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そうして、魔族領に接する山中に捨てられ、今に至る。
ミリーナは溜息をつきながら立ち上がった。
「どうしよう……」
このまま進むか、それとも王都へ戻って慈悲を乞うか。どちらにしても死ぬ可能性が高い。だが王都へ戻ろうにも、それまでに殺されるかもしれない。
そう考えれば、魔族領へ向かう方がまだマシか。
とはいえ、はいそうですかと進むのも躊躇われた。何故なら魔族というのは――
ミリーナは噂に伝え聞く魔族たちを思い出して、身を震わせた。
「私なんか、丸飲みされてしまうかもしれないわ……!」
魔族というのは、極々――、極一部を除き、凶暴な野生動物のようなものらしい。その上え、魔物と呼ばれるそれらは、人間を好んで食すという。何より、極一部の理性がある魔族も、人の生き血を啜るとか啜らないとかいう話だ。
そんな場所へ単身乗り込んで、無事でいられるとはとても思えなかった。もちろん、王妃はそれを承知でここに送り込んだわけだが。
「でも、行くしかないのよね……」
自殺志願者でもあるまいし、選ぶならば死ぬ確率の低い方だ。
もしかすると、噂は噂に過ぎないかもしれない。
「……行くわよ!」
ミリーナはぎゅっと拳を握りしめて、魔族領に向かって足を踏み出した。