第15話
今週もお疲れ様です(_ _).。o○
「じゃあ彼らは順調に進んでいるんだな」
「はい。このままいけば秋か、遅くとも冬ごろにはあの村に着くでしょう」
そこは誰も知らない、秘密の基地。
「女の方はどうだ」
「安定しています。というか元気すぎるくらいです。そもそもあれって本当にゾンビなんでしょうか」
ワインを片手に話す上司らしき男。それからおそらく二十代後半と見える女。女の方は少々ワイルドな格好をしているが、受け答えは真面目そのものだ。
「あれはまだゾンビではない。しかしいつそうなるかも分からん。とにかく、今は監視を続けるのだ」
「分かりました」
女が部屋から出ていくと、男はため息をこぼす。
もうすぐ六十になる男の背中は、その鍛えられた肉体に反してやけに弱々しい。
男は思う。やはりあの女は恐ろしい。
それと同時に興奮を覚える。あの女は人類にとって鍵となる存在だ。
ゾンビウイルスの感染拡大。それに伴うパンデミック。それは世間一般からは疎まれている。
しかし、だ。ゾンビ化するとは、それは不死の存在となる訳で、つまり使いようによっては永遠の命を手に入れることもできるかもしれない。
幾ら生き延びようともゾンビとなってしまっていては意味がない?それはそうだ。ゾンビーーつまりはウイルスに感染した患者は自我が無く、ほとんど本能に従って動く。
だが、それを治す特効薬があればどうだろうか。
あの女の一族はかつての契約によって護られている。しかし今は科学文明の世界。所詮は数百年前の話だ。信憑性は無いようなものだし、もはやあの女でさえも知らないようだ。
それに護られてるとは言え、急所を刺されれば死ぬし、毒や病も強力なものであれば効くはずだと聞いている。現に両親ともに既に死んでいて、母親は事故だが、父親はゾンビ化したようだ。
しかしそれが一番の疑問だ。何故父親はウイルスに感染したのに、あの女は感染していないのか。いや、正確に言えば感染はしているが発症を抑えてるのか?そもそも感染してないという可能性は……まあそこは部下の報告を信頼しよう。あの女を手に入れてから調べて、もし感染してなかったとしても、あの身体能力は使えるはずだ。
とにかく、勝負はあの村で、だな。
俺は思考を止めて、前を向く。
壁にかかった紙には堂々とした字で、「全世界統一」と書かれている。何度見ても子どもの戯言のような目標だと思う。もしくは子ども向けアニメの悪役。
俺たちが悪役なのだとしたら、正義のヒーローは何処にいるのか。
ヒーローなんて居ない。
そんなことは分かってる。
いないなら俺たちがヒーローの替わりを務める。この混乱に乗じて世界を手に入れる。
我ながら馬鹿げた話だと思う。
悪役だろうとヒーローだろうと観てたときは楽しかった。けど実際にやろうとするときつい。自分たちがそのどちらなのかは分からないけど、今さら引き返すわけにも行かなくなってしまった。
「行くか」
言い聞かせるように立ち上がって、俺は歩きだす。
これからは、長い闘いになるだろう。
☆
「じゃ、」
「あ、あの」
俺が別れを伝えようとすると、佑太くんがそれを遮った。
「ん、どした」
「その、」
「なんだ〜、照れてんのか〜?」
「ち、ちがわい。その、今まで色々あったけど、ありがとう…ございました……」
「お、おう」
なんか前は謝罪より感謝が欲しいなどと言ったものだが、いざ言われると照れくさいと言うか違和感というか…。
「こちらこそ、楽しかったですよ」
梓は嬉々としてそう言ったかと思うと、程なくハッとしたような顔をして「……あっ、お父さんは残念だったですけど」と付け加える。
「いや、もう大丈夫です。だから、二人とも気にしないで、頑張ってください」
頼もしい台詞だが、震えるほど握られた手から強がりだということが見てとれる。
しかし、これから乗り越えようとする少年のせめてものカッコつけを指摘する気にはなれない。となりには桜良ちゃんもいるのだ。
桜良ちゃんの元気は未だ戻らない。けれど佑太くんの元気な声に引っ張られて、時々笑顔も見せるようになった。このまま元気になることを願おう。
「幸助おじさ〜ん」
桜良ちゃんが飛びついたのは河野さんーーいや河野幸次さんの弟で二人の叔父にあたる、河野幸助さん。だったはず。
「河野……幸助さんでしたっけ?二人をお願いします」
「もちろんです。というか、本当に幸次がご迷惑をおかけしたようで……全然関係ないはずでしたのに、」
「確かに…」
あ、心の声が。
「うぉい何言ってるんですか!すみません私たちは無事ですし、困ったときはお互い様です」
おい梓。俺は手招きをして耳打ちする。
「おい、俺たちだって本来必要のない危険にさらされた訳だ。ここはちょっとくらいお礼を貰ってもいいんじゃないか」
「なんですか意地汚いですね。きしょいですね。まあ幸次さんが生きてたなら百歩譲って分かりますけど、幸助さんに言うのはお門違いでしょう」
「まあ…そうか」
俺たちも楽しかったしな。
佑太君は送ってもらうだけもらってこのまま別れられない、自分もついてくし、手伝う。そう言ってくれたが、その気持ちだけで嬉しいと伝えた。
正直、これからどんな旅になるかは分からない。危険な旅になるかもしれない中、子どもを連れてくのは正直厳しい。
「大人になったら会いに来て、飯でも奢ってくれれば良いよ」
そう伝えると、申し訳なさそうに、でも嬉しそうに「絶対会いに来てくださいよ」と返してきた。
「じゃあ、そろそろ行くかな」
「えー、やだー」
「お前…この前決意を新たにしたばかりじゃないのか」
仙台で一泊した翌日、俺たちは再び出発する。この碌でもない世界から逃げ切るべく。
今、俺はもうあいつのことを考えない。振り返らない。
札幌に着くまでは。
「ごめんね」
ゾンビを殺す彼女の声は、あの時よりも哀しそうで、でも生気に満ちていた。
旅はまだ途中だ。
そして俺たちは今はただひたすらに、前に進むしか無いのだと思う。
第4章『旅は続く』はここで一区切りとなり、本作品も折り返しとなります。
ここまでは投稿開始前に書き溜めていたのですが、第5章以降はまだ揃ってないので、夏休みに入ってからある程度書き溜めて一気に投稿したいと思います。
ところでもうすぐ(あと一週間で)夏休みですけど、、どうすか。暑すぎる?冷房つけましょ。……なんか海行ってきゃっきゃしたいなぁ、なんて思ったり。
ラストの急展開とオチは個人的に気に入ってるのでお楽しみに。




