後首を横に振り中央付近で感じる魔力痕を指さした。


「おや、これは随分と古い魔法ですね……これは………禁術の転移魔法に近しいとしか分かりませんね……」


「痕跡を辿れたりしないか?」


『氷の』は首を横に振ると肩を窄めて笑った。


「流石に禁術はちょっと…」


転移の魔法は未知の領域だ、物体での使用は国の許可を得れば実験可能だが生物を使っての実験は禁止されている。


「ですが…まぁ…………見る限り成功している訳では無いでしょうね……物質量は変わらないはずなのでこの人数の魔力数と落ちている肉片の質量が合わないのが問題です。どこかに同じようなものがあってバラバラに転移しているのか、ここが食事場所なのか……」


そう言うと胸ポケットから紙とペンを取り出して魔法陣を書き始める。


「まぁ……人間が作ったものでは無いかもしれませんし、記録するに越したことはないでしょうね」


マスターが居ない状況でこんなにも頼りがいのある2つ名持ちがいて助かったとハイレは胸を撫で下ろした。ギルドマスターの代行として活動はしているものの実はSABCDとあるランクの中ではAランクなのだ、そんなAランクなハイレが何故ギルドマスターの代理をしているかと言うと至極簡単で巫山戯た様な事だ。





━━━━━━━顔が似てる





そう、それだけなのだ。

雰囲気や並んだ時の年齢差というものはわかりやすいものの、とにかく顔が似ていてギルドマスターの子供だと思われているしギルドマスターであるウォッカも特に否定しない為何故かそのまま流されに流されてマスター代理になってしまったのだ。


マスター代理と言っても流石に国に関する事を代理する事は無くこういった普通のギルド員では手に負えない事件の担当を任されていて、自分より立場の高い『鮮血』や『氷の貴公子』を顎で使う権限くらいは貰っている、自力でどうにか出来るものに関しては呼ばないがそもそも普通のギルド員が手に負えないものをAランク程度の力の代理人に何か出来るかと言われればできるわけが無い。


本当に体良く使われているなと自覚しているが特別報酬が想像以上に美味しいので泣く泣く続けている。


「禁忌魔法は邪神との繋がりが深いとされているから邪神をよく知っているリンさんが何か分かればそれに超したことはないんですけどねぇ……残念ながらリンさんも目覚めてからしか魔法を扱えなかったようですし…」


大昔、邪神が裁かれて汚染と大いなる神の力…つまりは魔力が世界に溢れ出したという。

『氷の』が言っているリンとはまぁ……隠してもないから言うが『鮮血』の名前であり唯一の魔物との混血種で古代人だ。

と言っても世界に魔力が広がった瞬間に邪神により封印され現代で目覚めた人物なので魔力が世界に満ちる前から馴染んだこの現代までの記憶は一切ないから禁忌魔法を編み出した人間の世代とは少しズレるが。

しかしリン曰く邪神と行動を共にしていた……というよりも一緒に家族として過ごしていたので魔法のような不思議なエネルギーは知っているらしく、その中で転移も見たことあるのだと言う。


リンのような混血が存在するのはありえない事で大抵は人間の血と魔物の血が反発し合って死んでしまうのだ。

なら何故リンは無事かと言うと、どうも死ぬ前に邪神から血肉を分けてもらい反発を防いでいるのだという。

本来神は種族を作ることが出来るのだけれどもその力は別の者に与えてしまったからと説明されたようだ。

実際採血を行ったものを見てみると魔物独特の黒い血液と人間の赤い血液が混ざることなく存在しており確かにこの時代の技術ではなし得ない細工がされていた。


恐らく血を混ぜ合わせ新しい種族を作るという能力は始まりの龍に与えられたものだろう。

始まりの龍に関しては実在しているが、邪神が裁かれた箇所で膨大な汚染と魔力を吸収し眠りについており、身体から濃厚な汚染と魔力が溢れている状態だ。

始まりの龍のおかげで辛うじて人間は生き残る事が出来たと言えるだろう、現在の人間は魔力に順応した突然変異種が多く大気中の魔力によって死ぬことは無くなり魔法という特殊な力も手に入った、だが始まりの龍の近くへと行けば行くほど身体は耐えきれず最終的には身体中が溶け魔物へ変化する過程で絶命してしまう。

汚染が原因とされている現象だが未だ研究はされていないのが現状だ。


「魔法陣、書き終わりましたよ。」


『氷の』が書いた魔法陣を見てみると途切れ途切れの内容になっており昔の人間が編み出した魔法陣と少し似ているがもっと改良を施したものだった。


「既存の転移陣よりも精度が増していますね。ハイレ君も禁書の立ち入りは許可されているので転移魔法陣を見たことあるとは思いますが、どうです?」


「改良版だろうとは辛うじて認識出来る、そもそも俺は魔法が苦手だからそれ以上は聞かれても困るぞ」


「特殊魔法持ちならと思いましたがやはりダメですか」


「特殊魔法をなんだと思ってんだお前」


ジト目で見れば爽やかに笑われてしまう。

数ある魔法の中で特定の魔法しか使えない特殊魔法持ちがハイレである、植物を動かしたり音の魔法を使ったり有効性のある魔法もあるがハイレの持つ特殊魔法は夢魔法という他者の潜在意識に潜り込む特殊中の特殊魔法なのだ。

昔は氷や風も特殊魔法に分類されていたものの数を増やしていったため定番元素になっているがこの夢魔法は100年後でも一般化しないだろうなと自虐の念に駆られる。

それもそのはず夢魔法は使い所が今の時代には無い上、消費魔力は激しすぎて今の家系では曽祖父とハイレしか使えないデメリットも大きく精神障害や自我崩壊を引き起こしかねないのだ。

因みに一般魔法は解析され誰でも使えるように魔術化されているし、魔法適性がない人間でも魔法陣さえ作られていれば魔術を生成できる。


昔は夢魔法の副反応の一つである精神魔法への強制解除が隷属の魔法にも作用し強制的に隷属解除を引き起こすため奴隷解放運動では多大なる功績を得られたのだが隷属の魔法が禁止魔法となり資料も技術も全て消された現代ではもう使える魔法では無いのだ。


元々夢魔が使用する魔法を人間が使えるようになっただけとも言われており奴隷解放運動の前は夢魔との間に生まれた忌み子として迫害されていたという記録もある。


しかし魔物に転移魔法を使うものは居ないので転移魔法が特殊魔法として自然発生するというのはあまり期待は出来ないようだ。



「ガーゼやハンカチが多めに欲しいです。血の匂いがこぼれないような袋も」


「あるぞ、『鮮血』に持ってくのか?」


「えぇ、彼に何かしらの共通点が無いかを探って貰います。服も性別も分からないので匂いや血からしか特定できませんし」


検死中のギルド員に指示を出し10枚そこらのガーゼを1つづつ肉片に当てて特殊なコーティングをした小さな紙袋に入れた。

『鮮血』は魔物の血が入っているせいか血の匂いに敏感で血から男性か女性かという情報や大まかな年齢まで割り出せる。



「ハイレさん、ちょっとこれを見てください」


検死中だったギルド員に呼ばれそこを見ると歪に生成された骨が見えた。


「首の骨と骨盤が繋がってるのが分かりますか?」


「なんとなくな」


「繋ぎ目も何もなくて最初からそういう生き物のように生成されているんです。でもここの骨は砕けてて肉も最初から無かったので持ち去られている、もしくは食べられていますね」


「死因としては転移魔法による変形死ってことか……」


つまりこの転移魔法陣は転移は出来るものの人間の複雑な形を保つとは限らないという代物だということが分かった。


「ここの入口に施されていた魔法陣、どれも害は無いものだったから解除していなかったがやはり食料保存庫のような場所だったか…」


氷のように冷たく表面が少し乾いている肉片をそっと撫でる。


「この保存魔法陣の効果は凄いな…」


「保存状態に感心してる場合じゃないですってハイレさん!」


「分かってる分かってる。」


流石にこれ以上探った所で何も出てこなさそうだと判断したハイレは後はギルド員に任せると『氷の』を連れてギルドへと戻った。








「この魔法陣少し古いですがどれも改良されていて今でも使える技術ですね」


『氷の』が書き写してきた魔法陣を机の上へ並べると述べている通り少しばかり古い術式を基盤として使ってはいるものの今あるものよりも性能はいい

ここまで改良できる技術があるのに転移魔法陣はなぜあんなにも不完全な状態にしているのだろうかと不思議に思うほどだ


「リンさんはどう思う?」


部屋の片隅で布団を頭から被りまん丸となっている塊に聞くと弱々しく白い手を出してぶんぶんと振っていた。

珍しく日中に出かけていると思っていたが眠気がピークにさしかかってしまったようだ。

あれは今は眠いから寝かせてくれという意思表示である。


「今は眠いようですね、私が後で説明しますのでハイレさんも今日は休んでください。」


「そうだな、俺もマスターに手紙を出して休む事にする。」



そう言って立ち上がり部屋を出ると急に話し声が聞こえてきて気になったハイレが耳を澄ませると「私の為に弱い日光を沢山浴びて弱ってる…なんてリンさんは可愛らッ」ドンッと重そうな何かが扉にぶつかったと思えば先程よりハッキリとした声で「恥ずかしがってるリンさん…なんて最高…」と気持ち悪い発言が聞こえハイレは呆れたように首を横に振った。









それから数日間の間『鮮血』に協力してもらい1人1人の性別や大まかな年齢を割り出した。

性別は女性が多く年齢は15以上50未満という幅広い年齢だったがどの血の中にも変な匂いが混ざっていると言っていた。


花の香りと言うので手当たり次第に花を買って『鮮血』にもってきたのは良いもののその光景をみた『鮮血』は口を開け中性的で高い声を発した。


「……『氷の』に続いて君も何か拗らせたのかい?」


「プロポーズの為の花じゃねぇよ!」


「ハハッ冗談だよ」


『鮮血』はスンと鼻を鳴らすと長く手入れの施された赤髪を指先で弄った。


「全然かすりもしないね…肉に染み込んだ匂いだったから花の香りから特定出来ると思ったんだけどね…」


匂い直しにほっそりと活けられた花の匂いを嗅いでまたのそのそと布団へ入り込んだ。


「普通に花の香りが着くのと何が違うんだ?」


「肉の味に餌が関係するように日常的な花の匂いが肉に蓄積されているのさ」


「……燻製みたいなもんか?」


「近くとも遠からずって所かな」



被害者の数はそう少なくない為街を歩いていれば匂いのする人に会えるかもしれないと思ったハイレは『鮮血』に目を合わせると『鮮血』も同じことを考えていたようでアイマスク越しでも分かるほどに微笑んだ。


「出来れば曇りの日が良いけど予報じゃしばらく晴天だからね、仕方無い。」


『鮮血』は赤茶色のフード付きマントを羽織ると深々とフードを被った。


「デート中はフード付けてたのか?」


「デートじゃない。」


そっぽを向いた所を見るとフードはつけていなかったのだろう。わざわざ外して二人で出かけるなんてやっぱりデートじゃないか…?


「何処に行ってたんだ?」


「珈琲飲んで、屋台を見て回っていたよ」


…やっぱりデートじゃないか。

そう思いつつハイレは『鮮血』を連れてギルドを出ると

事件場所に近い市場から探ることにした。


しばらく探し回っているものの匂いを纏っている人物は見当たらず日差しを浴び続けている『鮮血』が休憩がてら果実の入った飲み物を飲みながらため息を零す。


「……犬になった方が良かった気がするね」


「あんな化け物みたいな犬は御免だ。また魔物が出たって騒がれるだろ」


『鮮血』は【変態】という身体の体積はそのままに身体を変形できる、女性にも変われるのは『鮮血』に性別が備わっていないからだろう。

簡単な【変態】は恐らく覚えれば誰にでも出来るが全身を別のものに変えるとなると血を扱う『鮮血』だからこそ行える芸当だ。

普通の人は太さや長さを少し変えるくらいだろう。


ここまで言えばわかるだろうが『鮮血』の言う犬は鬣はあるものの全身が人間の肌で構成されており、こう……見た目がアンデッドになりかけた犬のようなのだ。

犬の形状時は嗅覚が良くなると言っていた為探すのに変形すれば良かったと言っているもののそんな犬を連れて独り言を言いたくは無い。


「あれ?ハイレ?」


ふと後ろから声をかけられ振り向くと以前パーティーを組んだ事のある魔術師、グローが箒片手に佇んでいた。

全身白地に黄色の縁どりをした服を着ており以前見かけた地味な服装ではなかった。


「グロー…久しぶりだな、仕事中か?」


「うん!ハイレは仕事中なの?」


「あぁ、こちらはリンさんだ。」


『鮮血』ことリンは軽く会釈をしながらグローの目の前へと立ち鼻をスンと鳴らした。


「君、その香りは何処で付けてきたんだい?」


「香り?」


グローが自分のローブの匂いを嗅ぐ仕草をしてから「あぁ…」と納得するような反応をした。


「これは【フェアリー教】で使ってる香の匂いじゃないかな」


フェアリー教というなんともメルヘンな名前の宗教団体は街を守る特大防御魔法を維持している国営宗教団体で防御魔法を神として崇めている。


「そうかい…それで染み付いていたんだね…」


ちらりとハイレは『鮮血』を見ると納得したようなしてないような微妙な顔をしていた。おおよそ何に対して納得していないのか分かったハイレはグローに問いかけた。


「…信徒達は昼間は外に出ないのか?」


「そんな訳ないよ。僕だって出てるでしょ?」


「その香を付けた信徒はどうだい?染みつくほど長い時間中にいるのだったら外へはでていないのだろう?」


そう言われたグローは少し考える素振りを見せた。


「うぅん…染みつくって言ったら孤児出身の神官や教会内で住み込みしてる信徒達かな…?その人達だったらあまり外に出ないから僕みたいに香の匂いは服にしっかり着いてるかも

街住みの信徒は家庭持ってる人達ばっかりだから早く祈りを終わらせられるようにしてるんだよ。」


「神父やそういう信徒はお前みたいに掃除するのか?」


「まさかそんな、ご神像に無体働いてないなら外の床掃除なんて無意味なことさせるわけないでしょ?」


暗に自分はやったと言っている事に気づいていないのか気づいていても反省していないのか…恐らく後者だろう。


「…………因みに何やったんだ?」


「扉止めに使ったよ」


ハイレは目の前の男を据わった目で見るとため息を零し痛くなりそうな頭を抱え隣の『鮮血』は声も出ないほど笑い転げた。


「……………まぁ……それのおかげでこっちも手がかりが見つけられたから………ご神像に…感謝しないとな……」


すーっと口から息を吸い控えめな言葉をハイレが投げかけるとグローはにこやかに何かに気づいたように内ポケットを漁り始めた。

内ポケットから出たのは大雑把に象ったフェアリー教のご神像である妖精像だった。

随分と小ぶりなそのご神像をハイレに手渡すと人目につかない所へと誘導した。


「ハイレ達がなんか探ってるって事は何かの事件関係でしょ?そのご神像を持って一般人を装って来てくれれば協力するよ」


「協力するっつっても一信徒がどうやって協力するんだよ」


「やだなハイレってば一信徒がこんな上質なローブ着れるわけないでしょ」


「お前が神父なのかよ!?なんで神父がご神像扉止めに使うんだよ!?何なんだよ!?何で信徒に教会追い出されてんだよ?!」


『鮮血』は最早立っておられず崩れ落ちながら地面を叩く

グローは日常茶判事なのか悪びれもない笑顔を向けながら「じゃあ!またね!」と大きく手を振って教会内へと帰っていった。



「はーっ、ハハハッ…き、きみ、君の、知り合い面白い子だね、僕涙出てきたよ。」


「お気に召されて光栄だ、俺も流石にあのポンコツが神父だとは思ってなかった。」


以前パーティーを組んでいた時も大概だったものの、魔法の腕だけは素晴らしかった。

そう魔法“だけ”は、剣を扱わせてみようとすれば握力が無いのかいつの間にか剣は消え去り近くにいる人間の顔面ギリギリに刺していたり、体力を付けさせようと走らせようとすれば開始早々足がもつれ転けてしまいそのまま気絶。

弓を扱わせてみようとすれば弦を離した瞬間矢は真下へと急降下。


魔法以外の才能が皆無なのである。


「もしかしてあの子魔法が得意なのかい?」


「あぁ、魔法だけは多分『氷の』と引けを取らないと思うぞ」


冗談混じりにそういうと冗談だと分かっている『鮮血』は鼻で笑い首を軽く横に振った。


「なら神父になるのも納得だよ。フェアリー教においての立場は魔法が全てらしいからね、あれだけ匂いが染み付いてたなら孤児出身なのかな」


「あぁ、そういや昔孤児出身って言ってたな」


何にせよフェアリー教の神父が協力的な事は幸先が良い。

お言葉に甘えて協力を仰ごうじゃないかと貰ったご神像をポケットにしまった。


「っていうか何で魔法が全てなんだ?」


「さぁ?そこはウォッカに聞いてみてよ、ウォッカが言ってたことだし。」


ウォッカとはギルドマスターの事だ、最近は高濃度魔力地帯の調査の為ギルドを不在にしている。

高濃度魔力地帯へ行けると言うことは魔力が高いのだろうとは思うが戦っている所は見たことがない、魔力結晶からリンを解放してギルドに置いて面倒を見ている為面倒見はいい人なのは分かるものの変わらない表情は何を考えているのか理解し難いが知識が豊富で何故そんなことを知ってるんだと言いたくなるほどだ。


恐らくウォッカと言えど内部事情までは知らなさそうではあるものの完全に否定しきれない分ハイレは聞いてみることにした。


「何でパーティーを解散したんだい?」


「メンバーの一人が魔術学園の全寮制に入るって言うからな、流石に学生を昼間から連れ回す訳にもいかないし、俺はギルドマスター代理として一応勉強中だったしな。」


「なら学生に居るんだね?何て名前なんだい?もしかしたら僕の弟子が知ってるかも」


少しばかり前から『鮮血』は1人の学生の面倒を見るようになった。真っ白で少し気弱な印象を受けるその青年は『鮮血』の見込み違いで無ければ『勇者』と呼ばれる古代人の血筋で人を制圧するのに長けた魔法を持っているのだとか…。


「メルエム、メルエム・パルムだ」


「わぁ、噛みそうな名前だね…」


「一見そんなに強くなさそうな見た目だが見込みがいのある実力を持ってる。」


魔力に関してパーティー内では恐らくハイレが1番下で筋力だけならばハイレが上なのだがそのメルエムという子供は魔法と剣を扱う器用さを持ち合わせており、仮試合をした時に魔剣士を相手にするとこんなにも面倒臭い相手なのかと成長するのが怖くなった事をハイレは思い出した。


「僕の弟子と仲良くなれそうだったら面倒見てあげるよ」


「助かる」





ギルド内へと帰ってくるとウォッカの親戚らしい10歳いくかいかないか位の子供、イシュヒリリュード(愛称イシュド)が出迎えてきた。


「おかえりハイレ、何か進展掴めた?」


「まぁ、無駄じゃなかったな」


柔らかな栗毛を撫でるとイシュドは黄緑色の眼を細めて笑うとまた給仕室へと戻っていってしまった。

恐らく紅茶でも入れてくれるのだろう。


マスターであるウォッカが放置している為時たまギルドの手伝いをしているのを見かけるが子供らしく飽き性なのかいつの間にか居なくなることが多い。ほんの少しギルド受付のストレスが和らぐから猫の手ぐらいだと思えばいいだろう、ウォッカは随時居場所をイシュドには教えているらしく戻ってきそうな時はイシュドから報告を貰っている。


『鮮血』の部屋に入ると『鮮血』はよろよろと布団の中へ潜り込んでしまった。


「こりゃまた暫くは出てくるの無理そうだな」


「………」


隣に置いてあるソファに腰掛けるとひょっこりと音もなく現れたイシュドが紅茶と珈琲を机に置き一緒に座り始めた。


「うお……いつの間に…」

「リンはまたお日様浴びてきたの?」

「あぁ、少しでも手がかりを掴みたくて連れ出しちまった、悪いな」

「リンが無理してないなら僕は気にしないよ」


にこりと微笑みながらイシュドは珈琲をちまちまと飲む、ハイレはミルクと角砂糖1粒だけ入れ混ぜるとゆっくりと口をつけた。


「ウォッカさんはまだ帰って来れなさそうなのか?」


「うん、まだ当分難しいからハイレに任せるって言ってたよ、ウォッカに何か伝えたいなら手紙出すけど」


「あぁ、ちょっと聞きたいことがあるから手紙を出して欲しい


フェアリー教が狙われる理由は何となく分かる、高濃度魔力地帯に順応した魔族は高濃度魔力地帯から離れれば離れるほど身体の維持に魔力を消費してしまう、それ故に魔力を多く含む魔物や人間を食べる事で回復するしかない。

フェアリー教は魔力の高い一般人が多く非戦闘員な為格好の餌食なのだろう、しかしそう狙われやすいならば対魔族に特化した神官はいるのではないかとハイレは踏んでいる。


イシュドがポケットから出した手紙にフェアリー教についてウォッカの知っている範囲と今後における調査でフェアリー教の関係者との親睦についてつらつらと書くとまた何処かに行っていたイシュドがシーリングスタンプを持ってきた、先読みして持ってきくれるこの子供は将来有望であり是非早く大人になってマスター代理をして欲しいものだとハイレはしみじみと思った。


特殊な方法で育てた魔物が高濃度魔力地帯へも手紙を届ける事が出来るようで、その世話を任されているイシュドには流石のウォッカと言えど甘いのだろう。


「これを頼んだぞ」


蝋で手紙に封をすると手紙をイシュドに渡す、イシュドは玩具のように小さなリュックにそれを入れるとそそくさと離れていったのだった。

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