鬼道
何で此処にいるのだろう…。
記憶は曖昧だ。僕は誰かと逢っていた気がする。
その帰り道なのだろうか…。
頭の中。言葉が廻る。幽霊。死んだ人への想い。存在するモノ。存在しないモノ。自分の世界。他人の世界。自分の想像。他人の想像。死んでいる人。確認出来ない。判断出来ない。生きている人。生態。体温。感情。殺せる。
何で僕は此処にいる?
錆びた鉄の匂い。
地面に浮かんだ赤黒い滲み。
砂利と砂利の隙間から覗く肉片。
またしても僕は…。
何年も使用されずに廃墟と化したビルの前に立っていた。
夢と現実の境は曖昧で…。
その輪郭は陽炎の様にユラユラと揺らめく。
ー何で…
ーお前は其処にいるんだ?
僕から見て右の視界。
死んだ筈の女が居る。
魚の様な虚ろな眼。
金魚の様にパクパクと動く唇。
生々しく蠢く肉瘤。
血液を吹き出しながら疵痕を露出している下半身。
滴り落ちる血液は腐臭を撒き散らす。
その蘭鋳の様な幽霊は…。
此方を視ている。その瞳は白濁としていた。
【何で助けてくれなかったの?】
クチャクチャとした擬音に埋もれた聲。
【視ていただけじゃない………。】
【何で助けてくれなかったの?】
嗚咽に紛れた微かな聲。
ソレは此方に右手を差し出す。
その手には、薄汚れた人形らしきモノが握られていた。
【あれは…。ブードゥー人形。】
身代わり人形。
その人形の左眼のボタンは外れかかっている。
【何で助けてくれなかったの?】
唐突に、脳内に鳴り響く断末魔の悲鳴。
そうだ。僕は友人と逢っている最中の筈だ。
何で僕は此処にいる?記憶は曖昧で夢を見ているかの様だ。
言葉は廻る。
幽霊。死んだ人への想い。存在するモノ。存在しないモノ。自分の世界。他人の世界。自分の想像。他人の想像。死んでいる人。確認出来ない。判断出来ない。生きている人。生態。体温。感情。殺せる。
殺せる??
あの蘭鋳を殺せば…。
もう見なくてすむのだろうか…。
だから…。だから僕は…。
傍らに落ちていたコンクリートブロックを手に取って…。