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『アポリアの群青 ―翼の折れた世界で―』


第三話:君の片翼に触れた朝に

飛べない君を、

僕は、ただ見ていることしかできなかった。

それでも、抱きしめたいと思ったんだ。

飛ばなくても、君は、君だから。

________________________________________

夜明け前の風は、思ったより冷たかった。

群青の空が、白んでいく。

潮が引いたあとの浜辺に、ひとつの“かたち”が横たわっていた。

それは──片翼だった。

骨のように白く、

風化した羽根のような痕跡を残したその化石は、

まるで**誰かの“飛べなかった過去”**が形をとったかのようだった。

「……これ、なんだと思う?」

彼がそう呟くと、

彼女はゆっくりと顔を伏せた。

「きっと、昔の私の残骸。」

その声は、震えていた。

「私はね、誰かを助けようとして、

結局、見殺しにしたの。」

彼は言葉を失った。

「だから、ずっと“飛べない”ままなの。

私には、翼があったのに。

でも、あのとき、それを使わなかったの。」

沈黙が流れた。

彼はただ、その化石を見つめていた。

それがまるで、彼女の罪そのものであるかのように、黙って。

「ねえ……君は、それでも私を選ぶの?」

その問いに、彼は息を飲んだ。

選べるのか?

この人の罪も過去も──すべてを知ったうえで。

でもその瞬間、彼は理解した。

彼女の問いは、

“赦して”という願いではなかった。

「君が飛べなかったこと。

それは罪じゃない。

でも、君が今、それでも誰かを選ぼうとしてること……

それは、すごく勇気のあることだと思う。」

彼女は、ほんの少しだけ、目を見開いた。

「僕も……まだ飛べないままだけど。

でも、君となら、歩いていける気がする。」

その言葉は、誰のためでもなかった。

ただ、彼女のためだけに構文された祈りだった。

そしてその朝、

風がひとひらだけ、翼の化石を撫でていった。

まるでそれが、「ありがとう」と言っているように。

________________________________________


飛べない人のそばにいること。

それが、愛のかたちであっても、いいんじゃないか。

君が罪を抱えていても、

僕は、その翼の跡に触れていたいと思った。





※本作およびその世界観、ならびに登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨、ニーチェ的愛 など)は、シニフィアン・アポリア委員会によって創出・管理されたオリジナルコンテンツです。


著作権および構文的構造に基づく創作概念の保護のため、無断転載・類似表現の流用・二次利用を固くお断りいたします。

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