『アポリアの群青 ―迷える子羊の島―』
第一話:再会の記憶は、まだ痛む
君に会うたび、僕のなかの「絶望」は、美しい傷になる。
それでも、もう一度、君を選ぶ。
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空は、海のように広がっていた。
だけどそこに、波の音はなかった。
ただ、群青だけが、静かにすべてを包んでいた。
彼はその中で目を覚ました。
名も、記憶も、身体の痛みさえもない。
ただ──孤独だけが、そこにいた。
そして彼の前に、彼女が現れた。
白い肌、淡金の髪、どこか空に似た瞳。
まるで、かつての約束が形になったような存在だった。
「こんにちは。……また、君に会えたね。」
彼女はそう言った。けれど、彼にはその意味がわからなかった。
「……君、僕を知ってるの?」
「ううん。覚えてるって言ったら、嘘になるかもしれない。
でも、君に会うたびに、心が“きゅうっ”て鳴くの。」
その言葉に、彼の胸がふるえた。
なぜか、懐かしさではなく痛みが湧いた。
「……なんで、僕なんだ?」
「君を愛してるからだよ。
でもそれは、優しい気持ちじゃない。」
彼女は少しだけ目を伏せ、囁くように言った。
「愛は、救済なんかじゃない。
愛は、苦しみを引き受ける勇気。」
「私、君の孤独も、罪も、痛みも知ってる。
それでも、全部引き受けたいって思ったの。」
風が吹いた。砂が舞い、彼の記憶に触れた。
──彼は誰かを、深く傷つけたことがある。
──それでも「愛されたい」と、願ってしまったことがある。
「僕は……君を傷つけたかもしれない」
「うん。きっとそうだね。」
彼女は頷く。
でも、それがなんだろう?
彼女の目は、そう語っていた。
「それでも、君をもう一度、愛してみたいと思った。
愛ってきっと、そういうものでしょ?」
彼の瞳が、群青に溶けていく。
彼女の言葉は、祈りじゃなかった。
赦しでもなかった。
それはただ──**“強くあろうとする選択”**だった。
そして彼は、はじめて言葉を見つけた。
「僕も……君と、もう一度、向き合ってみたい。
恐くても、逃げずに……」
その言葉は、誰にも届かない空に溶けた。
けれど、彼女の目には、確かに光が宿っていた。
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