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桃太郎 ー上の中ー
柔らかな電灯の明かりが灯り、床暖房の設備で暑いくらいに暖められた基地内。
個室のベッドに腰掛けた彼が、
右手に持つ桃はまだ固い。時期が早いわけではない。
冬のあの海が寒すぎたのだ。
「さて、、、ひとまず解凍するか。こんな固きゃ食べられないな。」
そう言うと彼は立ち上がり、
戸棚の中から半径7センチ程の金属製の薄いボウルを出すと、そこに水を注ぎだした。
「、、、、、よし、これくらいだろう」
おおよそ七分目まで水を注ぎきると、今度はさっきの桃を中に落とした。
ポチャン
快い音がした。
桃はさながら水風呂につかるかのように、綺麗な二枚の葉が生える上部を、
少し水面から出して黙っている。
なにか物言いたげに。そんな筈はないのだが。
「よし、解凍の準備は整った。あとは解けるまで、、少、、し、、、、、。」
バタ、、、
彼はベットに俯せに倒れた。
今になって押し寄せた連日の作業の疲労、
それから引き起こされる睡魔に瞬殺されたのだ。
当然だが、彼が寝てしまったんだから、今、この部屋はとても静かだ。
物音一つしない。
ポチャン
もちろんそんな筈もないのだが。