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『アポリアの群青 ―迷える子羊の島―』

第二話:忘却の花は、君に似ていた

忘れたはずの痛みが、


君の声に、花のかたちで咲いた。

僕はまだ、愛せるのかな。

“忘れたい”と願った記憶ごと、君を。

________________________________________


挿絵(By みてみん)


砂の海に、ぽつりと咲いていた。

花だった。

名前も種類も知らない──ただ、小さな白い花。

彼はそれを、しばらくじっと見つめていた。

胸の奥が、妙にざわついていた。

まるで、忘れたはずの記憶が、花に姿を変えて立っていたような感覚。

「それ、“ユーフォリア”って呼んでた気がする。」

彼女が言った。

「え?」

「なんとなく……そんな気がしたの。私も、ちゃんとは覚えてないんだけど。」

彼は花から彼女へ視線を移した。

その髪が、風に揺れている。

「君……前にも、そんなふうに、僕に名前を教えてくれた気がする。」

「そっか。だったら、たぶん私は──

何度でも君に名前を贈る人だったんだろうね。」

彼女は、微笑んだ。

けれどその微笑みに、かすかな影があった。

________________________________________

彼は問いかける。

「どうして、そんなにやさしいんだ?」

彼女は少しだけうつむいた。

「やさしくなんて、ないよ。

私、あのとき……たぶん、誰かを信じられなかった。

だからね、いまは信じたいの。

“この出会い”だけは、裏切らないって。」

________________________________________

そのときだった。

群青の空の向こうで、微かに何かが砕けるような音がした。

風が変わる。

彼の中に、“記憶”の粒が流れ込んできた。

──誰かが泣いている。

──誰かを置き去りにして、逃げた。

──それでも、「愛してる」と言ってしまった。

「僕……何かを、忘れてるんじゃない。

忘れたかったんだ。

忘れないと、生きていけなかった。」

彼は、震える声でそう言った。

彼女は近づいてきて、

その白い花を摘んだ。

そして、彼の手のひらに乗せた。

「それでいいよ。

忘れたいなら、忘れていい。

でも、忘れても私がいる。

君がまた誰かを選べるなら──

そのときは、私を選んで。

記憶じゃなく、意志で。」



※本作およびその世界観、ならびに登場用語(例:メモリウム™、魂経済、共感通貨、ニーチェ的愛 など)は、シニフィアン・アポリア委員会によって創出・管理されたオリジナルコンテンツです。


著作権および構文的構造に基づく創作概念の保護のため、無断転載・類似表現の流用・二次利用を固くお断りいたします。

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