その物の価値
短編です
とある店の、一つの商品に過ぎなかった私を、彼は買ってくれた。
ふわふわと広がるレース、キラキラと光るビジュー、淡いピンク色に、バラの絵の描かれたドレス。私は完璧な存在だった。
職人の手で作り出されてから、ずっと、誰かの手に取ってもらえる日を夢見て、高級ブティックの片隅で、誰かを待ち続けた。
待てど暮らせど、私を手に取る人はいなかった。どうして?私こんなに綺麗なのに。
ある日私は、SALEと書かれた棚に移動させられて、店頭に置かれた。目に付きやすい位置に移動してくれるなんて、ようやくこの店も私の価値がわかったようね。
それでもしばらくは、誰も私に触れることは無かった。高価な私を敬遠する気持ちはわかるけど、そろそろ誰かが現れてくれないかしら。待つのも結構疲れるのよ。
そう思っていると、申し訳なさそうな顔をした、少しガタイのいい男が私の方をじっと見つめていた。思い出してみると、時々うちの店に来ては、私を見て帰っていくだけの、冷やかしの男だった。
男は私の値札をチラリとみて、レジに進んだ。
「か、彼女への・・・お、贈り物で・・・」
目を泳がせながらそう言った男に、冷たく値段を伝えるレジ係。でも私はようやく誰かの手に渡った!ようやく私の役割が果たせるわ!!
そう思っていたのに、この男、私を着ようともしない。ただ見つめているだけ。よく考えれば、この男は私を着ることのできる体格じゃないわ。そういえば彼女になんて言っていたけど、その彼女を私は見たことがない。
それから私は、時々クローゼットから出されて、男にまじまじと観察される。そして別の人間が部屋に入ってくるときは、クローゼットの奥底にしまい込まれてしまった。
私は未だ、誰の腕も通さないまま。ホコリだけが積み上がっていく。最初こそ男はホコリを払ってはくれたけど、次第にソレもしなくなっていった。
いつしか私は、ハンガーにかけられることもなく、畳まれたまま、衣装ダンスの奥に定住することになった。もう、皺がついちゃうじゃない。
そうして、長い時間が経った頃、衣装箪笥が久しぶりに開かれた。
「ねぇ、お母さん、これ、あたし貰ってもいい?」
「どれ?おじいちゃんの服であなた着られるのある?」
「タンスの奥に入ってた!」
幼い女の子が私を引っ張り出した。
「なにそれ・・・だいぶ古い物みたいね・・・女性もの?お父さんなんでこんなの持ってたのかしら・・・」
「バラの絵が可愛い!」
「ちょっとダサくない?・・・まぁでも最近レトロが流行ってるしねぇ・・・」
私の事を話しているみたい。幼い女の子は、私をギュウと抱きしめた。
「私が大きくなったら、この服着てお出かけするの!」
「まぁ良いんじゃない?さて、他の服は、誰も着られないから処分でいいかな」
そう言って、大人の女が、私以外の服たちを袋に乱雑に詰め始めた。
私の価値がわかる人間はまだいたようね。この子はまだ私を着こなせないだろうけど、いつか私に腕を通してくれる人が現れると信じてた。この子が私に見合う大人になるのが楽しみだわ。
——その物の価値——
物の価値の話




