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桃太郎 ー上の上ー

~桃太郎の巻~


「あれは、、、なんだ!?」


2035/12/08、北緯63度24分 西経170度23分、ベーリング海の北に位置するセントローレンス島。

其の端っこから、凍てつく寒さの海に浮かぶ桃を注視しながら、1人の兵が呟いた。



彼の名は西村太一。新日本帝国の第二期北方特種派遣兵だ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時は遡り2027年。

世界7カ国の協力を経て、第二国際宇宙ステーションSISSが建設された。

そして、その記念すべき一回目のミッション中に爆発し、消滅した。

SIISは地上では危険な量子相対論の実験のために宇宙に作られた超巨大ステーションで、

一触即発の危険な機械が大量に詰めこまれている。

当時、反粒子生成機をクルーが誤って起動してしまい、反銅20kgをステーション内に放り込んでしまった。そしてそこから放射された強力な電磁波により、ステーションは破壊され、クルー全員消息がつかなくなったのだ。

丁度この頃、各国が反粒子爆弾の研究に着手しだした。


そして、3年後の2030年、

様々な成り行きを経て、憲法第九条廃止が決定され、

自衛隊は国防隊、

日本は新日本帝国に改名され、実質的に相手国への先制攻撃が可能となった。

また、それに応じてその他細かい法律なども新憲法に合わせて改正された。

もちろん反対が無かった訳ではない。第九廃止が世間で噂され始めたころから連日の様にデモが発生し、首都圏、特に国会議事堂付近での交通規制に警察沙汰は日常茶飯事となった。

だがしかし、新兵器登場による各国の緊張が高まりつつあった社会情勢の中、ただの自衛というのは余りに非力で、この変革がなければそのうちどこかに飲み込まれていただろう。


と、話を戻して


その第九廃止による法律改正で新たに作られた新案の内の一つは、もちろん徴兵制だ。

ただ、もともと7,80年近く国民が徴兵されたことのない国だ。

一発目にだされた強制徴兵制の法案は国民の猛反により、即取り下げとなった。

そして結局、4度目の希望者徴兵の方針の法律が可決された。

2032年の9月に行われた第二期徴兵には、国民120万人が参加し、

西村太一はそのうちの1人だった。


さらに5年後、

2035年、NK国が15年前にしていたように各国の排他的経済水域に反粒子ミサイルを撃ち込みだし、

第三次世界大戦勃発への緊張が高まる中、同盟を結んでいるA国から監視兼防衛の為、

セントローレンス島の旧A国軍事基地跡地に新たに基地を設置するよう要請が来た。

そこで、国は急遽第二期国防隊の中から20人の北方特種派遣兵を選抜し、セントローレンス島に送り込んだ。

たった20人での拠点設置は困難を極めた。

結果的に2035/12/6、隊員達は3人の死者と1人の行方不明者とともに拠点完成を迎えた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ぷかぷかと浮かぶ桃色の球体、いや桃。

晴天の空の下、きれいなピンク色を呈している。

場所とそれがかみ合わず、連日の疲労で脳が変になったのかと疑い、コートを脱いだ。

バサッ! ヒューー


 「寒、、」


慌てて服を着直す。

桃に目をやる。


 「マジ、、なんだな、、。つってもなんで桃なんだよ笑」


桃は依然として浮かんでいた。

ふと、左腕にはめたごつい腕時計に目をやる。


3:45:22 a.m.

12/08(SAT)


 「まだ大丈夫そうだな。」


今度は広く深い方へ、目を海の方へやる。


―あ-、こう、広い海を見てると嫌でも実家を思い出すな、、、全く26にもなってホームシックとは情け   

 ない。ま、ていっても北側に行けば遠くに陸が見えるんだろうけど。あ、そういえば・・・


物思いにふけっていると、


 「おーい、なにしてるの?」


と知り合いがやってきた。


 「いや、別に特には、、。向こうに桃が見えたからさ。」


 「え、桃?どこ?そんなの見えないよ?」


海をきょろきょろ見回し、彼女は言う。


 「え、嘘だ-、さっきまであったんだって!」


―冷風で頭冷やしてそれでもあったんだ、これでなかったらオレヤバいだろ、、、

 どこかに漂着してたりとかして、、、


彼が沿岸を見渡す。

すると、5,6m離れた岸に桃を見つけた。


 「ほら、あれ、桃だろ?」


 「え!凄い本物じゃん!一瞬太一がバグったのかと思ったよ(笑)」


 「なわけねーだろ。(まぁ、一瞬自分でもそう思ったけど)」


 「えー、だって昔っからなーんか抜けてるところあるから、もしかしたら、って。」


 「ん、、、まぁ、、多少忘れっぽいのは認めるが、、」


 「が?」


ニヤニヤしながら彼女が迫る。


 「あーー、もうなしなし。桃見に行こう。興味あるんだろ?」


 「えー、なんだよー。ま、でも桃は興味あるし、行こう!」


―よかった~。引き下がってくれたぜ。ひとまずこれで一難去った。


桃は岸で止まっていた。もうぷかぷかはしていない。


ギュ、ギュ、ギュ・・・

 ギュ、ギュ、ギュ・・・


雪の上に2つずつ足跡が増えてゆく。

彼が桃を拾い上げ、じっくり観察する。


 「、、、普通の桃だな。」


特にこれと言って特徴があるわけではない。見た目も、大きさも、葉までそっくり、いやそのものだ。

1つ特徴があるとすれば、綺麗すぎることくらいだ。


 「奏、食ってみっか?」


ひょいと彼女に桃を差し出す。

彼女が2,3歩後ずさる。


 「え、なんか嫌だよ。それどこから来たかわかんないんだよ?」


 「ま、オレはあんまりそういうの気にしないからさ。食えれば食う。」


 「まぁそう言うと思ったよ。相変わらずそういうところが、、」


 「了解了解。基地に戻って、そんで切って美味しかったら分けてあげるからさ。」

 

 「不味かったら?」


 「黙って渡すつもりだ!」


そういうと彼は一目散に基地へと走って行った。

彼女はその後を追った。


END

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