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悪役令嬢なのに政略結婚したらツンデレ王子に溺愛されて、元婚約者に浮気されたうえに婚約破棄されたけど復讐も愛も手に入れた件

作者: 結城斎太郎

私はエリシア・グランフィールド。

社交界で“悪役令嬢”などと囁かれているが、本人としてはただサバサバしているだけだと思っている。

噂好きの貴族令嬢たちに、愛想笑いの一つもしないだけで「冷たい」とか言われるのは心外だ。


そして私は今、隣国ヴァレスタ王国の第一王子、レオナルド=ヴァレスタ殿下と婚約している。

もちろん恋愛などではなく、政略結婚だ。


「……私に構わなくて結構ですわよ。お互い自由にやりましょう」

「フン、言われなくてもそのつもりだ」


冷えた視線とツンとした態度。

レオナルド殿下は典型的なツンデレだ。私はすぐに気づいた。

というのも、彼は私のことをまるで嫌っているような態度をとる一方で、なぜか行く先々に現れる。

しかも、誰かに褒められたときだけ、耳まで赤くして黙ってうなずいていたりする。


正直、可愛い。


が、私はそれどころではなかった。

なぜなら――


「エリシア、お前との婚約を破棄する!」

「……は?」


婚約者だった第一王国の王太子、アレクシスが、舞踏会のど真ん中で爆弾を投下してきたのだ。


「お前は婚約者として相応しくない。誰にでも冷たく、社交界でも評判が悪い。僕は真の愛を見つけたんだ!」

「……ほう?」


そして横に立っていたのは、よりにもよって私の“親友”を名乗っていた令嬢だった。

甘えた声で「お妃さまは私の方が……」とかなんとかぬかしている。


「それで、浮気していたと?」

「そ、それは……!」

「答えになっていないわね」


舞踏会の場で、私は冷静に事実を突きつけ、証拠を提示した。

メイドが密かに報告してくれていた内容と、手紙のやりとり。

公爵家の令嬢である私が、無傷で婚約破棄されると思っていたなら、それは甘すぎる。


「この場をもって、王太子殿下との婚約は破棄いたします。……ただし、これは私から、ですわ」

「なっ……!」


彼の顔が赤くなり、そして青くなった。


すぐさま私は父の命により、隣国との政略結婚に駆り出された。

気が重かったが――結果的には、これは“勝ち”だった。



---


「あの王子、さっきからエリシア様にずっと視線を……」

「くく、惚れた顔してんな。殿下、めちゃくちゃ分かりやすいわ」


私と婚約したレオナルド王子は、確かに最初こそ冷たかった。

だが、時が経つにつれ……徐々に、私に向ける態度が変わってきた。


「エリシア、おまえ……今日のドレス、似合ってる」

「ありがとう。素直に褒められると嬉しいわ」


「べ、別におまえのために褒めたわけじゃ……!」

「はいはい、ツンデレ王子」


つい口にしてしまったが、レオナルドの耳は見る間に真っ赤に染まった。


そんな彼に、今度は別の男――従兄の第二王子が言い寄ってきた。


「エリシア殿、あんなツンケンした男より、私の方が優しくできますよ?」

「……ごめんなさい。私はもう婚約者がいるの」


その瞬間――レオナルドが現れた。


「手を出すな」

「お、お前……」

「俺の妻に、二度と近づくな」


あのツンデレ王子が、堂々と私のことを「妻」と呼んだ。


「……なによ。そんなに独占欲強かったの?」

「おまえが他の男に笑いかけるたび、俺は心臓が引き裂かれるような気分だったんだ。……ずっと、好きだった」

「……!」


嘘のように真っ直ぐなその瞳に、私は思わず胸を突かれた。


――なんで、こんなに不器用なのよ。

――そんなの、もっと早く言ってくれればよかったのに。



---


そして、私たちは結婚式を挙げた。


純白のドレスに身を包み、バージンロードを歩く。

レオナルドは相変わらず仏頂面だったが、指輪をはめる手は震えていた。


「レオナルド=ヴァレスタ殿下、あなたはエリシア=グランフィールドを永遠に愛し、守り、支えることを誓いますか?」

「……ああ。命に代えても、必ず」


「エリシア=グランフィールド、あなたは――」

「誓います。絶対に手綱は離しませんので、覚悟しておいてください」


ざわめく参列者たちの中、レオナルドは不服そうに口を開いた。


「……おい、手綱ってなんだ」

「つまり、尻に敷くってことよ。これからもよろしくね、私の旦那様」


「…………エリシアのくせに……!」


その顔は照れに染まり、誰よりも幸せそうだった。



---


――後日、私たちの国では“恐妻家王子”と“やたら強い王妃”の噂が広がる。


「レオ、今日のお茶菓子美味しいわね」

「俺が選んだんだ」

「まあ、やるじゃない」

「褒めてくれた。やった」


子犬のようにしっぽを振る王子に、私の侍女たちはニヤニヤしていた。


「お妃様、あの王子様、完全に手懐けられてますわ」

「むしろ、飼い主とペットの関係に見えるな」

「ちょっと、それ聞こえてるからな!」


そんな日常を過ごしながら、私は思う。

――過去の傷も裏切りも、今となっては笑い話だ。

この人と出会えたから。


私はもう、悲劇の悪役令嬢ではない。

今は、誰よりも愛される“最強の王妃”だ。



---


エピローグ(ギャグ風)


「エリシア、膝枕してくれ」

「……は?」

「してほしい。今日も仕事頑張った」

「やっぱり甘えん坊じゃない、ツンデレ詐欺王子」


「詐欺じゃない! ツンの面は……最近、隠れてるだけだ」


「……バレてないと思ってるの?」

「……うるさい! それでも、エリシアが好きなんだからな!」


――今日も、我が家は平和です。



---



「レオ、書類のサインが抜けてるわ」

「む……またか」

「はい、三回目。今日だけで」

「……うっ……」


結婚して三ヶ月。

私はヴァレスタ王国の王妃、エリシア=ヴァレスタとして公務をこなしつつ、相変わらずツンデレで不器用なレオナルドの尻を叩く日々を送っている。


政略結婚のはずだったが、今や彼は私を溺愛してやまない。

四六時中、愛の言葉や甘えた視線を送ってくる始末だ。


とはいえ、それだけではない。

婚約破棄されたあの時の“復讐”も、密かに進行していた。


「例の王太子とその婚約者、失脚が決定したそうです」

「そう。やっと、ね」


第一王国――アレクシスとその浮気相手の令嬢は、次々と発覚した贈収賄と背信行為により、貴族会からも王宮からも追放された。

情報提供者はもちろん、私とレオ。


「……本当に、汚かったな。あいつら」

「でも、私にとっては運命のドアが開いた日だったわ。あの婚約破棄で、あなたに出会えたもの」


「っ……ばっ……なっ……!」

「レオ、顔真っ赤よ?」

「黙れ……バカ……エリシアのくせに……!」


そんなツンデレ具合も、今では愛しい。

とくに最近は、私にすっかり懐いて、寝る前には“なでなでしてくれ”と甘えてくるようにすらなってしまった。


「レオ、さっきから私の膝を見て何をしてるの?」

「の、乗ってもいいかと思って……」

「犬じゃないんだから」



---


ある日。

城の庭で開かれた昼食会で、また一人の若手貴族が私に声をかけてきた。


「王妃様のように聡明で、美しい女性は、国の誇りです」

「ありがとう、でも私には過剰な賛辞は不要よ」


その瞬間。


「――過剰な接近もな」

「うおっ……!」


レオナルドがいつの間にか背後に立っていた。

剣の鞘をコツコツと足元で鳴らしながら、明らかに機嫌が悪い。


「エリシアは俺の妻だ。……何か言いたいことがあれば、俺を通せ」

「も、申し訳ありません!」


若者が逃げていくのを見て、私は肩をすくめる。


「ねえ、レオ。嫉妬してたの?」

「うるさい」

「でも、可愛いわよ」

「やめろ! にやけるな!」


「でも、レオが“俺の妻”って言うときの顔、ちょっとドヤ顔になってるわ」

「や、やめろおおぉ……!! 恥ずかしい!」



---


夜。


「エリシア」

「なあに?」

「……好きだ」

「ふふ、私も」

「好きすぎて……息ができないくらいだ」


ベッドの上、そんな甘い台詞を囁かれても、私はすぐには照れない。


「それは過呼吸だから、一回深呼吸しましょっか」

「……おまえ、ほんと優しくないな」

「でも、そんな私が好きなんでしょう?」

「うん」

「素直!」


抱きしめられた腕の中で、くすぐったいほどに心が満たされていく。


「レオ。私はあなたに救われたの。あの婚約破棄があったから、私は真の愛を見つけられた」

「……俺はおまえに愛されて、王になった気分だ」


そんなことを言いながらも、彼は相変わらず抱き枕のように私に抱きついてくる。


「レオ、くっつきすぎ」

「やだ」

「……ほんと、どうしてこうなったのかしらね」



---


その後、王宮の広間で小さなトラブルが起きた。


「王妃様の発言は失礼です!」

「ええ、そうかしら?」

「まるで我々を犬か何かのように扱って――」

「違うわ、あなたたち犬の方がまだ可愛いですもの」


――ピシィ。


広間が凍りつく。だが次の瞬間。


「……ぷっ……ははっ……!」


レオナルドが笑い出した。


「エリシア、最高だ。俺の嫁、最強すぎるだろ」

「ええ、最強で最高の王妃よ」


後日、王国内の政治風刺漫画で「最強王妃とタジタジ王子」なる連載が開始され、王子が本気で抗議文を出すことになるのだが――


「作者、城の料理長の娘だった」

「ごめん、それ私がネタ提供した」

「おまえかぁぁぁぁっ!!」



---


そして、とある晴れた日。


「エリシア。……俺、おまえの尻に敷かれて幸せだ」

「今さら何を」

「愛してる。これからもずっと、俺の隣にいてくれ」

「当然でしょ。あなたの妻なんだから」


「エリシアといると、毎日が面倒で、疲れて、だけど楽しくて、最高だ」

「ええ。あなたとなら、どんな日も愛せるわ」


ふたりは再び、唇を重ねた。


永遠を誓った、ただ一度の愛。


――それが、悪役令嬢の私が手に入れた、本当の幸せ。



---


おまけ(ギャグエピソード)


「エリシア、最近お前が強すぎて影が薄いって言われてる……」

「誰に?」

「宮廷詩人。『王子の存在感は薄氷』って詩を発表してた……」

「ふふ、詩心あるじゃない」

「褒めてんのか!? それともバカにしてんのか!?」


「そもそも、私が目立つのはあなたがツンツンしてるからよ」

「俺が悪いのか!?」

「そうよ。だからもっと素直になりなさい」


「……エリシア、好き。なでて。あと、膝枕して。ついでに耳掃除も」

「……甘やかしすぎたかしらね」


王妃の部屋から、今日も平和な悲鳴が響いている。



---



ヴァレスタ王宮――政務棟、午前十一時。


「……王妃殿下、またお茶菓子をお召し上がりに?」

「そうだけど?」

「ええと……その、王母様から“王妃はもっと慎み深くあるべき”と……」

「はあ?」


私は、王宮の侍女の震える声に眉をぴくりと跳ね上げた。


「まさか、姑からまた陰口?」

「い、いえっ! 陰口ではなく……“ご助言”と仰っておりました……」

「それ、悪口をマイルドに言い換えただけでしょ」


私は溜息をついた。


結婚して半年――夫となったレオナルド王子とは相変わらずラブラブだが、唯一の問題、それが姑である王母・カミラだ。


元王妃であり、現国王の姉でもあるという立場から、宮廷では誰も逆らえない“王宮の鋼鉄ばばあ”。

通称「氷の王妃」として名を馳せ、現在は王宮に残って影の実権を握っている。


そして私はそのカミラに、目の敵にされていた。


「政略結婚で来たとはいえ、もう少し控えめに」「口の利き方が男らしい」「王子を尻に敷いている」

うるっっっさい!!


いや、事実だけど!



---


そんなある日――


「エリシア。母上が来ている」

「お茶にでも誘ってくれるの?」

「いや、“王妃教育がなってない”って言って、朝から部屋で説教されてる」

「なによそれ」


王宮の一室に向かうと、案の定、王母カミラはオーラ全開で椅子に座っていた。


「まあ、王妃殿下。また随分と派手なドレスですこと」

「ありがとうございます、王子が選んでくれたものですの」

「……まぁ、レオナルドが……?(小声)」

「はい。『可愛い』って三回言ってから送りつけてきました」


「ッ……!」


カミラの眉がぴくぴくと跳ねる。

よし、第一撃命中。


だが、ここからが本番だった。


「それにしても、王妃たる者、もっと貞淑であるべきですわ。まるで平民のご婦人のようにお喋りなこと」

「まあ、それは失礼。平民の皆様に」

「……っっっ」

「お母様こそ、そろそろ私のこと“悪役令嬢”って陰で呼ぶのやめたらいかが?」


「呼んでませんわ!!!」

「じゃあ誰かが伝書鳩で嘘ついてるのね。あらあら、困ったわ」


言葉の剣と剣が、カツンと火花を散らす。


そこに、件のツンデレ王子がやってきた。


「……またか」

「レオナルド!」

「おい母上、俺の嫁に何か言ったか」

「これは家族として当然の――」

「うるさい」

「……はい?」


「俺の嫁は可愛い。文句を言うやつは処刑対象だ」

「お、おまえ……!」


私は思わず吹き出す。


「処刑対象て」

「いや、法律作るわけじゃないけど。心情的に」

「なんですの、そのバカ夫婦漫才は!」


カミラの叫びが部屋に響く。が、王子は冷ややかに眉をひそめた。


「てかさ、母上さ。昔から俺に言いたいこと言ってくるけど、あれ全部逆効果だからな」

「な、なにを……!」

「勉強しろって言われたら寝たし、剣術やれって言われたら逆方向走ってったし」

「まさか……!」

「嫁にああしろこうしろ言ったら、もっと愛したくなるからやめてくれ」


「ほんとにツンデレね、あなた」

「お前に似た」


「ちょ、レオナルド! それはさすがに、母親に失礼よ」

「え、なんで。エリシアと母上、めっちゃ似てるじゃん。口悪いし、態度でかいし、人の言葉を切り返すのがうまいし」


「……レオナルド。後で話があるわよ」

「はい」


カミラと私がそろって腕を組んだその瞬間――


「……こわ」


息子のぼやきに、部屋の空気がふっと緩んだ。



---


「それにしても、王妃殿下。少しは家事もなされては?」

「王子が全部やりたがるので」

「……それは……レオナルド、あなた……」

「だって、エリシアが疲れてるのを見ると……キュンとする」

「変態か!!」


カミラがついに素のツッコミを入れた。

私は思わず拍手する。


「お母様、今すごく人間味がありましたわ!」

「くっ……あなたたち、本当に……!」


王母カミラ、ついにぐぬぬ顔で黙り込む。


「……まあいいわ。私も少し、言い過ぎたわね」

「ありがとうございます」

「ただし、あなたが王子を甘やかしすぎたら――そのときは、私が本気で怒りますから」

「……その時は一緒に締め上げましょう」

「……意外と気が合うかもね」

「それ、今言おうとしたところです」


二人の間に、奇妙なシンパシーが流れた。


レオナルドは戦慄した。


「まさかの嫁姑同盟……!?」

「レオ、しばらく大人しくしていた方がいいかもね」

「ま、待て! やめろ、やめてくれ……!」



---


数日後。


宮廷の一室では、次のような会話が交わされていた。


「最近、王子様……すっかり言いなりですね」

「でも幸せそうですわ。王妃様と王母様、二人に愛されて」

「……ただ、ちょっと可哀想にも見える」


レオナルド王子、今日も王妃に肩をもまれながら、お菓子を献上していた。


「エリシア、今日の焼き菓子、母上がくれた。けどお前に食べてほしいって言ってた」

「まぁ……デレたわね、お母様」


「それにしても、母上に言いたいこと言えるようになったの、お前のおかげだ」

「私も言いたい放題に育てられたから、似た者同士よ」

「……愛してる」

「知ってるわよ。こっちも愛してる」


今日も王妃は最強で、王子はそれに頭が上がらず。

でも、そんな二人を、王母は微笑みながら見つめていた。


「ふん。まあ……あの子が幸せなら、いいかしらね」

(※本人には絶対言わない)



---


おまけ・幕間劇(お笑い編)


「レオ、靴揃えておいてって言ったわよね?」

「え、あれって今日だった?」

「昨日も言ったわよね?」

「お、覚えてる……けど忘れてた」

「お母様~? 王子がまたやらかしましたよ~」

「ちょ、待って! 本気でやめて! それだけは!!」

「母上ーーー!!!!!」


王妃と王母の最強タッグに、王子は今日も頭が上がらないのであった。



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