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「…………あれは、ミリーナ?」
アルフェンがその夜、ミリーナの姿を見つけたのは本当に偶然だった。
アルフェンの自室から、彼女のいる客室に一番近いバルコニーはよく見えるのだ。少し前からあのマイスなる人間がいたのには気付いていたが、そこに彼女まで現れたのを見つけ、アルフェンは窓からその様子をそっと確認する。
距離があるため彼らが何を話しているのかなどは、当然聞くことはできない。魔法を使えば可能ではあるだろうが、それをするのはあまりに無粋であるだろうし――、何より、親密そうに話す彼らを目の当たりにする勇気がなかった。
話し込む二人をアルフェンはじっと見つめていた。
ミリーナが何かを話し、人間の男がそれに返答する。ミリーナがまた何かを口にして、そして、人間の男が――、
「――ッ!」
アルフェンは息を飲んだ。自分でも理解ができないほど、感情が乱れているのが分かる。
手で口を覆い、呼吸を整える。そうしなければ、身の内に抱える魔力が制御できずに溢れ出してしまいそうだったからだ。
アルフェンは、目を閉じて落ち着こうとするが、先程の光景が目蓋の裏に浮かぶ。
ミリーナが人間の男に、抱きしめられている光景だった。
ああ、彼女は選んだのだ。
そう思った。
同族である人間とともに生きることを、彼女は選んだ。そしてそれは、アルフェンもまた、願っていたことのはずだった。
だがそれは「本心」ではなかったのだと、暴れだしそうになる魔力が痛いほどに訴えている。
「ミリーナ…………」
どうにか身を起こし、彼らがいた場所へ視線を向ける。だがもう、そこには最初から誰もいなかったかのように、人影すら見えない。
「……行かないでほしい、と……言えたなら」
だが彼女が帰ることを望んでいるのなら、きっと引き止めることなど、決してできないだろう。
彼女を閉じ込めることが、アルフェンの目的ではないのだから。




