12
「どうしよう……」
マイスに充てがわれた客室から退出したミリーナは、一人頭を抱えていた。
彼の「好きなんです」という、思いもよらぬ告白が脳裏に焼きついて離れない。
魔法の訓練をしているということを言い訳に、答えを保留にしたミリーナだったが、いずれは答えを出さなければならない。
国に戻るのか、戻らないのか。王になるのか、それとも――マイスの気持ちを受け入れるのか。
胸がじくじくと痛む。
マイスのことは好きだ。けれどそれは、弟のような存在としてであり、家族へのもののような愛だ。
でも、彼の言う「好き」が、そういう意味でないのは分かる。そして、ミリーナがその「好き」を向けているのは彼ではなく――。
「アルフェン……」
「どうした?」
「――っ!?」
何故か返ってきた言葉に、ミリーナはビクッとして顔を上げた。
「ア、アルフェン!? いつからそこに……」
「つい今しがただが……。どうした、何かあったのか?」
「あ……、いえ……」
ミリーナは視線を彷徨わせる。どう答えたら良いものか。考えあぐねた末、少し本題とは外れたところから口にする。
「その、マイスのこと、すみませんでした。怪我も大したことなくて……。手加減してくださったのですよね?」
「ああ……。どうにも話が噛み合っていない気がしたから……。どうも彼は、我々が貴方を攫ったと考えていたようだ」
「そうだったのですね。……もう、助けていただいたのに」
その時、アルフェンの頬に微かな切り傷を見つける。髪に隠れていたから気が付かなかったのだ。
「アルフェン、貴方こそ手当はしましたか?」
ミリーナはその傷へ手を伸ばす。枝垂れる髪を耳にかけて、その傷を見る。どうやらそう深い傷ではないらしく、ほっとした。
「ん……ああ、気が付かなかった」
彼が「『治癒』」と呟くと、その傷が消える。その様子をミリーナは、自分が出来たら良いのにと思いながら見つめる。『治癒』は、自分の傷を治す魔法のため、他者には効き目がないのだ。その他人に使うことの出来る魔法もある――らしいのだが、とても難しい魔法で、ミリーナにはまだ扱うことができない。
「それで……、彼との話はそれだけ?」
アルフェンの手が、ミリーナの手をやわらかく掴んだ。胸が高鳴る。だが、これから言うべきことを考えれば、同じくらい胸が引き絞られる心地がする。
「……いいえ、国に戻らないかと……、言われました」
アルフェンが息を飲む。
「そう、か……。そうだな、彼は貴女と同郷なのだから……」
「ひとまず、返答は保留にしてあります。魔法の訓練がまだあるから、って……」
引き止めてほしいと思った。
だが彼の立場からすれば、魔族を近くで知ったミリーナが国に帰ることは、メリットでしかない。
そしてやはり、アルフェンは首を横に振った。
「いや、もう今でも暴走するようなことはないと思う。だから貴女が望むのなら……、」
「――っ」
帰れ、と言われている気がした。
ミリーナは俯いて唇を噛んだ。
望まないと言えば、どうするの。そう言いたかった。
だが、この別れはいずれ来るものだったのだ。だからどうにか、そんな言葉を飲み込む。
「――わかりました。少し、考えます」
ミリーナはぺこりと頭を下げて、彼の隣をすり抜ける。
無理矢理に浮かべた笑顔は、引き攣ってはいなかっただろうか。
帰りたくないという本心には、どうか気付かれていませんように。
ミリーナはぎゅっと拳を握って、でもそれを悟られないようにその場を後にした。




