第7話
学校関係で忙しくて投稿が遅れてしまいました、すみません(汗)
「まずはどこ行くんですか?」
彼女がそう聞いてきたのはカフェ色(?)の軽を外堀に沿うように走らせていたときだ。
「そうだな、まずは…上野駅だっけ?」
「そうでした。電車動いてますかねぇ」
「どーだか。やっぱ期待はできねーよな」
「そうですね。建物もところどころ崩れてて危なかったですし。…おにいさんがよそ見するから一回事故りかけましたしねー」
ジト目でこちらを見る梓。
「おいそれはおまえが、ねーねーみて、すごくないですか?なんて言ってゲームのガチャ見せてきたからだろうがっ」
これからいつ死ぬかも分からないような危険な旅が始まるというのに呑気なものだな。逆にその図太さを見習いたいものだ。
時計を見ると、午後一時を指していた。
「このままだとまずいな。暗くなる前にできるだけ先に進みたいのに」
「それはおにーさんが寝坊したせいで遅くなってるのでは?」
「そ、それは…悪かったって。でも武器は必要だろ?」
今日の朝、俺たちは朝の八時ごろには出発すると決めていた。そして午前中に上野を見に行こうと思っていたのだが……俺がやらかしたのである。
それは更に昨日の夜まで遡る。
ーー結局飯を食った俺たちはリビングの例の死体を片付けた。
どうやら以前梓がこの家を発った時、気が動転していた彼女はそのまま家を出てきたらしく、仏さんもそのままだったみたいで、だからあんなところに寝っ転がったままだったみたいなのだ。
それはそうと流石にそのままにするわけにはいかないだろうと思った上、梓には悪いがこのままでは夜なにか出てきそうなレベルで気味が悪かったので、埋葬するのは必須であったと言えよう。
夜、やる事がひと段落して、俺は考えたのだ。
今まではゾンビに会ったときは多少ナイフなどで抵抗しながら基本的には逃げていた。
何故ならゾンビというのはもうすでに死んでいるのだからナイフを刺したくらいでは殺せない。精々動きを止めるくらいが良いところだ。
だがこれからはただ逃げると言うわけには行かないだろう。
そこが一本道の高速道路だったら、ゾンビに会うたびにいちいち引き返すわけにも行くまい。
そんなことをしていたら北海道につくのはいつになるのやら。今はまだ「お兄さん」と呼ばれているが下手したら「おじさん」になってしまうかもしれない。
……それだけは絶対に阻止しなければ!
そう決意した俺は遠距離(せめて中距離)の攻撃が可能な武器が必要だと思ったのだ。
近距離攻撃用の武器ーー例えばナイフは手に入れ易く、扱いも難しくない。
しかし相手が人間なら良いのだが、ゾンビは近づきすぎると噛まれる可能性がある。ゾンビに噛まれると自分もゾンビになってしまうので危険極まりない。
だからこそ、遠距離ないし中距離攻撃が可能な武器が必要だと思ったのだが……。
そりゃあ国内で銃なんて物騒なものを手に入れるのは難しい。
この状況なら正当防衛で銃の所持くらい見逃してもらえそうだが、そう言う問題では無い。ゾンビに対抗する自衛隊の生き残りが、警察署などにあった使えそうな武器は全て回収している。だから銃はダメだった。
じゃあ弓は?そう考えたのだが弓なんてものを俺が使いこなせるとは思えなかった。
この世界はアニメの世界でもゲームの世界でもない。俺はなんでもできる最強主人公じゃない。
ということで、せめてものと思い棒状のものーー物干し竿と包丁を使って槍を作ってみたのだ。
この際格好つかない事なんて気にしてられない。そう思い、作ったのだが…考えてみて欲しい。物干し竿の先っぽに包丁がガムテでぐるぐる巻きにされているのだ。なんてシュールで物騒なものなんだ……と思いつつ、俺は改良を重ねていったのだった……。
「それはそうだけど…だからって朝四時まではやりすぎ」
「物作りとなるとつい男心がなあ…」
それで、そこからはみなさんのご想像通りでございます。はい。
朝ごはん兼昼ごはんを食べた俺たちは、靴紐を結び、相手に気づかれないよう、静かに息を吐いた。
いってきます、という彼女の声にはたしかな希望と覚悟に満ちていた気がする。
そして、俺の出した左足にも、確かな覚悟が籠っていた。
ーー俺の右手には完成した槍ーー名付けてロングスピアが握られている。
結局、金属でできた物干し竿は俺のモヤシボディーには重すぎた上に加工も難しかったので、沢山あった竹刀を一本もらって先を削り、包丁をくっつけた。不恰好だがかなり扱い易くなった。
ちなみに色を塗ったりしてデコレーションもしている。
「気に入ってるんですね」
「ああ、これで俺たちはもう最強だ」
俺は胸を張って言ったのだが「単純ですね」と笑いながらあしらわれてしまった。
○
上野駅は、かつての盛況ぶりが嘘だったかのように静かだった。
梓の家の時とは違う。そう、不気味だ。不気味すぎる。
完成から百年近くが経とうとしている有名な駅舎は、やっぱりところどころ崩れてて、何処かうらさびしい。
俺は改札前の広場を見回す。かつて東北の玄関口とも言われ、数多くの特急や急行、寝台列車、そして新幹線が出発して行ったあのころを、今となってはだだっ広いだけのコンコースと、カラフルな看板、そして儚ささえ感じる現代的な壁画が物語っていた。
自動改札機なんて機能しているわけが無かった。すんなりと改札を通ることができる。
俺も彼女も、満員の電車で押しつぶされそうになりながら毎日毎日、慣れた動きで電車に乗っていた。
あるときは家族でお出かけに心を躍らせながら。
あるときは部活終わりに友だちと騒ぎながら。
あるときは社畜に疲れ切って寝過ごしたり。
またあるときは、あいつとも……。
少なくとも、三年前までは。
だが、今となってはそれはもう昔のことだ。
大好きな家族、馬鹿みたいな部活のやつら、共に酒を飲んだ同僚、そして、あいつも。
驚くべきことにホームにはいくつかの列車が止まっていた。俺たちはそのうちの一つが止まっているホームに降りて、近づく。
「まるで地球が滅亡したみたい」
線路は何処から生えているのか雑草で覆われ、群青の帯が剥がれかかった車体は錆び、窓ガラスはところどころ割れていた。
「ここじゃないな」
確か新幹線ホームは入り口脇の方にあったはずだ。そう思い出し、新幹線ホームへと移動する。
「深いね」
新幹線ホームは地下四階だ。かなり深い。何故そんなことを気にするかと言うと、この真っ暗な階段でゾンビに襲われたら色んな意味で危険すぎるからだ。だが…。
「そう言えばゾンビを全然見ないな」
「確かに…」
さっきから少し不思議だった。何故ゾンビがいないのか。もしかしてここにはもう食糧がないから何処かに行ってしまったのだろうか。
「みて!なんか明るくない?」
「なんだって⁉︎」
彼女が指指す階段の下の方をみると、なんとほんのりと灯りがみえたのだ。
ホームに降りるとそこには一両の新幹線が止まっていた。緑色の車体から漏れ出る光は他に一つも灯りのない地下を煌々と照らしていた。
「開いた…」
しかも、ドアが開いたらしい。…え?
「入ってみましょう!」
彼女の声には恐る恐るという気持ちとワクワクと言う気持ちが混じっていた。
ガキかよと思いつつも、俺も中に入る。
「これは…」
そのときだった。
突然俺の視界が回転し、身体に衝撃が伝わる。
「えっ」
梓の間の抜けたような声だけが俺に届く。
俺が地面に倒れたのだと気づいた時には、俺の視界は闇に包まれていた。
「おにいさん!起きてくだ…おにい……」そう泣きそうになりながら叫ぶ彼女の声も、程なくして消えていき、俺は後頭部に強い痛みを覚え、やがて意識は暗闇の底へと沈んでいった。
○
ああ、俺は死んだのだろうか。
なんか川の向こうであいつが手を振っている。なになに?「おーい、こっちこいよー」?はあ?行くわけないだろ。
それにしてもあいつの顔を見るのは久しぶりだ。夢だかなんだか知らないが、あいつの顔はなんだか全然変わっていない。
もっと言えば今のあいつは幼さが混じった、今にも泣き出しそうな顔をしている。あの、見ていられないような表情を、あいつはしてた。
どうした。そう思う前にあいつの言葉が蘇る。そして、彼女ーー梓の言葉も脳裏に浮かぶ。
……ああ、あいつとおんなじだ。気持ちが満たされて余裕が出てくると、同時にこの状況はなんだろうかと疑問を持つ。
それにしても俺、本当に死んじゃったのか?
状況が全然分からないのだが。でもあいつが見えるし…。
「ーー!」
あいつが俺を呼ぶ声が聞こえる。吸い寄せられるように、俺は近づいていく。
「ーー!会いたかった!」
突然、その少女に抱きつかれる。
俺の口は、なにも言葉を発さなかった。
「実はね、ずっと探してたの。あなたのこと」
しかし少女はなおも続ける。
「あとね、ずっと言わなきゃ行けないなって思ってたことがあって……」
気づけば少女の表情はさっきとは変わって、とびきりの笑顔だった。
「大好きだよ」
俺の目が見開かれる。
「……」
しかし同時に、気づいてしまった。
ほんと気づかなければ良かったのに、と思う。世の中には知らない方が幸せなことも多いのだと、改めて実感させられる。
これは、俺の思うあいつではあるがあいつではない。
そう、これは俺のーー空想だ。
「はっ!」
「あっ、気づいた」
「俺、どうして…」
なんとか顔をあげて横をみると、彼女の隣には一人の年老いた男がいた。
老人は俺に気づいたらしく土下座をしてきた。…ふっ、まだまだだな。もっとスピードを上げるべき…じゃなくて!
「申し訳ない。こんなところに人が来るとは思わなかったもので……」
「この人、新幹線を守ってたらしいですよ」
そう言うと彼女はその老人と「ねー」などと言ってやがる。
いつの間にそんな仲良くなったんだよ…。
「ところで、新幹線を守ってたって?」
「ああ、そうだ」
老人が言う。
「儂はこう見えてこの東北の玄関口とも言われた上野駅の駅長でな。50年近くこの地、上野にいたんだ。ところが、突如沸き起こったゾンビの襲来。それによってこの駅も壊滅的な状況になってしまった」
悲しそうな顔をする老駅長。
「……だが、この新幹線だけは、儂がこの駅に来てから、ずっと一緒だったのだ。だから絶対に守る。そう誓って守り続けてきたのだ。いつ、運行再開の知らせが来ても大丈夫なように、な」
老駅長は続けて「そんなことを言ってたらもう三年が経ってしまったんだがな」と苦笑してもいた。
見ていられなくなって、俺は聞く。
「あなたの名前は?」
すると、老駅長は少しの間、きょとんとして、それから口を開いた。
「…ああ、儂は佐藤宏昌という。それにしても、名前を聞かれるのも久しぶりじゃな」
そう言って老駅長は新幹線に目をうつしたのだった。
○
「強い人だったね」
「そうだな」
あの後、どうやってゾンビから守ってきたのかと聞くと、ホームに降りてくる階段のシャッターを下ろし、潜り込んできたやつもさっきみたいにして対抗していたらしい。
それだけ鉄道に対する気持ちが強いのだろう。少なくとも俺には真似できない。
そして老駅長は「残念ながら儂はここを守らなければならないから離れられない。だからお前たちに頼みがあるのだ。もしかしたら儂のように駅を、線路を守り続ける鉄道員がいるかもしれない。旅の途中に、できる限りで構わない。上野は大丈夫だ、いつでも走らせられる。そう、伝えてくれないか」と再び土下座をかましてきたのだ。
ふぉっふぉっふぉっ、まだまだ土下座仙人の俺には遠く及ばないのじゃ。などと思いつつ、了承した。
去り際、老駅長には「これだけは忠告しておくが……無理だけはするんじゃないぞ」と念を押されたので、「……それあなたが言うんですか」と返す。
「それもそうだな」そう口元を緩めて答える老駅長に、「まあ、任せてください」なんて見栄を張ったりしてみる。
すると老駅長ーー彼は少し口元を緩めて「頼む、任せたぞ」と言って送り出してくれた。
人との関わりの減った今だからこそ、そういうやり取りが無性に嬉しい。
言葉には表しづらいけど、やはり会話って大事だと気付かされた。
「軽い感じで引き受けちゃったけど、大丈夫かな」
俺が呟くと、彼女はやっぱり少しだけ微笑んで「まあ、なんとかなるっしょ」なんて無責任な答えを返す。
それでも俺は何故かそんな無責任な彼女なら、この理不尽な世界に打ち勝てる、そう確信できた。
ーー俺が倒れたとき見たのは、俺の空想ーー願望だった。それは間違いない。
何故ならあの時のあいつはあまりにも俺の言って欲しいことしか言わな過ぎた。
会話は、相手が人だから面白い。
思いもよらない言葉が出てくるからこそ、また相手の考えが分からないからこそ、誤解もするし、喧嘩もする。
でも、だからこそ楽しいものだ。
あいつとの会話も、そうだったはずだ。
どうやらやっぱり俺はあいつと向き合うことを、逃げてきたみたいだ。
区切りをつけたと言い訳して、結局は心の奥底では都合よくあいつが現れないかと願っている。
「……俺ってほんとダメだな」
分かりきったことを呟いてみる。
「ん?なにか言いましたか?」
梓が振り返って聞いてきた。
彼女だっていろいろと辛いだろうに、その表情は明るい。
「いいや、なんでもないよ」
ちょっぴり彼女を羨ましく思いつつも、あいつとの思い出を再び心に閉まって、でも無理に捨てずに大切にとっておこうと決めて、俺は歩き出す。
辺りには、少しだけ早い蝉の鳴き声が響いていた。
そしてその日から、俺たちの旅が始まったのだーー。
第2章『旅立ち』 完
引き続き第3章に続きます。
第3章は少々重めな中編となる予定です。火曜日から投稿いたしますのでお楽しみに!
評価していただけますと作者のモチベに繋がります。よろしくお願いします(><)




