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「ん……?」

 目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。

 王女の自分に与えられていた部屋と遜色ないような、豪華な――貴人のための部屋だ。

 どうしてこんなところに、とミリーナは辺りを見渡す。

 そもそもどうして眠っているのだったか。

 そんな風に記憶を辿って、魔物に追いかけられたことを思い出した。それから、何故かその魔物が逃げ去って、それから……

「――目が覚めたか」

 ノックの音もなく扉が開いて、そんな男の声が聞こえた。

 ミリーナはそちらを向いて固まる。

 そう、そうだ。魔物が逃げた後、こんな男が空に――

「い……、」

「『い』?」

 男が持っていた水盆を近くの卓に置きながら、首を傾げる。

 可愛らしく小首を傾げても駄目だ。その頭には人ならざる証が鎮座している。

 ミリーナはかぶっていたシーツを握りしめ、力の限り叫んだ。

「いやぁ――――っ!!!」

 自分はこれからどうなるのか。食われる? 美味しく頭からバリバリされてしまうのか? あの水の入ったボウルはなんだ? 捌いた後に手を洗う用か!?

 混乱ここに極まれり、というのがここまで相応しいほど、ミリーナの頭が動転していたことはなかった。

 ミリーナはベッドの端ににじり寄って、身を縮こまらせる。

 だが、ミリーナの中で荒れ狂う混乱は、それ以外の変化をも、もたらしてしまった。

「あっ……!?」

 ぶわりと熱風が吹いた気がした。

 いや、これはただの熱風ではなかった。ミリーナの身体から、意志に反して魔力が漏れ出して、それがどんどん炎へと変換されていく。

「あ……あ……」

 自身の魔力で作り出した炎が肉体を傷付けることはない。だが、それが制御できないとなれば恐怖が湧き上がる。それになにより、それらの炎が他のもの、たとえば今ミリーナが握りしめるシーツに燃え移れば、瞬く間にそれは全てを燃やしてしまう。ミリーナ自身も含めて。

「やだ……、きえて、おねがい……!」

 その時、角を持った男がミリーナの手首を掴んだ。

「落ち着け」

「は、放して! 貴方まで、燃えてしまう!」

「大丈夫だ」

 その男の声は、何故だかミリーナを安心させた。

 男はミリーナをそっと抱きしめて、耳元で囁く。

「大丈夫。目を閉じて、深く息を吸うんだ」

 そんなのできっこない。そう思ったが、ミリーナは目を閉じた。それ以外の動作を封じられていたというのが大きな理由だったが、そうしてみると心が落ち着いてくる。炎の熱はまだ感じたが、それよりも男の体温が心地よくて、周りの出来事を曖昧にする。

 ミリーナはゆっくりと息を吸った。

「そう。今度はゆっくりはいて」

 男の言葉に従いながら深呼吸を繰り返すと、次第に熱気が消えていく。

「もういい。目を開けてみろ」

 男の身体が離れ、ミリーナはゆっくりと目を開いた。

 その時にはすっかり炎は無くなり、周囲は何事もなかったかのように落ち着いている。

 前はこんなに早く収まらなかった。

 ミリーナにとって今回のような出来事――魔法の暴走は初めてではなかった。ほんの小さな頃のことではあるが、あの時は風の魔法が暴走し、一部屋丸ごと吹き飛ばしてしまったのだ。

「あ、の……。ありがとう、ございます」

 ミリーナは意を決して角を持つ男に頭を下げた。

 もしかすると、頭からバリバリするつもりではないのかもしれないと、ようやく思えたからだ。

 先程の炎のせいか、額に浮いた汗を拭うさまは、人間となんら変わらない。角があるだけだ。

 男はミリーナの全身に検分するような視線を向ける。

「……怪我はないな」

「あ、はい。助けて……いただいたので」

「気にすることはない。我々の中ではよくあることだ」

「我々……?」

 ミリーナが問うと、男は不思議そうな顔をした。

「分かって来たのではないのか? ここは魔族の国」

 男はミリーナの手を取ってその手に口付けを落とした。

「ようこそ、人間の国の王女よ」

 ミリーナはもう一度卒倒しないのを、誰かに褒めてほしいと思った。

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