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「本当に生きてて良かった……」
一通り手当を受けたマイスは、ミリーナの手をぎゅっと掴んで、項垂れながらしみじみと呟いた。
「マイス、どうしてここまで来たの?」
「『どうして』!? 姉さんが王妃に追い出されたと聞いた時の僕の気持ちが分かりますか!? 何度あの女を殺してやろうと思ったか……、でもそんなことをしても姉さんが帰ってくるわけではないと思って……」
「マ、マイス……、言葉が過ぎるわ」
「いいえ。あの女は姉さんがいなくなった後、ますます調子づいています。王も……突然、伏せがちになりました。譲位の準備が進んでいるとか」
ミリーナは国王が「突然」伏せがちになったという言葉に、まさかと瞠目する。
「それって、王妃殿下はもしかしてお父様を……」
「噂に過ぎませんが、遅効性の毒を仕込んでいたのでは、と言っている者もいますね」
ミリーナは神妙な顔で黙り込んだ。
兄は父以上に王妃の言いなりだ。もしも噂に違わず、譲位が行われるのだとすれば……。
「王妃殿下の専横がますます、ということね」
「――姉さん、戻ってきて下さい」
マイスの真剣な声に、ミリーナは少し動揺した。
「え……、でも」
「今、王妃に不満を持つ者たちの間で、反乱の機運が高まっています。その旗頭として、貴女以上に相応しい人はいません」
マイスの目は真剣だった。だが――、いやだからこそ、ミリーナは静かに首を横に振った。
「国のため、できることはしたいと思うわ。でも、もし……、今の王政を倒し、新たな国を――、ということならば、私はそこに相応しくはありません」
「姉さん!」
「私は王妃殿下が好き勝手振る舞うのを、ただ横で見ていたの。そんな人間に誰もついてはこないわ」
「そんなことはないです、姉さん。貴女が生きていると知れば、皆どんなに――」
「私が死んでいたら、どうするつもりだったの」
「そ、れは……」
ミリーナがじっと見つめると、マイスは観念したように口を開いた。
「僕が姉さんの代わりをする予定でした。現王の子は他にいませんし、それ以外の王族やそれに連なる人間で、年や血の近さを考えれば……、僕しかいません」
そうだろうな、とミリーナは思う。マイスはミリーナにとって従弟――、つまり彼もミリーナと同じく先王の孫という立場だ。現王の若くに亡くなった兄の息子。世が世なら、王子と呼ばれていたのは彼の方だっただろう。
「なら、表には貴方が立つべきよ、マイス。私も出来ることはするから――」
「嫌です!!」
マイスの叫びに、ミリーナは目を見開いた。
「僕が王になったとして……、その後、貴女はどこへ行くのですか」
「それは……」
ミリーナは口を噤む。国に居続けることが出来るだろうか? いや、きっと争いの種になってしまう。ならば――?
その逡巡を察したのか、マイスはこちらが口を開く前に呟いた。
「貴女は国を出るつもりでしょう? 少なくとも、王宮からはいなくなる。そんなの、嫌です」
「マイス……」
「もう会えないと思ったんです。失った、と。でもこうして会えた……。だから、もう離れたくない」
これ以上、聞いてはいけない気がした。聞けば、これまでの関係が変わってしまうような。
だが、マイスの言葉は止まらなかった。
「姉さん――、いいえ、ミリーナ、どうか傍にいてください。……貴女が好きなんです」




