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ミリーナが魔族領を去り、程なく彼女の国で反乱が起こった。
現王の治世に不満を持った者たちが、王女とその従弟――つまりミリーナと彼女を連れ戻しに来た人間とを旗頭として、現体制を打倒せんとしたものだ。
主に活躍の噂が届くのは、彼の人間ではあったが、時折その傍にいる伴侶のような存在としてミリーナの噂も聞いた。
戦乱の噂を聞いては彼女の無事を心配し、無事を聞いては一緒に動向を聞く羽目となるあの男と仲睦まじいという話に心掻き乱される。
忘れなければと思えば思うほど、彼女のいた穏やかな日々が恋しかった。
もう一度、一目会いたい。
そう願うのに時間はかからなかった。
だがその機会もないままミリーナの国での反乱は、彼女側の勝利で終わり、新王としてあの男が即位したと聞くこととなった。
ミリーナは魔族との友好関係を結ぶべく尽力しているようで、それについては嬉しく思った。だがその話が進めば進むほど、次に彼女に会えるのは彼女とあの男の婚礼なのではないかという不快感、不安感が、胸の奥に巣食っているのも感じていた。
「――そろそろお時間ですよ」
アルフェンはロイズの声にハッとして、座っていた椅子から腰を上げた。
「もうそんな時間か……」
「はい、先触れが参りました」
ミリーナの努力により徐々にではあるが、魔族と人間との距離が縮まってきている。そしてこの度、人間の国から使者が派遣されることとなったのだ。
なんでもその任を授かっているのが、それなりに身分の高い人間だと言うことで、アルフェン自ら出迎えることとなった。
書面でのやり取りはしてきたが、人間と対面するのはミリーナ以来初めてである。
信頼のできる人間なら良いのだが。
人間側とて、魔族と友好関係を結ぶというのに乗り気な者だけではないだろう。二つの種族の間には長らく対立してきた歴史がある。だから、「友好的」とは言えずとも、そうなる努力ができる人間が望ましかった。
ミリーナならきっと、そういう人材を選んではくれただろうけれど。
それでも少し緊張していた。
アルフェンはロイズを伴い、表門の方へと出る。
すると魔を置かずして馬車が見えてきた。こちらから贈った魔物避けの魔法が施された魔導具もしっかり取り付けられている。当然ながら襲われた形跡もない。
使者が無事に到着したことに安堵しつつ、その馬車が門を潜り目の前で止まるのを待つ。
御者が降りてきて馬車の扉を開ける。そして、その中から出てきたのは――
「――初めまして……、じゃないですよね。お久しぶりです、アルフェン」
満面の笑みを浮かべるミリーナだった。




