第13話
すみません、諸事情により12.5話の更新ができてないです。どっかのタイミングで書き上げて投稿しようと思ってます。
今回から第4章『旅は続く』が始まります!
八月二日。
今日も良い天気だ。
青い空。
照りつける太陽。
さわさわと揺れる木々。
そして、聞こえる悲鳴。
突如、世界中にゾンビが発生してから三年半。今もゾンビは増え続けている。
そして何故か生き残ってしまった一人の男である俺と、彼女は今、ふたりの少年少女を連れ、とある温泉街を歩いている。
風が吹く。
木々が騒めき、小鳥が歌う。
さわさわと辺りを包む川のせせらぎは、キラキラと陽光を反射する。
川に沿うように建ち並ぶ鉄筋コンクリートの建物。マンションのような見た目のそれは、時の悪戯か、河原の茂みとの境目も分からないようなほどに緑に包まれている。
自然の生命力は想像以上に強い。
人類の歴史なんて地球からしたらちっぽけのものだからか、それともただ単に人類が気に食わないのか、人類が滅亡の危機に瀕するとすぐに、街は自然に侵食されていった。
駅。エントランス前に広がる広場には、錆びて朽ちた転車台が、役目を終えたと言わんばかりにただそこに在った。
その周りに巡らされた金網は意味を為しておらず、しかしかつて休日の盛況ぶりが伺えて、やはりどこか切ない。
対して俺たちが歩いてきた方向、ふりかえるとそこには、澄んだ一面の青空を邪魔するように、幾つかの煙が立ち上っているのが見える。
廃墟と化した街から、一組の家族連れが歩いてくる。
父親と母親、本来なら小学校低学年くらいと思われる子ども。
俺は再び前を向く。
そこに見える二人の方が年上だろうに。二人は走り回り、冒険を続けている。
兄が前を行き、妹がそれに続く。どうやら駅に入りたいみたいだ。
電車は来ないのに、なんて思ってしまう自分が悲しい。
隣を見れば、いつものあの整った顔立ちの、でもどこか生意気な少女の顔が視界に映る。
例年はじめじめとした暑さに気が滅入る夏。
しかし今年の夏は何処か少年心をくすぐるような、そんな気持ちに満ちている。
勿論、それはこの地がそんなことを考えられる程には安全だと言うことでもあるのだが、こいつらの存在も大きいのだろう。
そんな事を考えれば自ずと彼のことも思い出してしまう。そう理解していても、どれだけ忘れようとしても、無理だった。
そうして、なんとも言えない感情が俺の中で渦巻く。
ここ数日、何度となく繰り返した思考。
そんな気持ちを頭から追いやるように、声を上げる。
「……俺もうここに住もうかな」
「急に何を言い出すんですか」
「いや、ここってさ、比較的安全だし、温泉気持ちいいし、食べ物美味しいし、空気も綺麗だし、活気もあって……あれ、いや、まじで最高かよ?」
「なに自分で言い出しておいて自分で驚いてるんですか」
「いや、なんか良いところ出してみたら思いの外多かったというか?」
「なんですかそれ。……まあ確かに良いところだとは思います」
「え、まじで住む……?」
「それも良いかもしれませんね」
そう言うと彼女は、一人静かに歩いていってしまう。
てかまさか旅を止めるという手がアリだとは思わなかったが、ちゃんと考えれば悪くないように思える。
こんな状況では札幌までの道のりは遠いものだし、今まで東京の自宅に引きこもっていたことを考えれば、ここに住むという手も大分良い考えな気がする。
……住民票の変更手続きってどうやるんだっけ。
確か前は父さんが……。
「……父さん、元気にしてるかな」
○
「ふぃーー」
かぽーん、という音が響く浴室。
一面の大窓の外は深い闇に包まれている。
静寂に包まれる浴場には俺ひとり。
と、その時だ。
ガラガラという音ともにちびっ子がひとり入ってくる。テテテテといった効果音がつきそうに見えるその姿は、微笑ましいようで、少し寂しい。
それは風呂で走ることを注意する父親が居ないからか、その少年の顔か。
「先入ってるなんてずるい」
「じゃあもっと早く来いよ」
「それは…桜良を残しておけねぇし…」
予想外の返答だった。
小さすぎる背中とこの前の涙が印象に残りすぎて、守ってやらなきゃいけないなんて勝手に思ってたが、案外こいつは強いみたいだ。
幼いころに母親を亡くし、あまり父親にも構ってもらえなかったのかもしれない。
きっとこいつはこいつなりに、自分と、桜良ちゃんのことを守る術を得たのだろう。
そこまで思考を巡らせて、少年の視線に気づく。
気まずい空気を払拭するかのように、俺は呟く。
「それにしても、飯は美味えし、温泉は最高だし、それにここは大分安全だ。ここに住むなんてどうだ…?」
「それは……」
俺の適当な発言に、少年は少しの間考える素ぶりをみせて、言った。
「できれば、したくない。ここで進むのを止めちゃったら、なんか父さんに悪いし…」
俺は目を見開く。同時にこいつは大物になるな、なんて考えてみる。
実の父が死んで、ちょっとのいざこざはあれども、それでもなおすぐに前を向けるこいつは凄い。
少なくとも、俺には真似できなかったことだ。
「そうか」
そんな俺の気持ちなどお構いなしなのか、唐突に少年は言う。
「そういえば梓ねーちゃん、明日誕生日なんだってね」
「えっ、」
知らないんですけど?てかプレゼントとか用意してないんですけど?
まずいぞ俺、誕生日にプレゼントあげない男は女性から嫌われるってどっかから統計出てた気がするぞ!
⚠︎第4章から更新が不定期になります。お待たせして申し訳ないですが、今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m




