求道(ぐどう)
どれだけ殴り続けたのだろう?
幽霊の顔は原型を留めない程に潰れていた。
幽霊はピクリともせずに地面に倒れている。
何だ…。殺せるじゃないか………。
心に満ちていく安らぎ。
心地良かった。気分が良かった。気持ち良かった。
「もう幽霊を見なくて良いんだ…。」
そう呟いて、僕は夜空を見上げた。
夜空に広がる景色は…。
死んだ女の顔。
蘭鋳の様な肉瘤まみれの顔。
顔。
顔。
顔。
其れは幾重にも重なり此方を視ている。
紛れもなく自殺した女。紛れもなく僕が殺した女。
涎と血液を撒き散らしパクパクと唇が流動する。
何かを訴える様な動き。体温が数度下がった感覚に陥る。
厭だ。
何で?
何でだよ?
見たくない。
視たくないんだよ。
殺したはずだろ?
何で見えるんだよ…。
見たくない。
視たくない。
観たくない。
そうか…。眼があるから…。見えてしまうのか…。
ボクは、眼鏡を乱雑に地面に叩きつけー
左右の指を自らの眼球へ誘う。
【グチャ】
薄れゆく意識の中…。
自ら潰した眼ではなく…。
脳が記憶している【あの女】の映像が浮かび上がる。
魚の様な虚ろな眼。
金魚の様にパクパクと動く唇。
肉瘤塗れの顔。
僕を見てヘラヘラと嘲笑う。
あの女の【幽霊】を…。