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『アポリアの群青 ―青の記憶域(メモリア)―』

第四話:君に名を与える、その代わりに僕を忘れてもいい

名前をなくして、ようやく君に会えた。

でも、

今ここで名前を返したら、

君はもう、僕を知らないかもしれない。

________________________________________

夜が明けて、潮が完全に引いた。

砂の上に残ったのは、小さな足跡と、

砕けかけた貝殻のような“文字のかけら”。

【……ri……el】

彼はそれを拾い上げた。

小さな板のような石に、かすれて彫られた“言葉の亡骸”。

その断片に、胸が締めつけられる。

「ミ……リエル……?」

思わず声に出したその名前に、

彼女は一瞬だけ、肩を震わせた。

「……それ、どこで聞いたの?」

「わからない。

でも……その名前を呼ぶと、君のことを失いそうで、怖くなる。」

彼女はゆっくりと目を伏せた。

「それ、きっと、私の“前の名前”。

けどね……もし今、思い出しちゃったら──

今の私が、壊れちゃう気がするの。」

彼は何も言えなかった。

ただその場に立ち尽くし、

その“名”の破片を手の中で握りしめる。

風が吹く。

文字の粒が空に舞い、一瞬だけ群青が“記憶色”に染まった。

「だったら……」

彼は言った。

「僕が代わりに、その名前を持っているよ。

君が思い出せなくても、忘れてしまっても。

君が“誰”なのか、僕だけは覚えてるから。」

「それって……ずるいよ。」

彼女が泣きそうに笑う。

「ずるいけど……でも、うれしい。」

彼はふっと笑った。

「君の名前は、ミリエル。

でも、今ここにいる君がそう呼ばれたくないなら──

僕は、ただ“君”と呼び続けるよ。」


挿絵(By みてみん)


________________________________________


名前を持つことは、

世界に“定義される”ということだった。

君が壊れないように。

僕がその名前を、ずっと抱えていよう。

君がまた、それを受け取れる日まで。


※本作およびその世界観、ならびに登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨、ニーチェ的愛 など)は、シニフィアン・アポリア委員会によって創出・管理されたオリジナルコンテンツです。


著作権および構文的構造に基づく創作概念の保護のため、無断転載・類似表現の流用・二次利用を固くお断りいたします。

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