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クリスマス

 10月末、デリバリーピザ屋でバイトを始める事にした。店長は丁度二倍の歳の38歳、絵に描いたようにチャラチャラした人だ。バイト初日、注文に少し小休止が入った頃、店長が2人ずつ30分のお昼休憩に入るよう指示した。女子の誰かと休憩だと話しやすいな、と思っていたのだけど、一度に店内二人休憩になるはずもなく、古株という佐藤さんと休憩になった。


 すぐ隣がコンビニなのでお昼ゴハンを買いに行く。2階の事務所へ上がると、店長と佐藤さんが既にお昼を食べ始めていた。


 店長と佐藤さんはバラエティっぽいテレビ番組を見ている。

「お疲れ様です」机の端っこに座り小さな声で「いただきます」そう言っておにぎりを黙々と食べ始める。


「高田さん大学生でしょ?」

 テレビに釘付けかと思った佐藤さんが急に話しかけてきた。


「あ、はい」慌てて答える。


「頭いいんだ?」断定めいて言われても……


「いえ、推薦入学なんで……それにうちはそんなに偏差値高くないです……」


 店長が口を挟む

「あ、ありさちゃんね、お嬢様なの! お嬢」

「あーぽいわ」

「高校バイト禁止だったんだって」

「わーマジか」


 いきなりちゃん付け? なれなれしいと思う。


 その後佐藤さんが先に休憩上がりになると店長は更に馴れ馴れしく話しかけてきた。


「ねーねーありさちゃん今度遊びに行こーよ、あ、ごはんでもいいや」


「え?」


「最近楽しい事無いからさ! 女子大生とご飯とか、こう元気になれそうな事したい訳!」


「意味が解りません」


「いいじゃんかーね? いつ暇?」


「平日は夜まで講義です。土日はご存じの通りバイトです」


「えー? 授業何時まで?」


「6時です」


「じゃあそのあとごはん食べようよ、な?」


「店長。この店年中無休じゃないんですか?」


「大丈夫大丈夫、佐藤が居れば一日くらい! 何曜日が良い? 何食べたい?」


 何度か断ったのにあまりに度々言われて遂にはごはん食べに行くことになった。


 店長に口説かれるのかと思いきや美味しいごはん食べながら面白い話をしてくれるばかりで拍子抜けした。

 それから何度か食事に行く度に、口調の軽さに比べて話す中身は好奇心の疼く興味深いことばかりで店長とごはんを食べながら話すのを次第に楽しみにする様になった。


 政治、時事ネタ、宗教論、哲学、歴史、興味深い本、インターネット創成期の話、果て又恋愛論も。一方的に知識を語るでもなく授業のうまい先生の様な話し方をする。私の疑問、質問、合いの手にも上手に受け付けてくれる。大学で習う専門授業の話と友人の話す人気アイドルの話ばかりに飽き飽きしている私にとって、この世の中との接点が広がる様な気がした。どうして高校の時はいろんな勉強が出来たのに大学では閉鎖的な勉強になるんだろう。一般教養の授業に興味深いものもあるが概ね退屈だ。


 そして、気が付けば隔週水曜日ごはんを食べに行く事が決まり事の様になっていた。


 そして今週、12/24のバイトのシフト希望を入れたのは私を含め3人しか居なかった。

「あーどいつもこいつもリア充め。1年で一番忙しいかき入れ時だってのに……ドライバー二人と店内一人か……基本俺店内手伝って配達足りなかったら出るわ。ありさちゃん大変だけど頑張ってくれよー? いつもの倍は忙しいからな?」


 店長の予告通りクリスマスイブは目の回る忙しさだった。余りに忙しいと時の流れるのは早いというのも本当で、恋人たちが浪漫チックに過ごしているであろうイブの時間は飛ぶように流れた。

 ラストオーダー時間が過ぎた時「今日は好きなの一人一枚焼いて持って帰って良いぞ。ドライバー帰って来たら言っといて」と言い店長は最後の配達に出た。ドライバー二人が順次帰ってきて伝言を伝えるとピザを焼いて先に上がって行った。


 私は頼まれた伝言は伝えたものの、店閉めの責任者をやったことがないため店長が帰ってくるのを大人しく待つしかなかった。有線からはクリスマスソングが流れている。今日一日流れていたのだが聞く余裕がなかった。洗い物、ストックをウォークイン冷蔵庫にしまう作業も清掃も全部済んでしまいぼんやり音楽に耳を傾けた。


 ようやく帰ってきた店長は、「悪いな。待たせて」と言いながら店を閉め二人で事務所に上がった。今日の仕事を労った後、軽口でいつもの意地悪が始まる。


「学校休みの日はバイトばっかって彼氏とか居ないの? まあ居たら今日バイトしてないよな」


「モテないんです」


「そーかー? お前可愛いのになー?」


「好きな人から全然」


「ま、世の中上手くいかないよな」


「気づいてすら貰えません」


「好きな相手の目見て『好きです』って言ってみ」


「店長……」


「ん?」


 こちらを向いた店長をじっと見つめる

「……好きです」


「え? ……あー、練習?そうそうそんな風に!」


 茶化されても目はそらせない

「好きです」


「……俺に使うなよ。反則だ」


 いつも余裕で笑ってばかりいる店長が珍しく動揺している。動揺させたかった訳じゃない。私をちゃんと見てほしかった。それだけ。


 視線を泳がせ長い沈黙の後、店長は言った。

「ありさちゃんとご飯食べたりするのオジサンとしては楽しい娯楽なんだよね。そういうこと言われちゃうと……さ……」


 一度言葉を途切れさせ、いつもの店長みたいに笑いながら続ける


「あーほら話聞いてるとさ、女子高から女子大で出会いがないからこんなオジサン好きなのかも? って錯覚しちゃったんだよ。な? ほらありさちゃんあれだろ? 彼氏居ない歴=年齢ってヤツ! 大丈夫大丈夫これから幾らでもモテる! お前可愛いから」


「……彼氏居た事あります」


「え?」

 また急に顔色が変わる。

過去の作品なので、季節外れ感すみません。

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