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その物の価値

掲載日:2026/01/07

短編です

 とある店の、一つの商品に過ぎなかった私を、彼は買ってくれた。


 ふわふわと広がるレース、キラキラと光るビジュー、淡いピンク色に、バラの絵の描かれたドレス。私は完璧な存在だった。

 職人の手で作り出されてから、ずっと、誰かの手に取ってもらえる日を夢見て、高級ブティックの片隅で、誰かを待ち続けた。

 待てど暮らせど、私を手に取る人はいなかった。どうして?私こんなに綺麗なのに。

 ある日私は、SALEと書かれた棚に移動させられて、店頭に置かれた。目に付きやすい位置に移動してくれるなんて、ようやくこの店も私の価値がわかったようね。

 それでもしばらくは、誰も私に触れることは無かった。高価な私を敬遠する気持ちはわかるけど、そろそろ誰かが現れてくれないかしら。待つのも結構疲れるのよ。

 そう思っていると、申し訳なさそうな顔をした、少しガタイのいい男が私の方をじっと見つめていた。思い出してみると、時々うちの店に来ては、私を見て帰っていくだけの、冷やかしの男だった。

 男は私の値札をチラリとみて、レジに進んだ。

「か、彼女への・・・お、贈り物で・・・」

 目を泳がせながらそう言った男に、冷たく値段を伝えるレジ係。でも私はようやく誰かの手に渡った!ようやく私の役割が果たせるわ!!

 そう思っていたのに、この男、私を着ようともしない。ただ見つめているだけ。よく考えれば、この男は私を着ることのできる体格じゃないわ。そういえば彼女になんて言っていたけど、その彼女を私は見たことがない。

 それから私は、時々クローゼットから出されて、男にまじまじと観察される。そして別の人間が部屋に入ってくるときは、クローゼットの奥底にしまい込まれてしまった。

 私は未だ、誰の腕も通さないまま。ホコリだけが積み上がっていく。最初こそ男はホコリを払ってはくれたけど、次第にソレもしなくなっていった。

 いつしか私は、ハンガーにかけられることもなく、畳まれたまま、衣装ダンスの奥に定住することになった。もう、皺がついちゃうじゃない。

 そうして、長い時間が経った頃、衣装箪笥が久しぶりに開かれた。

「ねぇ、お母さん、これ、あたし貰ってもいい?」

「どれ?おじいちゃんの服であなた着られるのある?」

「タンスの奥に入ってた!」

 幼い女の子が私を引っ張り出した。

「なにそれ・・・だいぶ古い物みたいね・・・女性もの?お父さんなんでこんなの持ってたのかしら・・・」

「バラの絵が可愛い!」

「ちょっとダサくない?・・・まぁでも最近レトロが流行ってるしねぇ・・・」

 私の事を話しているみたい。幼い女の子は、私をギュウと抱きしめた。

「私が大きくなったら、この服着てお出かけするの!」

「まぁ良いんじゃない?さて、他の服は、誰も着られないから処分でいいかな」

 そう言って、大人の女が、私以外の服たちを袋に乱雑に詰め始めた。

 私の価値がわかる人間はまだいたようね。この子はまだ私を着こなせないだろうけど、いつか私に腕を通してくれる人が現れると信じてた。この子が私に見合う大人になるのが楽しみだわ。



——その物の価値——

物の価値の話

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