タイトルは面白そう
祖父の小道具屋で見習いを始めて三か月。
今日の仕事は、届いた郵便物の整理だった。
その中に、一枚だけ見覚えのない年賀状がある。
宛名は私。
差出人は――行方不明になった祖父。
裏には墨で一行、
「合い言葉は“雨宿り”」
胸騒ぎがして店の奥へ向かうと、埃をかぶった木箱がぽつりと置かれていた。
朱で大きく≪タイトルは面白そう≫と書かれている。
祖父の癖字だ。胸の奥がざわつく。
蓋を開けると、古いオルゴールがひとりでに鳴り出した。
その旋律は、祖父がよく口ずさんでいた歌だ。
あの夜、急にいなくなった祖父を探して夢中で名前を呼び続けた日のことが胸に戻ってくる。
指先が震える。なくしたはずの時間が、そっと息を吹き返す。
次に出てきたのは“雨の日のサバイバル術”と書かれた冊子。
ページには、幼い私の手を引いて森を歩いていた祖父の、優しい癖字が並んでいた。
青い封筒には舞踏会の招待状。
「踊れぬ日ほど、踊る理由がある」
不器用で、でもいつも前を向く背中が蘇る。
紙袋からは甘い匂い――
祖父が焼いてくれた、世界で一番不格好で、でも一番においしかったあのホットケーキの香り。
その下には、小さな銀のベルがあった。
札には“最後のギフト”とある。
その重みに、祖父の想いが確かに宿っていた。
そして一番下の白い封筒には、短い地図。
目的地は、祖父とよく自転車を押して歩いた神社の裏路地。
何かに迷うたび、私は何度もあの場所を思い出していた。
外へ出た瞬間、ぽつりと雨。
まるで合図でもしたかのように、強くなる。
私はベルを握りしめ、雨の中を駆けた。
軒先にぽつんと、雨を避ける影がひとつ。
「……おじいちゃん?」
喉の奥で声がほどけた。
信じたい気持ちと怖さが、一度に押し寄せてくる。
祖父は振り返り、昔と同じ懐かしい表情で微笑んでくれた。
「これで、もう迷わない。
お前の道は、お前が決めて歩ける。
それだけで十分だよ」
涙で視界が滲む中、ベルが雨を切り裂くように澄んだ音を立てた。
私は胸の奥が熱くなるのを感じた。
その瞬間、ふと思った。
――祖父がそう言うなら、私の人生の“タイトルは面白そう”で行こう。
どんな未来でも、自分で選んで進めばいい。
雨脚は静かに弱まり、風鈴がひとつだけ、優しく鳴った。




