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願うだけです。叶わないと知っています。  作者: 奈良づくし
7歳
6/7

寂しさを知らない

悠久の歴史を持つこの大陸に、かつて全土を支配する大国があった。

その大国の前には数多くの国があり、長く続く争いが絶え間なく繰り広げられていた。

多くの人命が消え去り、広大な大地が火の海へ沈んでいった。


そしてその大国の頂は、強欲な人間だった。


その人間は、己の満たせぬ欲望を大陸を制する事で、渇望した。


だが、それは叶わぬ願いであった。


強大な大国へと変貌するにつれ、更なる欲望がその人間から滲み出てしまった。


コレでは足りぬ。

ココでは足りぬ。


そしてその人間は大陸の外へと、己の欲を満たす事を望んだ。


大きな船を造り、膨大な兵士を供にし。

人間の身には余る強欲を、ただ満たす為だけに……。


他の大陸に侵攻へ、その人間は成功した。

反抗しなかった国を制覇し、反抗した国を蹂躙した。


一人の人間としては、十分すぎる程の成果だろう。

二つの大陸を手中に収め、その頂へと上り詰めたのだから……。


だが、それでも、その人間のその願いが果たされぬ事は、無かった。


人間のその強欲さは、鳴りを潜めることなど無かった。


コレでは足りぬ。

ココでは足りぬ。

では、どうすれば足りるのであろうか……。


人間は、己の欲深さに失意する。

されども、己の強欲に向き合う事は困難を極めた。


人間は、ただ、自国への帰路につく。

僅かな兵士を従えて。


自国へと後僅かという時に、大嵐に見舞われる。

そして人間の乗る船は、大海へと沈んでいく。

人間は溺れる最中、自身の死を実感しこれが天命であると考えていた。


結果として、人間は助かった。

記憶を無くす事を代償に。


自身の属国で、小さな村の、海と共に生きる一人の少女に命を拾われた。

懸命な介護の下に人間は生かされた人間は、初めて己の欲から解放された。

それに気付くのは後となるが、その時ばかりは見知らぬ充実感に満たされていた。


人間は少女と共に過ごし、幾年か最上の時間を過ごした。

貧しい食であった。

侘しい衣服であった。

廃れた住み屋であった。

けれども……その人間にとって、満たされた毎日が輝かしかった。


そして人間は思い出す。

自身の過去を。

忌々しく、満たされぬ日々を。


だが、その人間は不思議にも心地良い気分であった。

自分を思い出しながらも、その強欲は鳴りを潜め、満たされていた。

人間は理由を理解していた。


それは隣に立つ女性と出会えたからだ。

その人間の強欲は、その女性への想いだけに塗りつぶされていた。

人間は死を覚悟した天命に、生れて初めて神に感謝した。

我が天命は死ぬことにあらず……と。


強大な大国は荒れ果てていた。

一人の頂を亡くし、まるで頂の強欲が伝播したかのように。


人間は今の生活も良しと考えていた。

だが、それを女性に話した時に死ぬ寸前になる程の暴力を受けた。

人間は女性の豹変したような様相に、ただ、理解不能だった。


人間を殺しかけた女性から手当てを受け、一命を取り留めた。

その行いは、人間を更に困惑させた。


泣き、謝罪する女性から、先の争いで両親を亡くしたと。

怨みで殺されかけたのだと、人間は女性に、生れて初めて謝した。


だが、女性は話すことを止めなかった。

コレを収めるのは人間だと。

ココで立ち止まることは許さないと。

自分から逃げようとするなと。


コレとは、人間を失った大国の新たなる争いだろう。

ココとは、人間が求めた安息の地だろう。


一晩中、人間は女性と話して、人間の在り方を新たに定めた。

それは、また頂へと戻る事。

それを願ったのは、女性ではなく人間自身。

そして人間は、自身の満たされぬ強欲に振り回されぬ為に、女性に求婚する。

女性はそれを快諾し、真実の愛だと、人間は後に語った。


人間は元の鞘へと戻り、争いを収めた。

頂へと戻る。

人間は見慣れたはずの視界にならなかった。

その欲望は……隣に座る女性によって満たされていた。

満ち足り欲を、幸福感を自身だけで秘めてはならない……と。


人間は死ぬまで、自身の治める大陸を富ませるために尽力した。

女性もその人間を心から支え、共に生を駆け抜けた。


今現在にも語り継がれている。

人間が新たに興した、遠き未来の幸福の為にと。





この大陸、そして他の大陸にも広まる、教会が発足する昔話。

今を生きる者も知っている、有名な話。

私は、この本読むまで知らなかったけれど。

欲望のために生きた王が、真実の愛を知って以降、償う為に生きた話。


マナーの教養を共に深めるために、向かいに座る彼女を見る。

所作は更に磨きがかかり、例え王宮に仕えても間違いは無い。

平民出であろうと、その辺りの貴人とは一線を画すでしょう。

実際、マナー講師の驚愕という真実を戴いている。

それが妙に誇らしい。


「貴女はどう思う?」


「はい。私も数ある書物の中で好きな本です。ですがお嬢様、それ以上はお話なされぬ様願います。」


私の考えを簡単に見透かしてしまう。

彼女には話してはいないが、最近の自分の願いだ。


「何故、と聞きたいわね。」


「私見ですが、お嬢様の願いが含まれていると思っております。」


「願い?ただ、興味があるだけよ?」


「きっと、修道女になる事を画策しておいでなのでしょう。お願いですから……本当に、お願いですから……これ以上、胃痛の薬を増やすことをお考えにならないでください。」


あら、直ぐにバレちゃったわ。

そんなにも明け透けな表情だったかしら?

彼女の返答に詰まらせることは、肯定に捉えかねない。

けれど、彼女には冗談は言っても、嘘を吐きたくない。

だから、はぐらかそう。


「あら貴女、薬を処方されているの?明日お休みをあげるから、一日くらい休みなさいな。」


「問題ありません。お嬢様が貴族子女にあるまじきお考えをなさらなければ、私の胃は休まりますので。」


「……護身の事かしら?それとも、薬草学の事?」


「それだけではありません。お庭の散策が許可されて以降、色々お手付きになっている事を含めて、全てに御座います。」


「あら、それは各々の課題としているから問題ないでしょう?」


彼女はマナーを守る為に、言いたい事を抑える様に紅茶を口に含む。

彼女の瞳は、私を見て何かを訴えかけているのでしょう。

私、悪い表情でもしちゃっているのかしら?

今の状況が【面白い】から、笑ってしまっているのかもしれないわね。


「お嬢様……皆からも願われる以上、私からお願いが御座います。」


カップを音もなくソーサーへ乗せ、彼女は私を見据える。


「意見なら聞きましょう。」


「……お願いですから、私以外の使用人に無茶を言わないでください。」


「無茶を通したことは無いわ。現に、貴女は出来る事よ?」


「ですが……。」


「我が伯爵家にステップガールは必要ないわよ?」


「あの方は、子爵家の行儀見習いで……。」


「だから、あの娘には問うてあげたじゃない。」


「問うなどと……。泣いておりましたよ?」


「励みにして頂けたなら、甲斐もあったものね。」


「……。」


あらあら。そんな目で見ないで欲しいわね。

もっと構いたくなってしまうじゃない。


「窃盗も未遂で収めたじゃない。家財の破損も、問題無く処理できた筈よ。」


「窃盗に関しましては、感謝の念に堪えません。しかし、私以外のメイドに、いつ渡りをつけたのでしょうか?」


「秘密。」


指先を唇に当てて、薄い笑みで返してあげる。

以前、読んだ本に書いてあったわね。

【魅力的な女の仕草】、だったかしら?

顔を赤らめてくれたわね?

効果有り……かしら?


「そ、それからですね、難題を申し付けるのも如何なものかと。」


「難題なんて無いわよ?コックには書類の指示だけで果たしてくれているじゃない。美味しかったでしょう?」


「あ、はい。美味しかったです。……そ、そうではなくですね。」


あら、少しだけ表情が剥げちゃったわね。

可愛いのだけれど……貴女にはもう少し、心を保って欲しいわね。


「庭師も、害獣を簡単に捉えられてと喜んでいたわ。」


「…………お嬢様、そうでは無く……。」


「私が言いたい事を、貴女は理解しているでしょう?」


「……はい。ですが、侍女長からは良く思われません。」


「伯爵夫人も加えて、ね。別に構わないわ。」


「望むところでもある。でしょうか?」


私をここまで理解してくれるのは、貴女だけね。


「ふふ。やっぱり、分かっているじゃない。安心なさい。それと、無用な思考で薬を頼るのも止めなさいね。」


「……信じております、お嬢様。」


彼女はお腹に手を当て、私を気遣う視線をくれる。

私への心配事で胃を痛めるだなんて、遠慮して欲しいわ。

とても、とても【面白く】無い。


彼女に私を想わせたい訳では無いけれど、彼女の忠には目を見張る思いね。

彼女の心を傷付けた、私にとっての恥。

だから、私の足りなさを反省しましょう。


単に、私が我が伯爵家に不要な存在を許したくないのが、理由の一つ。

そして、私の【興味深い】を形にしたかったこと。

私が【面白い】と、暇をつぶす為の遊び心。

それと、ちょっとした自分の利益にもなること。


理由は幾つかあれど、本音は、彼女の色んな反応が見たいこと。

これは、言わない方が良いわね。


しかし、彼女にこれほど慕われているのは……良い気分ね。

残りの秋と冬を過ごせば、彼女はいなくなってしまう。

きっと、【強欲な頂】ならば彼女を手離さないのだろう。


けれど、彼も感じたであろう、只傍にいてくれる幸せを私は今、実感している。

昔のままなら、私は強欲だったでしょう。

けど、彼女に会えたことで、私は変わることが出来たと自負できる。

この気持ちは、真実の愛というものなのかしら?

私には、よく分からないわね。

ステップガール

メイドというよりも下働きのような仕事。

仕事をしない侍女をガブリエラが見かけた際に、無茶苦茶わからせた。

侍女長に告げ口し、ガブリエラへの叱責にしようとしたが反撃にあう。

更には立場も降格。他のメイドたちからも反撃にあっている最中。

いわゆる、ざまぁされた状態。


これが要因で、一部の侍女やメイドからガブリエラには好意が持たれている。

これが情報源の一つになっている。

人の口に戸はたてられぬ故。

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