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エピローグ


 京都旅行からしばらくして。


 依子から分厚い封筒に入った手紙が送られてきた。

 中には大量の写真。だが、京都で撮ったものではなく。

 東大寺大仏殿と南大門。春日大社。飛火野の鹿。興福寺。氷室神社。猿沢の池。Etc. Etc.

 奈良市街の観光地はほぼ網羅されている。それを楽しむ奈帆とディビーの様子もよくわかるような写真ばかりだ。

「ひええ、奈帆さんたち、大変だったでしょうねえ。依子さんに引っ張り回されて」

「まあ、あのあたりだけなら、1日で充分回れるからね」

「そうっすけど」

「今どきわざわざプリントしてくるなんて、よくやるね依子も」


 救いだったのは、その前に来ていたディビーからのメール。

「なんだか楽しかったぜ。依子は本当にパワフルで良い奴だな、冬里もそろそろ観念しろ」

 その後にも依子の良いところがあれこれ述べられている。

 夏樹は怖くて言えないが、シュウが提言している。

「ディビーさんもこう言っているのだから、いい加減苦手意識は……」

 けれど冬里はどこ吹く風だ。

「うまく丸め込まれちゃって、まったくディビーったら」


 そして、シュウには奈帆から別に連絡が来ていたようだ。

 携帯の画面を確認しているシュウの表情は、父親が娘からのメールを読んでいるような、優しくあたたかいものだった。

 こちらもシュウに遠慮して、何も言わない夏樹だったが。

「どっちかって言うと、お父さんみたいだね」

「え?」

「シュウだよ」

「あ……」

 冬里も同じ意見だったらしいが、滅多な返事をして墓穴を掘りたくはないので、曖昧に頷いておく。

「つまんないの」

「え?」

「もっとこう、そうっすね! とか、ええっ、とか、反応ないの?」

「ええっと……」

「まあいいや。じゃあさ、依子には夏樹から手紙の返事、出しておいてよね」

「ええ? 俺がっすか?」

「うん、曲がりなりにも京都ではカップルだったんだから」

「あ! そうでした。了解っす!」

 ラジャ! と言うように敬礼の真似事などする夏樹。またまんまとはめられたようだ。


 けれどそのあと、

「あーそう言えば俺、気の利いた便箋とか封筒とか持ってないっす。どうしましょう、シュウさーん」

 シュウに泣きついた夏樹に、「便箋と封筒なら……」とシュウが言いかけたのをさえぎる冬里。

「そんなの、ちゃんと自分で用意しなくちゃ」

「へ?」

「×市の万寿堂まんじゅどうにさ、けっこう広い文具コーナーがあるから、行ってきたら?」

「あ、そうなんすか、情報ありがとうございます。だったら行ってみます」

 万寿堂と言うのは、×市にあるエンターテイメントな本屋の事だ。

 すると、2人の話を聞いていたシュウがふとつぶやく。

「万寿堂の文具売り場ですか……」

「どうしたんすか?」

「いや、少し見たい文具があったんで、私も一緒に行っても良いかな」

「はい! もちろんっす!」

 いきなりのシュウの提案に、俄然張り切り出す夏樹。

「へえ、じゃあ僕も行ってみよう」

「はい、冬里も行きましょう!」

「シュウがわざわざ万寿堂まで行って、見たい文具って何かなあ、興味津々」

 どうやら冬里の好奇心をくすぐってしまったようだ。シュウはおもわず苦笑してしまう。そんなにたいしたものではないのだが。

 つぎの定休日は、×市で文具を探す、がテーマになったようだ。




 京都旅行からひと月あまり過ぎた頃。


 夏樹らしからぬ、美しく透かしの入った便箋に、「拝啓」と「時候の挨拶」からはじまる、手紙の書き方とか言う本をそのまま写したような慇懃な手紙が届く。

「なあに、これ。ホントに夏樹からよね」

 依子は、ためつすがめつ、思わず裏を返したりしながら手紙を読んでいる。

 シュウならともかく。

 これって夏樹の手紙じゃないわよね。

 またきっと冬里に、日本では、親しき仲にも礼儀ありと言って、手紙はこう書かなくちゃ、とか、依子は年上だから敬わなきゃ、とか言ってからかわれたのね、と、思いつつ、頑張ってペンを走らせたのだろうと温かい気持ちになる。

 夏樹は手紙すらムードメーカーなのね、と感心しつつ、苦労の跡を見て取る依子だった。


 ただ、

 追伸だけは……

――シュウさんが、同封してくれるかな?って、渡してくれたので、入れときますね!

 と、夏樹らしい砕けた文章になっていた。


 そしてそこには。


 南禅寺の水路閣で撮った、あの集合写真が入っていた。

 しばしそれを眺めていた依子が、ふっと微笑む。


「次はセッションの写真でも撮ろうかしら」

 はて、神さまって写真に写るのでしょうか?

「でも、いつになるやら、ね」

 ネコ子に言うと、彼女は「にゃん」とわかったような返事をかえしてくれるのだった。






 ★市の住宅街の一角に、小さいながらよく手入れされた庭と、訪れる人をあたたかく迎えてくれるドアと、そこにOPENの札がかかる店がある。


「いらっしゃいませ、ようこそ『はるぶすと』へ」

『はるぶすと』は、本日も通常通り営業しております。

 皆様のお越しをお待ちしております。







ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

『はるぶすと』25 お楽しみ頂けましたでしょうか。

京都の夏は相変わらず暑かったー! ですが、なんとか美術館話も無事着地出来ました。

これで、全員の願いが叶ったところで、お次は?

とりあえず、またお目にかかるまで、首をながーーーくしてお待ちくださいませ。

それでは、また遊びにいらしてくださいね。


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