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第1話 ルーブルへのお誘い


 ここは×市の、駅に近い方の書店。


 この日冬里はふと思いついて、ただ何の気なしにここへ雑誌や本を物色しに来ていた。

 お目当てが見つかったので、さてレジへ向かおうとしたとき、呼ばれたように店内に貼ってあるポスターに目が行った。


 そのボスターとは。

「ルーブル美術館展 愛を描く」

 京都にある、とある美術館で、そんな展覧会が開催されているようだ。

 ポスターに描かれているのは、天使たちと鳩と、その横に「ルーブルには愛がある」の文字。中でも一番上にいる天使の、ずる賢そうにどこかを睨んでいるその表情が、なんというのか、気に入った。


「ふうん」

 くるくると人差し指を回していた冬里の唇が、何かを思いついたようにフイと上がる。

「さて、どこかゆっくり出来るところで、お茶にしよう」

 上機嫌のまま支払いを済ませると、雑誌の入った紙袋を手に、冬里は書店を後にしたのだった。




「京セラ美術館って、知ってる?」

 夜も更けた、『はるぶすと』の2階リビング。

 夏樹が先におやすみなさいをして部屋へ入ったあと、シュウと冬里はいつものごとく、それぞれの時間を楽しんでいたのだが。

 ふと思いついたように眺めていた雑誌から顔を上げて、冬里がそう聞いて来たのだった。

「? ああ、知ってるよ」

 シュウは当然のように答えてから付け加える。

「確か前身は、京都市美術館だったよね、そこがどうかした?」

 ん、と、満足そうにひとつ頷いた冬里が、テーブルに置いてあったタブレットを取り上げて操作する。

「今さ、こんな展覧会が開催されてるんだよね」

 シュウが画面に目をやると、そこに、かの書店にあったのと同じ、ルーブル美術館展のポスターが表示されていた。

 それで? と言うようにシュウが表情で次を促す。

「なーんか面白そうだからさ、見に行きたいんだよねえ」

 少しばかり含んだ表情で冬里が言う。

 あ、これはまた何か考えているなとは思ったが、それに、どうせ逃れられないだろうとも思ったが、とりあえずスルーする方向で気のない返事をする。

「行って来れば、いいんじゃないかな」

「へえー、シュウは一緒に行ってくれないの?」

「ああ、そうだね」

「へえ? わかったよ」

 のぞき込むようにニッコリ笑うと、冬里はまたタブレットを操作し始める。


「?」

 ずいぶんあっさり引き下がったなと思っていたのもつかの間。

「ディビーと行こうかな、と思って連絡したんだよね。そしたらさ、それなら奈帆の願い事を叶えてやってくれって返事が来たんだよねえ。さあ、どうする、シューウ?」

 そこにはディビーとのやり取りが表示されていて。

「(愛をテーマにした名画なんて、アイツにぴったりじゃないか)」

「(もうここまで来たら、私も腹をくくる準備をしなくちゃな)」

「(とは言え、アイツもお前さんと同じく恋愛興味なし野郎だもんな。あとは奈帆の頑張りだけか。だったらこの展覧会にかこつけて……、……)」

 続きには、どのようにして2人をくっつけようか等々の不穏? なやりとりまで、包み隠さず堂々と表示されている。

「……、冬里……」

 思わずうつむいて眉間を押さえるシュウに、「なーにー?」と、こちらは楽しそうに応える冬里。

「……、……」

 けれど。

 なかなか顔を上げてこないシュウに、あれ? こんどこそ本当にヤバイかな。僕の命も風前の灯火? などと、まあ冗談ともつかず考えていると、「はあ」と、声がしてシュウが顔を上げた。

「お、復活した?」

「承知しました。ですが、今回の同行は、あくまで、奈帆さんの願い事を叶えて差し上げるという趣旨でお願いします。それ以上の事は致しかねます」

 その馬鹿丁寧な言い方に、うわあ、堪忍袋の緒が切れる寸前だったのかなあ、などと思いつつ、内心でほくそ笑む冬里だった。




 シュウは落とした。

 あとは夏樹をどうするかだが。


「ええ?! 京都? 美術館? 愛を叫ぶ?」

「うーん、ちょっと違うなあ」

「俺も行きたいっす! 」

「でーもさあ、これってー、前にお約束したダブルデートなんだけどなあ」

「う……」

「ディビーが機嫌悪くなりそう」

「くぐ……」

「奈帆も楽しみだろうになあ」

 今回は珍しく? 恐怖を持ち出さない冬里の説得に、夏樹はぐぐっと唇をかみしめていたが、それを振り払うように顔を上げた。

「あーもう、わかりました! いいっすよ、俺はおとなしく留守番してますから!」

 と言いつつも今度はかみしめていた唇をとがらせている。

「あれ? 何でお留守番なの? 」

「へ? だってお邪魔なんすよね」

「うん、でもそれは美術館に行くときだけだよ。あとは自由行動だもん」

「え? じゃあ」

「うーん、まあ仕方ないなあ、京都には連れてって、あ・げ・る」

「ほんとっすか? いやったあー!」


 嬉しくて飛び跳ねそうな夏樹に、でも子守がいるなあ、ここは秋渡夫妻に話しを持ちかけようかな、と、思いを巡らせる冬里だったが、ふと、誰かがこちらを見ている気配がして、同時に嫌な予感がした。


「依子さんが来てくれるそうだよ。だからダブルではなくて、トリプルデートだね」

 シュウの反撃だ。

「え? え? じゃあ」

「ああ、夏樹も行こうか。京セラ美術館」

「はい!」

 してやられたな、と思ったけれど、まあ、これくらいは予想の範疇。

「もう、シュウってば陰険~」

「それはお互い様、だよね」

「ふふ」



 結局のところ、京都行きは秋渡夫妻にもバレバレなのは当たり前。

「私たちを誘わないつもりだったの? そうは問屋が卸さないわよ!」

 と言うオーナー大王の一声により、シュウが三者と連絡を取りつつ調整し、不可能に見える日程を可能にしてしまうのは、いつものこと。



 さあ、久しぶりの、京都行きです。






始まりました『はるぶすと』第25段です。

ここへきてようやく奈帆さんの願い事が叶いそうです。

実はこの「ルーブル美術館展」

京セラ美術館から案内メールが来て、「愛を描く」「ルーブルには愛がある」のキャッチコピーを見たとたん頭にひらめいたのが、鞍馬くんにぴったりや~んと言う事。そうだ、この展覧会をネタにしない手はない! とひとり俄然張り切ってしまいました。

が、実は筆者はまだこの展覧会、見に行けてないんですよね(汗)

なんとか期間中には訪れてお話を書き上げます! ちょっとばかり時間がかかるかもですが、どうぞのんびりお待ちください。

ちなみに「ルーブル美術館展」。期間は9月24日までです。興味のある方は、どうぞ京都へ足を運んでくださいませ。

彼らの道中もお楽しみくださいね。



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