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第一話 泉の乙女

 

 

『せい!』

 

 

 ぬっぽんっ!

 

 

 私が小気味よく引き抜いたのは、エクスカリバー(c)!

 

 それはもうおいしそうな、エクスカリバー(c)だ!

 

 折角なので、早速食べてみようと思う!

 

 バリ――バリバリ

 

『うん。キーンとして美味しい!』

 

 やはり新鮮な、エクスカリバーは瑞々しさが違う。

 エクスカリバー農家の役得だろう。

 

 ぶらーヴぉ。 なのだ!

 

 惜しむらくはオロシオリハルコンを掛けて食べたいが、流石にマイ・オロシオリハルコンを持ち歩くほどの強者ではない。

 

 残さず食べ終わると。形の悪いエクスカリバーが積み上がった、メタルコンポスターを横目に見つつ、収穫したエクスカリバーの束を加工場へ担いでいく。

 

 

『随分遅かったねヴィヴィ、あれ? 口にエクスカリバーが刺さってるよ!』

『あ、ほんとだ! やだ! はずかしーっ! (ごしごし) あははっ……』

『ちゃんと規格外品たべた? 商品はだめだよ?』

『分かってるよー。お母さん』

 

『収穫したヤツはいつものところに置いといて』

『あ、はーい』

 

『お父さん、腰大丈夫?』

『ん、んん……』

『農作業は腰に来るからねー。お父さん気を付けないと』

『急に来たから、驚いたよ。まったく』

 

『デュラックは?』

『またゲームばっかりやってるよ』

『ふーん』

『夏休みなんだから、手伝って欲しいんだけど』

 

『『『……』』』

 

 黙々とエクスカリバーを3本ごとに束ねて箱に詰めていく。

 たしか昔の王様が、カリバーンを3本束ねれば折れないとか言ってたな――まぁ、簡単に折れるけど。

 

『ヴィヴィも年頃なんだから、彼氏とかいないの?』

『いないよ』

『今度ね、次の休日に農協がお見合いパーティやるって、ジェフリーさんが参加しないかって。どうヴィヴィ?』

『いや、そういうのちょっとまだ考えたくないし』

 

 ジェフリーさんって、すごいグイグイ来るオジサンだよね。苦手ー。

 

『ちょっと参加しない?』

『行かないから』

『いいじゃない。どうせ暇でしょ? ちょっと顔出すだけだから』

『しつこいよ』

『ジェフリーさんが是非にって。ほら、ナルトさんの所のテニスン君も来るんだって。同級生でしょ?』

 

 あいつか……上から目線で視線が気持ち悪いんだよね。勘違いしそうで余計嫌なんだけど。

 

『おいしいご飯も食べられるし、どう?』

 

 なんで、美味しいかどうか知ってんだよ。っていうかご飯で釣れると思ってんのかと。

 

『はぁ……しつっこいから』

 

 畑はデュラックは継ぐ気が無いって言ってるし、大学に行くつもりらしいけど、ゲームしかやってなくてどうするつもりなのやら。

 

 私はエクスカリバーを育てるのはキライじゃないから、誰かいい人が婿に来てくれるならそれでもいいとか思ってるけど、まぁ夢みたいな話だよね。

 放送でやってる自給自足的なの。あそこまで突き抜ける勇気もないし。かといって顔の見えない者同士のトラブルも怖い。相手の思い込みは手の付けようがない。

 正直あんまり愉快な話題じゃないなぁ。こんなんじゃ、デュラックと大差ないね。

 

 ――まぁ、でも。テニスンだけは絶対に嫌だ。断固拒否なのだ。

 会合やら地域の集まりで顔すら合わせたくないが、そうもいかないので、上辺だけは取り繕ってるが、それが余計勘違いさせてる感じだ。

 

 何をやっても勘違いしそうじゃん?

 いっそMなのかと。オマエは変態なのかと。あの頑なさは(へき)だ。きっと。ナチュラルボーンMに違いない。どうかSの人と末永く幸せになってください。おねがいします。

 

『どう? いいでしょ? ジェフリーさんに参加するって言っていい?』

『ちょ、ちょ、ちょ。ちょっと待ってよ! 行くなんて言ってないでしょ! 耳腐ってんの!?』

『いいじゃない、暇なんでしょ?』

『しつこい! 今度の休日は友達と山に行く約束なの!』

『そうなの? 知らなかった』

『いちいち言わないから! そんなんだから言いたくないのよ!』

『そうなの……』

 

 

 なんか地元だからと案内することになってしまったのだ。

 昔、都会に住んでる祖父母の家に厄介になってた時期があって、そこで友達になった子だ。丘サーファーになるのが夢だとか言ってた面白い子だった。多分意味解って言ってないヤツ。

 

 私は山など見慣れているが、都会の人間からすると有難がるようなものなのだろうか? まぁ、一過性のブームだろう。

 淡々と作業を続ける――。

 

 

『……』

『やっぱり行かない?』

 

 

 

 めんどくさいぃぃぃぃぃぃ!

 あああ、もう。地団駄踏みたい!

 

 そりゃ、話しとけばいいと思ったけどさ、こんな土壇場で話振る? 絶対打算ありきだよね?

 もっと前に! もっと前に来いよ!

 なんなのさ! ほんとに!

 

『きっとテニスン君も残念がるよ?』

 

 そこでテニスンとか知らんがな! ジェフリーさん来いよ! ていうか、ギリギリまで引き延ばすとか卑怯じゃない!? 謝ってもだめだよね

 うん? ここまで引き延ばしておいて、当日の参加者はどうなるの? もしかして――

 

『もしかして、勝手に私が参加するって伝えてる?』

『え? そんなことしてないけど』

 

 ……しかたない。約束は断るか――。

 

『わかったよ……』

『あ。そう! よかった』

 

『母さん、返事は一昨日までだって聞いてたけど?』

『え? お父さん。そうなの?』

 

『ハァ!? なんなのよ! 勘違いだったの!?』

 

『残念だったねー、ヴィヴィちゃん。じゃあ、また今度。参加するって言っとくね』

『いやいやいや! 次参加するって言ってないでしょ!』

『でも――』

『でもも、へったくれもないの――』

『参加したくないの?』

『したくないよ!』

『ジェフリーさんも、是非って――ヴィヴィちゃんが来てくれたら喜ぶと思うんだけど』

 

 ジェフリーさんが喜んだら、どうなるのよ!

 

『ウガーーーーー!』

 

 ついに私はエクスカリバーを振り回し暴れはじめた!

 

『――ダメでしょ! 食べ物で遊んじゃ!』

『ウヌラガボゲーーーーー!』

 

 

 

―――― ◇ ――――

 

 

≪――ごめん、山行けなくなった≫

 

 なんでやねん!

 

 

―――― ◇ ――――

 

 

 マントルの底。金属でできた液状核の上に浮かぶ金属大陸。そこに住む金属生命体たち。

 私こと、ヴィヴィアンは、金属生命体の食料とするエクスカリバー(c)を農家である。

 

 若者のカリバーン離れを危惧した地元農業組合は、本格的な付加価値戦略に乗り出し、若手農家の多くが名乗りを上げた。

 カリバーンは、種カリバーンにマントルに漂う金属結晶を析出させ育てていく。

 そのため産地が品質を左右する重要な要素となるのだ。

 元々、カリバーンの生育に適した土地柄を生かし、質の高い作物を作ってきた実績がある。

 産地を限定し、厳格な制度を介し、ようやくエクスカリバー(c)と認定される。

 

 

 私にはバトラズという名の幼馴染がいる。

 まさか、こんな形で帰ってくるとは、Iターンというやつだろう。

 販売戦略コンサルタントでアドバイスを行うとかなんとか。正直まったく解らない。

 信用面については彼の実家があるので安心だろうが。若すぎるとか、そんなもの必要無いとか、費用面の心配など、チラホラと高齢農家を中心に不満が耳に入ってくる。

 高ランクの大学出の高給取りが、私のような芋臭い田舎娘など眼中にないだろう。

 婿など以ての外だ。オコガマシイ、というヤツだ。生活スタイルが違い過ぎると合わないとも聞くし?

 

 

 ――なにはともあれ。

 土壇場でキャンセルされ。もう、やけくそ気味に山登りに行くことに決めた!

 山頂で食べるためにエクスカリバーを持って登山に向かうのだ!

 

 

 

―――― ティナノーグ山 ――――

 

 

 

 ――見晴らしがいい。

 

 

 

 金属生命体はマントルを透過する粒子を見ることが出来る。

 後で故郷を繰り返し思い出すことになるのだが。金属コアは半径が小さい。そのため地平線が近く、山の上でもコアの丸みを実感できてしまう。

 半径が1/4なら、水平線までの距離も1/4という理屈だ。

 

 しかし、山は見た目通りの穏やかさを持ってはいなかった。

 

 前日に警報が発せられてたが、いつものことと軽く考えていた。

 山頂に近づかなければ大丈夫だろうと。

 

 結果を言えば、噴火に巻き込まれてしまったのだ。

 まさかこんな場所で起こるとは思いもよらない。

 

 液体金属内部に液体でもなく個体でもない状態となったマントルが沈み込み、金属火山の噴出物として勢い良く噴出する。

 しかし噴火は山裾で起こった。

 

 圧力と温度が変化することにより、マントルは一部が泡状に気化を繰り返し、噴煙の輪郭を形作る。

 続いて核の奥底から湧き上がる熱で膨張し、浮力を得た液体金属が噴き出す。

 マントルの摩擦抵抗は大きいが、地球中央に近づくほど重力は弱まり、火山噴出物の被害は遠方にまで及ぶだろう。

 

 そして、コアから熱を得たマントル流は、上昇を続けるたび冷えてゆくが、それと同程度に周囲のマントル温度も下がり続ける。

 つまり何処までも登って行くのだ。

 

 

 そう、地表までである。

 

 

 遠ざかって行く金属の地面。

 

 

 

 ――ああ、金属大陸って丸いんだなぁ。

 

 

 

 勢いに乗って地表へ運ばれる。

 

 挿絵(By みてみん)

 

―――――― ◇ ――――――

 

 

 

 そして辿り着いた地上は青銅器時代真っただ中。

 そんな中、現れたエクスカリバーは正に最強だった――。

 

 

 

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